第35話 やっぱりハンドメイド

「ああそっか!だからノアは人の姿になってたんだ。藤咲さんの手助けをするために」


 最初はただのいたずらかと思っていたけど違うんだ。ノアはちゃんと藤咲さんの力になろうとして人の姿になっていた。

 ノアは自分のために準備されたオレンジジュースのコップの後ろに隠れてしまう。


「ふんっ。そうだよ!何か悪いかよ!」


 不貞腐れるノアに僕と藤咲さんは顔を見合わせて笑い合った。


「ちょうど新しい作品を作りたいと思ってたから。皆で作ってみる?」

「本当に?作ろう、作ろう!」


 実は今日、何か作ったりしないかなーと期待してたんだ。嬉しい提案に僕のハンドメイド魂に火が点く。

 僕達が盛り上がっているのを、ノアがコップ越しに眺めていた。


「藤咲さん。ノアを人の姿にしてあげてよ。僕達といっしょに作ってもらおう」

「!!」


 僕の提案にノアが飛び上がる。藤咲さんは小さな子供を見守るような視線でノアに優しく話しかけた。


「そうだね。水上君に意地悪せずに大人しくしてたらいいかな」

「……分かったよ。大人しくするから……。俺様も一緒に作品を作らせてくれ」


 コップの影からゆっくりと姿を現したノアは素直に僕らの言うことを聞いてくれた。素直なノアの姿を見て僕は頬を緩める。


「天地の女神の力をお借りし、魔法獣『ノアクローム』を人の姿に変えよ!」


 床に降りたノアに向かって藤咲さんが呪文を唱える。光りに包まれたノアはあっという間に生意気そうな男の子の姿へと変わった。


「そういえば。ノアって元はどんな姿なの?」

「そんなもん、誰もが恐怖する強そうで恐ろしい姿に決まってんだろ!」


 ノアは人の姿になったのをいいことにドカッと椅子に座るとオレンジジュースを飲みほした。僕は答えを求めて藤咲さんの方を向く。


「えっと……。大きくて毛並みは黒くて、爪も牙も鋭い。ちょっと怖い感じかな……」

「ふうん……。実物を見ないと分からないや。元の姿に戻れたりしないの?」

「こう見えてノアはまだ完全に回復してないの。だから元の姿に戻るのは無理。

ノアも私と同じように大魔法士様から『人の世を学びなさい』って指示が出ててね……。指示が達成されるまで魔法界に戻ることができないの」

「さっきも出てきたけど、その大魔法士様って誰?」

「魔法界でいちばん偉くて強くて賢い。魔法使いの王様みたいなお方のこと」

「ふうん。人間界で言う大統領とか総理大臣みたいな人ってこと?」


 僕なりの解釈かいしゃくを口にすると藤咲さんは「うん。そんな感じ」と頷いてくれた。魔法界も人間界と似たような部分があるらしい。


「まさかノアにも大魔法士様から試練が与えられているなんてね」


 僕はオレンジジュースを飲み終えたノアと目を合わせる。長い前髪から覗く鋭い瞳が光った。


「……ったく。魔法使いの奴らは決まりだのしきたりだのやかましいんだよ!魔力の少ない人間界で生きていくのはつれーし。早いところ魔法界で暴れたいんだぜ」

「ノア!そういうこと言わないの!どこで大魔法士様が聞いてるか分からないんだから」


 藤咲さんがふうーっとため息を吐く。

 そうか。藤咲さん達はあくまで反省のために人間界に来ているだけでいつか元の世界に戻ってしまうのか……。

 僕の胸がちくりと痛む。どうしたんだろう?今さっきふたりが魔法界に戻るための手助けをするって言ったばかりなのに。

 


「それじゃあ早速、これからみんなでくるみボタン作らない?」


「くるみ……ボタン?」

「くるみ……ボタン?」


 僕とノアの声が重なって、藤咲さんはくすくすと笑った。


 

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