それぞれの 中学時代の お話です④

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パート3です。全8話です。


雨田あめだ 絃葉いとは】不和のない公平な関係を喉から手が出るほど求めている。

雫石しずくいし めい】善意が先走る子。困っている人を見たら考えるより先に手を差し伸べる。

井雲いくも 八葵やつき】楽しかったあの頃の関係を、今ならまだ紡ぎ直せる。頑張れ八葵ちゃん!




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[絃葉]「ごめん、ヨウマくんお待たせ! トイレ混んでて……あれ、みんなは?」


[友人4]「アイツらは先行った。俺らも早く行こうぜ」


[絃葉]「待っててくれてありがと」


[友人4]「ん」


[友人3]「いやモテ男感出すなって。俺のこと忘れとらん?」


[絃葉]「タツトくん。先行ったんじゃ……」


[友人3]「俺もトイレ行ってたんよ。あのビッチ共と違ってヨウマは待ってくれるもんなあ。流石ヤリチン」


[友人4]「うっせ」


[絃葉]「あ、あはは……」


[友人3]「てか雨田、コイツに靡くなよ? 上辺だけの優男だから。どうせ選ぶなら俺にしとけ」


[友人4]「アホか、しょうもない。雨田ならもうちょい上の奴狙えるて笑」


[友人3]「そういや雨田、この前の先輩の話考えてくれた? 明日カリンとサナから紹介するつもりで合コン組んだんだけど」


[絃葉]「……ごめん、断ってもいいかな」


[友人3]「ノリ悪いな笑、そんなヤベぇ先輩じゃないって。確かにガラは悪めだけど、イケメンだし悪い話じゃねぇぞ? な、1回会ってみてくれよ。先輩に嫌われたくねぇんだよ俺」


[絃葉]「わ、わたしは……」


[友人4]「まあ、本命いなくてもいいっしょ。カリンとサナなら雨田いなくても彼氏くらい作れるんじゃね?」


[友人3]「もうなんとなく雨田の話しちゃってんだよ! 先輩の取り巻きもそれに食いついたって……」


[友人4]「なら俺が女装して行ってやるよ、一発くらいウケ狙えるっしょ笑」


[友人3]「変なことすんなよ! マジで俺先輩に嫌われるって!」


[友人4]「てか雨田って本当男苦手なんだな。もしかしてレズとか?」


[絃葉]「えっ、あ」


[友人3]「え、何その反応。マジでレズなん? 男に興味なかったのってそういう……」


[絃葉]「……違うよ。男の人が苦手ってだけ。それより、屋上まだ空いてるかな」


[友人4]「いやいや、そのためにアイツらは先行ったのよ笑」


[友人3]「タバコ1本差し入れするか。……そういや雨田はタバコ吸わんの? 美味いぞ?」


[絃葉]「依存したくないから」


[友人4]「の割に俺らに注意しないし、つまり規律はどうでもいいんだな、悪い美人じゃん笑」


[友人3]「副流煙はいいのかよ笑」


[絃葉]「うん。だって──」


[絃葉]「(……悠心が傷つかないなら、あなたたちの身体なんて、わたしの身体なんて、どうなってしまってもいいから)」


[友人3]「だって?」


[絃葉]「なんでもない。早く行こう?」


[友人4]「おう笑」


~~~~~~


[先生]「雫石さん、ちょっといいですか?」


[命]「はい。何でしょうか、マキハラ先生」


[マキハラ]「あなたのクラスに提出物を滞納してる子がいましてね。私が言っても何処吹く風だから、歳の近いあなたから言ってほしいんです。あなたは丁度、学級委員長ですし」


[命]「分かりました。えぇと、お名前をうかがってもいいですか?」


[マキハラ]「カガワサナさんです。彼女は出席率も芳しくない。単位を落とすことになれば、苦しむのは彼女です。私に威厳があればよかったんですが……」


[命]「いえ、マキハラ先生のせいではないと思いますよ。私から言っておきますね」


[マキハラ]「ありがとうございます」


[絃葉]「あっ」


[命]「絃葉ちゃん」


[マキハラ]「雨田さん。そうだ、雨田さんはカガワさんと仲が良かったですね。重ねて伝えてもらいましょうか」


[絃葉]「……えぇと、何の話でしょうか」


[マキハラ]「カガワサナさんの提出物と成績についてです。今しがたクラスが同じ雫石さんに伝えましたが、仲のいいあなたからも言ってもらえればと」


[絃葉]「……分かりました」


[マキハラ]「雨田さん、声に張りがありませんね。悩みがあるなら相談してくださいね。では、私はこれで」


《マキハラ先生が職員室に入っていく》


[絃葉]「……マキハラ先生ってさ、わたしによく話しかけてくるけど、いつも前屈みで、わたしの顔を見てくれないんだよね。どういうつもりなんだろう。顔が目当てなら顔を見てくれたらいいのに……あっ」


[命]「顔……?」


[絃葉]「ごめん、変なこと言っちゃった。忘れて?」


[命]「……あの、これは前にも言ったと思うけど、うちのおばあちゃんは書道教室を開いてるんだ。それで、マキハラ先生は昔からそこに通ってて。……マキハラ先生、お孫さんを亡くしてるんだって」


[絃葉]「…………」


[命]「背が高くて綺麗な子だったらしいの。多分マキハラ先生、絃葉ちゃんを見るとお孫さんのことを思い出してしまうから、涙を堪えるために俯いて絃葉ちゃんと話してるんだと思う。話の終わりになると、いつも声が上擦っているでしょ。……悩みを聞いてあげられなかったことを悔やんでるって、言ってたの」


[絃葉]「っ! ……そう、なんだ」


[命]「一応、先生には秘密にしてね」


[絃葉]「そっか。……本当にわたし、ばかだなあ。結局わたしも上辺だけを見て評価してるんじゃん。上っ面や噂だけを飲み込んで、勝手に人を決めつけて」


[命]「……絃葉ちゃん?」


[絃葉]「ごめん、ごめんね、マキハラ先生……わたし、わたし……」


[命]「大丈夫?」


[絃葉]「……大丈夫」


[命]「……には見えないよ。一旦保健室行こう?」


