Life is not all beer and skittles ②
孤児だった私を引き取ったのは、人類解放戦線のナンバー2、シウバという男だった。
男は世界中から孤児を集め、自分の研究に利用していた。
戦線にはのべ10万を超える戦士が所属しているが、そのほとんどは孤児や人工繁殖で生まれた優等遺伝子人間だ。
優生思想に基づく戦線が『優等』と判断した者同士を掛け合わせ、千年間繰り返して生まれた優等遺伝子人間は近親者同士での交わりによって遺伝子が汚染され、非常に寿命が短い。
その欠点を埋めるため、新たな遺伝子を求めて孤児を集めているのだ。
その過程で人間とは交雑できない多種族であっても、実験台と使い捨ての兵隊として蒐集に励んでいたのが、シウバだった。
8歳でシウバに拾われた私の人生は、それから地獄に変わってしまった。
拷問のような実験に、戦士としての訓練。
訓練では同期だった100人の仲間が、私を除いで全員死亡した。
『適正テスト』などとは名ばかりの、千年の時を重ねて戦線が練り上げてきたあらゆる拷問と洗脳術を乗り越えて、戦士になった私に待っていたのは戦場だった。
人類解放戦線の目的、つまり人類の解放のため、障害となる人物や組織を殺すこと。
殺して殺して殺し続けて、時に内紛や犯罪を誘発して、やっと私はVllを貸与される特別な戦士『選抜戦士』に選ばれて、ある程度の自由を手に入れた。
けれど、その夢のような時間も、長くは続かない。
だからせめて、今だけは私が「本当にやりたかった事」をしようと。
そう思って出向いた病院で、私は驚愕していた。
「どういう事だ……これは?」
病床に寝ていたのは、ティアという子供の父親だった。
あの子の父親を、治療しようと思っていたのだが…
「傷が、完全に治っている…至って健康体だ。だが、ならば何故目覚めない?」
不審に思って男の体を節々まで見ると、その左腕に違和感を覚える。
まるで肘から先が、生え変わったように色が異なったのだ。
「まさか、腕が新しく生えたのか…?組織がまだ新しい。この腕だけ内部の炎症が極めて少ない。だが、そんな馬鹿なことが……」
しかし、もしそうなら目覚めないことにも納得がいく。
急激な回復による極度の疲労、脈も呼吸も正常で、脳波も整っているこの状態で目覚めない理由としては、最も理解しやすい。
だとすれば、あと一日もすれば目覚めるだろう。
「欠損した腕を生やすなぞ、不可能だ。『極大級』の魔道具でもあればあるいは…だが、国家予算並みの魔道具がこの男に使われたとは考えにくい。ならば、もう神秘くらいしか…」
アルカナや魔法にも、治療を施す術はある。
けれど、大前提として「自然治癒で治らない傷は治せない」というものがある。
例えば、腕の骨がどんなに複雑に骨折していようとも、熟達した術師であれば折れた骨同士を癒着させ、20日もあれば治る状態まで持っていける。
しかし、小指一本欠損したとなれば、これは治せない。
何年待とうと自然には生えてこないのだから、魔法だろうがアルカナだろうが無理だ。
そんな前提を覆せるのは、世界で神秘だけ。
そこまで考えて、つい最近のトラウマを思い出す。
私が旧聖地迷宮の深層で出会った守護者、奴は腕どころか心臓すら容易に治して見せた。
この不自然な治療痕、否が応でもあの女が脳裏をよぎるが、私はすぐに頭を振る。
「まさか、な…あんな凶暴な化け物が、森人の治療などするはずがない」
どころか、守護者の性質として迷宮を出ていない可能性のほうが高い。
あの迷宮からかなり離れたこんな辺鄙な村に、いるはずがないのだ。
「くそっ…嫌なことを思い出したな。この事は一旦保留にして、協会に行くか」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます