七政賢 / 良快





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「やってくれたなぁ?そいつをそこまで育てるのに、どれだけの魔鉱石を食わせたと思ってやがる?」



 瘴国には王がいる。

 しかし、王の役目はほぼ全てが形骸化しており、実質的なまつりごとは七政賢と呼ばれる七人の官僚によって取り決められている。

 この官僚は政治的な仕事だけでなく、外交においては有事の際の『執行官』としての権限を持つ実力者でもあった。

 その七政賢の内『良快』を司る賢者、序列七位の神威涯かむい がいは怒りを露わにして少女を見ていた。


「一級クラスの魔物だぜ?コツコツコツコツ、餌ぁやってた俺の身になれよなぁ!っつか、いい加減俺の方見ろやアバズレ!」


 癇癪を起し、神威は地団駄を踏んだが、しかし少女は一顧もくれる事はない。

 今しがた己が瞬殺した巨大なイノシシ型の魔物の死体、その上に座ったまま、喚く神威を無視していた。

 満月の光に薄く透ける淡いピンクの長髪に、貴族のような美しい身なりは薄汚れた神威との差が激しい。


「何なんだよお前!どこの誰だよ!いきなり俺のペット殺しやがって!」


「……はぁ。うるさいなぁ。君の躾がなってないから、私が処分することになったんじゃない。そもそも、君誰?」


 手に顎を乗せ、心底興味なさそうに見下されて、神威の怒りも怒髪天ギリギリであった。


「嘘だろテメェ!?瘴国七政賢『良快』担当、神威涯様だッ!この俺の顔を知らないなんざ、どこの箱入り娘だよッ!?」


「あっ、そうだった。私、魔人と話しちゃ駄目なんだった」


 危ない危ない、とでも言いたげに少女は自分の口を両手で塞ぎ、ぷいっと顔を背けた。


「フェルトちゃんの無尽の翼エアロ・アーラの反応はこの近くだけど、大雑把だからなぁ。早く探さなきゃ」


 神威のことなぞ見えていないかのように無視を続けて独り言をつぶやく様子に、とうとう神威は自制心を失う。


「どこの誰だか聞いておきたかったが…もういい…テメェは、ぶち殺すッ!!」


 王より賜りし権能を開放し、両腕に焔を迸らせる。

 それは神威自身を燃やし、赤い灯はやがて黒く染まった。

 黒い炎を宿した腕を思いきり振り上げて、岩すら溶かす灼熱の炎を少女へ解き放つ。


「えっ──」


 しかし、次の瞬間には、神威の瞳は星空を向いていた。


 何故、自分が空を見上げているのか。


 疑問を抱いた時には、衝撃。


 脳が揺れて、地面が割れる。世界が暗転し、明滅し、しばらくしてやっと理解した。


 己が少女に頭をつかまれて、地面に叩き付けられたのだと。


 少女の移動さえ気づけず、一方的に攻撃を受けた事に憤り、とっさに自分の顔面をアイアンクローのように掴む少女の手を掴もうとした。

 しかし、動かない。

 全身が今の衝撃で怯み、身体が動かなかった。


「ふぁぁ……さぁて、フェルトちゃん探すぞー!」


 少女は大きく欠伸をしてから、まるで神威の事など道端の蟻を潰した程度の認識しかしていないかのように、神威を無視して歩き出してしまう。


「ふっっ…ざけんな…!待ちやがれクソガキッ!」


 力を振り絞って体を起こし、啖呵を切ったときにはもう、少女はいなかった。






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