第9話 フィアウィーゴー ボスバトル!!! 前編
花道さんも順当にレベルを上げて俺と同じ15レベルまで達した
俺はというと依然変わりなくレベル15でここらのモンスターでは経験値があまり芳しくなくなっていた。だがそれよりもまず…。花道さんのステータスが目を見張るものになったのだ
花道 佳夕 ジョブ ウィザード
レベル15
攻撃力 9
防御力 7
俊敏 20
魔法力 36
魔法攻撃力 26
魔法防御 30
魔法 火魔法 ヴィリア 回復魔法 ヒアリー
氷魔法 コーシス 自然魔法 メレウィー 雷魔法 ウィアーズ
スキル 道具作成+ 魔法具錬成 武器修復・改
つ、強い…魔法の才能が高すぎる…。レベル15でこれは逸材だ。
そしてなおかつパーティーで組めば最強レベルの補助スキル
道具作成と魔法具錬成で大体のアイテムを造り出せるし武器修復があれば武器が壊れても立て直せる。まさしく援護タイプの魔法使い。何て理想的…。
「あの…どうですかね…役に立てますか…?」
と杖を持ちながら不安そうなまなざしで俺を見るがとんでもない
他パーティーで要となるに間違いなしの戦力だ。不安があるとすれば俺自身以外に他ならない。結局俺にスキルは芽生えなかった。俺自身スキルはなく剣一本と戦略でやっていくしかない。という旨を花道さんにも伝え他パーティーに行った方が確実とも念押ししたが断られた。
≪あなたが心配という事ね≫
『それはそれで男のプライドが傷つく…』
と花道さんに聞こえないようキャシーと
この機能はネットの個人通話機能と同じだ。聞かれたくない話や伝えたい人だけに聞こえるチャット機能。プライベートやプライバシーを守るためのお助け機能でフェアリーを通じて会話しフェアリー自身ともチャットが可能。
心配してくれるのはありがたいのだがそれで花道さんの人生を潰すような真似はしたくない。
花道さんだけではなく俺自身の罪悪感にも繋がる事案だ。
つまり今回のボス戦絶対に勝たなきゃならない。
禍根を残さない為に勝利を手にしなきゃいけない。その為に
「言われた通りにお造りしましたが…大丈夫でしょうか…?」
「うん…これなら確実に倒せる」
念押しと鼓舞の為にそう宣言する。ネットでの情報を統合し確実に決定打となりえる武器。卑怯ではあるがこちとら手段を選ぶつもりはない
ボスへの道のりはあらかじめ
フィールドのひとつひとつに足を運びどの道順が体力を削らずボスにたどり着けるかはリサーチ済みだ。無論これは花道さんがいない間に行っていた。キャシーはともかくこのマッピングに誰かを付き合わせるのは酷だと思ったからだ
≪いや、何で私は良いのよ…≫
『そりゃ俺のフェアリーだし付き合ってもらわなきゃ』
≪横暴よ!パワハラよ!!職権乱用よ!!?訴えてやるゥゥゥッッ!!!!≫
と滅茶苦茶広いフィールド探索に連れた結果げんなりとしたキャシー。南無と俺は片手で祈る
≪同情する余地があるなら休ませなさいよッッ!???≫
そんなこと言ったって…
『キャシーは俺のフェアリーだしなるべく俺の事知ってほしいし…』
≪!??ッ ふ、フン…そんなこと言ったって許したやらないんだから!!≫
どうやら照れたようだ。・・・どうやら俺はキャシーや花道さん相手だとへどもどしたりしないらしい。それは極めて単純で、俺が心を許しているからだと思われる。
と、そう思ってはにかんでいると
「むぅ~~~~~~~~~~~~~~~~~」
頬を膨らませて明らかに不服そうな顔をした花道さんの視線に気づいた。
「あ、あの…花道さん…?」
「佳夕!!!ですっっっ!!!!!!!」
キャシーと親しくしていたせいか嫉妬を買ってしまったようだ。参ったな。ボス戦前というのにこういったことでチームワークを崩す真似はしたくない。
いや、これは良い機会かもしれない…。今まで名前を呼ぶことに抵抗があったのは名前で誰かを呼んだことが無いのもあるがいきなり距離感を詰めるというのも気が引ける(距離感を一気に縮めて引かせたという事は忘れている)のでこのタイミングでなら名前を呼んでも引かれない!!!!
ここで男気を見せる時!!!
