第15話 ラムズとの出会い

アシュラス大帝国からの侵略戦争はあっけなく終わった。

姜王国の政治は大帝国との協議が必要なこと、地域と軍部の一部譲渡などの取り決めが行われた。

軍部の一部譲渡というのは、ウェンの部隊のことだ。



ある日、ウェンは大帝国の帝都に呼び出された。

アシュラス帝王の座る玉座の前に跪いて、挨拶をする。


「大帝国軍第一部隊、隊長リィ・ウェン、参上いたしました」


「ああ、ご苦労さん。最近どう?」


アシュラスは足を組んでよそ見をしながら聞いてきた。


「どうと言われましても…」


「噂によると、ウェン部隊は『敗戦の責があるくせに敵国に寝返った』とか言われてるらしいじゃん。かわいそうに。何もしらない民衆って残酷だよね」


アシュラスはウェンを見下ろし、ニヤニヤしながら言ってくる。

噂は本当で、酔っぱらいにからまれた隊員が、そう暴言を吐かれた。


「事実ですので。多くの戦士が死に、深い傷を負っている中、我々は恥ずかしくも生き延びました。祖国を犠牲にして、かわいい我が身を優先したと言われてもおかしくありません」


「あ、そう。そういうのを、賢明と言うのだけどね」


嫌味が通じなかった。

アシュラスとは根本から価値観が違うようだ。


「本題なんだけどさ、お前にあげたいものが二つある。一つはこいつ。俺の息子、ドレイクだ」


アシュラスの横に立っていた、壮年でオールバックの身なりのよい男が礼をする。


「お前んとこのナンバー1か2くらいで使ってほしい。大帝国との窓口だ。腕っぷしはイマイチだが、魔法解析と兵器運用が得意だ。姜王国の田舎臭いやり方じゃ先細りだからな。ドレイクを通じて最新に触れてくれ」


イラつく言い方だ。


「ウェン様、よろしくお願いいたします。」


ドレイクは深々と礼をした。

ドレイクは父親と違って礼儀正しいようだ。


「ドレイクは俺のことが大嫌いだから。お前とうまくやれると思うよ。ドレイクの母方の伯父が謀反を企てたから、関係者は全員公開処刑にして、少しでも協力した奴は財産没収で根絶やしにしたんだ。もちろん母親も殺したよ。そういうわけで、こいつは今なんの頼りもないんだ。面倒見てやってよ」


腐っても父親じゃないのか……。

胸糞悪かったが、言い争いをしている場合じゃない。


「で、次なんだけど。ドレイク、呼んできて」


ドレイクは1人の少年を連れて来た。


なんと、その少年はアシュラスに顔がそっくりだった。

黒髪に整った顔。

透き通るように白い肌。

青い目。

だが、生気を感じず、美しい人形のようだった。


「こっちも俺の息子、ラムズ。激似だろ。あまりに似てて気持ち悪いから、手放したいんだ。もらってくれ」


理由の意味がわからない。


「俺は政略のためにガキを増やしてんだけど、俺のような強い奴は今のところ生まれてない。逆に、俺の子だとわかると、逆恨みにリンチに遭って殺されたりするんだよ。かわいそうだよな」


まるで他人事だ。


「ましてこいつは珍しく顔がそっくりなんだ。俺だということで拷問動画とか出されても困るから、お近づきの印にとりあえずお前にあげるよ」


何を言ってるんだ、コイツは。

話についていけない。


「あとね、こいつ、しゃべれないんだ」


「しゃべれない?」


「今まで、誰とも一度も口をきいてないんだ。戦闘能力もさしてないし、本当、ゴミだよ」


「自分の息子に、よくそんな酷いことが言えますね……」


さすがに腹が立った。


「ゴミは言い過ぎか。俺への腹いせに殺してもよし。欲望の吐け口に犯してもよし。狂気の発露に壊してもいい。動画さえとらなければ。使い道があったから、ゴミは撤回するよ」


アシュラスはハハハと笑った。

全く話が噛み合わない。


「もういいです。お預かりします」


「預けるんじゃないよ。あげるんだよ」


「……ちょうだいいたします。」


この狂った男を見ているとムカムカしてくる。

早くこの場を去りたかった。


♢♢♢


ドレイクは後ほど姜王国に転居することになり、ラムズはその日のうちに連れて帰るよう指示された。


アシュラスの城を出て、王都の街を歩く。

ラムズの背丈はウェンの腰の高さくらいだ。

人混みを抜けることになり、ウェンはラムズの手を握った。

か細い指だった。


「怖い思いはさせない。そこは安心して」


ウェンが声をかけると、ラムズはウェンの顔を見上げてうなずいた。

澄んだ青い瞳。

あんな化け物の息子とは思えない。


この子をちゃんと育てよう。

顔は同じでも、あいつと同じ運命は辿らせない。


ウェンはそう決意した。

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