第26話 UVライトで固める

「それじゃあ……。気を取り直して続きをやっていくね。パイプを抜いた後、UVライトで固めるよ」

「ついに固まるんだねー。どんなふうになるか楽しみだ!」

「本当に固まるのかな?俺、まだ信じられないんだけど」


 僕と白金君はUVライトから取り出した型をじいっと眺めた。藤咲さんがふふっと得意気に笑う。


「驚くと思うよ。楽しみにしてて。じゃあ、この状態で1分、型を裏にしてまた1分UVライトに当てていくよ」


 僕達はUVライトの下に型を置き、時が流れるのを待った。

 UVライトって紫っぽい色をしてるんだなと思ったり。おっと、目によくないからあまり見ちゃだめなんだよね……。慌てて視線を外す。


「そうだ。このまま待ってても退屈だよね。飲み物取って来るから少し待っててね」

「こいつらに飲み食いさせなくていいだろ。とっとと帰るんだから」


 容赦のないノアの毒舌に藤咲さんはノアの頭にデコピンする。ノアは「いでっ!」と言いながら頭を押さえた。


「ノア。失礼なこと言わない!ごめんねふたりとも。準備してくるから」

「悪いな……。お邪魔した上に飲み物ももらっちゃうなんて」


 巧にはない気遣いに僕は心の中で称賛を送る。やっぱり白金君はモテる男なのだ。藤咲さんがほわほわした笑顔をみせる。


「ううん。大丈夫。気にしないで!」


 部屋の奥に消えた藤咲さんとノアを見送った後で僕は白金君と会話をする。ここまでハンドメイド作品を作ってきた同士だ。

 出会った時よりも大分打ち解けてきたように思える。


「ところで白金君のおばあちゃんの家ってどんなところなの?」


 僕は白銀君がモチーフを選んでいた時に聞いた会話を思い出す。


「とってもいい所だよ!お盆休みになると必ず遊びに行くんだけど……。田んぼや畑があって、緑がすっごくきれいなんだ」

「いいね~。畑で何か収穫できたりするの?」


 僕の質問にも白金君は楽しそうに答えてくれた。


「うん。トマトとか、キュウリ、ピーマンとか色々ね。そのままかじりついて食べたりとかしたよ。すごくおいしいんだよなー!」

「できたてを食べれるんだ。それは絶対おいしいね」

「それと俺の家族とおじいちゃんとおばあちゃんとで庭で花火したり……」

「楽しそー!」


 僕達はUVライトで固めている間、白金君のおばあちゃんの家の話で盛り上がった。僕もなんだかおばあちゃんとおじいちゃんに会いたくなってくる。


「はい。どうぞ~」

「マホがいれたお茶だ。ありがたく、ひれ伏して飲むんだぞ!」

 

 話が盛り上がっている所で藤咲さんが飲み物を持ってきてくれた。コップに入っていたのは冷たい麦茶だ。


「ありがとうございます。藤咲様」


 ノアの言う通り、白金君が深々とお辞儀をして麦茶を受け取った。その姿に藤咲さんはくすくすと笑う。


「ありがとうございますっ!藤咲様」


 僕も白金君に負けじと深くお辞儀をして受け取った。


「なんなんだよお前ら!冗談を本気にするとか変な奴!」


 僕らが困った顔をするのを見ることができなかったノアは不機嫌そうにそっぽをむいてしまう。

 僕達はその後も藤咲さんを交えて白金君のおばあちゃんの話に耳を傾けた。

 

 半分レジン液が固まったのを確認すると残りの部分にもレジン液を注いで同じように型の表裏にUVライトを当てる。

 それでもまだ時間があったので、小さい頃に遊びに行った海での思い出話もした。岸に打ち上げられたヒトデを触ったり、顔に水が掛かって泣いたりしたこと。

 一足先に夏休みを味わったような気分になる。

 会話しながらなんとなくUVライトの方が気になって視線を移す。

 

「えっ?」


 一瞬だけ型が光ったような気がして、僕は思わず椅子から立ち上がる。


「どうした?水上君」


 白金君が不思議そうに首を傾げた。


「今なにか光ったような気がして……」

「え?本当か?俺何も見てなかった!」


 僕達は恐る恐るUVライトの方に視線を向ける。あまりじっくり見ると目によくないから薄目で。

 かなり面白い光景に見えたのだろう。藤咲さんがくすくす笑いながら近づいて来た。


「そろそろ固まったかも。型から取り出してみようか」


 藤咲さんの声に僕と白金君は背筋をのばした。

 

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