「じゃあ、佳夕…さん……」
「…!は、はい…雄一…さん」
・・・良いな。これ!!!
なんて思っていると見えない何かに頭をどつかれた。何だ?
「ちょ、ちょっとヴィクター!!何するんですか!??」
見えない誰かに対して怒っている花道さん。どうやら相棒のフェアリーによって体当たりされたようだ。だがナイス。ちょいと浮かれてしまっていたから頭も冷静になった。
≪青春ねぇ~≫
そんなことをしている間にボスの部屋前。大きな扉の前に俺たちはたどり着いた。
ゲームさながらボス部屋というのは例外なく固有の部屋にいるものだ。これはゲーム内だけでなく現実のダンジョンも同じくだ
鍵は施錠されてない。ダンジョンによっては鍵がフィールドや迷宮内に隠されているが初心者専用であるため鍵は必要ない
念のためにセーブを花道さんに促す。
セーブ機能はセーブした直前の状態で復活するシステムだ。
セーブはリスポーンとは違い最初の場所に戻ることはない。
だが重要なのは『メンタル』だ。ゲーム内とはいえ殺される実感があるというのは先刻実証済みだ。
その為リスポーンされた場合その殺された恐怖が残る。
その為の措置がセーブでありセーフティー。
殺される前の精神状態に戻し殺された状況を夢を見ていたように現実離れさせるメンタルケア機能だ。
聞いている限り人の心をいじくり悪用されかねない技術ではあるし乱用も避けたい。
理由としてはハンター業で必要とされるひとつが『痛みや死への慣れ』だ。ケガをしたり殺されたりはハンターでは日常茶飯事。
そのひとつひとつで臆していてはハンターはやっていられない。
さりとて死への慣れなどしていたら現実世界との境界があいまいになり現実でゲームやダンジョン感覚で本当に死ぬケースもしばしばある。
肝要なのは慣れはしても恐怖は持っておくべきという心構えなのだ。
花道さんの場合ハンター業をやるつもりではない。
セーブしておけば万が一死んでもトラウマは残らない。
・・・まあ死なせるつもりは毛頭ないが
俺は別にセーブはしなくてもいいが花道さんに心配を掛けたくないので同じくセーブ。
死の感覚はすでに経験済みなので問題はない。という旨を花道さんに話すつもりもない。
「準備は良い?」
「は、はい!!」
いい返事だ。花道さんは絶対守って見せる
そう心で呟きながら門に手をかざし力を込めて押し開ける。
―扉の向こう。一切の明かりはなくそこにあるのは暗闇の中に炯々と輝く双眸
―それが揺ら揺らと揺らめいている。物静かにゆっくりと鎮座していたボスは動き出す。
―『イーヴィルヴァーン』と呼ばれたソレは二足の足で立ち上がり咆哮と共に輪郭を
姿は大型のゴリラを悪魔にしたような巨躯のモンスター。過去にダンジョンに現れそれを基に構築された一番最初に戦うに適した魔物だ。
特筆すべきは尋常じゃない体力だけで特にそれ以外に際立った力は有していない。つまりHPがバカ高いだけのでくの坊。
見た目に反しその力は控えめで体力が多いからこそ連携時間が長くなり互いのチームワークが取りやすくなる。
つまりこれからの戦いで必要な要素を持ったいわゆる『先生』ポジのモンスターにあたる
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――――――――
≪バトルスタート≫
そのアナウンスと共にボスイベントが幕を切りボス名『イーヴィルヴァーン』の名と共に戦闘が開始される
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
花道さんは案の定その姿に気圧されビビりすぎて硬直している。なのでそんな状態の花道さんに発破をかける
「佳夕さん!!!!」
「はっ!!雄一さん!!」
忘我していた花道さんが我を取り戻し
俺が盾になる形で花道さんの前に出てこちらも臨戦態勢に入った。
「
まずは花道さんが氷魔法を唱えイーヴィルヴァーンの足元を凍らせる。動きは止められないが鈍らせることはでき同時に俺が吶喊し切りかかる。
イーヴィルヴァーンなんて大仰な名前を持っているが攻撃力も防御力も敏捷性も並程度。つまりこいつに一番適しているのは
「デバフでの攻撃。常にHPを削り続けて早々に終わらせる!!!」
相手に反撃のいとまを一切与えずのデバフ攻撃。いくらHPが高くともダメージを与え続ければいつかはゼロになる。そして少しだろうが連続で与え続ければ致命傷だ。
とはいっても魔法使いの防御力ではこいつの攻撃は結構なダメージになり魔法を唱えている間は佇立状態を避けられない。
つまりソロの魔法使いがイーヴィルヴァーンを倒すのは不可能に近い。
相性的にも剣士か盾役をパーティーに入れなければ攻略できない…
余談だが、相性最悪の魔法使いがレベル1のソロでこいつを倒したという話がある。変態かな?
