【前世編】帝王アシュラスとの戦い

第14話 宇宙の災厄アシュラス

――地球とは別の星、姜王国の物語――



「ウェン隊長! 王都が陥落しました……!」


「なんだって?! パイリー部隊はどうした?!」


「パイリー様は死亡が確認され、隊は全滅です。今、アシュラス大帝国と姜王国の戦争終結の交渉が始まっています」


なんてことだ。

この広い宇宙でも有数の歴史ある姜王国が、たった1週間で侵略を許してしまった。



宇宙の災厄アシュラス

降りたった地を必ず滅ぼす、正体不明の帝王。

様々な国、星を武力で支配し、宇宙大帝国を築き上げている。


今回は全てが謎多き侵略だった。

突然、侵略宣言がなされ、部隊としては実績のないパイリー部隊が王都防衛に当たった。

パイリーは姜王の次男だが、口先だけの男なのは周知の事実だ。

そんな奴が、王都防衛なんて…。


一方、姜王国で一番強いと自負のある我が部隊は、こんな何もない岩の平地が当てられた。

暗雲が垂れ込め、乾いた風が吹き荒ぶ。

眼下に姜王国の街並みが見えている。

一時銃声が響いたが、侵略戦争にしては大人しすぎる。


この場所からアシュラス軍が攻めてくるという理由であてがわれたが、なんの地理的魔力も感じられないここに宇宙航路ができるとは思わなかった。



「王都に向かう! 真実をこの目で確かめなければ……!」


ウェンが自分の部隊20名に向かってそう命令したとき、突然、目の前に雷が落ちた。

馬が驚いていななく。



「王都に行く必要はない。俺の方から出向いてやったからな」


煙が晴れると、そこに宇宙の災厄アシュラスがいた。


「アシュラス?!なぜここに!!」


全員が刀を抜き、アシュラスを囲むように取り囲んで戦闘態勢になった。

馬はアシュラスの禍々しいオーラを受けて、逃げ出そうと暴れている。



「お前が姜王国伝説の勇将リィ・フェイオンの息子、リィ・ウェンか。思ったより若いな」


「だから何だというんだ。俺たちの目の前に来た限り、お前は討たれる。覚悟しろ!」


「はは。まあ、そう急ぐな。武闘の神シャクダイの国、姜王国は素晴らしい歴史と文化を持つ。それを無茶苦茶にしてしまうほど俺は無粋じゃない。俺はお前と交渉しに来たのだ」


アシュラスから闘気は感じられないが、ただそこにいるだけでも威圧感がすごい。

無駄に動けば一瞬で殺される。

そんな緊張感があった。


「俺は、この国一番の強さを誇るお前たちに興味がある。できれば無傷で俺のものにしたい。大人しく俺の直属になれ。そういう交渉だ」


「馬鹿なことを! 俺たちはシャクダイの正義を貫き、姜王に仕えることを誓った剣士だ! お前のような野蛮な王など認めない!」


「ふん。可愛いことを言うねぇ。では、これならどうだ」


アシュラスは闘気を解放した。



皮膚がビリビリとし、圧で息ができない。

圧倒的な強さ。

これまでの侵略の中には、ほぼアシュラス1人の力で行ったものも多い。

この目の前の男は、国一つ滅ぼせる力があるのだ。



「なあ、ウェン、どうして王都防衛はパイリーだったのだ?」


「…………」


「これまで命をかけて戦ってきたのに、姜王から信頼されてないじゃないか。」


そう思っている隊員も少なからずいる。


「お前の父の、姜王国史上最悪の失態のせいではないかね?」


「うるさい! 父は関係ない!」


ウェンは妖刀、鬼切丸を振りかざし、アシュラスに向かって剣撃を放った。


アシュラスは微動だにせず、自身の周囲に纏わせた魔力で剣撃をそよ風のようにかき消した。



「よく、考えろウェン。お前はよくても、隊員が可哀想だろ。姜王から俺に乗り換えろ。悪いようにはしない」


たしかに、最近まで戦争が絶えなかった姜王国を守ってきた部隊の功績の割に、待遇は合わなかった。

ウェンが父フェイオンから隊を引き継いだ後、隊への扱いに不満を持った隊員が数名移籍した。



「で、どうする?俺は気が短いんだ、これでも結構待ってるんだよ。早く返事をくれ。」


―神速雷撃―


ウェンは一瞬で間合いをつめ、アシュラスに切り掛かった。

雷のようなエネルギーを纏った斬撃とアシュラスのプロテクト魔法がぶつかり合い、凄まじい衝撃があたりに放出される。


周りを取り囲んでいた隊員も、吹き飛ばされないように踏ん張っている。


だが、ウェンの鬼切丸が衝撃に耐えられず、折れた。


―ブラッディハンド―


アシュラスは自分の中指をナイフで切り、血を出すと、血が手の形になり、ウェンの首に飛びかかって締め始めた。


「ぐ…っ!」


「不意打ちを狙うとは酷いね。まあ、大人しく従うとは思ってないよ。その気になるようにしてあげよう」


―溶解のウロボロス―


アシュラスの腕から二十匹の小さな蛇が現れ、隊員に飛びかかる。

剣で振り払ってもかわされ、隊員のプロテクト魔法もすり抜ける。

腕や足を噛まれ、そこから蛇は体内に潜り込んできた。


「うわぁ!」「くそっ!」隊員の悲鳴が聞こえる。


「あと1分で、ウロボロスは隊長の体を溶かす。さあ、決断しろ。お前のプライドをとるか、部下の命をとるか」


20名の隊員とは、家族のように何でも知る中だ。

みな、父フェイオンを尊敬していた。

姜王と父が、親しくしているところも思い出される。

民想いの姜王。

強くて優しい父。

姜王国のために、命を懸けて戦っても惜しくなかった。


あの頃は良かった……。

あの頃に戻りたい……。



「わかった……。お前の言う通りにする…。部下を、助けてくれ……」


ふっ……と、アシュラスは笑って、ウェンを掴んでいたブラッディハンドを解いた。



「では、血の契約をしよう。そこに跪け。」


ウェンは大人しく跪いた。

アシュラスは今度は右手の親指をナイフで切った。

左手をウェンの額に当て、詠唱を始める。



「………………さあ、俺の可愛いナイトよ。この親指を咥えて、血を舐めろ。身も心も俺に捧げるのだ」


アシュラスはウェンの顎を持ち上げ、唇に親指を押し当てた。

ウェンは静かに口を開き、指を咥えると歯で指を押さえながら血を舐めた。


「はは。食いちぎられそうだな。まあ、いい。簡単に手に入れるのもつまらん」



儀式が終わると、アシュラスは闘気をおさめた。

隊員たちへの攻撃は止んだようだが、ダメージは大きく、全員倒れて立ち上がれない。



「じゃあ、これからよろしく」


アシュラスは、あっさりとそう言った。

再び雷が落ち、アシュラスは姿を消した。


ウェンは唇に残ったアシュラスの血を拭った。

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