それぞれの 中学時代の お話です⑤

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パート5です。中学時代の悠心の傍には大体なずみちゃんがいるよ。


秋月あきづき 悠心ゆうみ】本当は他者に寄り添いたい。けれども、環境はそれを許してくれなかった。

雫石しずくいし めい】必ず他者に寄り添う。仮に、環境がそれを許してくれなくても。


【なずみ】悠心のクラスメイト・友達。




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[悠心]「……結局20ページぶんも頭に入ってないな。文字に焦点を合わせてただけだし、まあ仕方ないか」


[なずみ]「お、秋月いよいよ読み終わったん? 図書室に返しにいく感じ〜?」


[悠心]「おまえも一緒に行くか? 私は新しいの借りる」


[なずみ]「……本当に読み終わったん?」


[悠心]「……お見通しだな」


[なずみ]「いや流石にね〜。あんなんただのながら読みだし〜」


[悠心]「……悪かった。ちゃんと読み終えてから返すよ」


[なずみ]「いやどうせ一生読み終わらんくない?笑」


[悠心]「なんだと」


[???]「やあやあおふたりさん。今日も姦しいですね」


[悠心]「……は、は? 八葵? なんでここに……てかなんで制服あんだよ、おまえ違う学校だろうが」


[なずみ]「? 誰〜?」


[八葵]「制服はさぎから借りました。今日あの子は、お皿を割り続けるアクティビティに参加中です」


[悠心]「なんだそれ……」


[なずみ]「え、秋月。この子本当に誰〜?」


[悠心]「ああ。私の小学校時代の友達。中学は別のところに通っているんだが……」


[八葵]「5組の朧谷さんから制服を借りました、井雲八葵と申しまーす。で、名札はもちろん朧谷〜」


[なずみ]「朧谷……あ、あの浮いてる子か〜」


[八葵]「……浮いてるって、どんな感じだい?」


[なずみ]「あたしはクラス違うからそんなに印象ないけど、協調性を重んじてる人が多い5組じゃ、ちょっと我を通しすぎて嫌われた気味っぽいね〜」


[八葵]「なるほどなるほど。じゃあ一概にさぎが悪いんじゃないってことだね」


[悠心]「まああいつはキャラ濃いし、好き嫌いは分かれるんだろうな。私は嫌いじゃなかった。今どうなってるかはほとんど知らないが」


[八葵]「なんか悠心、小学校からキャラ微妙に変わってない? より淡白というかなんというか……しかもその言い方的に、小霧とほとんど関わってない?」


[悠心]「中1までは結構話してたな。2年に上がるタイミングでクラスが離れて、話さなくなった。そんなことになってるとは露知らず……」


[八葵]「ん、世論を聞きたかったのでこれはこれでOK。久々に悠心の顔も見れたしね、安心安心」


[悠心]「先生に見つかる前に帰れよ。色々と面倒くさそうだし」


[八葵]「任せとけって。隠密には定評のある八葵ちゃんだぜ?」


[悠心]「アホ抜かせ。おまえが隠密をなぞると喧騒に変わるだろうが」


[八葵]「なんか尖ってるなあ、今の悠心」


[悠心]「……なんだよ。顔になんか付いてるか?」


[八葵]「ふふ。きみはこの3年の間に優しさに蓋をしたんだろうけど、でも蓋の閉め方は多分ヘタクソもいいところ」


[悠心]「……何が言いたいんだ」


[八葵]「キミはまだやり直せる。もっとも、別に今が悪いというわけでもなさそうだけど。……誰かが濁流の中で苦しんでいるのなら、必ず手を差し伸べてあげなさい。静穏を求める心がまだあるのならね。きっと、キミなら引き上げてあげられるから。じゃ、私は先生に見つかる前にトンズラします。また会おう!」


[悠心]「……何が言いたかったんだ」


~~~~~~


[悠心]「(トイレ、混んでたな。間に合ってよかった)」


[女子1]「今出てったのって雨田だよね。やっぱり背ぇ高いな〜」


[悠心]「(雨田……絃葉か?)」


[女子2]「マジ? 一発殴ればよかった」


[悠心]「(……は?)」


[女子1]「いやなんでよ笑」


[女子2]「ツラ良いから。アイツマジで何の苦労もしてないんだろうな」


[女子1]「まあ顔の良さでカースト上位にいる感じはするね、自我弱いけど、コミュ力とか気にする以前に見た目良いし」


[悠心]「(…………)」


[女子2]「てかアイツがいるグループってカガワのところでしょ? カガワとか遊んでる雰囲気出しとけばツラ悪くてもカースト上位〜って奴だし、雨田も影響されて援交とかしてるんじゃないの?」


[女子1]「あ、でも分かるかも。あの見た目だったら太客パパイージーコースだろうし、やたらメイク道具揃ってるのも納得かな」


[悠心]「(…………くそ)」


[女子2]「でもアイツ、リップクリームだけは一生安物使ってるらしいよ。“私レベルになるとプチプラでも可愛い♡”って言いたいのかよキモチワル!」


[女子1]「雨田ってよう分からんよね、まあカースト以前にツラ良くて自我弱いってアンバランスだし、嫌いになることはあっても好きになることなんてないかな」


[悠心]「(いい加減に──)」


[???]「いい加減にしてよ!」


[女子2]「は? 誰?」


[悠心]「(命……?)」


[命]「お願いだから……いい加減にして!」


[女子1]「あー、ごめんね、声でかかった?」


[命]「声の大小じゃない! 絃葉ちゃんのこと何も知らないあなたたちが、絃葉ちゃんを馬鹿にしないで!」


[女子2]「アンタは雨田の何なん笑、別に陰で言ってるくらいよくない? アンタに何の権利があんの」


[命]「っ……だけど、いくらなんでも……!」


[女子2]「てか何、雨田ってこんな芋女とも交流あんの? なんか意外だわ、こんな奴とも付き合ってあげてるんだ。計算高いんだねあの売女」


[命]「どうしてそこまで酷いことが言えるの!?」


[女子1]「ちょ、そこら辺にしようよ。人集まってきちゃうし」


[女子2]「顔が良い奴は何しても許されるんだよ! 私はそれが許せないの! 顔が良いってだけでいい得して、許されて、選ばれて! そんな人間も、そんな人間を評価する奴も全員全員死ねばいい!」


[悠心]「じゃあ、お前も死ねよ」


[女子2]「あぁ!? わぶっ、ぼぼぼぼぼぼ……」


[悠心]「ははは、いい様だなあ。結局お前もお前の大嫌いなのと同じ物差しで人を貶めてるじゃねぇか。それが嫌いならその物差しを折ろうと頑張れ、な」


[命]「あ、秋ちゃん……」


[悠心]「……命。どの口が、って思うかもしれない。私は毎朝一緒に登校しようとする絃葉を無視してた。あいつが俯いて悩んでる時も、関わると面倒くさいことになりそうなのが嫌で、避けてた。幼なじみとして、しちゃいけないことを、何回も重ねた。問題の渦中に入って、責任を負うことが嫌だったんだ」


[女子2]「ンだテメェマジで、殺してやぼぼぼぼぼ!」


[悠心]「怒ってくれてありがとう。本当は私がいちばんに声を上げるべきだった。……絃葉の抱えている悩みを、全部聞きたい。聞いた上で、力になれるかは分からないが、私ができることなら、手の届く範疇で協力する。申し訳ないが、場所を整えてくれないか」


[命]「わ、分かったから秋ちゃん、そのホースを顔から離してあげて!」


[女子2]「ぼぼぼぼぼぼぼ!」


[悠心]「ははっ、濁流ってこのことか……?」




──────




【ひとこと】

絃葉が悠心に初めて貰ったプレゼントは、リップクリームです。

ありふれたメーカーの、なんの変哲もないリップクリーム。

でもその思い出がとても温かくて、傍に置いておきたくて、そのメーカーのリップクリームを、中学生の今も、高校生になっても、大人になっても、使い続けているのです。

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