第33話 知りたかったこと
「ごめんね。ノアが意地悪して」
藤咲さんはオレンジジュースの入ったグラスと僕が持ってきたクッキーを乗せた皿を置くとふうっとため息を吐いた。
「僕は大丈夫……ただ服を掴まれただけだし。それにしても藤咲さんって本当に魔法使いだったんだね!さっきのすごかったよ!」
ノアはというと僕から背を向けて机の上で体育座りをしている。しょんぼりとした背中がなんだか切ない。
人間の姿のために用意されたノアの分のオレンジジュースのグラスが虚しくテーブルの上に放置されている。
「朝から『人型にしてくれって』うるさいから魔法で人間にしてあげたのに……水上君にこんなことをするなんて信じられない!」
「違うんだマホ!俺様はマホのために……!」
誤解を解こうと立ち上がってノアが藤咲さんの側に駆け寄る。
「もう人型にはしてあげない。ノアの魔力も消耗して良くないだろうし」
「それは……いやだ!悪かった!俺様が悪かったから!」
ぴょんぴょんと藤咲さんの目の前でジャンプするも、藤咲さんはつーんっとした表情でオレンジジュースを飲み始めた。
必死な姿を見るとノアが可哀想になってきた。さっきも藤咲さんを魔法使いに戻すために僕に声をかけてきたみたいだったし。
たぶんちゃんと言葉に出来なかったんだけでノアは悪いことをしようとしたわけじゃなかったんだと思う。
僕は我慢できなくなって声を上げた。
「藤咲さんっ!ノアは意地悪しようとしたんじゃなくて……藤咲さんを魔法使いに戻すのに協力してくれないかって提案してくれたんだ!だけど僕、すぐに返事ができなかったから……」
僕の言葉に藤咲さんは目を見開いてノアを見下ろす。ノアは黙ったまま耳をぱたんと伏せて、顔をうつむかせていていた。
「そっか……。ノアは水上君に話したんだね。魔法界での私のこと」
さっきまでのとげとげした雰囲気はどこかへ消え去り、いつもの穏やかな藤咲さんが戻ってきて安心する。
でもちゃんと聞かなきゃな……。ノアが僕に協力して欲しいって言ってきた理由を。
僕は背筋を伸ばして藤咲さんと向かい合う。
「良かったら……教えてくれないかな。藤咲さんと魔法界のこと。どういう状況かちゃんと理解してから僕は藤咲さんの力になりたい」
藤咲さんは少し悲しそうに笑いながら僕の知らない、藤咲さんについて話してくれた。
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