第16話 シュウゲキシャ

一日目

「こんちゃー☆」


二日目

「ちわちわー☆」


三日目

「こにゃにゃちわー☆」


四日目

「毎日会ってくれるなんて嬉しいな☆」


五日目

「いつでも待ってるよ☆」





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

そして六日目

「またまた会ったねぇ☆」


「いい加減しつこくないですかアナタっっっ!!???????」


ダンジョンに来るたびこうしてシカト決め込んでいても話しかける彼女に向かってついに根負けし突っ込んでしまう。


ここまで積極的に話しかけてくれるなんて初めてだ…。


あれ?コミュ障の俺にとって結構理想的な人じゃね?いやいや絶対怪しい!!

誘惑を振り切って確実に俺たちに固執する理由が確信に変わっていく


「いやー、だって君たちダンジョンに毎日来てるじゃん☆だから会うのは普通だよ。

ならさー、私に会いたかったってわけじゃん☆」


「いやその理屈はおかしい!??」


俺達には俺たちの事情がありこの人に会いに来たという理由では決してない!!


今日も今日とてレベル上げにいそしんでいるのにめげずに無視しても話しかけてくるメンタルの強さは評価するがそこまでして俺たちにこだわる理由がわからない。


やはり初心者救済という名目はきな臭い。

だが拒絶しようにも彼女は意に介さず話しかけてくる。


そのせいか俺もいつしか普通に話しかけてしまう。そんな時、花道さん耳打ちで意外なことを言う


「雄一さん。この人をパーティーに入れてあげたらどうです…?」


「!??。佳夕さんどうしたの…!?最初はあんなに嫌がってたのに…!??」


ぼそぼそ声で内緒話のように彼女に聞こえないように相談し合う


「それは確かに嫌ですけど…。私たち…現在のダンジョンでのレベル上げが芳しくないじゃないですか…。次の階層に行こうにもレベルが不安ですし彼女についていってもらった方がいいと思います…」


確かに…そうだ。今戦っている階層でレベルが中々上がっていない

未だレベル25どまりでそれ以上の壁に俺たちは突き当たっている。


3時間というリミットもあり一日で得られる経験値も微々たるものだ

そんな中、高レベルの彼女にサポートしてもらえればとんとん拍子で経験値が稼げてレベルも悠々と上げれるだろう…。


本来ならそこまでせず地道に行けばいい。


30レベルである次の階層もお試しで行きダメなら撤退すればいい。


安全を確保していけば大丈夫だが絶対ではない。


思ったよりハードルの高いハンターの現実に俺たちは直面し、なにより俺が急かしているというのがそもそも花道さんにこんな発言をさせてしまった原因だ。


・・・確かに急いでいるし時間はない。

だがそれで花道さんを危険に招くリスクは避けたい…そう考えていると


「なになにー?内緒話ー?私にも聞かせてよ☆」


と俺たちの間に顔を突っ込んで割って入る彼女。アグレッシブすぎだろこの人…!??