~~~~~~


[養護教諭]「もうすぐ放課後ですし、落ち着いたらもう帰りなさい。えぇと、雨田さんは雫石さんと下校ルートは……」


[命]「近いです」


[養護教諭]「なら任せたわ。ごめんなさい、私は会議があって席を外すから、部屋を出る時は戸締りをお願いね。あと、隣にもう1人寝てるから、あんまり大きな声は出さないように」


[絃葉・命]「はい」


[命]「……絃葉ちゃん。もしよかったら、悩みを聞かせてもらってもいいかな。最近の絃葉ちゃんは、すごく危なっかしく見えるの」


[絃葉]「……小学校の頃が懐かしいなあ」


[命]「小学校……」


[絃葉]「ほら、私と命ちゃんと、悠心と、小霧と、やっちゃん。5人でいつも遊んでたでしょ」


[命]「うん」


[絃葉]「あの頃、悩みなんてなかったなあって」


[命]「そうかも。考えなきゃいけないことって、明日の宿題と体操着の有無くらいだったよね」


[絃葉]「何も考えてなかったの。それがただ恋しくて」


[命]「……絃葉ちゃん。私、頼りないかな。私は絃葉ちゃんのことを、大切な友達だと思ってる。考えてる絃葉ちゃんだって、考えていなかった絃葉ちゃんだって、ずっと変わらない大切な友達。抱えてるものが重たくて大きいなら、少しだけでも肩を貸したい。私は、ずっとそう思ってるの」


[絃葉]「……命ちゃん」


[???]「ちなみに、私もそう思ってるぜ?」


[絃葉・命]「!?」


[八葵]「やっほー、お久」


[絃葉]「やっちゃん!? なんでここに!?」


[命]「ここの生徒じゃないのに……」


[八葵]「いやあ、さっき校門前で車に轢かれかけてね。完全に腰が抜けちゃって、1人で歩けるようになるまで寝かせてもらってるのさ!」


[絃葉]「何やってるの……」


[命]「無事でよかった……」


[八葵]「で、ずいぶん浮かない顔してるじゃん。命はともかく、私の記憶の中にいる絃葉はもうちょっと朗らかに笑ってたと思うけど?」


[絃葉]「……ねぇ」


[八葵]「なんだい?」


[絃葉]「これ聞いて、笑わない?」


[八葵]「約束する」

[命]「絶対に言わないよ」


[絃葉]「……どれから話そうかな。どれなら話せるかな」


[八葵]「どれからでも。幸い、鍵さえ閉めればここは密室だ。私たち以外に耳は付いてないよ」


[絃葉]「……鍵閉めてくる」


[命]「やっちゃん、カーテン全部開けてもいい?」


[八葵]「おうとも。あ、絃葉。さっきのアンサーだけど、1人だけ笑う人いたわ」


[絃葉]「えっ」


[八葵]「私の膝」


[八葵の膝]「Scary……」


[絃葉]「……やっちゃんには話さないからね」


[八葵]「ごめん茶化して! ちゃんと聞くから!」


[命]「あはは……」




──────




【ひとこと】

なんかどこにでもいるな、八葵。


絃命葵の3人だけで話す機会って、そういえばなかなか珍しい気がするんですよね。人生という長いスパンで見ても珍しいんじゃないでしょうか。

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