第6話 意外ッ! それは『供述調書』ッ!

 簡素な食事の後は、まだまだ取り調べが待っていた。

 ミュールちゃんが言う。

「アスリー先生。問題のショタのことは、最初から未成年だと知っていたの?」

「いえ、知りませんでした。成人だと思ってました」

「ざっと見は?」

「13歳くらいに見えました」

「じゃあ成人じゃないでしょ!」

「若く見えるタイプかと」


 ミュールは続ける。

「……そのショタとの、最初の性的な接触方法は?」

「私が彼を、こう、抱きしめて。大人になる前に襲っちゃうぞー……と」

「やっぱり未成年だと知ってたんじゃないの!」

「いえ、知らないです! 知らなかったってば!」

 我ながら嘘くさい言動だが、アスリーとしても損になることは言えない。何せこの調書が検察や裁判官に送られる(らしい)のだから。


 そこで補助官の位置にいたアルテナ中尉がミュール准尉に声をかけた。

「ミュール准尉。この先は私がやりましょうか?」

 だがミュール准尉はフルフルと頭を振る。

「大丈夫ですアルテナ中尉、任せてください。望むところですから」

「えぇ……。望んじゃうんだ……」

 アルテナ中尉が少し引いていた。その理由は、ミュールちゃんの次の質問ですぐにわかった。

「ではアスリー先生。そのショタとの性交はどのような体位だったかしら?」

「は!?」

「体位よ、体位。最初はどんなのかとか、途中はとか、フィニッシュはとか」

「ちょっ、ちょっ、こっちのプライベートがダダ漏れじゃない?」

「でもこれ犯罪行為ですし」

 アスリーは(一応は)納得して少し考えたが……それより先にミュールちゃんが声を出した。


「例えば。

正常位

後背位

騎乗位

対面座位

 あたりとか。

 マイナーなのや、108手のウチとかでもいいけど」


「いやショタがマイナーなの知ってるわけないじゃん」

「そうね。やっぱりショタに、おねーさんが教えてあげる系なら騎乗位かしら」

「あ、ほとんどそれ。……ところで後背位って何?」

「バック」

「あぁ。……記録するんだもんね。お役所も大変やね」

「うん。検察や裁判官も見るし」

「(すげーな、検察)」


「これで多少は判例や検察判断に影響する場合もある(かもしれない)からね。正確に記す必要があるのよ」

「へぇ」


「コレ、(最近)どこぞで聞いた話かもしれないけど。この国では昔、幼女の性器は卑猥ではない、と最 高 裁 で判例があったほどだし」

「本当に大丈夫なのかよ裁判所!」

「当時はその手のロリ系のエロ本が、普通の書店で買えた時代があったらしいわ」

「ぅおぅ……」

「あぁ。昔は良かったわねぇ」

 何故か天井を見上げて、涙を流すミュール。

 アスリー先生とアルテナ中尉はぼんやり思っていた。

(コイツ、本当に13歳だよな?)

(この子13歳の未成年のはずなんだけど……)


 そこでアルテナ中尉が、ちょっと頑張った感じで、取調官のミュールに声をかけてきた。既に風格とか年齢とか階級ですらミュールちゃんのほうが上な気もするが。

「あ、あのっ。ミュール准尉?」

「なんでしょう、アルテナ中尉?」

「やっぱり……代わりましょうか? 貴方、まだ13歳の未成年だし。こういう性犯罪の場合は……」

「大丈夫です、アルテナ中尉。私は、ここからが望むところですから」

(えっ、やっぱり望んじゃうの……!?)

