True Eye 【season1】 -War 16- Thunderbolt PART V

【Phase1:魂の牢獄】


ミサイルサイロ/制御塔γ


隊員:一ノ瀬 咲夜


自由になりたい


そう思い始めたのは遠い昔の事だった


それは今でも変わらない


時には銃を手放して平穏な世界で生きたい


夢にまで見るくらいだ


しかし現実は非情にもそれを許してはくれない


傭兵


力を持った人間


一度力を持った人間はその力を捨て去る事は限り無く不可能に近い


初めて銃を握った時


それまでの自分は死んだのだ


あの時


銃を握る時に誓った


必ず平和な世界を実現すると


力を持たなかったそれまでの自分との訣別


銃を握った時


最初に銃口を向ける相手


それは自分自身だ


今までの自分を殺しもう後には戻れなくする意味合いを兼ねている


それ故に私ら傭兵は傭兵となったその日が新しい誕生日となる


その誕生日が命日になる奴も珍しくない


祝う意味での誕生日ではない


寧ろようこそこちら側へという意味合いの方が強いだろう


だが私の様に人生で2度も誕生日が変わった人間もそうはいないだろう


初めて銃を握った時


そして2度目はTE部隊を結成した時だ


その時から私はまるで人が変わったかの様だった


…いや戻ったと言うべきなのだろうか


あの時からだろう


TE部隊結成の2年程前


日本陸軍に所属していた頃だ


当時の私はただの兵士で今の様に隊長なんかには程遠い実力だった


力が欲しかった


平和を実現したい


そんな絵空事を現実とする為には力不足もいいとこだった


今思い返すとあの頃の私は相当な変わり者だったのだろう


中立国である日本は戦争の影響をあまり受けず,訓練に次ぐ訓練


いずれ戦争下に陥った時の為にとひたすらそれの繰り返しだった


だが戦争でなくとも極めて悪質なテロ組織が度々事件を起こし,その中には妖の姿もあった


その為警察組織では対応不可能と判断されて陸軍にまで要請が来る様になった


人を殺して金を貰う仕事


引き金を引くのを躊躇った事はなかった


相手は悪党だ


殺せば平和の実現に一歩近付く


正義の裁きだと自分に言い聞かせて


盲目の状態で正義という名の殺戮を行っていたのかも知れない


私が銃口を向ける全てが悪だ


いつしか考える事を放棄していたのかも知れない


敵を殺す


ただそれだけを思い作戦に身を投じていた


だがあの時だ


あの時から全てが変わった


初めて日本で姿を確認された角と翼の生えた奴


大勢の部隊が作戦に投入された


私の部隊もその内の1つだった


この時私が銃を向けたのは敵ではなく,かつての仲間達だった


奴らの能力は人を意のままに操る能力


数多くの部隊が奴らに利用されこちらへと攻撃を仕掛けた


攻撃を仕掛けてくる


しかし操られているだけに過ぎない


それは本当に敵と呼べるのか?


引き金を引くのを躊躇った


だがそれも一瞬だった


私の中で何かがぷつりと切れた気がした


相手は操られた仲間


だがこちらへと攻撃をしてくるのなら…


敵だ


悪だ


抹殺対象だ


1人,また1人と引き金を引いては頭を撃ち抜いていく


何を難しく考える必要があるのだろうか?


