一人だけSF強化人間の俺が、脳内異世界ガイドの本体を救い出してパーティーに入れてみたら最強だった件
唱対夢
第一章 旧聖地迷宮
be out of order ①
「おはようございます、002。ガイドを開始いたします」
俺の目覚めは、その無機質な機械音声だった。
「目も開ける前に挨拶する奴がいるかよ、馬鹿野郎」
まだ瞼を開けるのも億劫だったが、脳内に直接音声を流されては二度寝なぞ不可能だ。
致し方なく、愚痴を零して目を開けてやった。
「……は?」
すると、まず目についたのは真っ白な天井。
昼光色の目に痛い光が燦燦と網膜を焼くが、そんなことはどうでもいい。
今俺が狼狽している原因は、視界に起動したOSのデスクトップのようなガイドアナウンスである。
目にゴミが入った、では到底説明できないタスクの数々に、眉をひそめていると再び脳内に声が響く。
「デスクトップを整理します。少々お待ちください」
言い終えるよりも速く、再起動明けのパソコンかの如く視界中に広がっていたタスクが閉じられていき、あっという間にデスクトップの枠だけを残して明瞭な視界が広がった。
その枠さえも、数秒すると自動的に非表示となり、綺麗な視界を取り戻す。
「整理完了。次回起動時も自動的にタスクを起動しますか?」
「…ノーに決まってるだろうが。ていうか、何この状況。当たり前のように会話しちゃってるけど、お前誰?」
「LAbyrinth Investigation Assistant、あなた専用の迷宮探査用ガイドです。この旧聖地迷宮のガイド及び、より快適にプログラムを操作できるようアドバイスいたします。002、他に質問はありますか?」
「質問しかないね。そもそも、その002ってのはなんだ?」
「あなたの識別番号です。迷宮探査用強化人間002、それがあなたの現状です。認識に齟齬がある場合、再起動をおすすめ致します」
「ふざけんな。俺にはちゃんとした名前があるんだよ」
「既にユーザー名が登録されているのですね。失礼いたしました。以後そちらで呼称いたしますので、あなたの名前を教えてください」
「ああ、一度しか言わないからよーく覚えておけよ。俺はな……俺の名前は…あ?」
言おうとして、言葉が出てこなかった。
自我もこんなにはっきりしているのに、名前が出てこない。
俺の名前、何だったか。何から始まった?あ、い、う、え、お、と順番に思いつく限りの苗字を羅列して、どれもしっくりこない。
嘘だ。あり得ない。自分の名前が思い出せないなんて、そんな事あるか?
なんだ?俺の名前。名前、名前!
「嘘だろ…?」
頭を押さえて、やっと起き上がる。
そうしてやっと、自分がどこに寝ていたかを理解した。
ベッド、などとは決して呼べない、手術台のような武骨な鉄板。
それを取り囲む照明やよくわからない精密機械の数々。
自身の身体中に張られた電極パッドをぶちぶちと剥がしながら起き上がり、足を降ろしてその華奢な体躯に違和感を覚える。
項垂れた頬と肩を伝ってするりと落ちてきた俺の髪は長く、美しく、そして黒かった。
「なんじゃこりゃあ…」
自分の髪を掴んで左右から持ってくると、何ともキューティクルの見目麗しい様相であり、理解したくない現状を段々と理解していく。
「誰だよ、この身体…」
俺はこの日、見覚えのない他人の身体に生まれ変わった。
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