第8話 デート

カップル同士の痴話げんかか別れ話か。などと周囲から奇異な目で見られていたので

 花道さんとこの場を離れるようにして俺たちはレストランへ足を運んだ

 開いていた席に座り適当な品を頼む

「すみません、アイスコーヒーをひとつ。花道さんは?」

「────あ、すみません。えっと…チョコレートパフェとカフェオレをお願いします」

 かしこまりました、と店員さんは厨房へ向かい踵を返す

「えっと……………」

 やべえ。何話せばいいかわからない。何を話せばいいものかと頭を悩ませていると

「あの…て、手慣れてますね…」

「え?」

「いえ…さっきの事です。自然とレストランに連れていってくれて自然な誘い方でした…。もしかして以前から彼女とかいらっしゃったのですか…?」

 ─────────俺ってそんな熟達者に見えたの?そういえばさっきレストランへ向かう時自然と手を引いていたような…マジで?

「いやいやいやいや!!!?友達がいないのに彼女とか不可能だよ!!!

 さっきのは多分俺にもわかんないけど無意識の行動なんだ!!」

 弁明っていうか何に対しての弁明か知らないが正直にそういった。

 もし意識的に行うなんて天地がひっくり返ってもできっこないと断言できる

 そういって安心したのか花道さんは

「良かった…私が一番最初のお友達なんですね」

「そうだね。花道さんも?」

「はい、私も雄一君が初めてのお友達ですので初めて同士ですねフフ」

 そうほころんで話してくれると俺もうれしくなる。なるほど、これが友達ってやつなのか…すごくいいな

 すると店員さんがアイスコーヒーとパフェにカフェオレを一つのお盆(トレンチ)を器用に片手で持ち運び伝票と共に置いて一礼し去っていく

 ストローでコーヒーを飲みながら、そこはかとなく聞いてみた

「えっと、そういえばどうして急にリアルで会おうって事に…?」

 戦闘でのアイコンタクトやフォーメーションなどは三時間というリミットはあるがゲーム内で出来ないことはなくむしろ武器が持てない現実では不向きなのだが

「え?友達と会うのに理由なんていります?」

「まあそうだけど…」

 どうやら純粋に遊びたいという意味だったらしい。普通ならそう捉えられるのだがそれは同性の場合での話だ

 異性同士でお出かけというのはなんというかデートに近い気がする。

 もちろん男友達や女友達というものがあるのは知っているが面識が間もない相手では気心が知れているとは言いがたい。といっても初めての友達なのでそういった基準は分からないのが本音なのだが…

「とにかく、一度リアルで会ってお話してみたかったんです!」

「と言っても話す事って、今後の連携とかくらいしか」

「いーえ!それは友達の会話じゃありませんよ!それにコンビネーションを合わせるためにも互いの事を知っておいた方がいいと思います」

 さもありなんだ。だが正直俺の身の上話はしたくない。───だってあれは…

「どうかしましたか?」

 見上げるようにかがんで上目遣いで俺を見る花道さん。これ話すと重くなりそうだし伏せて言える範囲を言おう

「いや、何でもないよ。といっても何を話せばいいか…」

「大した事じゃなくていいですよ。とりとめのないお話で良いと思います」

 花道さんが会話のおぜん立てをしてくれたおかげで話の切り口らしいものが出てきた。俺の目的、と言っても魔王を倒すというところは伏せておくが

「じゃあ…まずは、俺の話…っていってもつまんないんだけど俺は異世界に行きたいんだ」

 言ったらバカにされると思ったが口端を動かしもせず花道さんは真剣に聞き返す

「それは…どうしてです?ハンターというのはダンジョンで生計を立てるものではないでしょうか?」

 確かにその通りだ。だが俺にとってハンターは生業ではなく手段だ。だがその話が出来るほど申し訳ないが花道さんとは親密ではない。なのでお茶を濁して答えた

「それはそうなんだけどさ。えっと、理由は言えない。でも絶対行きたい。そのくらいかな…?」

 そう言い淀んだ歯切れの悪い会話だったが花道さんは真剣に聞いてくれていた。

 むしろ俺の目的を聞いて切り出しにくいように少し俯きながら彼女は言う

「私は…実はハンターになるつもりがないんです」

「え?」

「実は今度受ける就職場所でレベル20必要と言われてMMOゲームでレベルアップして就職するのです」

 ・・・それってとても素晴らしいことだ。少なくとも俺のバカな話よりよほど堅実で現実的だ。何も恥ずべきところ皆無だ。

「立派じゃない。正直命懸けのハンターより安定した職に就く方が一番だよ」

「そういっていただけると嬉しいです。ですけど、雄一君はすごく立派な夢を持ってますね。それと比べちゃうと…」

 引けを取る…って言ったって俺のは絵空事で花道さんは地に足をつけたまっとうな生き方をしている。正直に言えば下手をすれば命を落とすハンターよりまともな選択だと思う。

「いやいや、ぶっちゃけ俺のやることはバカげてるって知ってるだろ?異世界行くなんて誰も挑戦したことが無いからやりたいってだけで」

「でも、なんというか、それだけじゃないような気がするんです。雄一君のやるべきことはとてつもなく大きなことだと思うんです…」

 見透かされてる。というかかなり直観が良いのだろう。だがいうわけにはいかない。言えば馬鹿にされるからではない。言えば結構気まずくなりそうだからだ…。話すには少し暗い内容だし。でも聞きたいのならと話そうとしたとき

「それは…」

「でも言いたくないことなんですよね?ならば無理に聞きません。でも…」

「?」

「わかりませんが…私は応援しています。雄一君のやるべきことを私は応援したいです」

 それを聞いて、心の底からすごく安心した気がする。こんなに真剣に取り合ってくれた人は今までいなかったから。

「ありがとう。今までそういわれたことなかったから」

「あ、いえいえ私こそ偉そうなことを言って…」

「花道さん、いや佳夕さん」

「は、はい…!」

「これからもよろしく、君がパーティーで良かった」

 短い間だけなのは知っている。だがその間だけ全幅の信頼を彼女に寄せることを誓い

 レベル20まで守ると心に決めた

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