第10話 フィアウィーゴー ボスバトル!!! 中編

≪ちょっと急ぎすぎよ雄一≫

「へえ、キャシーも名前で呼んでくれるんだな。」

≪流石にアレでマスター呼びは癪だからね≫

「辛口だなぁ」

≪軽口言ってる暇はないわ。次来るわよ≫


ヒアリーのおかげで喋れるほどに体力が回復しバフに適応してきたイーヴィルヴァーンが反撃に移りキャシーの発言通り奴から繰り出される攻撃を回避する

初期回復魔法であるヒアリーであるが魔法使いの技量に応じ回復量は異なる

つまりあれほど酷使した体が楽になるほど花道さんの魔法は質が高いのだ


「にしても…ホント体力バカ高だなぁ。かなりの攻撃浴びせたと思うんだけど」

≪本来こういった戦いを想定したボスではないことは承知でしょ?アンタがピーキーすぎるのよ≫

「だよなぁ…剣士と言えどサシでやり合う相手じゃないからなぁ…」


先述言った通りゲーム内のイーヴィルヴァーンはあくまで連携や戦いに慣れるための存在に過ぎない。


奴から繰り出される攻撃に対し俺は回避とガードを繰り返す。動きが緩慢な為総て回避が可能だが流れ弾が花道さんに当たるを避けるためだ。そして俺は隙を見てハンドサインで彼女に合図をする。それに応じて花道さんは強力な魔法を唱えた


雷魔法ウィアーズ!!」


雷魔法。魔法の中でも最上位に位置するのは古より天の怒りや最高神が行使する力の象徴とされ神鳴りが語源とされる。


神とゆかりがありなおかつ威力や速度は他魔法の比ではない。魔法の中で最高威力とされるのが雷魔法。その初期が『ウィアーズ』とされる。しびれによるデバフもあり雷魔法はこの上なく最強だ。


だからこそ燃費コストも高い魔法とされる。そして周囲への被害も大きい為狭所での使用はやるべきではない。味方に当たる為だ。ゆえに


「魔法剣…完成…!!」


避雷針のように剣を突き上げ雷が落ちその魔法が俺の剣に伝わってくる。


魔法剣。今俺たちが発揮できる最大威力の攻撃


ボス戦において後半強くなるというのは定番でお約束だ。

ここからが本番と言わんばかりに先ほどとは桁が違う力を発揮するもの。

このイーヴィルヴァーンも例に漏れない。

HPが半分以上になるとすべてのステータスが二倍になるのだ。


イーヴィルヴァーンなんて余裕。

なんて前半余裕ぶっこいていたら後半しんどくなるのが初心者ハンターへの洗礼だ。この世界はそんなに温くないという通過儀礼。

だからこそ前半は体力を温存しておくべきなのが定石だが…

申し訳ない。思ったより楽しくなっちゃった!!!!!!!


≪やっぱりどこか頭のねじが外れているわよね。だからハンター向きなんでしょうけど≫


心ん中見透かすんじゃないよキャシー!!

といっても無策で挑んでいるわけではない

俺は早々に終わらせるといった。

後半戦は、一気にイーヴィルヴァーンを叩く!!

