第15話 メンバーボシュウ

「というわけで…魔石売ってください!!!!!」

恥も外聞もなく俺はギャリックスの店長真崎 雄二さんに向けて頼み込んだ

「いの一番にそれかい…君、結構活躍したって佳夕ちゃんから聞いていたけど…」

「え!??花道さんもここに!?」

「そりゃそうだよ。誰が彼女の杖を渡したというんだい」

まあそうだよな…てことは…

「店長が杖選んだんすか…?やだ変態ロリコン…!!」

「な訳ないでしょうが…目利きできる女性店員に頼んだよ。僕と同じくらい優秀だから折り紙付きだよ」

「でしょうね…もし店長だけなら毎回女性ハンターにセクハラしてることになりますし」

「君…僕の事なんだと思っているの…?」

まあ俺にとって店長はこういった冗談を言えるほど親しい親戚のおじさん的なポジションだ。

「まあ冗談はともかく…店長、良い感じの魔石欲しいので買わせてください!!」

手を合わせて懇願する。というか哀願レベルで頼み込む

ぽりぽりと後頭部をかきながら店長は悩ましいという気にためらいがあった

「わかっていると思うけど魔石は本来ハンターが自身で手にしなきゃいけない

それを金に飽かせて手に入れるってのは…わかるね」

「確かに卑怯ですしプライド的にやりたくないんですが花道さんを守る為なんです」

魔窟での出来事以来、俺は力不足を実感した。正直ふたりパーティーに限界を感じ俺一人では守り切れないという現状が事実だ。魔窟に挑戦する為にもいますぐにでも魔石で武装を強化したい

別に魔窟に行かずともこのまま地道にやるのもいいかもしれないが…『俺にはちょっと時間がない』

それも店長は理解している。でもそんな同情で魔石を売るわけにはいかないだろうことも承知だ。武器屋は基本中立だ。誰かに対しエコヒイキは出来ないことはわかっている。だからこそ店長は判断を渋る。申し訳ないこともわかってる。俺の我ままだって知ってる。それでもだ。頬を掻いて困り果てている店長は言う

「そういわれても…、君の現状は理解してるし渡したい気持ちだってあるよ。でもこれは規約なんだ。誰か一人に加担してはいけない。それがハンター界隈の定説フェアなんだ。スタート地点も扱いも誰に対しても平等。そうじゃなきゃハンターの反感を買う事になる」

それもわかっている…ハンター業は純粋な実力主義。それゆえに平等。力ある者が富を得て無い者は何も手に入れられない。そして今の俺は後者だ。力がないためにこうして卑怯な真似を恥知らずにも頼んでいる。そして店長は残酷な現実を俺に告げる

「そもそも…君の悩みを解決する方法はひとつしかないでしょ」

「嫌です」

脊髄反射で却下した。即断で

「嫌ですじゃない。わかりきってることだろう…?パーティーメンバーを募る事。今できる君の一番の近道はそれしかない。いい加減ソロ気分も脱したほうがいいよ」

ぐぅ…正論だ。何も言い返せない…!!だがそれは出来ない。いや、やりたくてもできないのだ。だって俺はコミュ障…花道さんとはたまたま気が合ったからいいものの他の人と合わせられる気がしない。メンバー募集して誰も来ない日なんてもう一か月はへこむ自信があるほどの俺の豆腐メンタルをなめてはいけない。数十分のにらみ合い。互いに譲らずこれ以上無駄なあがきは出来ないと俺も観念し肩を落とし諦めて店の出口へ足を向ける

「またおいでね」

「だめだったら相談に乗ってくださいよっっ!!」

泣きそうな感じな捨て台詞で俺は店を出る。こんなに親しくできるのは店長くらいだ。花道さんとも親しくはなっているが男女の壁というものがある。同性で気兼ねなく話せる友達は俺にはいない…というか出来る気がしない。ため息をついてとりあえず花道さんに連絡しダンジョン前に待ち合わせのコールを送る



「メンバー…募集…、します…」

「・・・あの、テンション低くないですか?落ちるところがないくらいに…」

花道さんの言う通り過去最悪のテンションで俺は不承不承ながらメンバー募集を提案した。

「だってさ…メンバーだよ…?よそ様だよ…?知らない誰かだよ…怖くない…?」

「いえまあ…互いを知らないから怖いのは分かりますが…そこまでではなくないですか…?」

などと供述している花道さん。わかってない…わかってないよ君は…!!

「甘い!!!甘いよ佳夕さん!!!甘納豆より甘いっっ!!!!!」

「例えが微妙ですよ雄一さん…」

「ボッチのコミュ障 ちからをなめちゃいけない!!まず対人関係っていうのは第一印象が大事ってよく言うよね!!つまり俺は最初から詰んでいるんだよ!!

もうぶっちゃけ冷や汗ドバーで汗臭いくせに何もしゃべらずぼそぼそなんか呟く奴をどう思う佳夕さん!!!」

「…心配しますね。どこか体調が悪いのかもしれません」

「その優しさがなんか傷つくんだよ!!ぼっちはマジで繊細なの!!ナイーヴなの!!そんな俺でもうんうんとYESマンしてくれる理解のある気さくな人が欲しいけどいるわけないでしょ!!!」

「うわぁ………………うわぁ…」

さすがの花道さんもドン引いている。そう、これがボッチのめんどくささだ(個人の意見です)

こんな俺だからこそメンバー募集は死んでもやりたくなかったのだ。

メンバー募集自体もだが俺のこのめんどくささに付き合える人間がいるとは到底思えない。なので店長に魔石を頼み込んだのだ

「…でも、私たちそんなに困ってないじゃないですか?どうして突然パーティーの募集を?」

「あー…それは」

言えない。絶対に言えない。言うと絶対暗くなる。ヘヴィーでハードになってしまう

なので嘘を付く

「…実は、お金がなくてね…」

「前換金したものかなりのお値段でしたよね?」

くっ!!流石に分かりやすかったか!!ならば!!!!

