夢の守人 ①


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 迷宮深部、七階層。

 旧聖地迷宮は十個の層に隔たれており、002が目覚めた場所は第二層に存在する「行き止まりの聖地」と呼ばれるフロア。

 ライアが提案した縦穴は誰にも存在を認知されていない隠し通路であり、元来あの場所は行き止まり。

 元々プネウマ鉱石を採掘するために掘られた坑道であった旧聖地迷宮は、人間にとって猛毒である魔鉱石も同時に地脈から露出してしまい、第二層まで掘られた後に放置された。

 それが「石取り虫」によって十層まで拡張され、それを戦争時のシェルターとして改造された姿がこの旧聖地迷宮である。


 故に、他の天然の迷宮に比べて幾分も人の手が加えられており、「攻略不可迷宮」として未だに千年の謎のベールで包まれた神秘性を内包している。


「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッぁぁぁぁぁッ!!」


 その七階層に、奮起する怒声が響いていた。


「…無駄だ、魔人ども」


 三メートルはあろう装甲に包まれた二足の人型兵器に、幾度も繰り返された火炎が再びぶつかろうとしていた。


「パルスシールド展開、20%」


 炎は電磁に霧散し、人型装甲は人間でいうところの脹脛と腰からジェットを噴出し、高速でローブを羽織った男へ接近する。

 そのまま前腕からレーザーソードを展開し、勢いのままローブの男の首を刎ねた。


「なんなんだよ!?どうして人類解放戦線が、こんなところにいる!?」


「取り乱すな!俺が時間を稼ぐ!その間に魔法をもう一度ぶち込め!」


 無慈悲な殺戮兵器を前に、冒険者の男たち三人は盾持ちを中心に陣形を立て直す。


「<爆発貫力補助バースト・エイド・エッジ氷の欠片フローズン・バースト>!」


「<全元素効果増加エンチャント・フルエレメンタルアップ魔力継続補助マジック・リジェネレイト>」


 盾持ちの後ろから剣士が切っ先に氷を集め、サポーターであろうローブを羽織った者がそれを補助する術を唱えた。


「……」


 そうして威力を底上げされた魔法が、人型兵器に届く事はなかった。


「あっ──」


 両手にレーザーソードを展開し、一太刀の内に三人を一刀両断したからだ。


「戦闘終了」


 レーザーソードが霧散し、省エネモードに入る。


「こちらC-アルファ選抜戦士41629、本部へ報告。旧聖地迷宮第七階層にて魔人の冒険者と接敵、これを殲滅」


 肉声で送られた声に、返事は返らない。

 それに構うことなく、報告を続ける。


「装備と戦闘能力から、民間依頼ではなく国家依頼によって派遣されたものと思われる。報告は以上……ここからは、私から隊長へ、個人的なメッセージとする」


 変わらなかった声の抑揚に、大きな変化があった。

 一度息をゆっくりと吐きだしてから、その目線を殺した冒険者へ向ける。


「隊長、ここは何かおかしい。もう何度も報告していると思うが、プネウマ測定器がエラーを吐き続けたままだ。迷宮中の魔物が、まるで何かに触発されたように活発化している。それに、この冒険者たち。恐らく先日の地震と迷宮からの魔物流出を調査するために、魔界から派遣された連中だ」


 と、独り言を報告し続けていると、通路の奥から魔物の鳴き声が近づいていることに気付く。


「ってことはやっぱり、隊長の読みは正しかった。この迷宮には、コアがある。地震でコアと迷宮の接続に不備が出たから、魔物が外に出たんだろう。私はこのままコアを回収しに行く。エネルギーも残りわずかで、連絡はあと一回しか出来ない。十日以内にコアを回収したら、最後の報告を送るつもりだ。もし、それがなかったら、死んだと思ってくれ」


 通路の奥からひしめき合って、巨大なダニのような魔物が進行してきていた。


「最後に、一つだけ。この迷宮には、何かいる。もしかすると、『守護者』が起動したのかもしれない。だとすれば、活発化した魔物に説明が付く。そんなものが外に出れば、世界の秩序が乱れる。もし三権調停機構にでも回収されれば、私たちの勝ち目はなくなる。何としても食い止めるつもりだが、もし私が失敗したら、代わりに隊長が守護者を破壊してくれ」


 伝え終えて、迫りくる怪物どもを睨む。


「戦闘開始。最下層まで、一気に駆けるッ!」




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