第37話 くるみボタンを作ろう!

 僕は口を開けてノアの方を見た。

 そういえばノアは普通の男の子じゃなかった。魔法界で危険な生物と言われる『魔法獣』なのだ。ハサミなんて使ったことないんだろう。

 正面に座る僕は、ノアに分かりやすいように説明しながらハサミを持った。


「親指と人差し指と中指をこの二つの穴に入れて動かすんだ。こんな感じで。」


 手首の向きをノアが座る方向に動かしながら見せてやる。ノアもぎこちないながら、なんとか僕が持っている通りにハサミを握った。


「布に印をつけるのは私がやるから。ノアは布を切ってみて」

「お……おう」


 ノアは藤咲さんがチャコペンで印をつけているのを熱心に眺めていた。その姿が微笑ましくて僕はこっそり笑う。ノアも一生懸命なんだな。

 難しい顔をしながらノアはハサミを使って布を切った。ノアが布を切っている間、僕と藤咲さんは息を呑んで見守る。なんだかこっちまでドキドキしてしまう。


「……できた!けどよ、あんまりきれいじゃねえぜ……」


 ノアは深いため息を吐いた。確かに布はゆがんだ丸になっている。


「大丈夫だよ。布の外側はくるみボタンの内側に入っちゃうから」

「うん。初めてのハサミデビューにしては上手い方だよ。僕なんて幼稚園のころ紙をギザギザにさせてたからね」


 僕と藤咲さんがフォローするとノアはすぐにいつもの調子を取り戻した。


「そうか?やっぱり俺様にできないことはない!」

「ここまで来たら後はちょっと力がいる作業になるからね。切った布をこのプラスチックケースに敷いて、その上にボタンの上の部分になるパーツをはめ込んでみて」


 藤咲さんの言う通り。僕は深さのある丸いプラスチックケースの中に布を敷いてパーツをはめる。パーツがぴったり収まる大きさだった。ノアも難なくここまでできている。


「はみ出してる布をパーツに沿うように、綺麗に内側に収まるように調整した後で上からもうひとつ、パーツを置くよ」


 紐やピンを通すための金具が見えるように置くとはみ出た布が見えなくなった。


「ここから少し力がいるんだけど……。このペットボトルキャップみたいな道具で今上に載っているパーツを下のパーツにはめ込むんだ。手をパーにして体重がかけるようにして押した方がいいかも」


 僕とノアが腕を振って準備していると藤咲さんが「あっ」と声を上げた。


「この時にね必ず思いを込めて押してね!なんでもいいからとにかくこの作品を手にしてくれる人のことを思ってやってみて」

「う……うん。分かった……」


 藤咲さんがあまりにも必死なので緊張してきた。

 僕は深呼吸をして掌を構えると、前かがみになって体重をかける。込めたい思いか……えーっと……。


 このくるみボタンを見た人が幸せな気持ちになりますように!!


「えいっ!!」


 掛け声とともにパーツを押し込んだ。

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