第20話 手を組む

「セーフっ!」


 藤咲さんと白金君の前に滑りこんできたのは……。


「巧!」


 僕は思わず叫んでしまう。同時に学校生活の始まりを告げるチャイムが鳴った。


「それじゃあ……今日、よろしくね」

「うん。またね」


 明るい白金君の声に、藤咲さんがにこやかに手を振る。

 もう2人の話が終わっちゃった!ひよこ、ちゃんと話聞けたのかな……。


「おはよう、火石君。早く教室に入った方がいいよ」


 藤咲さんが僕が覗き込んでいるのとは反対のドアに手をかけながら巧に言う。


「危ねーっ!遅刻するとこだった!」


 巧は大きな声で笑いながら藤咲さんと教室に入っていく。全く……巧のせいで2人の会話が聞けなかったらどうするんだよ……。僕は巧の背中を少しだけにらむ。


「ひよこ!急げ!」


 僕は小声でひよこに呼びかけると、ひよこはコロコロと僕の元に急いで転がって来た。



 待ちに待った昼休み。

 階段下の空きスペース……。使われなくなった椅子や机が積まれている所に僕はいた。ここなら誰も気が付かないだろう。


「さっそくだけど……。さっきあの2人が何を話していたのか教えてくれる?」


 真剣な顔つきで、僕はてのひらの上に乗ったひよこに問いかける。

するとひよこは小さな羽をばたつかせ、くちばしを動かした。

 この時、僕はとんでもないことに気が付く。


「そっか……こいつしゃべれないんだ!!」


 僕はショックで肩を落とした。ひよこは諦めずに掌の上で何かを伝えようと必死に動く。


「ふんっ。ひよこ野郎もまだまだだな!」


 すぐ近くから生意気な声が聞こえてきて、僕は肩がびくっとなった。


「え?ノア!」


 僕の右肩からひょっこりと顔を現したのは、なんとノアだった!


「いつの間に?」

「馬鹿だな!気が付かなかったのか?廊下に出てすぐお前の背中に引っ付いてたんだよ!」


 そのまま古びた机の上に降り立つと、いつものように腕組をして偉そうにする。


「そうだったの?全然気が付かなかった……」

「だからお前はひよこ野郎なんだよ!]

「それで……?どうしてノアはこんな所に」


 僕の問いかけにノアが呆れた表情を浮かべる。


「んなの決まってるだろう?こいつからマホと爽やか野郎の話を聞くためだ!」

「爽やか野郎って……」


 白金君のあだ名らしいが、褒めているのかそうじゃないのか分からない。


「残念ながらこいつ喋れないんだよ」

「それはお前が弱いから分からないんだ!強い俺様だったら分かる!」


 ノアが小さな胸を張る。初めてノアのことを頼もしく思えた。ただ口の悪い、マスコットじゃないんだ!

 掌の上にいたひよこも嬉しそうに羽をばたつかせた。


「本当?じゃあ何て言ってるの?」


 ノアが腕組をしたまま得意気に答えた。


「マホにどうしても伝えたいことがあって……今日、学校が終わったら、店に来るってよ!」


 ひよこを通訳したノアの言葉に僕は絶句した。僕の聞き間違いじゃないだろうか……。それってやっぱり……クラスの女子達が話していた恋愛話みたいなことになるってこと?例えば、告白するとか……!

 ノアはというと小さな足で机を何度か踏み鳴らすと怒り始めた。


「何をたくらんでやがる!あいつ!こうなったら俺達で乗り込むぞ!」

「え?」


 思いがけない提案に僕の目が点になる。


「だーかーら。お前も今日来るんだよ!店に!」

「僕が……2人の間に入り込むの?」


 思わず声が弱々しくなってしまう。


「そうだよ!邪魔してやろうぜ!」


 ノアがにやりと怪しい笑みを浮かべながら言った。

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