第2話 パラサイトバットの討伐

翌日、ロキ、フレム、リュウレイのチームメイト3人と、引率のターニャ先生、同行のラムズ理事は校舎の玄関前にいた。



ターニャはリュウレイの担任だ。

A級魔導士で、いつもは露出の高い服を着ているが、今日は山中や洞窟に入るため、みんなと同じ戦闘服を着ている。



「さて、今日は『パラサイトバット』の討伐と被害者の救出が任務よ。予習済みでしょうけど確認ね。リュウレイ、説明よろしく。」


「はい。パラサイトバットは見た目がコウモリのような体調1メートル程度のC級の魔物です。発情期に入ると人間の女性を捉えて自分の子どもを産ませようとします。人間の体と社会に寄生して遺伝子を残そうとするので、パラサイトバットと呼ばれています。」


さらにリュウレイは続けた。



「複数人いる場合は、遺伝子レベルで一番優れた個体を選び、それが男性だった場合は、性転換の魔術『コンバート』により女性に変えます。妊娠した場合、二日ほどで出産にいたり、男性に戻るのに約一週間かかります。」


リュウレイの説明に、ターニャは満足気にうなずいて言った。


「ちゃんと頭に入ってるわね。今回の被害者は元軍人の男性。山に入って二日間戻らないわ。昔からパラサイトバットの巣があると言われていたところだから、奴の仕業と疑って依頼が来たわけ。早速行きましょうか。理事からは何かありますか?」



今日のラムズは戦闘服だった。

いつも法衣か黒のスーツなので、新鮮だ。


「私は単なる付き添いなので、構わずみなさんでがんばってください。」




ラムズが現場に出ることなど滅多にない。

フレムとリュウレイは、これを機会に名前を覚えてもらいたいと気合いが入っている。


かたや、ロキはラムズがいるプレッシャーからただただ落ち着かなかった。


特訓を受けても何の進歩もない。

フレムのように自分から手合わせを願い出るような度胸もなく、ラムズの手を煩わせている。

ロキは自分が情けなかった。



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目撃情報からパラサイトバットの巣の場所を割り出して、洞窟に辿り着いた。


リュウレイが探知魔法を洞窟内に使う。


「中から魔物の気配がしますね。」


アタリのようだ。




慎重に奥に進むと、広い空間に出た。

天井部分は、半分ほど外とつながっていて、太陽光が差し込み、中は明るい。

水がどこからか湧き出して小さな池ができている。



その空間の奥の方の天井に、逆さまにぶら下がっているパラサイトバットがいた。

その周りをコウモリの群れが飛んでいる。



侵入者に気づいたパラサイトバットは、翼を広げた。


『なんだお前らは!ここは俺の住処だ!出ていけ!』


すかさずコウモリの群れが襲ってくる。




「大人しくさらった人を返せ!」

フレムは叫び、技を放った。



―火炎の舞―


剣から放たれた火炎が、コウモリの群れを焼き尽くす。

コウモリは、ギャァギャァと悲鳴をあげて散っていく。



さらにリュウレイが魔法を放った。


―水龍斬―


リュウレイは魔鉱石をあしらった杖を振りかざす。

水の龍が生まれ、パラサイトバットを直撃した。




『ぐあ!畜生!』


ダメージを負ったパラサイトバットは、洞窟のさらに奥に逃げようとしている。

フレムとリュウレイは後を追い、ターニャもついて行った。


ロキもついて行こうとした時だ。



「私は村の者です!さらわれてここにいました!」


と、洞窟内のすみに転がっていた被害者が叫んだ。

ロキは被害者に駆け寄った。

被害者は、魔力で作られた粘着ひもでぐるぐる巻きにされている。

ロキは溶解液を使って救出を始めた。



「ロキ、私も戦闘を見に行くよ。」


ラムズはそう言って、奥に進んだ。




本当は、ロキも戦闘に加わってラムズにいいところを見せたかった。

少し落ち込んだが、救出に集中するようにした。

救助も立派な任務だ。



「ありがとう、助かりました!私はまだ奴のコンバートを受けていません!もしかしたら、あいつはみなさんの誰かに仕掛けるつもりかもしれません!」



それを聞いてロキは焦った。

このメンバーなら、間違いなくラムズが狙われるだろう。

溶解が終わり、急いで奥に向かった。



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奥はさらに広くなっていて暗い。


パラサイトバットは大きく口を開き、特殊な鳴き声で超音波を放った。



フレムとリュウレイの頭は強烈に揺らされたようになり、ガンガンと割れるように痛くなる。



「いっ…た!卑怯な技を使いやがって!」


フレムは技を出そうとするが、うまく踏み込めない。

並行感覚も失われている。




一方、ターニャとラムズはケロリとしている。


「試合のような技の打ち合いであればどの生徒も優秀です。ですが、このような実戦では、環境も悪く、知覚系の攻撃もあります。パラサイトバットは大して強くはありませんが、討伐が楽かというと、そうではありませんね。」


