第12話 緊急出動

ロキは保護室で手当を受けていた。

いつもは保健の先生がいるのだが、今日はなぜかカミュ理事が手当をしてくれた。

カミュ理事は美しい女性だが、どこか儚げだ。



学園の運営は、学園長と理事のカミュ、ラムズの3人が行っている。

学園長は今まで一度も公に姿を見せず、表の仕事はカミュ理事が、武力関係の仕事はラムズが行っていた。

学園長が姿を見せないのは、ドゥルゴリー一族の重要人物として暗殺の可能性があるから、という噂があった。


ドゥルゴリー一族は、世界一の財閥だ。

特に学園長とカミュ理事は、ドゥルゴリー一族の歴代の中でもトップの才能と権力をもつらしい。


2人は、この学園や特殊警備隊の他に、宇宙都市と地下都市の開発、兵器の開発と製造、魔法技術の学問分野も立ち上げたのだ。



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「粘着ひもで擦れたところはもう大丈夫よ。あとはパラサイトバットの研究が進めば、早く男に戻る薬もできるかもしれないわ。」


カミュが優しく微笑む。



「ありがとうございます…。」


カミュ理事は、学園内で見かけることはたまにあるが、個人的に話す機会はない。



「どうして今日はカミュ理事が手当をしてくださったのですか?」


「ラムズから、あなたが本格的に異能開発をすると報告をうけて、激励したかったのよ。」


カミュ理事公認の訓練になったのだ。

身が引き締まる思いだ。



「がんばってね、期待しているわ。」


「はい!がんばります!」



せっかくのカミュ理事と話せる機会だ。

もう少し話していたい。


「あ、あの…。こんなことをカミュ理事に聞くことではないかと思うのですが、その…ラムズ理事の、普通の人はやらない訓練というのは、どんなものなのですか…?」


「ラムズとはキスをしたの?」


単刀直入過ぎて、聞いておきながらビックリした。



「は…はい。エネルギーをもらうために…。」


「ラムズのエネルギーは特殊だから、強くなれるわよ。だから、ラムズだって誰彼に訓練を提案したりしないわ。貴方の、戦う動機を信頼したのね。」


戦う動機…


大切な人を守りたい。

悲しむ人を増やしたくない。


きっと、ラムズ理事も、そんな思いで戦ってきたんだろう。



「エネルギーを増やし、その使い方を訓練していくのよ。もともとある技を習得することもあるし、自分だけの技や魔法を開発することもあるわ。あとは、ラムズはよく手合わせをしていたわね。彼は、感情で強さが変わったから。」


「え?ラムズ理事が感情で?いつもクールに見えるんですけど…。」


「人間はね、単純じゃないのよ。」


カミュは優しく微笑んだ。




その時、ノックの音が聞こえて、ラムズが入ってきた。


「パラサイトバットの討伐が無事に終わったと聞きました。みんな、ケガもなくて良かったです。」


「見事なチームワークだったみたいよ。」


「それは良かった。ロキも大丈夫なんだよね?」


「はい!全然大丈夫です!」


つい声が大きくなる。



「よくがんばったね。」


ラムズは、ほほえみながらロキの頭をなでた。

カミュ理事の前でもやるんだ…。

恥ずかしいのは自分だけらしい。



「ラムズ、今回のパラサイトバットはフレムに擬態をして、ロキを襲ったそうよ。」


「そうなんですね。初めて聞きました。」


ラムズは驚いた顔をした。



「なんか、花嫁の好きな人に化けるみたいです。」


ロキは説明を補足した。


「…それって、ロキはフレムのことが好きってこと?」


一瞬、ラムズの顔が曇った。



「え?いや、それはパラサイトバットが勘違いしたみたいで。フレムは友達ですから。」


「ああ、それなら…。」


ラムズがまたいつもの雰囲気に戻った。



「ロキ。不用意なことを言ってラムズを怒らせないでね。学園が消し飛ぶわ。気をつけて。」


「え?あ、はい。」



なんで怒るんだろう。

もしかして、討伐中に関わらず、フレムが僕に告白するとか、不謹慎なことを考えていたからだろうか。



「たしかに、フレムから告白はされましたけど、ちゃんとお互い友達だって確認しましたんで!」



ラムズは今まで見たことがないくらい冷たい目をした。


「わかった。私からも確認しておくよ。」


「ロキ。今のような発言を不用意というのよ。次に会う時、フレムが無事だといいわね。」


討伐は無事に済んだのに、二人は何を心配しているんだろう?と、ロキは思った。




「手当は終わったから、これからどうするから2人で決めて構わないわ。それじゃ、ロキ。またね。」


そう言ってカミュは去って行った。




「今日は無理せず、帰ってもいいよ。私も今から休みをとることができるから。」


「討伐が終わっても、やっぱり護衛は必要なんですね?」


わざわざ休みまで取ってもらうなんて、申し訳ない。



「フレムのように、ロキを好きになる人がいるかもしれないからね。」


そうだった。

催淫効果は男に戻らない限り持続するのだ。



「すみません、1週間もラムズ理事の時間を取ってしまって…。」


「ああ、その話だけど…。特訓は、互いに生活を共にする必要があるんだ。だから、異能が開発されるまでは一緒に住み続けたいと思ってるよ。」


「え!そうなんですか…?」


「…何か、不満?」


不満そうなのは、ラムズの方だ。



「いえ!そうじゃなくて…ラムズ理事に迷惑かけまくってるな…って…思ってしまって…。」


自分は簡単に訓練を受けると言ってしまったが、ラムズ理事は想像以上に大変そうだ。



「迷惑なんかじゃないよ。私は…なぜかロキを家族のように感じるんだ。まるで、昔から親しかったような…。」


ロキは洞窟での声のことを思い出した。


「あ、あの。洞窟でちょっと不思議なことがあったんです。実はあの時…。」


と、ロキが話そうとしたときだった。



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『緊急事態発生。緊急事態発生。S級スフィア型クリーチャー3体が出現。場所は、SのD区。SのJ区。TのI区。』


常に身につけている警報器が鳴る。


「S級が、3体⁈」


信じられなかった。



今までの出現はD級レベルばかりで、C級はせいぜい昔からの魔物に限られていた。

A級ですら、ロキの両親が亡くなったあの事件以来記録はない。

しかも出現場所は、今まで山中か郊外だったのに、今回は全て都会の街中だ。



学園の生徒は、緊急事態時には特殊警備隊の援護に行く。


ラムズには個別に連絡が入った。



「ロキ、私は特殊警備隊の到着が一番遅れるSのD区に行く。学園の教員も総出になるが、教員のトップレベルはA級で、しかも人数は少ない。S級と単独で戦えるのは私だけだ。今回の討伐は厳しい戦いになるだろう。」



S級なんて、資料の世界だ。

特殊警備隊の人たちだって、もしかしたら実戦は初めてなんじゃないだろうか。



「ロキは私の直属扱いだ。一緒に来てくれるね?」


「はい!」



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ラムズのバイクに二人乗りをし、現場に急行する。


自分の戦闘力は普段よりかなり下回っているはずなのに、前のような不安はなかった。

自分の中に、昨日もらったラムズのエネルギーを感じた。

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