第29話 思い出の魔法
白い病室の中。おばあさんが一人、ベッドに座っていた。看護師の女性が
「
「まあまあかしら」
「朝ごはん残したみたいですね。食べれる時に食べてくださいよ」
「もう年ですから……」
「そんなこと言わないで!ご家族のために元気になってくださいよ」
看護師の女性はテキパキと話ながらベッドに座るおばあさんの状態を見ながらタブレットで患者の体調を入力していく。血圧や体温を測っている間も動きは止まらない。
「そのネックレス。とてもおきれいですね。プレゼントですか?」
「ええ。昨日届いたんです。孫から」
おばあさんははにかんだような笑顔を浮かべた。
「手作りみたいです」
「え?手作り?上手ですねー」
看護師の女性の言葉に、おばあさんは更に笑顔を深める。まるで自分が褒められたかのように。誇らしげだった。
「また何かあったらナースコールで呼んでくださいね」
看護師の女性が部屋を出て行くと病室には再び静寂が訪れた。おばあさんがネックレスのモチーフに視線を落とす。
「本当に上手。こんなに素敵な物が作れるまで大きくなったのね……」
しばらくの間、その美しさに魅入っていると不思議なことが起こった。
ガラス玉のようなモチーフの中でヒマワリが風で揺れたような気がしたのだ。
「え……?」
目を擦ってもう一度のぞく。
やっぱり、ヒマワリの花弁が揺れている。
それから驚く間もなくガラス玉の中の景色がどんどん移り変わっていった。しかも、自分が暮らしていた、大好きな田舎の景色ばかりだ。
「畑、どうなっているかしら。おじいさんはちゃんと世話しているかしらね……」
球状のモチーフは他にも色んな楽しい景色を見せてくれた。孫と野菜を採って庭で花火をする。なんてことない小さな日々。おばあさんは懐かしさと愛おしさで胸がいっぱいになった。
やがてモチーフの中に見たことのない光景が映し出される。
おとぎ話の中みたいな可愛らしい家の中、三人の子供たちが集まって何やら楽しそうに工作をしているのだ。
「あら
孫の姿を見つけて思わず微笑む。友達と楽しそうに話す姿を眺めていた。一体何を作っているんだろうか……。
完成したものを見て、おばあさんは優しい笑顔を浮かべた。
「ああ……そう。これは颯がこんなふうに一生懸命作ってくれたものなんだ……」
おばあさんは大切そうに、ネックレスをぎゅっと握りしめる。
「早く、元気にならなくちゃね」
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