作戦の最終目標は角と翼の生えた奴の抹殺だ


それならばその作戦の障害となる者は全て悪だ


かつての仲間だろうと関係ない


それは過去だ


重要なのは今だ


私はがむしゃらに戦った


そしていつしか同じ部隊の仲間は誰もいなくなっていた


そうして辿り着いた


奴の元へと


…そう,奴の元へと辿り着いた筈だった


「来ちゃったんだ…咲夜……」


「由佳……?」


私は目を疑った


一連の奴らによる騒動


表向きにはテロリストのテロ行為


その真相は角と翼の生えた奴による日本侵略


だが私の目の前にいたのはあろう事か私の恋人の由佳


…いや,恋人だった…由佳だった筈の…奴らだった


「何を考えてるかよく分かるよ,うん,咲夜はすぐに顔に出るからね…そしてその考えは合ってるよ…」


「私を……騙したのかっ…!!」


「違うでしょ?騙した…じゃなくて…咲夜が私を好きになっちゃった…でしょ?私はその好意を受け入れた…それだけだよ」


あろう事か


私の恋人は…


私が好きになった人は…


「そんな……こんな事って……」


怒り


混乱


絶望


あらゆる負の感情が私の心を満たした


呼吸が荒くなる


視界が歪む


まるで病気になった様に体温が急激に上がっていった


「ねぇ咲夜……死んで……!!」


私は何も出来なかった


向けられる銃口に目をやる事も出来なかった


…そう


私は1度死んだ


この時


この瞬間に


それだけは覚えている


鋭い痛みと頭部を貫く感覚


そして忘れる訳もない


自分を殺したかつての恋人の由佳がとても悲しい表情をしていた事までも


不思議な体験をした


死んだ後にどの様な事が起こるのか


私はそれを体験した


身体から魂が離れて幽体離脱の様な感覚に陥った


倒れ込み血を流す自分の死体を眺める事が出来たのだった


しかしそれも僅かな時間だった


次の瞬間には私はどこかも分からない場所を漂っていた


明るくて暗い


冷たくて暖かい


その場所を形容する言葉が見当たらない


だがそういう場所であるという事は理解出来た


それまでの生きてきた足跡


所謂走馬灯という物が私の中を駆け巡った


楽しい記憶


悲しい記憶


それらが一気に押し寄せ


そして気がついた


「ねぇ咲夜……死んで……!!」


「ツッ……!由佳ァァァァアッ!!!」


引き金を引いたのは同時だった


運良く由佳の放った弾丸は私の頬を掠め,私の放った弾丸は正確に由佳の頭部を捉えていた


異なる結末


そう


本来であれば私はあの時死んでいた


しかしそうはならなかった


何故?


そんな事いくら考えても説明がつかない


強いて言うなら極度の緊張が私に幻覚を見せた…というのが1番納得のいく考え方だろう


だが私自身が理解している


これはそんな単純な事ではない


こんな事を言ってしまったらどこか頭がおかしいのかと疑われるだろう


けれど…


恐らく


いや…


私は死に,再びあの瞬間になるまで世界を巡ったと考える


輪廻転生


厳密にはそれに近い事が私の身に起こった


ただ人と違うのは今までの記憶を受け継いでいた事


ごく稀に前世の記憶を持つ人間がいると聞く


そのごく稀の1人なんだろう,私は


しかし妙なのは何故世界が一巡したのに再び同じ事が起こるのか?


…もしかしたら世界はループしているのではないかとも考えた


しかしそれも完全に同じという訳でもないらしい


少しずつ


変化が起きながらも世界は同じ道をただひたすらに回っているだけに過ぎないんじゃないのか?


