第16話 気づいたこと
「僕の作品は……こんな感じ!」
作業台に並べられた3人の作品が並ぶ。僕は自分の作品を指差してみせた。
「うわー!すっごく可愛い黒猫だね!もしかして……ノアを作ってくれたの?」
僕は猫の形を選んだ。ただ真っ黒に塗るのもつまらないので、青とか緑、黄色を混ぜて宇宙空間のような色合いにした。
もちろん、モチーフはノアだ。
「ノアってさ。口は悪いけどかわいいじゃん?だから作ってみたんだ」
「う……うるせえぞ、ひよこ野郎!かわいいなんて言われても……嬉しくねえから!」
藤咲さんの頭の上に移動したノアが声を上げる。心なしかその声は弾んでいた。
「……その、あの……すごくきれい」
「ふーん。いいんじゃねえの?」
みんなから誉め言葉をもらって僕は頭をかいた。
木村さんの作品は正方形で白地に黒の水玉模様だった。
「木村さんのおしゃれ!本当にお店に置いてありそうだよ!」
思わず声が大きくなってしまう。木村さんはそんな僕に驚きながらもはにかんだ笑顔をみせた。
「本当……?その、ありがとう」
「うん。とっても素敵だと思うよ。どんな服装の時でも合わせられそう」
藤咲さんも夢中で木村さんの作品を見ていた。
「そういえば巧のは?」
「ん」
僕の問いかけに巧が無言で作品を掲げる。斜め半分がオレンジ色で残りの部分が黄色で塗られた星型のデザインだった。
「すごい!巧にこんなセンスがあったとはねー」
「それ褒めてんのか?」
巧がぶすっとした表情を浮かべる。
「シンプルで星の形に合った明るい色合いがいいね!」
藤咲さんの誉め言葉に巧が笑顔をみせた。
「ドッジほど盛り上がらねえけど、案外ハンドメイドも面白いのな!」
「それじゃあこの調子でラストスパート頑張っていこうか!」
「え?まだなんかやんの?」
巧の表情が面倒くさそうな表情に変わる。僕もはっと我に返る。そういえばまだパーツしか作っていないんだった!
「裏面をきれいにして、ヘアゴムの金具を付けていくよ」
僕達は出来上がプラバン、色を塗った方に白いアクリル絵の具を塗った。裏面まで気にするなんて、さすがはプロだ。
ゴムを通すための突起のついた金具を接着剤で付ける。一方が平べったくなっていて、そこにパーツを取り付けられるようになっていた。
曲がらないように……慎重に。
「乾いたらこの突起にゴムを通して、口をニッパーで閉じたら……完成!」
ニッパー……と言っても僕が知っている物より小型で、先端が細長い。どうやら手芸用のようだ。
ニッパーを持つ手に力を入れると僕は声を上げた。
「やったー!完成した!」
こうしてノアをモデルに作った黒猫のヘアゴムが完成した。僕は猫の形をしたプラバンに触れながら思わずにんまりする。
「せっかくだから……今日作った作品は皆、持って帰っていいよ」
「え?いいの?」
木村さんが驚いた声を上げる。
「俺、ヘアゴム使わないんだけど……どうすりゃいい?」
「そしたらランドセルにキーホルダーみたいに付けるのもいいと思うよ。ヘアゴムだからどんなカバンの取っ手にも付けられるから」
藤咲さんの提案に巧が「なるほどな!」と元気な声を上げる。
楽しそうに喜ぶ僕らを見る藤咲さんを見て、僕は思う。もしかして……藤咲さんは木村さんを勇気づけるために遊びに誘ったのかもしれない。
木村さんと遊びたいという純粋な気持ちもあっただろうけど、それだけじゃない気がした。
また知らないうちに僕たちは藤咲さんに助けられてる。だけど木村さんも巧も気が付いていないみたいだ。
ここで「藤咲さんの優しさに感謝しなよ」と言うのも何か違う気がする。藤咲さんの優しさが台無しになってしまう。
どうしたものか……。
「あ……。もうこんな時間……。帰らないと」
時計を見るともうすぐ5時のチャイムが鳴りそうだった。
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