be out of order ②



「ユーザー名を思い出せないようであれば、あなたの事は002と呼称しますがよろしいですか?」


「…あぁ、うん。名前なんて何でもいいや…」


 そんな事よりも、この身体がどういう事なのか、という問題の方が先決である。

 いや、兎にも角にも記憶だ。何があって俺はここにいるのか。それを思い出せば全て解決する。


 …うん。思い出せない。


「ちょっと待ってくれ…俺、何してたっけ?高校行って、居眠りして、授業受けて…高校…?どこの?名前は…?」


 最後の記憶。

 それを懸命に思い出そうとすると、驚くほどあっさり覚えている。

 景色も、匂いも、人も。

 けれどそれらを決定付ける人々の顔や、名前などと言った固有名詞が出てこない。

 俺は誰で、どこに通っていて、親は誰なのか?


「おいおいおいおい、自分の両親の名前まで忘れちまったのか俺!?」


 驚愕に慄く声も、自分のものではなく、それにも驚いて喉を触る。


「起動時の読み込みにエラーが発生した可能性があります。002、やはり再起動をおすすめしますがいかがいたしますか?」


「うるせぇ。人の一挙手一投足をエラー扱いすんな。それより、ここはどこだって?えっと、らびりんす…」


「LAbyrinth Investigation Assistantです。LAIAかLIAとお呼びください」


「じゃあライアで。で、ここどこ?俺が強化人間ってどういうこと?」


「ここは人間に放置された旧聖地迷宮、そのプネウマ兵器開発フロアの一室です。あなたはここで約千年間開発されてから放置されていましたが、地殻変動による影響で起動したようです」


 何を言っているのかさっぱり理解できない。

 ツッコミどころしかないが、ひとまずあらゆる疑問を飲み込もう。


「…よし、わからないけどわかった。とにかくこの身体は何かしらの兵器で、ここは何かしらの施設なんだな?」


「その通りです。ですが一つ訂正するならば、あなたはただの兵器ではなく、生物兵器に分類されます。内包するプネウマと魔力を兵器に転用するため、改造されて生み出された、遺伝子操作強化人間であり──」


「もういい、もういいから!わかった、わかったから、説明ありがとな。これ以上は理解できん」


「…わかりました」


 若干気を損ねたかのような機械音声を無視し、俺は寝ていた台から立ち上がる。


 室内を見渡すと、まさにこの身体を弄るためだけの部屋であるらしく、台以外の場所には何もない。

 簡素な部屋の先には銀行の金庫扉のような重厚な扉があるだけで、どうやら出入口はその一か所であるようだった。


「こんなでっかい扉の先で寝かされてたなんて、よほど貴重なのか、あるいはよほど封印したかったのか…」


 改めて自分の格好を見る。

 真っ白な病院服を彷彿とさせる装いで、小さな体では着こなせずにズボンの裾を引きずってしまう。


「サイズが合ってねぇな。もうちょいマシな服はねぇのかよ」


「ロッカーに収納された専用の戦闘服を着装してください」


 誰に言ったわけでもない独り言だったのだが、ライアから返事が返る。

 そして扉付近の白い壁が異音を出しながら急に飛び出し、一見何の変哲もなかった壁から衣類を収納したロッカーが出現した。


「っ!?」


「着替えてください」


「こういうのは先に言ってから開けろよ…」


 辟易と肩を落としつつ、俺はロッカーへと足を向けた。

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