「……どうした咲夜?」


「…ルイス,こいつにしよう」


再びこの事を考えたのはそれから数年後の事だった


私は日本陸軍を離れて様々な地域で傭兵として生きてきた


そしてルイスと出会い,互いに共通の目的を持つ仲間としてTE部隊の設立に関わった


そして私は迷う事もなく1人を隊員へと抜擢した


それがVだ


幾度となくこの選択をしたのではないかと錯覚した


デジャヴ


まだ体験した事がない事がまるで体験した事のある様な感覚に陥る現象


私はこのデジャヴという感覚を度々感じていた


それは私が記憶を持ちながらこの世界を何度も生きているからなのだろう


こんな事誰にも言える訳もない


言ったところで頭を疑われるのがオチだ


ただ全てがこのデジャヴに陥るという訳でもないらしい


普段の生活


傭兵としての任務


それらでこの様にデジャヴを感じた事はない


同じ世界をループしているはずなら感じてもおかしくはないと思うが一切なかった


時々自分はおかしくなっているんじゃないかと思った事もある


だから私はなるべくこの事を考えない様にしていた


…半年前までは


半年前から私は再びこの疑問に頭を悩まされる事となった


その要因が零音という存在だった


度々零音はまるでその後に何が起こるのかを知っている様な口振りをしている事が多く見られた


そしてその多くが実際に起こった


今回の雷鳴重工の攻撃


それも零音が言う備えるべき戦争であった


似た物同士だった


しかしその事を話し合った事はなかった


それは話したところで答えが見つかるとは到底思えなかったからだ


何故私がこの様な現象に陥ったのか


それは重要な事ではなく,私がどうするか


その方が重要な事だったからだ


世界はループしている


そして私は死んだ時


再び自分が死ぬその時まで世界が巡り,生き延びる


それは即ち自分が選択しなかった世界を歩んでいる事に他ならない


私と言う存在は生と死の狭間にいる存在


そして死の選択を行えない


死んだとしても再び世界が一巡してその場へと戻る


これではまるで生きているのに死んでいる様な感覚だ


亡霊という呼び方の方が似合っているのかも知れない


だが私は生きている


少なくとも私は生きていると思いたい


奴らの存在が今この瞬間にも世界を破滅の道へと歩ませている


それを阻止する


それが恐らく私という人間の役割なのだろう


今こうして私が前へと進んでいるのは生きているだけという理由ではない


戦争をなくしたい


仲間を守りたい


平和を実現したい


…再び由佳と幸せな暮らしに戻りたい


時間が巻き戻せるのならと思った事は多い


あの時


あの頃へと戻りたい


戦争のない世界


それならきっと今でも一緒に…


「…ツッ!」


「過去を思い返して夢に想いを馳せる…人間なら誰しも1度は経験する事…しかし戦場で見かけるのは稀ですねぇ?」


「零音ッ…!!!」


目の前に現れたのは零音だった


確かにあの時死んでいた筈…


『…ちら………こちらコノエ,先程零音のホログラムに妨害された…繰り返す,先程零音の……』


コノエからの無線


なるほどな,零音の罠という事か


「ホログラム…時間稼ぎか…」


「えぇ,私の目的の1つは時間稼ぎですよぉ?しかし咲夜隊長,貴女は別の理由がありましてねぇ,だからこうして特別に…」


零音が歩み寄る


そして手を伸ばして,私の体へと触れた


「なっ…!?」


「…この通り,ホログラムではなく私自身がここへと来ました」


ホログラムであるなら実体はない


だが今目の前にいるこの零音は私の体へと触れた


その感触は紛れもなく本物だ


どういう事だ?


確かに零音は死んだ筈だ


あの場にいた全員がそれを確認した


頭部を大きく損傷して心臓の鼓動が止まっているのも確認した


生きてる筈がない


「生きている筈がない…しかし生きている,同じ…とは言いませんけど」


「何が言いたい…いや…何故ここに来た…零音ッ!!!」


「はぁ…本当に質問ばかりですねぇ?けれどそれも無理はないでしょうねぇ」


零音の目的は私らがミサイル発射を阻止するのを邪魔する事


死して尚私らの妨害をする


しかし目の前にいるのは一体誰だ?


死んだ者が蘇る


あり得ない


仮に蘇ったとしてもここへはどうやって来た?


到底時間が足りない


だとするのなら…


拠点にいた零音は偽物だった?


可能性としては低くはない


そして何よりも目の前にいる零音の事を私の脳が本物だと発して止まない


「かつて世界は複数存在した,しかしある時を境に世界は滅びの道を辿り1つに統合された,その世界が今まさに私達が存在しているこの世界に他ならない,そう…この世界は統合された世界,元々は誰かが創り出した世界であった筈なのにそこへ様々な世界が混ざり,溶け合い,融合し…そして致命的な欠陥を生む事となった…謂わばそれは世界のバグとも呼べる存在…存在しない筈の人間…記憶…歴史…心当たりがないとは言いませんよねぇ?」


「…何が言いたい…」


「…V,荒川,ソフィー,カルネスヴィーラ…これらの人物はその一部…私という存在も含めてこの世界のバグとも呼べる影響を受けてしまった方達…それは例えるならそうですねぇ…神の悪戯…とでも言っておきましょうかぁ,その気まぐれな神はバグという存在に気が付きながらも敢えて放置した…この意味は分かりますかぁ?」