ターニャがそう言いながら、心配そうに二人を見ている。



「ええ。戦うなら、常に命懸けであることは忘れてはいけません。ただ、そういう戦いを積むから強くもなれます。心配なのはわかりますが、彼らを信じて見守りましょう。」




『ははは!どんなに強い技が使えても、当たらなくては意味がないぞ!』


技をかわしながら、パラサイトバットはバカにしてくる。

二人とも思うようにいかない戦闘に焦りが出ていた。


そこにロキが駆けつけた。




『一人増えようが同じことだ!くらえ!』


パラサイトバットは再び超音波を放つ。


三人は身構えた。

空間がわずかに歪む。


超音波が止み、三人はまた攻撃を始めた。




『な、なんだ!なんで今回は効いてないんだ!』


パラサイトバットは慌てている。




「ラムズ理事…。今、三人の前に結界をはりませんでしたか?」


ターニャは疑惑の眼差しを向けた。



「すみません。二人は異能があるので、自然に魔法耐性があるのですが、ロキはまだですから、可哀想かなと思って、つい。」


信じて見守る、って一体…。

ラムズの激甘っぷりを目の当たりにして、ターニャは若干ひいた。




『ふむ!お前らは雑魚だが、向こうの二人は強いな。せっかくだから花嫁にしてやろう!そこの色男が一番だな!くらえ!コンバート!』


ラムズに向かって、パラサイトバットの口から粘液が玉になって発射された。


ラムズはレーザーソードを取り出し、魔術返しをする体勢をとった、そのときだった。



--らむずをたすけなくては--



ロキの頭に声が響いて、自然と体が動いた。


「ラムズ理事!危ない!」


ロキがラムズを押し退ける。


「ロキ⁈」


全員がロキの行動に驚いた。


粘液の玉はロキの目の前で網目状に広がり、全身を包んだ。



『なな、なんだ⁈一番弱いのが引っかかったか。まあ仕方ない。オレの花嫁よ!あとで迎えにいくから楽しみに待っていろ!』


パラサイトバットはそう言って、みんながロキに気を取られているうちに、隠されていた抜け穴から逃げていった。



「やべえ!逃げられちまった!」


フレムとリュウレイは悔しそうに抜け穴を見上げた。




ロキの体に粘液が染み込む。

ロキが倒れそうになったのを、ラムズが支えた。


「す、すみません…僕のせいで逃げられてしまって…。」


ロキは荒い呼吸をしている。


「ロキ、まもなくコンバートが効き始めて、半日は眠り続ける。目覚めたら女になっているはずだ。奴のことは私たちがなんとかする。心配するな。」


ロキは頷いたが、急に呼吸が静かになり、すぐに眠りについた。




「まさかロキが理事をかばうなんて…!動機は美しいけど、間違った行動だわ…。」


ターニャが残念そうに言った。



「パラサイトバットは女になったロキをさらいにくるでしょう。そうなれば討伐自体は迎え打つだけで簡単だと思います。あとは、ロキの身体からデータをとって、コンバートを無効化する薬や対策魔法を作りましょう。」


ラムズの言葉を聞いて、ターニャは頷いた。



「確かに、今までは単なる討伐一択でしたが、対策が多くなるのはいいですね。」


「学校の評価としてはロキは間違った行動をしたかもしれません。ですが、実戦は想定通りにいかないものです。そこから得るものがあり、最後にチームで勝てれば戦った意味がある…。私はそう思います。」


ラムズの言葉を聞いて、ターニャも感じるところがあった。



フレムがロキを背負って運ぼうとすると、「私が担ぐよ」と言って、ラムズは軽々とロキを持ち上げた。


(普通、チームメイトが最後までやるんだけどな…。)

過保護オーラにあてられ、フレムは遠い目をした。



「じゃあ、学園に戻るわよ。」


被害者はフレムが背負い、下山することになった。

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