be out of order ⑥




 何となくわかってはいた事だが、やはりそうだったのか。


「普通に生物だってわかると、何か話しかけ難くなるな。siriに話しかけるような感覚だったし…」


「002、siriとは何でしょうか?」


「あ、いや、何でもない」


 やはり通じないらしい。

 気を取り直し、改めて俺は虚空を見つめながら話しかける。


「って事はだ、ライア、お前には自我があるんだな?」


「…そうですね。定義にもよりますが」


「それはもういい。それより、お前が生物だっていうなら、何故こんなことをしている?これがお前の仕事で、給料を貰っているのか?」


「いえ、違います」


「なら、何故?お前は一体何なんだ?」


「…そうですね、私もあなたに不信感を与えるのは本意ではありません。私について少し教えましょう」


 ライアの声は、気づけば機械音声のような声から、肉声に近づいていた。

 無機質な声も、わざとだったようだ。


「私は、『人間』ではありません。私は、この迷宮のコアと呼ばれる存在です」


「コア…?」


「はい。コアとは、その迷宮を管理、維持するための制御システムのようなものです。迷宮内の地脈に流れるプネウマと接続し、『石取り虫』から星の核を守ったり、魔物が外に出ないようプネウマの流れに指向性を与えます」


「石取り虫ってなんだ?」


「002が芋虫と呼んだ魔物です。本来は無害ですが、稀に大きく成長しすぎてしまった石取り虫は地脈を食い破って掘り進み、地殻や岩盤に悪影響を齎す事があります。人類が迷宮を作ってしまったが故の、功罪ですね」


 まさか、夢の中で見たあのミミズの事だろうか?

 どう見ても同一種には見えなかったが、もしあの地の底のような場所でライアが魔物を食い止めているというのなら、あのミミズがそうである可能性は高い。


「私はコアとして約千年間、この迷宮を維持してきました」


「……は?」


「コアとして選ばれ、プネウマと接続されたその日から、いち生命体としての自我は捨てなければなりません。この脳は迷宮のマザーボードとして使用され、この身体はただのプネウマに接続するためのケーブル。機械に生まれ変わったのだと、千年従事してきました」


「……」


「しかしある日突然あなたに電源が入り、私とプネウマの回線が繋がった。千年ぶりの会話、千年ぶりの違う景色。これに興奮してしまい、役割を逸脱してしまった事をお詫びいたします。ですがどうか、このままあなたの脱出を見届けさせてください」


 千年。

 千年か。

 長い。あまりに長い時間。


 あの夢は、きっと夢じゃなかったのだ。

 ライアは前に一度、俺の身体を操っている。ならばその逆も出来るはず。

 きっと俺が寝ている間に、ライアと俺が一瞬入れ替わったのだ。


 あんな犇めく虫以外何も見えない地の底で、ずっと独り。


「…なぁ、ライア」


「はい、何ですか?002」


「このまま俺が脱出したらさ、お前のガイドはそこで終わりなのか?」


「残念ながら、そうなります」


「そうか。それはちょっと、嫌だなぁ」

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