「…意味不明だ,くだらない話で時間稼ぎか?零音ッ!!」


「…やれやれ…期待はしていたんですけどねぇ…やはり"後継者"でもない貴女には到底無理な話だったんでしょうかねぇ?それならここで終わらせてしまっても…良いのかも知れませんねぇ…っ!!」


「ぐっ…!?」


速い


だが反応出来る速度だ


いくら近接戦と言っても私にだって近接戦の心得がない訳じゃない


ましてや零音を訓練した1人でもある


「こうして見ると懐かしく思いませんかぁ?TE隊員として仲間であった頃…よくこうして訓練をして貰っていましたねぇ,そして咲夜さんが褒めてくれた事もしっかりと…ねぇっ!」


不味い


このやり方は…


「ツッ!?」


「…ちっ………」


バリスティックナイフ


それとナイフ格闘術を併用した戦闘方法


私とシルヴィアが提案したものだ


確実に近接戦で敵を仕留められる様にと


死んでいた


今のが確実に決まっていたら


しかしそうはならなかった


「外したか」


「…やはり来ましたねぇ,亡霊」


「来るも何もここへ来る理由を作ったのはお前だ,零音」


「バウンティハンター…オルク…」


間違いない


中国で交戦したバウンティハンターのオルクだ


オルクの放った一撃が間一髪で私への攻撃を防いだ


しかし何故だ?


何故この場所にいる?


「話が読めないって顔だなTE部隊隊長一ノ瀬 咲夜,安心しろ目的はあんたらじゃない,まずは目の前にいる詐欺野郎からだ」


「おかしいですねぇ?私が出したターゲットは別の方だったと思いますけどぉ?」


「はっ!自分は懸賞金が懸けられないと思ったか!!」


「……………」


話が見えない


だが少なくともオルクは零音と敵対していて,私とは敵対していない


バウンティハンターが動いているという事は懸賞金が懸かっているからか?


だとしてもここへ来た理由の説明にはならない


会話の内容からすると恐らく懸賞金の懸かっているのは雷鳴重工のメンバーだろう


だがこの場所へ辿り着く事までは出来ない筈だ


私らが作戦を立てて謂わばこの場所を突き止める為に誘導した


ここに雷鳴重工のメンバーがいるという事は私らしか知り得ていない情報だ


分からない


零音が生きている事も,オルクがここへ来た理由も


だが今は…


「ツッ!!」


「へっ,足は引っ張んなよ!」


「…手を組む……面白いですねぇ」


オルクはバウンティハンターの中でも手練だ


手を組めば零音くらいなら簡単に倒せるだろう


「やれやれ…どうしてこうも…予想していた面倒な展開へと悉く進んでいくんでしょうねぇ…」


「知るかよ!すぐに面倒じゃなくしてやるからなぁっ!」


「いい加減抵抗は辞めたらどうだ?零音」


「……………」


2人がかりだと言うのによく持ち堪える


決定的な一打が与えられない


「気付いていますかぁ?武器を下せ,抵抗を辞めろ…と,おかしいですねぇ?敵である私を殺す事から生かせる事に変わっている事に…まるで本心では私を殺したくない…殺してはいけない…そう思ってるみたいですよ…ねぇッ!!」


「あぐっ!?」


「おやおやぁ,少し力を入れ過ぎてしまいましたかねぇ」


くそっ…なんだ?


骨が折れた


たった一度の蹴りで…?


それもこれまでの物とは違う重い一撃だった


それに零音の口振りからしてまるで本気で戦ってもいない様な…


手加減していようが本気だろうが,今の一撃は紛れもない…人間の力ではなかった


「さて…そろそろ終わりにして」


「喋り過ぎだ,詐欺野郎」


「は……ははは……ついつい忘れてしまうんですよねぇ……私とした事が……」


「くたばれ,零音」


確実に頭を撃ち抜く


自らの手で


「……………」


倒れ込む零音に更にライフルで銃弾を浴びせる


殺した筈だった


そして今度こそ確実に殺しておく


「はぁっ……はぁっ………」


「…おい,とっくに撃ち切ってる,やめろみっともない」


「……あ……」


「…相当応えてるな,お前」


殺した


それだと言うのに何故だ


この空虚なまでの感覚は…


確かに,私自身の手で殺した


間違いなく,目の前にあるのは零音の死体だ


腕は千切れ,足にも夥しい銃弾を浴びせられかろうじてくっ付いている


頭は既に原型がない


例え妖であってもここまでされて生きていられる存在はいない


確実に死んでいる


だと言うのに何故…


何故私には零音が死んだとは思えないんだ…?


