夢の守人 ④



 魔物の死体が散乱する空洞内を、並走するように走る。


 互いの遠隔操作型機動砲台が四方八方からレーザーを照射し、それに加えて俺は左手からマシンガンのようにエネルギーの弾丸をとめどなく撃ち続けていた。

 人型兵器も背中からミサイルの弾幕をはり、時折肩からプラズマ砲を穿つ。


 俺たちが走った後の場所は採掘されたように穴だけになり、忌諱的なまでに魔物の死体が破壊されていく。


 須らく破壊されていき、舞い上がる粉塵で全てが曖昧になっていくその刹那、俺は溜めに溜めた右手の斬撃を解き放った。


 しかし、人型兵器は俺のその一手を読んでいた。

 パルスシールドを展開され、空洞の壁を崩落させるに留まる。

 だが、展開したシールドは一撃で限界を迎え、砕けて割れた。


「くっ…!」


「ハハッ!」


 まさに先ほどの逆。

 無防備となったその図体に、俺は容赦なくレーザーソードを展開して切りかかった。


 けれど、やはり人型兵器は俺よりも体術に優れているようで。


 こちらの一閃を身を翻して回避すると、そのまま俺の懐に潜り込んで右手を突き出した。


「パイルバンカー」



 形状変化し、杭となったその腕を、パルスシールドで阻む。

 しかし、こちらも一撃でシールドを破壊されて吹き飛んだ。

 


 お互いにシールドを破壊され、一時的に防御手段がなくなる。

 ピンチでありながら、しかし千載一遇のチャンスでもあった。


 その思考回路は似通っていたようで、まるで臆することなく互いに駆け出していた。

 遠隔操作型機動砲台が襲い来るが、迷わず全力で走れば当たる事はない程度の威力と速度。

 無数のレーザー照射を掻い潜り、レーザーソードを切りつけようとした。


 人型兵器の狙いはわかっている。

 先ほど俺の心臓を貫いて殺せなかったのだ。

 首を絶ち、続く二撃目で胴を頒つ。

 これしかない。なら、自然と軌道も読める。

 今度こそ向こうの剣を弾き、こちらだけ斬る。


 そうしてまっすぐに俺の首を狙った剣を弾こうとしたが、刃と刃が剣戟を結ぼうとした玉響に、またも俺は失敗したのだと理解した。

 人型兵器は俺の剣をなぞるように手首を回し、剣戟を結び事無く。

 俺の首を捉えて──


 死を覚悟した。


 けれど、人型兵器の右腕は、何事もなく空振りした。


「なっ──!?」


 レーザーソードが、消えていたのだ。

 それは決して意図したものではないのだと、傍から見てもわかるほどの動揺を湛えて、人型兵器は咄嗟に後ろを見た。


 そこには、人型兵器に向かって両手を突き出すライアがいた。


 何が起こったのかはわからない。


 しかし、俺にとってそんな事はどうでもいい。


 困惑する事さえなく、思い切りレーザーソードを振りぬき人型兵器の腰の辺りを斬る。

 流石に硬く、両断とはいかなかったが、バチバチと火花を散らして部品を落としながらよろめく。

 俺は一瞬で距離を縮めると同時に上から斬り降ろし、致命的に部品と電線を破壊した。


「ば、ばかな……」


 数歩後ろに下がり、人型兵器はついに両膝を地につけた。

 完全に破壊され、小さく爆ぜながら火花を散らす様はまさに死に体。


「あり得ない……コアが、自分の意思で動くなど…そんな、馬鹿な事…」


 止めを刺そうと近づいた時、その異変に気付いた。

 バチバチと散る火花に、プラズマが混ざっていると。


「なんだ…?」


「あり得て、なるものか…!」


 キュィィィィンとエネルギーが凝縮されていき、次の瞬間、人型兵器をパルスシールドが覆い、それが爆発の余波のように広がっていき、俺の視界を覆った。


 パルスシールドに限界を超えてエネルギーを注ぎ込む事による漏電、パルスオーバー。


 俺が目を開けた時には、変わらず人型兵器は膝をついて項垂れていたが、俺にはその異変がすぐにわかった。


 歩いて近づき、その背後に回ると…


「チッ…逃げられたか」


 人型兵器の背中は開帳され、操縦席のようなものが露わになっていた。


 つまり、今のパルスオーバーは目くらまし。

 そして、


「無人兵器ではなく、人が乗っていたのか……」


 誰と戦っていたのか。

 その顔を拝む事すらできなかった悔しさを、俺は噛み締めた。

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