俺は毒デバフと麻痺デバフが付与された佳夕さん謹製の大剣を喰らわせ続けた
体躯が空を切り疾駆する。突進のように速く駆け抜ける体が軽い。
暴風の塊になったように加速する体は大剣と連動し連撃を放ち続ける
毒デバフによる毒ダメージに麻痺デバフによる硬直。その間隙を縫い十字に切り払い返す刀で脳天に叩き込んだ。そして休みなく攻撃は続行されている
「はぁ…はぁ…はァ…!!!!!」
呼吸が持たない。体の動きに反し代謝が追い付いていない。いいやむしろ通常あり得ない動きを俺が行使しているのだ。ゆえに通常の呼吸では追いつきはしない。だがそれに反し興奮は抑えきれていない。経験はしたことなかったがこれがいわゆる『ランナーズハイ』という現象なのだろう。
「凄い…」
その光景に花道佳夕は息をのんだ
イーヴィルヴァーンの脅威よりも雄一の動きが完全に常軌を逸している。
あれが雄一さん…?と疑問形になるのも理解できる。彼の放つ動きや速度、一挙一動が『スキルの恩恵なし』で放たれている事実が驚愕を物語る。
大剣という重量が大きい武装でありながらまるで手足のように風を割き重力を感じさせない。そのスピードは手足四本では足りない。多足生物でなければあり得ないように攻撃の
「一体…貴方は…」
何者という言葉を花道佳夕は発せず飲み込んだ。それよりもまず彼のサポートに先決しなければならない。イーヴィルヴァーンは完全に雄一に翻弄され意識は彼以外に全く向けられていない。花道は全く蚊帳の外であり攻撃のチャンスでもあるが攻撃魔法よりもまず、と考えるよりも先に
「
明らかに憔悴しながら心酔している雄一に向け回復魔法を放つ
HPというシステムは人間にも適応している。だがHPと体力は別物である
HPというのはヒットポイント。攻撃を受けた時に生じるもので
基礎体力はHPに反映されない。それは何を意味するかというもの
すなわち…
花道さんのおかげで冷静になれた
加速していく熱は一気に冷めて、されど攻撃の手は一切緩めていない
どうやらかなり無茶な動きをしていたようで手足の感覚がかなり鈍い。ゲームと言えど現実とリンクしている為保護機能込みでもかなりのフィードバックを感じられる。
ここまで3分。三分間無酸素運動で活動していたらしい。現実ではありえない現象
これもゲームによる作用だろうか…?
さきほど体力とHPは違うと言っていた。それは俺の体はかなり酷使して悲鳴を上げているが『HPは攻撃を受けていないので一切減っていない』つまりHPを頼りに体力を目安にしていたら自身の限界に気づかずレッドアウトかブラックアウトしてしまう。
これがHP機能の弊害。絶対にしてはいけない勘違い
攻撃を受けなければHPは減らないが減っていないからと言って体力があるという意味ではない。
無論デバフなどのダメージはHPに反映されるが自身の基礎体力はHPに加算されていない。
HPがあるという慢心は死を生むという話。体力をHPに換算した場合HPのダメージと体力の消耗の二重により通常よりも消費が早くなる。
どこかの推論らしいがあえて女神はHPと体力を別にしたといわれている
それはHPというのは『HP0による死はあくまで戦闘不能扱いで死ではなくそれにより蘇生魔法で復活できる』のと『実際の死の代わりを請け負うシステムとしてHPシステムが導入された』というふたつだ。まあどちらにしても
「説明しろって話だよな。そんな都合よくいかないだろうけど」
女神にも女神なりの事情というものがあるだろうし人間にそこまで肩入れしないだろう。それにゲームよろしく『頭を使え』と杳として伝えたかったのかもしれない
まあそれはともかくとして回復魔法についてだが。
「ヒアリーはHPも基礎体力も回復できる。つまりHPはあくまで生命保護システムってのは遠からずってわけだな!!!」
イヴィルヴァーンの体力も半分、戦闘は後半に入る
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