・・・まあ楽しくなったのは事実だが本音は花道さんを戦いから遠ざけたかった。のかもしれない…。

ハンター志望と知らなかったらモンスター殺させなきゃよかったななんて後悔し嘆息を吐き、そして


「最高威力の一撃。早急に退場しな」


名付けるなら壊靂エレキ。天を砕く雷の剣を刀身に湛え攻撃を放つ

丁度。雷のように天から地へ落ちるかのような大上段からの唐竹割りを


「喰らええええええええええええええええええ!!!!」


裂帛の気合と共に奴に向け剣を振り下ろし叩き込んだ


「超ヨユーだったな」

≪肩で息しながらいうセリフじゃない≫


倒れ伏すイーヴィルヴァーンを見下ろして剣を背に掛ける


「大丈夫ですか雄一さん!!」

「うん。ごめんごめん。思ったより飛ばしすぎたよ」

≪バカなのよこいつ≫

「それ俺にしか聞こえない!??」


なんて談笑しながらも初ボス勝利を祝い喜びを分かち合う。

初勝利・・・結構感慨深いな。少し腰を下ろし休憩する


「回復は・・・」

「いらないよ。佳夕さんの魔法がかなり効いてる」


実際疲れももう取れている。回復持続時間が長く今でも回復は続行している。それに雷魔法を使わせたことで花道さんのMPはほぼゼロ。魔法をかける力は残っていない

ふう…と息を吐いてイーヴィルヴァーンの遺体をみやる。


ネットでの情報では攻略法を知っていれば全く大した相手ではないと伝聞は聞いていたが実際闘ってみるとそんなことはない。

実際に戦う焦燥感と緊張感。達成感と勝利。

これは何事にも得難い経験だ。

前半ランナーズハイになったとはいえおおむね予定通りに事が進んで良かった。

花道さんに一切被害が出ずに終わったのだから


「・・・・・・・・・・・・・」


・・・おかしい。さっきから俺の言っていることに違和感しか覚えない

まるで言っていることが真逆なように違和感しか感じない。

何故と思う前に答えはすでに明瞭で


レベルアップのアナウンスやゲームクリアの表記がなぜないのかという疑問が過ぎ去る前に



イーヴィルヴァーンがゆっくりと立ち上がったのだ。




「嘘だろ…?」


HPは確実にゼロだったはずだ。攻撃の手ごたえも確かにあった

絶対に倒したはずだ。だが現に…奴は立ち上がり炯々とした眼は先ほどよりも強く


「佳夕!!逃げて!!!!!」


絶対にやばいという警鐘がなった。運営に連絡をとキャシーにコールをかける。だが


≪ダメ…運営と繋がらない!!これは異常事態よ!!!≫


運営のサーバーにアクセスしようとしたキャシーは試みに失敗。おまけに


「だめです!!!扉が開きません!!!!!!」


追い打ちをかけるように状況が悪化の一途をたどる。そして

・・・奴のステータスを目視した時。怖気が走った。


「・・・完全にバグってやがる」


表示されたステータスはどれもデタラメで全パラメーターが100倍を超えている

これはレベル50のハンターが相手をするレベル。

初心者では到底かなわない相手

―現状、雷魔法を使用したことにより魔法はもう使えない。使用できたとして焼け石に水


―俺のHPは減ってはいないが一撃喰らえば確実に即死。

それならまだいい。

今の状態はかなり異常でゲーム内で何が起こるか分からない。ここで死ねば現実にどんな影響が出るか不明。

なら取るべき行動は逃走のみ。だが唯一の出口が塞がれている

頼れるのは運営にアクセスできるフェアリーだけだ。

ここでの最適解。それは…


「佳夕さん・・・出来るだけ離れてて」

「雄一さん・・・?」

「俺はこいつの相手をする。キャシーとヴィクターは運営に報告を続けて

佳夕さんは出来るだけこいつから離れてて…」

≪アンタ…まさか…!?≫

「出来るだけこいつの足止めをしてみる。できうる限り時間を稼ぐから早くこの事態から脱しないと」


唯一戦える俺が捨て石になる事。幸い宿主がいなくともフェアリーは存在を持続できるので俺が完全に死んだとしても連絡は続けられる


レベルアップは出来ないが連絡がつき次第シャットアウトして現実に戻る。そして安定したら再チャレンジすればいい。


今大事なのはこの状況から脱することだ。直観だがここで死んだらただでは済まないと警鐘とこいつの視線からひしひしと伝わってくる。


さきほどの比ではないほどの心拍数。死を経験したというのに想像を絶するほどの恐怖。

二度目はないという唯一の死。

今すぐにでも逃げ出したい恐れを噛み殺す


≪バカ言わないで!!逃げて逃げて逃げ回るわよ!!連絡なんてすぐに≫

『わかってるだろキャシー…』

≪ッ…!!≫


花道さんを不安にさせまいと言わなかったが。運営と繋がらないなんていうのは


完全防備の安全を誇るMMOゲームにおいてバグは多少なれどもあるが

運営に連絡できないという事例は今までになかった。フェアリーの持つ発信は必ずどこかに繋がるように設計されている。

それが今なせないという意味が指すのは


『俺たちはここでゲームオーバーだ。セーブ機能も働かない。そしてリスポーンもない。そもそも現実世界に還れるかも怪しい』


最低最悪の現実をキャシーに告げる。そしてそれはキャシーも知っている。

ヴィクターも理解しているし薄々花道さんもわかっているだろう

それを踏まえても


『ここで悪あがきせず終わるなんてごめんだ。俺はまだ何も始めちゃいないんだから』

≪~~~~~~~~~≫


おそらくこの状況で一番歯噛みしているのはフェアリーだろう。

ハンターの安全を最優先とするフェアリーが何もできずハンターを危険にさらすというのはフェアリーの沽券にかかわる。


それ以上に悔しいのかもしれない。守るべき存在を見殺しにする事実が

そして俺はチャットを切り、イーヴィルヴァーンだったものに目を向け見据える


