第11話 パラサイトバットの襲来

「魔物の気配がする!」


フレムに向かってそう叫び、ロキは倉庫から飛び出そうとした。


すると、片腕を強い力で捕まれ、後ろに体ごと引っ張られた。

床に倒され、気づくとこの一瞬で自分の両手が床に固定されていた。


パラサイトバットの粘着ひもだ。


さらに口にも粘着ひもがテープのように巻きついてきて、声が出せない。




『せめて君の好きな人の姿で…と思ったが、コイツは違ったようだね。』


(パラサイトバットがフレムに擬態していたんだ!)

これまでの資料には、パラサイトバットがそんな高度なことをするとは書いていなかった。


拘束を解こうと暴れるが、びくともしない。



『じゃあ、こっちの男かな?』


パラサイトバットは、その姿をフレムからラムズに変えた。

パラサイトバットは、ラムズと同じ声で言った。


『さあ、私の花嫁。約束通り、迎えにきたよ。』



偽ラムズは近づいてきて、ロキのブラウスを破き、胸が露わになる。

スカートの中に手が入り、太ももに冷たい手の感触がした。



(もうダメだ…!)


そう思ったとき、銃声が聞こえた。

3発だ。


偽ラムズのこめかみから血が流れた。



「よくも俺になりすましてくれたな!」


フレムが勢いよく倉庫に入ってきた。

レーザーガンを撃ったのはフレムだった。



「ロキ!怖い思いをさせてすみません。護衛を緩くして、奴を誘い出す作戦だったんです。」


リュウレイがロキに駆け寄り、溶解液をかけ始めた。



「今度はラムズ理事の姿になってるし!余計腹立つ!」


フレムは怒り任せに偽ラムズの顔を殴った。

パラサイトバットは気絶して、擬態が解けた。



「フレム!それ以上はダメ!生捕りにするのよ!気持ちは色んな意味でわかるけど!」


ターニャ先生も一緒だ。

フレムは手際よくパラサイトバットを拘束した。



「これでパラサイトバットの討伐は終わりね。ロキ、フレム、リュウレイ、よく頑張ったわ。」


3人とも安堵の表情を浮かべた。


「まあ、今やパラサイトバットどころじゃないけど。ロキ…頑張ってね。まずは今回は本当にお疲れ様。」


ターニャ先生はパラサイトバットを研究所に連れて行くために行ってしまった。

ターニャ先生のあの意味深なセリフは何なんだろう?




「2人とも、本当にありがとう。作戦とは言え…ちょっと怖かったよ。」


ホッとしたら、なんだか笑えてきた。


「本当にすみません。我々も、まさか擬態までするとは想定していませんでした。」


リュウレイは申し訳なさそうな顔をしている。



「あのさ…。」


フレムが口を開いた。


「さっきの偽フレムの告白なんだけど…。ロキの返事は、ちゃんと本当の気持ちなんだよね…?」


「え?うん、そうだね。僕は、あれが偽者だって気づいてなかったから、本当のフレムだと思って話してたよ。」



リュウレイが急に笑い始めた。


「フレムは、あの偽者の告白通り、ロキのことが好きになったんです。それで、今日告白するつもりだったんですよ。俺は、やめた方がいいって止めたんですけど。多分、パラサイトバットは、俺たちの会話を盗み聞いていて、そのまま擬態の演技に利用したんでしょうね。」


リュウレイは笑いが止まらない。



「笑いすぎだぞリュウレイ!」


フレムは顔を真っ赤にしている。


「だって…自分で告白してないのに振られるなんて…かわいそうだなと思って…!」


リュウレイのツボにハマったらしく、涙目で笑っている。



「あああとさ!さっき、みんなで見ちゃったんだけど…。もう、ラムズ理事とは付き合うことにしたの…?」


「え…付き合う?」


付き合って…はいない。

けど、見ちゃったってことは、あのキスを?

言われて気づいたけど、たしかに付き合ってないけど、キスしてる。



「あれは…訓練の一環で…。」


「そんな訓練ある?」


フレムの言う通りだ。



「ロキ、大丈夫なの!?だまされてない?」


キスのあと、ちゃんと真眼の力が上がったことを思い出した。



「いや!ちゃんと、意味があるんだよ!そんな不純な動機じゃないから!」


そう、強くなる目的のためだ。



「ロキは…ちゃんとラムズ理事のことが、好きなの?好きなら、いいんだよ。ただ、雰囲気にのまれてるなら、それはダメだと思う。」


フレムに真顔で言われて、考え込んでしまった。



この曖昧な気持ちにはなぜか覚えがあった。


きっと好きだし、なんなら愛している。

でも、なんでもう愛しているんだろう?

この感情がどこから来るかがわからない。


そういえば、洞窟にいたとき、知らない人の声で、ラムズを助けるように言われた。

何か関係してるんだろうか。



「キスは、本当に訓練上必要なんだ。それはちゃんとわかってるから、信じてほしい。」


「……わかったよ。ロキがそう言うなら、そうなんだろう。」


そう言って、フレムは倉庫を出た。



「ロキ、フレムは本当にロキを心配してるんです。ラムズ理事のことも、ちゃんと尊敬してる。でも、やっぱり好きな人が急に取られた気がして、ショックなんですよ。ロキが本当に幸せなら、相手はラムズ理事でもいいんです。要は、ロキが自分をしっかり持っているかなんです。」


リュウレイも心配そうにロキに話しかけた。



「そうだよね…。でも、本当に訓練なんだ。信じがたいけど。僕もラムズ理事も、強くなるために本気でがんばることにしたんだよ!そうは見えないけど…ね。」


「…わかりました。私もフレムも、ロキを応援しています。フレムは少し立ち直るのに時間がかかるかもしれませんが、許してくださいね。」


「二人とも、ありがとう。僕もがんばるよ。」


いいチームメイトに恵まれて良かった。

ロキはそう思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る