第10話 女人化2日目

ベッドに横になり、自分の身に起こったことを思い出す。



ラムズの話を整理すると、

異能は、姜王国スタイルの訓練でどうにかなる。

並行して、ロキのエネルギー量を上げる。

そのためにはラムズからエネルギーをわけてもらう。

その手段がキス。


そう、キスの部分が…なんか、なんかなのだ。



てっきりあの話の後、今日は終わりかと思いきや、カップを片付けていたらキスをされた。


え?もう?そんなに?

と思った。


「エネルギーは一気に与えると体がもたないから、ちょっとずつ小分けにしなきゃいけないんだ。」


と言われ、理屈はわかるけど、寝る前にもキスをされて、今日だけで3回したことがある。


戦士になるって、こういうことなの?



奥手なロキは、女の子と今まで付き合ったことがない。

だからファーストキスだったのだ。

が、このペースではもはやファーストの余韻もない。



嫌かと言われれば、嫌ではなかった。

ラムズ理事のことは尊敬している。

強さも人柄も。

こうやって親身になってくれることにも、感謝している。



うん…!きっと自分が意識しすぎなんだ!

手段がキスなだけで、意味はキスじゃないんだ。

これは、特訓の一環なだけで。

自分が恥ずかしがってたら、ダメだ。

強くなるためなんだ。

その目的を忘れちゃダメだ。


ラムズ理事だって、仕事としてやっているんだよ。

ラムズ理事の身にもならないと。

こんな落ちこぼれに四六時中時間を取られるんだ。

僕と、本当はキスが嫌でも、それしか手段がないんだから、仕方なくやってるんだよきっと。


そう考えたら、冷静になってきた。



ラムズはソファで寝ている。

護衛をしているので、同じ部屋にいなくてはならないからだ。

近くて遠いラムズとの距離。


自分の唇にそっと触れてみる。

唇って、こんなに柔らかいんだな…と初めて知った。



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翌日、二人は昨日と同じように支度をして、車で学校へ向かった。


朝起きてすぐ、朝食前、玄関を出る前、の3回もすでにキスをしている。


今日はパラサイトバットの襲来が予想される日だ。

昨日の晩は、気を引き締めないと!と思っていたが、想像を超えるキスの回数で、もう何も考えられない。


ロキの髪は肩まで伸びていた。

結ぶと小さめのポニーテールになった。




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駐車場に着いた。


「本当は、今日こそずっとそばにいてあげたいんだけど…。」


ずっとそばにいられたら、何回キスすることになるんだろう。


「だ、大丈夫です!みんなもいるので!」


「そうだね。頑張って。」


そう言って、またキスをしてくれる。



研究所へ向かうラムズの車を見送り、校門まで歩いていくと、フレムがいた。



「おはよう。」


フレムはなぜか固い表情で挨拶をしてきた。


「あ、うん。おはよう。」


こちらもちょっと緊張して答える。



「ターニャ先生とリュウレイは?」


「ああ、今日が襲撃の予想日だから、今は準備をしているよ。」


「そうなんだ。僕も気をつけないと…。あ!そうだ!短パン、返すね。ありがと。」


「ああ。」


フレムに短パンを渡した。



「あのさ、ちょっと話があるんだけど、いい?」


フレムがロキを真っ直ぐに見て言った。


「う、うん…。」


いつもと違うフレムの雰囲気に戸惑いながらも、フレムについて行った。

2人は倉庫に移動した。




先に倉庫に入ったフレムが振り返り、ロキと向き合った。


「俺、実はお前のことを好きになっちゃったんだ。付き合ってくれないかな…?」


フレムが真顔で言う。


「それは…僕が今女だからそう思うのであって、男に戻ったら違うんじゃ…。」


「そんなことは、ちゃんと考えたよ!でも、思い返すと、男の時から、ロキのことは…何かほっとけなくて、守ってあげたいと思ってたんだよ。小さいし、優しいし、可愛いし…。それがたまたま女の子になったから、自分のこの気持ちに気づいただけで…。それに…、こんな言い方アレだけど、女の子の時の見た目がすごく自分の好みだったんだ…。」


フレムは顔を赤らめながら言った。



「そうなんだ…。そう思ってくれてたなんて、知らなかったよ…。」


フレムはリーダータイプだ。

戦闘では果敢に攻めるし、話し合いでもどんどん自分の意見を言う。

強くて優しくて、でも戦闘においては野心家だ。

女の子からもモテていたけど、訓練に集中したいと言って彼女は作っていなかった。



フレムの家族は紛争で亡くなったけど、フレムはボロボロになった家族の写真を自室の机に飾っていて、家族の思い出話をよくしてくれた。

フレムは、自分の身近な人をちゃんと幸せにしようとする男だ。

フレムと付き合った女の子は、大切にしてもらえるだろう。



そう考えていると、ふと、ラムズのことが思い出された。

たった1日2日しか過ごしていないけど、一緒に買い物に行ったりごはんを食べたり話をして、楽しかった。

不思議と、ラムズとは家族のような感覚があるのだ。


自分は…もうラムズ理事のことが、好きなんじゃないだろうか、と思った。



「フレム…気持ちは嬉しいよ。フレムは、いい奴だし、強くなるためにストイックで僕は尊敬してるんだ。でも、やっぱり友達がいいな。友達として、これからも付き合ってくれたら嬉しいんだけど…。」


フレムの表情を見た。

少し、悲しそうな顔をしているような気がした。


その時だった。

魔物の気配を感じた。

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