第25話 UVレジン液の型を取る

「2回に分けて固めていくよ!今混ぜたレジン液をパレットのそそぎ口から流すんだけど、型の出入口が狭くて入れにくいよね?」

「確かに。ボールみたいな形だからしかたないよね」


 ため息を吐く僕に藤咲さんがふふんっと得意そうに作業台の木箱から何かを取り出した。


「そんな時のためにこれ。パイプという道具を使います!」


 それはトイレットペーパーの芯みたいな形をした小さな部品のようなものだった。僕はすぐにひらめいた。


「出入口をそれで広げるんだね!」

「ぴんぽーん。正解!」


 そう言って藤咲さんはすぼまった型の出入口にパイプを入れた。少し力が必要みたいだったけど、型は程よく柔らかい材質なのでパイプの形に合わせてくれる。さっきよりも球の中がはっきり見えて作業しやすそうだ。


「へえー!すごいな。あったま良いー」


 白金君の誉め言葉に藤咲さんが肩をすくめてお道化てみせる。


「えへへ。私が考えたんじゃないけどね。じゃあ、この状態で半分ぐらいレジン液を入れてみて」


 隣り合った僕と白金君は目を合わせると、お互いに頷きあった。それを合図に、パイプで注ぎやすくなった型の出入口にレジン液を少しだけ注ぐ。

 なるほど。だからこのパレットはこんな風に注ぎやすいように口がついてるのか……。すごい考えられてるなと思いながら僕は慎重にレジン液を型に注ぐ。


「入れ終わったら、さっき選んだモチーフを好きな場所に入れてみて」

「うわあ……ピンセットか。緊張するなー」


 白金君は両手を振る。


「そうだね。どのあたりがいいんだろう……」


 僕は型を持ち上げて下から眺めたりしてみる。


「どこでも大丈夫だけどあまり球の外側にはみ出さないようにね。パーツが出っ張っちゃうから」

「そうか。じゃあ……真ん中かな?」

「うん。真ん中だな」


 僕達は相談してパーツの起き場所を決めるとピンセットを手に、パーツをレジン液に浮かべる。僕はヒトデを少し斜めにしてみた。

 さて、白金君は無事にセッティングできただろうか。隣に視線を向けて驚いた。

 白金君、めっちゃ手が震えてる!

 それでも顔は真剣そのもので……なんだか面白い。面白いけど笑うのを耐える。白金君の集中力を切らせてしまってはいけない!そう思ってたのに。


「ぎゃはははっ!爽やか野郎!手が震えてるぜ!」


 ノアが大笑いして台無しになってしまった。


「あっ!」


 白金君が高い声を上げて、眉をひそめる。


「ちょっとずれた……」

「ちょっと、ノア!」


 藤咲さんに掴まれるより先にノアはテーブルから滑り降りて逃げた。あーあ。また人の邪魔して……。白金君の代わりに僕はノアを睨む。ノアは口笛を吹いて知らん顔をしていた。


「大丈夫だよ、少しぐらいなら!後で調整できるし」

「うん……。それならいいんだ」


 藤咲さんが慌ててフォローするも、白金君は少し難しい表情をしたままだった。

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