第7話・時には無理やり踏み出してみるものである。
粘土遊びをする子供たちもその頃にはいろいろ集まってきた。巫女様もいるせいか、今日は粘土遊びが一番人気だ。
でも、本当に子供というのはおかしなものだと思う。
「うっぐ……えっぐ……」
ぐちゃぐちゃの粘土を前に、急に泣き出してしまったり。
「おーおー、どうしたいどうしたい? 聞かせておくれ……」
大人たちも遊んでいるのか働いているのかよくわからない。お互いの出来を褒めたり、納得がいかないと壊してしまったりもする。
そんな中で、まず真っ先に立ち上がるのが巫女様だ。
「できない……ッ!」
幼児、まさかの漢泣きである。
「うまくできないって泣いてるのかい? そりゃ、大変だ! だって、比べてる相手が大人だもの」
そう言って、巫女様はカカと笑う。でも、彼は指さした。俺の作っている無紋土器を……。
「アレ!!!」
「お……おう……どうするかねぇ……」
と、巫女様は頭を抱えてしまった。
今泣いているのは、いわば俺の兄弟のわけである。同じ村の、よく同じ釜の飯を食う兄弟だ。
「い、いいか兄弟!? あれを見ろ!」
俺はその幼児に向かって言いながら、巫女様の作っている火焔土器を指差す。
「へ……!?」
俺の少し大きな声、驚いて幼児は涙を引っ込めていた。
「次に兄弟! 自分の石の上を見ろ!」
そこには、自分なりに形を整えようとして粘土を輪っかにして積み上げていた。
「う……うん……」
それをジッと見つめている。訳も分からなそうに……。
「兄弟! 俺よりでっかい土器を作れるぞ! 力を合わせないか!?」
ハッとしたのだ。大きな土器を作る方法が、彼の手元の積み上げられた輪っかで思いついた。発想の敗北、そして彼の飛躍。まさに天啓だ。
「う……うん?」
勢いだ、勢いで押そう。俺が作れるのは小さな土器だけ、昔ちらっと街中で見た陶芸教室の真似事から練習して今に至る。
細い紐のような粘土を足していくなんて考えもしなかった。
「土兄ちゃん!」
ろくろを回して付き合ってくれる、年長の兄貴にも声をかける。
「え!? おう!」
戸惑わせまくっていた。でも泣き止ませるという目的は果たした。
「兄弟! この粘土一本くれ!」
子供は可愛いけど、慰め方なんてわかるわけじゃない。子供と触れ合う経験なんてほとんどない。もう、勢いだ。俺も今は一応子供だ、構うもんか。
「うん……」
うなづいたのを見て、一本貰う。
「土兄ちゃん! 回して!」
ツボに手をつけて、びしょびしょの手で接合部を慣らしていく。土器が高くなる。
「兄弟! もう一本!」
なにか、うまくいく気がした。
「うん!」
今度は、その幼児が俺の土器の上に乗せてくれた。
「巫女様よりでっかい土器作るぞ!」
心の中では祈っていた。
「うん!」
「おう!」
しかし、二人ともノってきてくれた。いつの間にか鳴き声はない。突然泣き出したのでどうなるかと思ったけど、なんだ俺もやればできるじゃないか。
「兄弟!」
「うん!」
そこからは阿吽だった。
「土兄ちゃん」
「おうとも!」
幼児に粘土を足してもらって、土兄ちゃんにろくろを回してもらう。土器は育っていった。
「待った! ちょうどその大きさの土器が欲しい!」
なんて、巫女様に止められるまで続いた……。
「あ、はい……」
そこで土兄ちゃんがろくろを止めて、俺も手を離す。
「おぉーこりゃいいねぇ……ちょうど欲しかったよ! 乾かして焼くからね!
と、久しぶりに焼いてもらえる土器が出来上がったのである。というのも、小皿を作っては自分で潰していた。小皿ばかりいくらあっても仕方がないと思ってだ……。大きくする方法には悩んでいたのだ……。
「へへへ!」
終わったとき、幼児は笑っていた。
「やったな! 兄弟!」
熱い青春を、こともあろうか二歳児で経験したつもりで、しかも巻き込んでいた。
「あぁ……
しかし、二歳児の男女なんて俺にはわからんのだ。通りで小手先が器用だと思った。
というか土兄ちゃんが言ってくれなかったら、知らないままだったのだ。
「土兄ちゃん……ちょっと後で話そうか……」
しかし、偶然とはいろいろ恐ろしい。というか、それは必然だったかもしれない。
「おう、ちょうど
と、受け入れてくれたのだ。
「ん?」
俺の紳士さを知らぬは
「やるなぁ! お前ら!!!」
でも、上機嫌のマナおじさんが乱入してきてくれて話が上手くまとまった。
「巫女様ー! 土版って足りてる?」
両親はあずかり知らず、でも……。
「それよりも、お前の息子が煮炊きの土器作ったぞ!」
なんて、知ったら駆け寄ってくるのだ。うちの両親は基本的に真面目で、よく働く。きっと俺の分村に負担をかけていると思う部分もあるのだろう。
「そりゃすごい! 見せてくれ!」
「私も!」
なんて、大人が数人集まったものだから、なんだなんだと次々さらに集まる。
結局、俺は村の最年少土器職人として名を挙げることになってしまった一件だった。
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