「何やら切羽詰まっている状況っぽいねー☆ならなおさら私の力、必要じゃない?」


本当に都合が良すぎるほど甘い言葉の誘惑…だが…


「・・・佳夕さん色々心配かけてごめん。俺のことは気にしなくていいからメンバーは今は良いよ。俺も少し先走りすぎた…」


「雄一さん…」


俺の一身上の都合で花道さんを巻き込むわけにはいかない。どちらにしろ諦めるほかはない。そう憂いている中


「じゃあ!私も諦めるね☆短い間だったけど楽しかったよ。バハハ~イ☆」


そう言って俺達から離れ彼女はダンジョン外から出ていった。空気を呼んでくれたのだろう。そう思うと悪い人ではないのかもしれない。


…もやもやしたのは性に合わない。心機一転仕切り直し


「フフ…ようやっと諦めてくれたか…さすが俺の名演技…!!我ながらほれぼれするぜ…!!!」


「え…ええ!??えええええ演技だったんですか今の!??」


もちろんんなわけない。場の空気を変えるために今俺が演技しているのだ


「当たり前じゃーん!!あの人がどうやったら諦めるか考えた末に思いついた演出!見事だったでしょ?」


そういうとしらーとした目で俺を見る花道さん。

いじわるが過ぎたな。即興だから事前に話せるわけがない。


これで憎まれても別にいい。色々諦めがついたしあまり気分は悪くない。


「ほいじゃ、次の階層行こう!30レベ。きついかもだけど俺たちも25レベ。行ける行けるって!!」


そういって強引にその場を押し切って次の階層へ向かう





遠方の円柱、その陰で帰らなかった彼女は笑う


「なんだ、結構いい男じゃん…☆」


今までにないほど妖艶な笑みを浮かべ熱視線で鹿目雄一を見る少女

それを見て同情しているのか彼女のフェアリーは


≪こいつに気に入られるとは、不幸だな少年…≫


哀れだな。と言わんばかりにそうごちた








30レベルの階層へ行くポータルの許可が下り転移する俺たちは

今まで行ったことのない場所へ足を踏み入れた。


レベル30。25レベルでも通用するレベルと言われているがレベル差というのは油断ならない。脳裏にイーヴィルヴァーンの件がよぎる。


バグによるものとはいえレベル無限の恐怖を俺は知っている。


花道さんもだ。あの経験がなければここまで臆病にならなかっただろう。


逆を言えばあの経験から無謀な賭けというものをしなかったというのは良い兆候だと思うが今では弊害だった。


通常向かうはずのこの階層になかなか踏ん切りがつかなかったのだ。


≪ここはあのゲームとは違うわ。レベル変動はない。それは確実よ。だからもっとリラックスしなさい≫


『キャシー!?お前今までどこにいたんだ?心配したんだぞ?』


≪あら?それはありがとう。でもちょっと理由があってね…。あのハンターの娘の事だけど…≫


『何かわかったの?』


≪逆よ、。ハンターライセンスは本物としてそれ以外の素性が不明。所属しているパーティーもわからないしどういった人物かも不明。おかしいとおもわない?あれだけのレベルのハンターをアンタが知らないなんて≫


確かに…あまりに強引でペースを乱された為にそんなことさえ気づかなかった…。


レベル68なら名が知れていて当たり前だ。ランキングやネットで一度は必ず目にするはずなのに


本来絶対にありえないことだ


≪だから推測として…だと思うの。ハンターとして名が知られずあれほどのレベルを誇ると言ったら…≫


口ごもったキャシーを代弁して俺は言う


魔素洞調律シンクロニシティを無理やりあげられた政府に造られたハンター…本当にいたのか』


≪それ以外見当がつかないわ。でも今まで身を隠していた彼女がどうして自身の素性を明かすような真似を…?ダンジョンなんて人の目しか映らないじゃない。今まで隠していたコトが台無しになるはずよ≫


それは…わからない。と口に発する瞬間








「答えはかんたーん☆女神関係のアンタから事情を聴く為よ☆」





不意に、俺たちの背後に回っていた彼女に向け大剣の柄を握ろうとしたが即座に手刀で手首を攻撃される。


右手がしびれて動かない…!!


光魔アンメ…


「ほい、魔法呪縛スペルキャンサラー☆」


「ッッッッッ!??」


呪文を唱えようとした花道さんの攻撃も中断キャンセルされ俺たちの攻撃手段が一瞬のうちに封じられた。


敵意を向ける俺たちに向け全く歯牙に掛けず彼女はマイペースにふるまっている


「はいはーい、そんな物騒なことしなーい☆血なまぐさい事大好きだけどさー。今回はそうじゃないんだよねー☆」


「目的はなんだ…!?」


「さっき行ったじゃん☆女神の事、そのフェアリーから聴くって☆」


≪ッッッッ!??≫


女神…?何のことを言っているんだ?確かにキャシーは普通のフェアリーとは違う気がしていたが女神と一体どういった関係があるっていうんだ?


それよりも…俺たちの会話を聞いていた!?チャット機能は他の人間には聞こえないはずだ!!


