be out of order ③



「ところで、ここは俺がいた世界とは別の、異世界って事でいいんだよな?」


「002、インストールされたあなたのAIが自身をどのように自認しているかは理解しました。強化人間の脳はプネウマの神秘性に耐えられるよう、その機能の多くをアーティファクトに置換されています。神代の精密機器が異界の知的生命体を制御システムとしてインストールした可能性、というものは0%ではありません。しかし、それはいくつも考えられる単純なエラーに比べると幾分も劣る可能性であり──」


 と、再び始まってしまった早口を右から左に聞き流しながら、俺の中に確信が宿る。


「やっぱ、異世界、何だろうな」


 脳内に響くライアの弁をBGMにしてお着替えを終えた。

 服装は黒を基調としたものしか用意されておらず、その中から適当なものを繕った。

 ロッカーの中には洋画のガンアクション映画ばりに物騒な武器やら、よくわからない機材が揃っていたが、今までの話を統合するに俺の身体は兵隊として改造されたものらしく、これ以上物騒なのはごめんだったので武器類はスルーした。


「002、武器は装備しないのですか?」


「使い方がわからないんでな。それより、この扉を開けるにはどうすればいい?」


「扉の横にある認証機器に手を翳してください。002にはこの迷宮において最高権限であるSランクの権限が与えられています」


「そりゃありがたいね」


 言われるがままに液晶に手を翳すと、ピッと音が鳴り、扉から駆動音が鳴り始めた。

 鍵が開く程度かと思いきや、どうやら完全に自動らしく、扉は随分悠長に外の景色を描き出す。


 わずかなすき間から見え始めた景色を確認して、俺は思わず「おお」と感嘆の声を上げた。


「これはまた、趣深い…」


 迷宮、という度々出てきた単語から予想していた通り、ここは洞窟か地下なのだろう。

 室内の手術室のような雰囲気から一変、天井は高く、武骨な岩石に包まれた世界が広がっていた。


「まるで、地下都市だな」


 ゲームや漫画で見た景色。

 地下に広がる巨大な空間には廃墟が立ち並び、しかし明かり一つ無い。

 だが明かりがないはずにも関わらず、この身体の特性か景色は明瞭で、俺がいる部屋はこの地下空間の最奥とでも言うべき位置に、壁に掘ったように存在していたようだ。


 部屋から歩き出して地下空間に入ると、余計にその広さが身に染みる。


「なんなんだ、ここは…?」


 今、一体自分の身に何が起こっているのか。

 この世界に、人はいるのか?

 寝起きの頭がやっと冴え始め、不安感が現実となって湧き始める。


「ここはこの迷宮の聖地、となるはずだった場所です。途中まで都市として建設されていましたが、結局ここに人間が住む事はありませんでした」


「じゃあ、今も無人なのか?そもそも、この世界に人間はいるのか?」


「ここは無人ですが、迷宮の外にはいます。002、ここであなたに問わねばなりません」


 人がいる事にホッと一息つく暇もなく、ライアが声のトーンを変えてきた。

 システムとは思えない人間的な声の変化だった。


「あなたがこれから、迷宮の深部を目指して迷宮を攻略するのか、迷宮からの脱出を図るのか。それによって私のガイドが変わります。どちらを選びますか?」

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