第21話 尾行のちハンドメイド

「ねえ、本当にこんなことしていいのかな……」

 おどおどした声で左胸ポケットに入っているノアに呼びかける。

「ああ、これでいい!」


 放課後、僕は何故か藤咲さんと隣を歩く白金君の後ろを歩いている。数メートル後ろを、電柱の影に隠れながら追っているのだ。


「いいだろ別に。ただマホ達の様子を伺いながら帰ってるだけだからな」

「だから!それが良くないんじゃないかって!」


 できればこそこそするような真似はしたくなかったけど……ノアが「敵の素顔を見るにはこっそり様子を伺うに限る!」なんて言うからこんなことになってる。


「俺様はな、ひよこ野郎が爽やか野郎の邪魔をして2人ともマホから嫌われんのが目的なんだ!邪魔者を一気に消す。どうだ?頭いーだろう!」


 そんなことを悪びれもせず言うもんだからたまったもんじゃない。


「本当に悪い性格してるな!ノアは!僕は別に2人の邪魔はしないから。ただ……ただ気になるから来ただけだよ」


 実際、僕もどうしてこんな風にノアの言いなりになってるのか分からない。前を歩く2人は楽しそうで、なんだかしっくりくる。クラスの子達が言っていた「お似合い」というやつだ。

 なんだかそんな2人を見ていると取り残されたような、迷子になった時みたいな心細い気持ちになった。


「つまんねーやつ!俺様はな、爽やか野郎のこと蹴るって決めてんだ!」


 ポケットの中でノアが両手を動かして暴れた。


「蹴るのはやめなよ……。というかそもそも土曜日に白金君のこと邪魔してたらこんなことにはならなかったんじゃない?」


 ノアが黙るかもしれないと思って、わざと意地悪なことを言ってみる。すると、ノアは急にうつむいて悔しそうに言った。


「ああそうだよ!俺様が魔法界まほうかいに行ってたから……。マホを守んなきゃいけないのに」

「魔法……界?」


 聞きなれない言葉に僕は一時停止する。それよりもノアがこんな悲しそうな顔するなんて。悪いことをしてしまった気持ちになる。

 ノアは僕の心配をよそに、すぐいつもの調子に戻った。


「お前!今言ったこと忘れろー!聞かなかったことにしろ!」


 そう言って僕の頭に飛び乗ると、ぽかぽかと頭を叩き始めたのだ。


「いてててっ!止めろってば!そんな簡単に忘れるわけないじゃん」

「忘れろ!忘れろったら忘れるんだよ!」


 そんな無茶な。僕がノアと騒がしくしていると、前方から声を掛けられた。


「水上君。それと……ノア」

「あ……藤咲さん」


 藤咲さんと白金君が振り返って僕らを見ていたのだ。

 まずい。バレちゃった……。僕は顔を青くし、その場に立ち尽くす。

 僕の絶望とは反対に、藤咲さんは喜びの声を上げた。


「ちょうど良かった!水上君も手伝ってくれない?白金君のアクセサリー作り」

「え?アクセサリー……作り?」


 予想外の展開にぽかんと口を開ける。なんだ……告白とかじゃなかったのか。そのことに僕は胸を撫でおろした。

 白金君が少し照れたように頬をかく。


「ちょっと訳アリでさ……。皆に秘密にしておきたくて。それに俺ってアクセサリーってイメージないでしょ?」


 その気持ちはよく分かる。アクセサリーにれるのは多少なりとも恥ずかしさがあるものだ。男もののアクセサリーもあるだろうけど僕達の周りではあまり馴染なじみがない。

 どうしても「女の子たちが好きなもの」という印象が強い。僕だって藤咲さんと遊びはじめてやっと慣れてきたんだから。

 そっか。だから藤咲さんと2人で話がしたかったのか!

 白金君の心が分かって体の力が抜ける。良かったー……って何が良かったんだろう僕は?


「この子は私と同じ5年2組の水上優斗みずがみゆうと君。手先が器用だからきっと色々参考になると思うよ」

「そうなの?俺、不器用だからうらやましいな」


 そう言って白金君が爽やかな笑顔を浮かべる。あまりの眩しさに僕は思わず目を細めた。これは……モテる!僕は改めて白金君のすごさを思い知る。

 誤解が解けて、僕らがなごやかな雰囲気になり始めた時だった。


「おりゃっーっ!」


 突然掛け声と共にノアが白金君のおでこを蹴ったのだ!いつの間にか僕の肩から白金君を狙っていたらしい。


「ノア!」


 藤咲さんが絶叫する。ノアは器用に方向転換し、白金君の隣にいた藤咲さんの肩に着地する。


「それは俺様がいない間にマホに近づいた罰だ!」


 あはははっと高らかに笑うノアを藤咲さんは首根っこを掴んで怒った。


「だから!人に乱暴しちゃ駄目って言ったでしょう?そういう悪いことをしてると押し入れに閉まっちゃうよ?」

「……ゴメンナサイ」


 ノアはそっぽを向いて謝る。全く反省してないな。僕が呆れていると、白金君は大きな目をぱちくりとさせながらおでこを押さえていた。

 きっとノアが動いてるのを見て驚いてるんだろうなと僕が微笑ましく思っていると、白金君は思ってもいないことを口にする。


「不思議な店だと思ってたけど……。やっぱり魔法が存在するんだ」


 今までの皆とは違う反応に僕は驚く。


「白金君は魔法を信じてるの?」

「まあ、ちょっと前までだったらそんなこと考えもしなかったんだけど……。今は魔法でも何でも頼りたい気持ちなんだ」


 どこかさびしそうな白金君の表情。僕の胸の中に強く印象付けられた。


「詳しいことは作業場に行ったらにしようか」


 藤咲さんがノアの首根っこを掴みながら、先をうながす。




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