「もっとお金が欲しくて宝クジを…」

「雄一さん私と同じ未成年ですよね…?」

「とにかくっっっ!!!!色々なんやかんやあって最終的に新しいメンバーが必要なんですよ!!!!」

「え、ええ…わかりました…?」

とりあえず勢いでごまかした。色々誤解されそうだがとりあえず押し切る!!!

まあおかげでテンションも戻ってきたし気を取り直してこの勢いに乗って

「メンバー…募集…しま…ぁ…す…………はぁ」

「またテンション下がってるじゃないですか!??さらに下に!!」



メンバー募集と言っても俺たちは弱小パーティーだ

俺たちが募集してもたかがしれてる。例え多く集まっても魔窟に挑むほどの戦力は望めない

やっぱり…店長が持ってる魔石を買わせてもらうべきか…?

「何か、わくわくしますよねこういうの!新しい出会いってハンターのだいご味だと思います!」

掲示板の前でウキウキな花道さん。コミュ障設定どこ行ったんだこの人と内心突っ込む

「…俺は心臓が止まりそうなんだけど…来たら来たで怖いし来なかったら来なかったでショックで…」

逆に俺は立っているのも困難なくらい胸に手を当ててコヒューコヒューと呼吸がおかしいくらい緊張している

「もう、怖がりすぎですよ!あのイーヴィルヴァーンさんを倒した雄一さんはどこいったんです?」

「あれはあれ、これはこれだよ…人間得手不得手があるんだよ…!!」

「へぇ。イーヴィルヴァーン倒した程度でイキってるなんて…こりゃ大物だね☆」

と、不意に後ろから女の子が話しかけてきた。嫌味を言いながら近づいてくる子に向かって不快感を露骨に出しながら

「あの…どちら様ですか…?」

「失礼だなぁ。せっかくメンバー入りする美少女がいるってのにその言い草はぁ☆」

なんだか語尾に☆をつけてそうな子はハンターらしい。ダンジョン入りする前は基本普通の服装なので分からなかった。というか自分で美少女っていうんだ…確かにそうだけど

「失礼ですが貴女もハンターですか?ライセンスを見せてくださいよ」

アレ?なんだか花道さんもなぜか警戒心バリバリだ。もう少し歓迎ムードかと思いきや拒むような雰囲気だ。

「はいはい、確かに戦うような感じじゃないよね私。はい☆」

そういって渡したハンターライセンスを見て花道さんは驚いた様子で

「す、凄い…レベル……68っ…!?」

はい!??レベル68って上澄みのハンターじゃん!??そんな人がなんでうちみたいな初心者パーティーに!??

ハンターライセンスは偽装も詐称も不可能。書いてあることは事実であり今目の前にいる人はプロの中のプロだ

そして68という事はまだ成長の見込みがあるってことだ。そんなやべー人が

花道さんと同じく俺も警戒心を持った。この人何か企んでいる

俺たちに用があるという理由は全くわからないがこれだけのレベルの人なら引く手数多でソロでもやっていけるほどだ。パーティーの唯一の欠点は取り分の分配だ。なのになぜこの人は俺たちのところに…?そう思って懐疑の目を向けると

「はっはは!そう身構えないで!ただのお節介だよ☆私はハンターの成長を促進する役を担っていてね。よくあるでしょ?才能あっても実績が取れずに辞めちゃう子がさ。君たち見たところ大器晩成型だからさ☆ここで未来の有望ハンターの芽を摘むのはなー。てね☆」

確かに…ハンターは心が折れてやめる人もいる。それはまだ成長の余地があってレベルももしかしたら50超えの才覚を持っているハンターが低レベルでやめてしまうケースはある。・・・ハンターの成長促進。それは社会貢献にも繋がっている。一応理にはかなっているが

「いえ、なら他をあたってください。俺達みたいな弱小組のお世話になるのは迷惑だと思うので」

俺はパーティー入りの要請を突っぱねた。確かにこの人のおこぼれを貰えば近道だろうが…俺にはそれとは違う剣呑を感じ取ったからだ。それを見て彼女は不敵な笑みを浮かべた気がした

そして少女は踵を返して

「なら今日は諦めるよ。明日また来るからまたダンジョン前で会おうね☆」

そういってスキップをしながら上機嫌に立ち去ってゆく

「良かったんですか…?私は嫌でしたけど断って…?」

「佳夕さんが嫌なら俺も嫌だよ。それに…どうみたって話がうますぎる」

「でもハンターの成長を手助けするって真実味がありましたけど…」

「俺にはそうは見えないね。なんか嫌な予感がしたんだ。今度会っても無視しよう

ハンター業は死と隣り合わせ。信頼も大事だけど相手によるよ」

「はい…!えへへ…なんか嬉しいです」

「?」

ことのほか上機嫌な花道さんの笑顔を見て頭を傾げて疑問符クウェスチョンマークが頭の上に浮かぶ。そんな俺を見てキャシーは何かつぶやいて

≪鈍感ねこの男…でも、アイツ怪しいわ≫

そう言ってキャシーは俺のそばを離れて消える

…キャシー…そういえば君も…

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