第11話・我々は同じ釜の飯を食べている
その後少しして、土兄ちゃんの両親もやってきた。三家族まとまって食事をする、ちょっとした集団になってしまったのである。
「土打ここにいたんだ? 私たちもいいかしら?」
なんて、彼の母が切り出したのだ。
「もちろん! 一緒にたべましょー!」
なんて、うちの母は来るもの拒まずだ。いや、後入りで食事に参加する家族を誰が拒むのかと言う話なのかもしれない。この言葉も、通過儀礼のようなあまり意味のないものなのかも知れない。
「いやいや、どうもどうも! 三家族集まると、こりゃ賑やかだ!」
土兄ちゃんの、父はそう言いながら、大口を開けて座った。
そして、俺はヒントを得た。“どうもどうも”だ、ありがとうを軽く言っている感じがする。
「だろ? ところでだ、俺の使ってるこの皿。こいつをどう思う?」
そう、俺の作った皿は父によって菊芽両親にも自慢された。自分で作った中ではいいできた。
「おぉ、おしゃれじゃないか! ここに段差が入っていて……角度が変わってる! 作った職人は誰だ?」
俺は、ちょっと西洋のスープ皿をイメージして作ったのだ。前世と言うズルが役に立っている、今のところ唯一の場面だ。
しかし、縄文人よく褒める……。
「ほら、そこに」
そう言って、父はドヤ顔で俺を指さした。
「お、おい!? この子だっていうのか!?」
土兄ちゃんの父は驚き目をまん丸にして、土兄ちゃんを見た。俺のろくろを彼が回してくれるのを知っているのだ。
「一緒に作ったぞ!」
土兄ちゃんがろくろを回してくれるから作れる。神様仏様兄貴様だ。
「がははは! こいつはおでれぇた! 職人って言うからもっと堅そうなやつかと思ったら、見ろぷにぷにだぞ!」
不本意ながらぷにぷにぷくぷくである。仕方ないのだ、俺は幼児なのだ。
「こら! 父ちゃん! 海星のほっぺたつつくな!!」
なんて、土兄ちゃんが止めてくれた。やはり持つべきは、近所の兄貴分である。
「だってよ? お前はもうぷにぷにじゃないんだぞ……」
そう言いながら土兄ちゃんが今度のつっつきの対象になってしまう。
「俺のほっぺをつっつくな……」
土兄ちゃんはちょっとうざったそうにしていた。
「沼稲ぁ! 土打が反抗期だァ……!」
土兄ちゃんの母は名前を
「あなたがほっぺつつっくからでしょ!」
そう言って、
しかし、人生の長さを考えると、今頃反抗期が来てもおかしくない。しかし、反抗期はホルモン作用だったような……。
反抗期ではなさそうだけど、ついくだらないことを考えた。
「んで、土打! 海星とは仲良くしているか?」
彼の父が尋ねる。
「当然だ! こいつは面白くていいやつだ! こまったときゃ俺が助けてやるんだ!」
なんて、掛け値なしの友情を示してくれる。不思議と、こっちもそう思うんだ。そういう場面ばかり見てきたからかもしれない。
なんだか、善人になった気分でもある。
「土兄ちゃんは、俺にとって最高の兄ちゃんだよ! もうたくさん助けてくれた!」
だから、彼との関係はもうどっちかが死ぬまで続けたい。親友として、兄として、一生仰いでいきたい。
「がぁーははは! よろしくな! ほれ、食え!」
と、土兄ちゃんの父が豪快に笑って俺の皿に食べ物を盛り付ける。
この時代の食べ物は、醤油のない炊き込みご飯か粥である。米がほとんどの日の主食で驚いたのだ。
醤油はない。だが、塩がある。縄文人の驚くべきところ、藻塩を作るのだ。
そんな米は、土兄ちゃんの一家が沼のようになっている湿地帯で栽培している。それを、貝や魚や肉などのタンパク源に、野菜まで加えて煮込むのだ。もはやどこが原始人なのか……。
「ども!」
現代で店を出せるかというと、それは無理だ。でも、雰囲気も含めていくらでも食べられる予感がするから恐ろしい。
「俺の真似か!? 気に入った! もっと食え!」
と、さらに盛り付けようとするのは流石に困った。これで二杯目だ。幼児の胃袋はそんなに納められるようにできていない。
「父ちゃん待て! 海星はまだ四つだ! そんなに食えないぞ!」
と、思っていることを土兄ちゃんが言ってくれた。
では、その俺に盛り付けようとした食べ物がどこに行くかと言うと……。
「じゃ、お前が食え!」
そのまま土兄ちゃんの皿の上だ。
「おう!」
別に悪いことでもない。土兄ちゃんはそのまま、皿で受け止めてすぐ食べ始める。
まさに、男子の食欲だ。
「でかくなれよ! 五尺ぐらいにな!」
縄文人は皆それをいうのだろうか……。
「おいおいな!」
しかし、土兄ちゃんの父は惜しくも五尺に届かない。ただ村一番の背の高さを誇っているから、可能性はある。
俺は無理だ。父は平均的な身長で、五尺に程遠い……。
「なぁ、海星! 食い終わったら、いろいろ行こうぜ! 勝負だ勝負!」
店……なんて言葉も当然ない。祭りの日には余った物資やアクセサリーを賭けて勝負をする。
「うん! 翡翠なんて手に入ったり……」
現代でいうダイアモンドが、この時代は翡翠である。大人たちがひーこら言って形成するのだ。
しかし、こっちは現代でも売れると思う……。ジュエリーショップ級だ。
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