いじめっこはきらいです



「ん?なんだこれ…?」



 すっかりもぬけの殻になってしまった人型兵器の足元に、奇妙なリングが落ちていることに気付いた。


「自動化装置ですね。恐らく、パルスシールドの展開をオートにするものではないでしょうか」


 広ったリングを繁々と見ていると、ライアが立ち上がりながら答えてくれたようだった。

 しかし、千年ぶりの歩行に感覚が追い付かなかったようで、一歩歩こうとした瞬間に足がもつれて倒れそうになる。


「大丈夫か?」


 咄嗟に身体を支え、ライアが俺の胸の中に納まった。


「──!?」


 驚愕したように肩を震わせ、ライアは慌てて胸から顔を上げた。


「急がなくていいぜ。俺もちょっと休みたいしな」


「あっぅ、はい…ありがとう、ございます」


 よく見ると、ライアの顔は少し火照っていた。

 恥ずかしそうにしつつも、名残惜しそうに俺の胸を押して一人で立ち、トロンとして目でこちらを見ている。


「?」


 何故そういう反応になるのかよくわからなかったので見つめ返していると、ライアの顔はますます赤くなっていく。

 面白い反応だ。

 これはもしや…


「ライア、髪にゴミが」


 言いながら左手を伸ばし、ライアの頭を少し撫でた。


「ひぃぁっ!?」


 驚きながらも、肩を縮こませて目をぎゅっと瞑り、されるがまま。

 何といういじらしい反応。ついいじめたくなってしまうが、嫌われないうちに止めておこうと撫でる手を引っ込める。

 すると、ライアは恐る恐る目を開け、潤んだ瞳をこちらに向けた。


 改めてみると、非常に可愛い。

 髪色は光の加減で何色にも混ざり合って見える特殊な髪質で、オッドアイというわけではないが左右で模様の異なる独特な瞳はチャーミング。

 細く小柄でおどおどした様子は、声だけ聴いていた頃の印象と大きく異なる。

 とてもか弱い、妖精のようだった。


「な、何ですか。002?」


「いや、何でもない。んで、これが何だって言った?」


 手に持っているリングをライアに見せる。


「自動化装置です。あの人型兵器のシールド展開は、人間の反応速度を凌駕していました。特に002の最初の不意打ち、あれを防がれたのは不可解です」


「あー、言われてみれば確かに。もしかして、この装置があれば攻撃に反応して自動でシールド展開してくれる感じ?」


「そうですね。002が使えるように、私が調整しましょうか?」


「え、是非」


 そんな事も出来るのかとライアにリングを渡すと、ライアはそれをただじっと見つめた。

 見つめ続けると、ライアの両目の模様がそれぞれ独立して変化し、様々な幾何学的模様を映し出す。


「ライア…その目、どうなってるの?」


「え?どうにかなっていますか?」


「どうもこうも、凄い色んな模様に変化してるけど…」


「あぁ……そうですね、恐らくですが、私の視界に映っているウーシアシステムのデスクトップが模様として見えているのかもしれません。002、あなたにもぼんやりとですが模様が見えていますよ」


「マジ?」


「ええ。今は非表示にしているので薄いのでしょうが、システムを使う際にははっきり映るかもしれませんね」


 なんて会話している間に、ライアは俺にリングを返した。


「調整が終わりました。手首に装着してください」


 言われるがままに手首にリングを通すと、明らかにサイズが合っていなかったはずが勝手に大きさが変わり、俺の手首にブレスレットのように収まった。


「002、その装置がこれからのあなたを守ってくれるでしょう」


 お守りを渡す母親のような言葉と眼差しに、ライアにはいじらしい少女だけでなく母性まで備わっているのかと、俺はその可能性に胸を膨らませた。

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