(何を望むんだろう、この子)


 ミュールは書類をぽんぽんさせてから、ペンで続きを書き始めた。

「えーっと。ショタとの体位は概ね騎乗位、と。……さて。それでアスリー先生は、何回くらい腰を振ったのかしら?」

「ぇあ!?」

「これは一回しか聞かないから、大丈夫よ。一回しか聞かないから。……でも大事なことなので二回聞くけど」

「えぇ……」

「こういうのも記録するのよ。あと、できれば交尾の時間も」

 アルテナ中尉が小さな声で連呼する。

「性交、性交!」

「失礼しました中尉。アスリー先生は動物的な方なので、つい交尾と表現を」

 ひでーことをサラッと言う軍人(天然系の未成年)である。


 ミュールちゃんは真顔で聞いてくる。

「そういうわけで。アスリー先生は騎乗位で、何回腰を振ったのかしら」

「いや正直あまり覚えてなくて……」

「テキトーでいいわよ」

「え、そうなん!?」

「せいぜい罪が重くなって、アスリー先生の刑務所ライフが長くなるだけだし」

 クスクス笑うミュール。アスリーとアルテナは

(ヤベー、マジやべー)って感じだった。


 ミュールちゃんは言う。

「でも正直な話、この後に検察との面会もあって。そこで『警察にはそう言ったけど事実ではない』と言えば、ある程度は検察でディスカウント……まあまあ普通の回数にしてくれる……かも。なので、ここではそこまで正確じゃなくてもいい……かも」

 アスリーは検察でディスカウントって何だよ、とか思ったが。

「『かも』って何さ、『かも』って」


「んー。実はそこらへんは、警察側でもあまり把握していなくて……」

「でも検察から送られて裁判になると、有罪率99%以上なんでしょ? つまり検察って、コトの起訴・不起訴を決める全知全能の神で、正義の執行役なわけじゃん?」

「いやそこまでは言わないけど」

「それで検察は裁判では弁護士と対立し、裁判官に求刑する……そんな人達が、そこまでディスカウントしてくれるかね」

「アスリー先生は初犯だし合意があるから大丈夫よ、きっと」

「きっとって何さ、きっとって。それに裁判でさ。『推定無罪』って聞いたことがあるんだけど」

「めんどーじゃん?」


 アスリーとミュールの会話で。アルテナだけが(心の中で)突っ込んでいた。

(裁判になったら有罪率99%とか言わないで! どこぞの、極東の島国じゃないんだから!)


 ミュールちゃんはコホンと咳払いをして……

「で、アスリー先生。先生が腰を振った回数は?」

「うーん。本当に覚えてないんだよなぁ」

「100回くらいとか?」

「流石に、ショタにそれは厳しいんじゃ」

「じゃあ1回とか2回くらい」

「いやそれはそれでちょっと可哀想……」

「あら。経験が浅いと雰囲気に酔っちゃう事はあるでしょう?」

(……コイツ本当に13歳だよな?)

 アルテナ中尉も、(年上の上司なのに)泣きそうな顔でミュール准尉を見ている。


 ミュールは頬を掻いてから……、

「じゃ。1回でも100回でもないなら、まあ50回ぐらいね」

 と、いとも簡単にテキトーな数にした。

(この子、なんか簡単に調書を作ってない?)とかアスリーは思ったが、まあその回数も大外れとまでは行かないので黙っていることにした。検察もディスカウントする(「常識的な数で考えてくれる……はず」)とも言われたし。

 どこまで本当かは知らないけども。


 ミュールちゃんは書類に色々書き込んでから……

「ふぅ。それじゃあアスリー先生。交尾の時間は?」

 アルテナ中尉が『性交!』と軽く叫んでいたが、ミュールちゃんには運悪く(?)聞こえないようだった。

「んー。でもさミュールちゃん。時間もあまり覚えてなくて……コレ本当だよ? だって夢中だったし」

「一時間くらい?」

「いやそんなに長くは……」

「一分くらい?」

「流石にそれじゃ何もできないっしょ!?」

「じゃあ真ん中取って30分くらいでいいわね」


 今、この子。


 確実に。


 『真ん中取って』って言った……。




#冤罪とか、警察の適当な調書はこんな感じで作成されるのかも。

・知らんけど。



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