第36話 くるみボタン
「これがくるみボタンを使ったアクセサリーだよ」
藤咲さんはお店の商品棚から取ってきてくれた。
「へえ、洋服についてるボタンみたいだね」
ボタンの形をしているけれども普通のボタンよりもずっと大きい。ぷっくりとしていて布を貼ったボタンは温かみがある。色んな柄、大きさがあって見ているだけでも楽しかった。
僕はじっくりとくるみボタンを観察する。この半円状のボタンに布を貼るのは中々難しそうだ。同時にワクワクした気持ちになる。
「くるみボタンのパーツさえあれば取り付ける金具によっていろんなアクセサリーになるんだ。イヤリングとかヘアピンとかブローチとかね。もちろんそのまま洋服のボタンとしても使えるよ」
「へえ~!くるみボタンの可能性は無限大なんだね」
「色んなものに使えるからほら、こんな風にビンの中にいれてまとめてるの」
藤咲さんはお店の商品棚から大口のビンを持って来て見せてくれた。ビンの中には様々な模様をしたくるみボタンがつまっている。まるでキャンディーが入っているみたいだ!見ているだけで楽しい。
「すごいや!」
僕が夢中になってくるみボタンを眺めているとノアがふんっと鼻を鳴らした。
「俺様は『魔法獣』だからな。そんなの簡単に作れる!」
「本当に?そんな風に見えないけどなあ~」
「なんだと?ひよこ野郎のくせに……」
怒るのかと思いきや乱暴に席に座り直す。どうやらちゃんと藤咲さんの言う通りに「大人しく」しているらしい。
僕と藤咲さんはそんなノアの姿を見て笑みを浮かべた。このままノアが大人しくていい奴になってくれたらいいんだけど。
「小さすぎない直径4センチぐらいのもので挑戦してみようか」
藤咲さんはくるみボタンのビン詰めを作業台に置くと、戸棚から魔法陣の書かれたオレンジ色の缶を取り出した。蓋を開けると銀色のパーツが目に入る。
「これがくるみボタンのパーツなんだね」
「そう。くるみボタンの構造は簡単で大きくふたつのパーツでできてるの。布をくるむ部分と、後ろから布を固定するための台座の部分だね」
説明しながら藤咲さんは僕達の前にくるみボタンを作るための道具を並べてくれた。
さきほどの2組のパーツに、ハサミ。布に印をつけるためのチャコペンに丸い型紙。丸型のプラスチックケースみたいなものにペットボトルキャップみたいなもの。
僕はワクワクしながら並べられた道具を眺める。
「じゃあ早速布を切ってみよう!型紙も準備してあるからその大きさ通りに切ってみて」
色んな柄の布を持ってきてくれるのかと思ったら藤咲さんが戸棚から取り出したのは無地の布切れだった。
「模様、無くていいの?」
「それは作ってからのお楽しみ」
藤咲さんが唇の前で人差し指を立てる。やっぱりこれから作るくるみボタンにも魔法がかかっているのか。どうなるかはこれからのお楽しみとしよう。
「普通の布を使う時はあまり薄くない布の方がいいかもね。台座の銀色が透けちゃうから。どうしても使いたい時は無地の布と重ねたりするといいかも」
「さすがプロ!細かいところにも注意してるんだね。確かに布を引っ張ると模様が薄なるもんね。でもこの布は大丈夫そうだ」
僕は布切れを引っ張って見栄えを確認する。次に型紙をあてがってチャコールペンで布にしるしをつける。ハサミを手にしていよいよ布を切ろうとした時だ。
「おい。これ、どうやって使うんだ」
ノアが正面に座る僕に向かってハサミを掲げた。
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