バグにより挙動不審。どういった攻撃をしてくるのか。

攻撃が通じるということはないにしても回避に徹していれば時間は稼げるだろう。

だが根本的な解決にはなっていない。

ここで全員死ぬというのは確定事項で。絶望が嫌というほど突きつけられる

それでも…


「ここで諦められるかよ!!!」


奴に向け特攻。振り下ろされる腕を左に回避

奴の猛攻は先ほどの比ではない。

スペックもバグったステータスに比例している

いや…もはや百倍では効かない。

一秒ごとにスペックが倍々になっている。鼠算式に能力が跳ね上がりそして…


「 レベル ステータス ・・・測定不能」


本来あり得ない表示が文字化けの中見えてしまった

さっきとは真逆。防戦一方になっているのは俺の方で嵐のような暴威は俺に振るわれている。防御などできない。当たれば即死。そうなれば次の標的が…


「そうは…させるかぁああぁぁッッッ!!!!!!」


測定不能のステータスを前に鹿目雄一は奇跡的に回避できている

攻撃は、猛威は縦横無尽に振るわれて天賦の勘のみが雄一を生存たらしめている

一時の油断で即死。その最中で緊張で硬直することなく生存本能のみ叫んでいる

だが…


「っっっ!!!!」


攻撃はかわせる。このまま時間は稼げる。後一秒、その先の一秒を水増しのように一滴一滴破滅を先伸ばすだけ。ゆえに最大一分は時間が奇跡的に稼げるだろう。

だが、出来なかった。測定不能威力の攻撃はその飛距離すらも常軌を逸脱していた

回避する先、花道佳夕がいる。このまま回避すれば彼女に直撃する

そう思考し脚が止まった瞬間。鹿目雄一に即死の暴風を完膚なきまでに叩き込まれた





「いやあああああああああああああああああああッッッッ!!!!!!」


絶叫が空を割く。キャシーも言葉を失う。

鹿目雄一は粒子となって消え去った。キャシーは確実に理解してしまった。


鹿目雄一はもう現実でも死んでいる。

ヘッドギアの安全装置は機能せずバグに侵されたシステムの暴走により脳細胞が死滅していることを。現に鹿目雄一からの連絡が全く来ない。


セーブポイントに戻ったわけでもリスポーンに還ったわけでも。ましてや現実世界で目を覚ましたわけでもないと

あまりに無常、あまりに理不尽、あまりにあっけなく、鹿目雄一は死亡したのだ

イーヴィルヴァーンは次の標的に目を向ける。花道佳夕は死の恐怖よりも雄一の死の現実に耐えかねてへたり込む。

そこに


≪まだ諦めないで!!!!≫


キャシーが花道を叱咤する。聞こえるはずも見えるはずのない声と姿に驚きながら花道はキャシーを見る

強気な語気とは裏腹にキャシーは弱弱しく泣いていた。今にも折れそうな細い体で折れないよう必死に抗うように


≪ここで何もしなかったら本当にアイツは無駄死によ!!そんなこと絶対許さない!!だから佳夕、貴女を絶対現実に帰して見せる!!!≫


その言葉に鼓舞され落ちそうな涙をぬぐい花道は立ち上がる。


「私…絶対諦めません…!!!!生きることも!!雄一さんの事も!!!!!」


すでに彼女に魔力はない。だが今できる事。やれることをはまだあるはずだ


落ちてゆく。深海に落ちてゆく。水底に向かうように暗い深淵に落ちてゆく

ああ俺は死んだのか…と他人事のように呟いてしまう。まあ、花道さんが助かるならそれで…と力を抜いた。そしてふと頭によぎる


・・・死。死ぬ。死ぬのか…?


聞こえる聞こえる水滴の音


ぽちゃりぽちゃりと落ちていく。ピッ。ピッと音を交えて


まだ何も始めてないのに。勝手な不幸な俺は死ぬのか…?


死ぬ…死ぬ…『両親のように死を待つしかない』


その元凶を斃すために始めたのに…異世界への冒険に胸を躍らせたのに

こんな…こんなところで…


落ちる。落ちる。何もしなかったら海底に落ちてゆく


手が動いた。足も動く。まだ俺には体がある。ならやることはもう決まっているはず

黄泉路の水圧や重力に抗う為に必死にあがいた。このまま死んでたまるかと心が叫んだ。

水の中水泡を吐きながら、水面に向かって俺は…


「ここで、死んでたまるかぁぁあああああああああああああああああああ!!!!!!!!」


―――――――――――――――――――――スキル解禁

ユニークスキル『≪最終廻生デッドリバース≫』アベレージ1。『致死を癒すダメージオブランゲージ』を開放します。―――――――――――――――――――――




依然運営とのつながりは皆無。

バグの申告や通知もフェアリーには届いていない

出来ることは何もない。ただ無常な死を待つだけ。

だというのになぜ人は諦めないのか

希望という毒に侵されているのか。

見たくない現実から目を背け

見たいものに酔いしれれば救われると思っているのか


か弱く睨みつけるその眼はイーヴィルヴァーンではなく現実にめしいている

――違う。希望は生きる原動力。そして絶望に差す一縷の光明。

それは絶望は絶対ではないという証左。希望に生きた者には必ず奇跡が訪れる。


最早抵抗は無意味とイーヴィルヴァーンは両爪を顎のように凶爪を左右に展開

花道に向け一直線に一秒も満たず距離を縮めその死はコンマ一秒も満たないだろう

殺されるという恐怖はない。

ただ生きる。信じている。雄一さんはまだ生きている

ありもしない虚妄にすがりその醜悪さを切り刻むようにイーヴィルヴァーンの即死の攻撃が放たれる。


直撃は免れない。現に当たった。だが…それは誰もが予想していなかった直撃で

花道の届くはずのない生存の一秒が迎えられそしてその前には

「・・・雄一さん?」

花道の希望いのりが届いていた







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