不承不承と露呈するように彼女はため息をつきオーバーリアクションで告げる。


「まったく…しょーじき嫌だったんだよねー。その子たち巻き込むの。イーヴィルヴァーンに細工するのだって私、嫌だったんだからね☆」


横ピースでそんなことを言い衝撃の事実をこともなげに言い放った


≪≪「「!!!!!??????」」≫≫


それを聞いた俺たち全員が絶句する…。

あのバグは故意に行われていて。

それを実行したのは…他でもないこいつが仕組んだこと!!!

その言葉を聞いてもっとも激高したのは花道さんだった


「…貴女のせいでしたんですか…!!貴女のせいで雄一さんは死んじゃったんですよ!!!・・・許さない!!!!」


そう言って魔法を封じられた花道さんは持っている杖を振りかぶり彼女へ向けて振り下ろす。


だがレベル差は絶大だ。ほんの、ほんの一瞬で花道さんは


ちょっとした所作だけで杖を破壊され花道さんは倒れた。


たった一工程で

花道さんが殺された。


そう思考した瞬間理性がちぎれ憤激にかられる寸前


≪大丈夫よ。佳夕ちゃんは生きてる。気絶しているだけみたい≫


どうやら気絶しているだけで殺してはいないらしい。

キャシーのその言葉を聞いて冷静さを自分を取り戻す


だが依然として敵愾心は抑えられない。

手のしびれはまだ直っていない。だが


柄を握る。しびれてはいるが感覚は微量に残っている。それを頼りに手に神経を集め筋肉を稼働する


「へえ…あと三十分は動かないはずなのに使えるんだ手。ますます気に入ったよ君☆」


「俺はアンタが嫌いになったよ。なぜ佳夕さんを気絶させた?杖だけ破壊すればもう無力化できたはずなのに」


「そりゃ…貴方と二人っきりになりたかったから☆邪魔なフェアリーはいるけどね」


「そうか…」


なら…もう手心は加える必要はないってわけだ。

レベル差は歴然で経験も彼女が圧倒的に上。勝てる見込みはゼロ。だが


≪致死を癒す病―ダメージオブランゲージ―≫起動

九死に一生、死中に活。そんな言葉を体現したスキルが俺にはあり

それ以上に、


「花道さんを傷つけたお前を許さない…!!」


「キャー☆妬けちゃうね…。やっぱ殺しておけば良かったかな?」


冗談か本気か分からない安い挑発。だが俺を爆発させるには十分すぎた。大地を爆ぜ吶喊する


振り下ろす大上段。それをこともなげに右手の人差し指と中指で挟み止める

次撃その状態を維持したまま顎に向かい足を突き上げる

それも同様、左手で受け止めて俺の足を握ろうとした瞬間

相手の左手を足場としその場で回転、その勢いで大剣を引き抜いてカブト割りを叩き込んだ。一回転して着地。

攻撃は直撃した。だがかすり傷程度でダメージには及ばない


「いったーい!どういう身体能力してんの君ィ!!レベル20そこそこの次元じゃないよぉ!!」


「アンタのイーヴィルヴァーンのおかげかな」


そこだけは感謝している。あの戦闘で肉体を酷使したおかげで体がどう動くか把握できた。


だからこそ、勝機はある。肉体の可動域は把握している。

つまり俺は対人戦において相手でどのような動きをするか大体把握できる。

モンスターの場合はそうはいかなかったがレベル差があっても人間は人間だ。四肢の動きに限界がある。


そして後ふたつ勝つ可能性がある

それは…『致死を癒す病―ダメージオブランゲージ』と『相手をHPゼロによる戦闘不能状態にする』ことだ。不意に、俺は彼女に尋ねる


「そういやアンタの名前、聞いてなかったな。俺は鹿目雄一」


「へえ、戦うとキャラ変わるんだね。私は№66。名前は水無月アリア。よろしくね☆」


名前を聞いて安心した。これで心置きなく戦える。殺してしまっても名前は覚えられるからな…!!

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