last but not least ④
エメラルドの光が明滅したかと思った直後、神速の一閃が粉塵を裂いた。
それは巨大ミミズの顔面を切り裂き、煙を晴らす。
「はぁ…はぁ…」
チラリと右手を見ると、どうやら俺は多機能兵器を形状変化させ、サーベルに変えて俺を食おうとしていた奴を切りつけたようだ。
周囲を見渡すと、巨大ミミズは再び痛みにのたうち回っている。
それほど状況は変わっていないようだが……
「…何分だ?俺は、一体どれだけ気を失っていた?」
針の射出攻撃を受けてから記憶がない。
意識を失った事だけは確実だが、ならば何故生きている?
意識を手放したこの身体が、なおもこのサーベルを振ったのであれば、それは誰の意思だったか?
「…ライア?」
返事は返らない。
「ありがとう」
もう、意識ははっきりとしていた。
何故か、身体がよく動く。
自分を見下ろしてみると、あれほど折れてボロボロだった身体が元通りに戻っていた。
自分が意識を失っていた間の事は無論、覚えていない。
けれど、使っていなかった、認知すらしていなかった身体の神経が通ったような、深い悟りのような感覚がある。
ライアが俺の身体を使い、俺自身が気付いていない技術や機能を使って傷を治してくれたのだ。
そして恐らく、俺はもうライアがしてくれた事と同じことが出来るようになった。
そうか、この身体には本当はこれだけのエネルギーがあったのか。
転生する前の身体には無かった感覚故に、認識するのに時間がかかった。
「…けど、うん。悪いな。俺は多分、もう負けないや」
何となくで使ってきた力の源泉に気付き、そのポテンシャルを理解してしまえば、何も恐ろしくは無くなった。
俺とこの巨大ミミズの間にある、圧倒的なスペックの差にも気づけたからだ。
今までの俺は無毒な蟻に猛毒があると信じていたようなもの。
知ってしまえば、素足で踏み潰す事に何の躊躇いがあろうか?
「行くぞ」
駆け出した俺に気付き、未だのたうち回る巨大ミミズはそれが癖なのだろう、猪突猛進に突っ込んできた。
もはや見慣れた攻撃をジャンプで躱す。
すると、産毛が逆立ち、宙にいる俺を狙って針を射出した。
「パルスシールド展開、100%」
来るとわかっていれば、防ぐ事なぞ容易い。
「100%はエネルギーの無駄だったな」
全ての針はパルスシールドに阻まれて跳弾し、洞窟内に火花を散らす。
そのまま着地すると、有象無象の魔物が津波のように押し寄せてきた。
「パルスオーバー」
100%のシールドにさらにエネルギーを注ぎ込むと、電磁パルスを円形シールドの状態に保つことが出来ず、周囲一帯に電磁波が漏電する。
これは範囲攻撃として転用でき、俺の半径50メートル内の魔物が吹き飛ばされて宙で弾け飛んだ。
地面が全く見えなかったはずの空洞内に、綺麗な更地が数秒生まれる。
そこに、俺の電磁パルス波を突き破って巨大ミミズが突っ込んできた。
大きく口を開けて、新幹線のような速度で迫る。
そこへ、俺も迎え撃って走り出した。
右手のサーベルを大口に叩き付け、しかし止まらない。
超特急同士が正面からぶつかったのだ。その巨体を二つに裂いて、真っ赤な内臓の中を駆け抜けた。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁっっぁぁぁぁぁっぁ!」
ウナギを捌く包丁になったようだ、なんてぼんやりと考えながら、気づけば俺は巨大ミミズを両断し、その勢いのままに宙に浮いていた。
「はぁ……はぁ……」
息も絶え絶えの中、見上げれば無数の魔物の目線が俺を捉えていた。
「スキャン……全敵自動ロックオン」
まだだ。
まだ終わっていない。
ライアの役目の中には、この迷宮から魔物を出さない事も含まれている。
そんな彼女を開放するというのなら。
巨大ミミズが二つに分かれて地面に落ち、轟音が鳴り響く。
その死体の上に俺も着地して、満身創痍のまま上を見上げ続けた。
「ははっ…何が『千では済まない』だよ。鯖読みやがって」
総数50436体。
全敵ロックオン完了。
俺の身体が魔物を引き寄せる体質でよかった。
手間が省ける。
エネルギーの粒子を生み出し、レーザー弾を照射できる小型の遠隔操作型機動砲台のような存在を作れるだけ作っておく。
左手に改めてレムナント7番を、右肩には弾道ミサイルを装着した。
「……さて、鏖殺だ」
1vs50000が始まった。
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