「おい,何ボサっとしてるんだ?」


「あ…あぁ悪い……なんでもない…」


「何でもねぇ感じには見えねぇんだが?まぁいい…お前がやらねぇなら俺が代わってやろうか?」


「代わる?冗談でも言ってるつもりか…?」


「…どうだかな,どのみちお前らと会うとは思わなかった」


「オルク…お前の目的はサクヤか?」


「あぁ,奴には多額の懸賞金が懸けられた,懸賞首を狙うのはバウンティハンターなら普通だろ?」


「バウンティハンターなら…な」


「……………」


「亡霊…そう呼ばれていたな…何故亡霊と呼ばれてる?」


「………耳はいいみたいだな」


「答えろ,亡霊と呼ばれてる理由を」


「……目的よりも俺らが亡霊と呼ばれてる理由の方が気になる…ねぇ……まぁ減るもんじゃねぇし教えてやるよ」


亡霊


零音は確かにそう言った


亡霊とは死者の魂の事を指す


亡霊と呼ばれた狙撃手がいたのは知っている


だがそれはあくまでも亡霊の様に気配を出さずに対象を撃ち抜く様からそう呼ばれていた


そう呼ばれているのには理由がある筈だ


ましてや零音がそう呼んでいた


何かあるに違いない


「…俺らはこの世界の人間じゃない…ってのが奴の見解だ,いや…正確には俺達はかつてこの世界が存在する前の世界に生きていた存在らしい,何が起こったのかは分からねぇが俺達はある時突然この世界に呼び起こされた,俺達は断片的な記憶しかない,元々この身体の持ち主がいたのかどうかも分からねぇ…零音が俺達を亡霊と呼んでいた理由はそれだろうな」


「俺達…という事は複数…他のバウンティハンターか?」


「あぁ,4人…いや,1人は死んじまった,バウンティハンターとして動いてるのは俺を含めて3人,そして他にも2人同じ様な状況の奴がいる」


「断片的な記憶って何なんだ?」


「…おかしな事を言ってると思うかもしれねぇけど…カルネスヴィーラ,TE隊員の1人だろ?あの時中国でも交戦した…だが俺達の中の断片的な記憶では…奴はかつて仲間だったんだ」


「仲間…?」


「おかしな話だろ?初めて会ったのは中国のあの時だ,それなのに俺達の記憶はそれよりも前からあいつを知ってたんだ,それも敵ではなく仲間としてな,同じ組織に属して背中を預ける仲だった…」


「…そんなはずはない…だってあいつは私らの…」


「そう,お前達の仲間だ,TE部隊でもない俺達の仲間である訳がない,だが考えられるか?俺達全員が同様の記憶を持っている,じゃあこの記憶はなんなんだ?」


「…………」


存在しない記憶


それは私の感じるデジャヴとはまた別の物だ


そもそもがあり得ない記憶だ


TE部隊にオルク達が存在した記録はない


何よりも最初期からいる私が知らない訳がない


「無理もねぇ…こんな話をされてもな,事実がどうであれ俺達はあの死刑囚とはどうも他人とは考えられねぇんだ」


「…死刑囚?」


「…カルネスヴィーラは死刑囚だろ?」


「…カルネスヴィーラは死刑囚じゃない,元世界政府の実験体だ…詳しくは話せないが…」


「……どうやら俺の持ってる記憶のカルネスヴィーラとは別人みてぇだな…」


異なるカルネスヴィーラの記憶


それではまるでカルネスヴィーラが2人存在している様な言い方だ


…それかオルクのいう事を信じるのであれば…


この世界が存在する前の世界?


その世界にもカルネスヴィーラが存在していて…私らの様に仲間だった…という事なのか…?


…到底信じられない話だ


この世界よりも更に前の世界…?


