第18話 プラスの魔法

 翌日。学校でちょっとした変化が起きていた。


「木村さんのヘアゴムかわいいー!どこで買ったの?」


 木村さんの周りにクラスの女子生徒達が集まっていたのだ。


「えっと……これはね……その……作ったんだ」


 途切れ途切れになりながら答える。

 木村さんは昨日作ったヘアゴムでポニーテールにしてきたらしい。いつもと印象がガラリと変わって、とてもよく似合う。


「すごい!いいね!」

「藤咲さんに……昨日、教えてもらったの」


 視線が藤咲さんの方に集まる。それに気が付いた藤咲さんも笑顔で答えた。


「そう。昨日ね、水上君と火石君も一緒にプラバンアクセサリー作ったんだ」

「えー!楽しそう」

「男子もそういうの作るんだ」


 女子の輪が一気の盛り上がるのが遠目から分かる。


「お。木村、話せてんじゃねえか」


 僕の隣からボールを片手に持った巧が現れた。


「なんかさー……。気のせいかな?木村さんが前よりも生き生きしているように見えるんだよね」

「言われてみればそうかもな……。そんなことより、とっととドッジしに行くぞ!」


 僕は巧に首元を締められながら、そのまま教室の外へ連行される。


「ちょっと待てってば!ん?というかこれ、昨日作ったやつじゃんか」


 巧の手首にはちゃっかり昨日作った星型のヘアゴムがあった。ちゃっかりお気に入りになっているらしい。


「うるせーな。とっとと行くぞ!」


 巧もいつも以上に元気がある気がする……。

 これってもしかして……魔法?

 なんだかプラバンアクセサリーを付けた人達の魅力をプラスにしてくれているような……。そんな気がする。

 僕が藤咲さんの方に視線を向けると、藤咲さんが笑顔で唇に人差し指を当てた。

 「魔法のことは秘密だよ」と言っているみたいだ。

 やっぱり魔法なんだ!僕だけが気が付くことができたのと、藤咲さんと秘密で繋がっている感じがなんだか嬉しかった。

 ふと机の上の藤咲さんの薄紫色のランドセルが目に入る。そこにつけられていたものを見て僕は益々心が飛び跳ねた。

 僕の作った黒猫のヘアゴムが結びつけられていたのだ!ヘアゴムの隣には不貞腐れた表情のノアがぶら下がっている。

 その時、僕は言葉にならないくらい嬉しかった。


 僕が一生懸命作った物を誰かが喜んで使ってくれている……。それがこんなに嬉しくて、幸せな気持ちになるなんて!

 これからもっと色んな物を作って、もっと色んな人に喜んでもらいたい。

 僕のハンドメイド魂に火が点いた。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る