夢の守人 ③



 今の俺の身体には、その剣はあまりに太く、あまりに鋭く、あまりに致命的だった。

 俺の腹よりも太い剣が胸を穿ち、意識がパチパチとラムネのように途絶えては覚めてを繰り返す。


「僥倖だった。まだ貴様が弱いうちに出会えて」


 ボソッと呟いた人型兵器の言葉が、どうしようもなく許せなかった。


 負けた?

 これで俺が負けたと、本気で思っているのか?

 たったこれだけの攻防で、終わりだと?

 こんな、外の世界も知らないまま。

 何一つ、見せてやれないまま。




 舐め腐りやがって。



「ッ!?なんだッ!?」


 感情さえほとんど感じなかったはずの人型兵器が驚愕し、逃げるように十歩ほど飛び退いた。


「おいおいおい、どこの誰だか知らねぇが、興醒めさせるなよ……こっからだろうがッ!!アァ!?」


 自然と笑みがこぼれる。

 二日に渡る戦闘で底をつき、切れかけていたはずのエネルギーが満ち溢れ、胸に空いた穴が塞がっていく。


「なんだ、今のは…?予備エネルギー源のプネウマが、無くなっている?こちらのプネウマタンクから、吸い取ったのか…?そんな馬鹿な事が…!」


「ハッハッハッ!」


「何という親和性…!まるで、天使だ!」


 会話をする気もない癖にブツブツとうるさいので、こちらから駆け出して右手にレーザーソードを展開する。

 人型兵器も右手のレーザーソードを振るい、互いの刃が結び合うその瞬間、人型兵器はくるりと手首を回し、俺の刃と鏡合わせの軌道で潜り抜けた。

 結果、俺の刃は空振りし、人型兵器の刃だけ俺の右わき腹を引き裂いてすれ違う。


 圧倒的なまでの剣術の差。

 当たり前だ。俺に剣道の経験なんかない。

 だが、今はもう傷なんて気にならない。

 何故なら、それは俺が振り返る頃には治っているのだから。


「ハハッ!」


「不死身なのか!?」


 戦慄しながらも、人型兵器は再び両手を乱雑に振る。

 咄嗟にパルスシールドを展開すると、やはり斬撃が飛ばされ、シールドに弾かれた。


 あれだ。

 今の斬撃、あれが厄介だ。

 先ほどもあの目で追えないほどの斬撃に反撃の隙を潰され、胸を刺された。

 あれをいかに攻略するか、それが命運をわけるに違いない。


「どういう原理なんだ?」


 ちょうどタイミングよく、もう一度人型兵器が右手を振って斬撃を飛ばした。

 それはあまりに速く、両手で振った時よりも重い。

 シールドごと吹っ飛ばされそうになりながら耐え、振り返ると洞窟の壁に一文字の痕をつけていた。


「なるほど」


 何となく、理解できた。

 あれは斬撃などではない。

 レーザーソードと原理は同じ、ただのエネルギー光線だ。つまり、レーザーソードを形作る光を、一瞬だけウォーターカッターのように飛ばしているのだろう。

 原理さえ理解できれば、模倣もできる。


「…こうか?」


 三つ指で塩をつまむように、レーザーを捻出してつまむ。

 つまんだまま極限まで圧縮し、張り詰めた水風船に穴をあけるようにわずかな隙間を作った瞬間。

 目にもとまらぬ速度でレーザーが斬撃となって飛び、人型兵器に傷をつけた。


「浅いな。もっと深く、もっと速く。潰すように、壊すように」


 今度は抜き手をするように手を突き出し、五本の指の間に出来た四つの隙間にエネルギーをためる。今度は隙間に穴をあけず、ただ圧縮し続けた。

 すると、限界に達したエネルギーは俺の制御を外れ、勝手に弾けるように前方に斬撃を飛ばした。

 その四つの斬撃は壁に渓谷のような溝をつくり、一つの斬撃が人型兵器の左腕を切断する事に成功する。


「これだな。少し時間はかかるが、これが最大威力」


「チッ…!化物め…!」


「次は、もっと速く撃てる」


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