……いや…あり得ない話ではないのか


私が死んで,再び意識を戻した時


世界は一巡している


言い換えれば私は死ぬとその世界が消え,また新しい世界で私は目を覚ます


この時点で世界は複数存在している事の証明に他ならない


私が認識出来ない世界があってもおかしくはない


そう考えると同じなんだろう,私とオルクという存在は


死ぬまでの記憶を引き継いでいる


違いがあるとすれば断片的な記憶しか持っていないオルクと違って私は全ての記憶を持っているという事だけだ


「…さっき他にも2人いるって言ってたな…あとは誰なんだ?」


「1人はゾイ・ソース…所謂工作兵だ,暫く別行動していたが今は行動を共にしている,そしてあと1人…立場上は俺達の指揮官…って事になるか,名前は黒崎…そしてーーーー」


「これ以上話させる訳にはいきませんねぇ」


「しまっ…!?」


油断していた


死んだと思い込んでいた


いや…死んでいた


予測出来ていた筈だ


自分と同じ存在が他にいる可能性を


死んで尚も生きる存在を…ッ!


「この場はここまで…」


《また会いましょうねぇ…神の子》


消えた


比喩なんかじゃない


零音とオルクの姿が一瞬で目の前から消えた


まるでその場に最初からいなかった様に


零音の死体があった場所にも何も残されていない


流れた血すらも…


「……………!!」


サイロに轟く駆動音


しまった


ミサイルの発射に向けて機械が作動を始めている


考えたくはないが発射阻止が間に合わない可能性だってある


私がここで立ち止まっている訳にはいかない


今は仲間達を信じ,拠点に残る仲間を救う為に自分のやれる事をやる


それだけが目的だ


…そして今はそれだけを考えるべきだ


もしかしたらそうする事で自分を納得させているのかも知れない


考えたくなかったのかも知れない


零音の残した言葉の意味を


神の子という言葉の意味を


【Phase2:閉ざされた世界】


ミサイルサイロγ/管制室


「……………」


「…隠れもせずに待っているとは恐れ入ったな…サクヤッ!」


「…声も掛けずに撃たないとはこっちこそ恐れ入ったよ,咲夜」


サクヤはただ待っていた


いや…迎え撃っていた


私が引き金を引けなかったのはただ待っていたからではない


隙が見当たらなかったからだ


撃とうと思えば撃てた


だがそうしなかった


自分自身でも形容する事が出来ない


だが…撃てなかった


「ここにはお前が来ると分かってたよ咲夜,それも1人でな,いや…1人で来なければならなかった,違うか?」


「……………」


「黙るって事は図星だろ?温ぃな相変わらず…何故サイロ諸共吹き飛ばさなかった?仲間を救うんだろ?それならここら一帯吹き飛ばしちまえば私の最後の手段である零も誘爆するだろう,結果的に打たれる事もなく私ら全員死ぬ…違うか?」


「……………」


そうだ


単純に考えれば分かる話だ


私らに向けて放たれるミサイル兵器零


無力化するのであればそのミサイル諸共ここを爆破する


そうすれば雷鳴重工のメンバーも死は免れない


大陸の大部分の消滅はすれど結果的にTE隊員に被害はない


本来ならそれが最も確実な手段だ


だがそれをしなかった


出来なかった


全員がそうだった


そうする事が確実であると分かっていながらも


こうしてここへと集った


それは理由がある訳ではない


ここに来るという事が"決まっていた"だけだ


「…………」


「話すのは嫌いだったか?どうせ結果は何も変わらない,私は死ぬ,そしてお前もな,誰も死からは逃れられない,死を受け入れなければ得られない物だってあるもんだなぁ…咲夜」


「何が言いたい」


「生と死は最も分かりやすい世界の境だ,境の先はその世界へ足を踏み入れた者にしか分からない,私は死の世界へと足を踏み入れた,そして手に入れたのさ,力ってやつをな」


「…まだ力に拘ってるのか…サクヤ」


「力が無ければ何も出来ない,生きる事だってな…今となっては感謝すらしてる,あの時私を殺してくれて本当に良かった,こいつはその礼さ…お前達が与えてくれた力をお前達に身をもって味わって貰いたくてな」


「礼を言われる筋合いもお前の力を見せて貰う筋合いもないっ!!!」


「ぐっ……ふ…………ふふふ………」


「何っ…!?」


引き金は引いた


狙いは外さなかった


「今となってはこんな程度か…お前の力ってのは……ふははははははは!!情けないな!咲夜ッ!!!」


来る


ライフル二丁


独特の構え方


「なんだ…!?」


感じた違和感


普通じゃない



これは…死の力だ…!


