第10話・いつの時代も少女はませていた
焚き火を囲んで踊るのは、いわばオープニングセレモニーのようなものであり穀物が鍋が煮えるまでの暇つぶしだ。収穫祭はこれからが本番である。
「おーい、
子持ちは、料理の優先権があり、生まれた順と逆の順番で食事を取り分ける。大きめの土器にとって家族でそれを囲む。二家族集まってつつくなんてこともざらにある。縄文はユルいのだ、
「取り分けるお皿も持ってきたよ!」
父はその大きな土器を、そして母は小さな皿を持ってきた。
「あ、わーい! って、俺のじゃん!」
こうやって村の中で使われている土器に自分の作品が混じっていると、一端の職人になった気分だ。俺の土器は、取り分ける皿として持ってこられた。綺麗に漆まで塗られて職人冥利に尽きすぎて泣きそうだ……。
そう、驚いたことに縄文人は土器に漆を塗るのだ。釉薬はないけど、十二分な代用である。
「海星はスゲェなぁ……まだ四つなのに」
まだ幼児である。一応ながら……。そのせいで土兄ちゃんにそんなことを言われてしまった。
「その分、力仕事はからっきしだけどね!」
そう、俺には重すぎて使えない道具がごまんとある。農具なんてほとんど無理だ。
「海星はまだ四つだろ!?」
土兄ちゃんはそう言って笑った。
「ははは! だな! 体が五尺に届いたら、使えるさ!」
なんて、父は笑うのだ。しかし、それに関しては俺は言わなくてはいけないことがある。
「五尺って、父さんもそんなにないじゃん!」
一尺は30センチ定規より少し大きいと思う。五尺に背が届く人なんて、ほぼいない。大人たちは大抵四尺半程である。五尺はだから多分、現代人男性くらいだ。
「俺はあるぞ!」
と、腕を組み背を大きく見せようとする。
「じゃあなんで五尺彦って呼ばれないのさ!?」
なんだか現代人と同じ見栄を張ってて笑ってしまった。
「ふふっ、あなたったら……。五尺なのは、背伸びした時だけでしょ?」
それを慈母のように見る母。これはアレだ、旦那の見栄が可愛く見える系女房だ。
そう言いながらも母は、皿に料理を取り分けていた。なんだかんだ、やることはきっちりやる。
「土兄ちゃんも!」
俺はせがんでみた。仲良くしているのだ、一緒に食事をしたい。
「もちろん!」
そう言って、母は次々皿に料理を盛り付けていく。
「え!? いいの!?」
大人に対してだと、子供はちょっと無邪気な言葉遣いをすることが多い。可愛がられるから、そうなるんだと思う。俺が、そうだから……。
周囲がどんな態度でっ接してくるか、それは否応なく俺の態度にも影響を与えるのだ。
「おうともよ! 海星と仲良くしてくれてありがとうな!」
なんて、父は土打彦の隣で豪快に笑っている。縄文のユルさとはこれだ、誰がどれだけ食べただなんて気にしない。だって、食べ物は全員が満腹になる程度にある。
「だって、こいつ楽しいんだもん! 土器作りはうまいし、優しいやつだし!」
縄文人は言葉遣いはちょっと荒い。荒いけど、その荒さが優しいという謎な生き物だ。
「ははは! そうか! そりゃよかった! これからも頼むぜ?」
「言われなくても!」
なんて、二人でバカ笑いしている。俺の目の前で、褒めそやされて慣れなくて、照れくさい。
そんな時、俺には救世主が訪れたのだ。
「一緒にいいかしら?」
声の主を探すと、なんと菊芽の一家が来ていたのだ。料理の壺と、取り皿を持って。
「あ、いいよいいよ! 一緒に食べよ!」
縄文に、心の垣根なんてない。母はノータイムで受け入れた。
「ありがとう! うちの子からね、海星くんに慰めてもらったって聞いたの!」
菊芽の母は返事を受けると座って、料理を取り分ける。量が減ってきたら、一つの壺にまとめてしまうのだ。
しかしながら、菊芽の母が持ってきたのは火焔土器。これは、よそ行きのおしゃれをして来たということになる。
「そうなの? うちの子、優しいのねー!」
救世主が一変、悪魔となって母まで俺を褒める流れに巻き込む。
「君が海星だな? うちの娘どうだ? 妻を見てわかってもらえると思うが、器量のいい娘に育つだろう!」
あ、お父さんは完全に娘さんを俺に嫁がせる気です。
よく考えてみれば、俺はもしかしたら結婚相手として悪くないかもしれない。一応、村に出回ってる皿のいくつかは俺の作品だし。煮炊きの土器も作っている、二歳児だ。春秋年だから四歳だけど……。
「あ、いえ。既に非常に可愛らしく、向上心もお有りで素晴らしい娘さんです。しかし、若輩に過ぎ、まだまだ気の早い話。これから良き出会いもございましょう……」
ついつい、前世のように喋ってしまった。縄文語の言い回しは非常に多い。同じ意味の言葉がいくつもある。その中で俺が使ったのは、主様が他の集落から来た使者に使う言葉だった。
「お前、交易言葉まで使えるのか!? 天才だな! んで? どういうことだ?」
それは使えないのが一般的であり、理解できない人も多い。
「まだまだ気が早いってよ! 四つだぜ? 俺は心底惚れて、
父よ……なんという超意訳をするのだ。そういう体で、一旦断って本人の気持ちを優先しようとしたのに……。建前として、菊芽ちゃんを褒めた部分が超強調されている。
大体、恋愛はまだまだ早すぎる。
「お前以上にいい男はいねぇはずだぜ!? ほれみろ、
そう言われて、菊芽ちゃんを見るとぺたんこ座りをしていた。なんとも可愛らしい。いや、幼児的な可愛らしさである。
まだ、早すぎる……と思うのだが……。
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