「へぇ…意外と動けるな」


避けれたのは幸運だった


当たっていたら死んでいた


これが…サクヤの力か


「理解したみたいだな,そうだ,これが私の力だ,死の力…それは殺す力じゃない…消滅の力だ」


サクヤの放った弾丸


肝心なのはその着弾地点だ


咄嗟に私は避けた


そしてそれは正解だった


何故ならば着弾地点には何も残らなかったからだ


まるで空間そのものが消えている


消滅の力


そうか…この力は…!


「そうだ,この力を転用したのが零だ,万物の原理と異なる性質を持つ反物質,それこそが消滅の力だ,人間にはこの力を制御する事は不可能だ,私だけが唯一この力を制御出来るただ1人の人間だ!」


ありとあらゆる物を消滅させる力


厄介な力ではあるが…


「終わりなんだよ,なぁっ!」


「…!!!!!」


サクヤが行ったのはあろう事かミサイルの発射ボタンを押す事ではない


起爆装置のボタンだった


「考えたさ…いくら力を持っていようと,いくらこちらが上であろうと…決して油断はしない,お前なら必ず手段を行使する,だから潰すんだよ,お前ら全員をな」


止まらなかった


サクヤの言葉を聞きながら最後に見たのは


ミサイルが起爆して全てを消滅させていく光景だった



























































































































































上も下も


左も右もない


何もない


ここはただの空間だった


真っ白な何もない空間


そこに私達はいた


「サクヤッ…!」


「驚いたな…消滅したこの空間でお前を見る事になるとは」


消滅した空間


何もない空間


虚無


無の空間


矛盾した空間



無と言うのにここには様々な物がある


思念とでも言うのだろうか


脈動すらも感じる場所だ


「…ここは原初の場所だ,何も存在せず…誰かが何者かになろうとする場所」


「……随分と落ち着いてるな…さっきまでとはえらい変わり様だ」


「言っただろ?ここには何もない,怒りも憎しみも…悲しみも喜びもな…」


「……………」


「ありのままでいられる…何にでもなれる…何でも出来る…そういう場所なんだここは」


「…お前は一体…」


「……今なら全てを話してもいいかも知れないな咲夜…」


《初めは何も無かった,ある時まではひたすらにこの真っ白な虚無の空間しか存在してなかったんだ》


《最初のきっかけは些細な事だった,好奇心か興味本位か…理由は何であれこの虚無の空間に最初の存在が生まれた》


《それを形容する言葉があるとするなら…神…という呼び方が1番しっくりとくる呼び名だろう》


《1人の神が物語を紡ぎ始めた,それは壮大でまるで世界そのものだった》


《始まりがあれば終わりもある,やがてその物語は終わりを迎えた》


《終わりを迎えた物語は静かに閉じられた,するとまたこの空間へと戻る》


《何もない…いや…何もなかった筈のこの空間,何かが増えた訳じゃないのにその空間は以前の物とはまるで別の物だった》


《幾つもの物語が紡がれた,始まり…終わり…また始まる…それが幾度となく繰り返された》


《…しかしある時だった》


《始まった物語は必ず終わりを迎える》


《しかしそうはならなかった》


《これは神自身も思いもしなかった事だったのだろうさ》


《…そう…物語が途切れたんだ》


《ある地点を境に…そこから先が真っ黒に塗り潰された》


《未完の物語…として刻まれた》


《その物語が再び動き出す事も…》


《この空間に戻ってくる事も…なかった》


「…本来ならそれで終わった筈だった,未完の物語として…ページに刻まれた物語は鼓動を止めていった…」


「……けどそれじゃぁ…」


「そう…動く事すら出来ないと思っていた…けれど動き出したんだ…再び…」


「……まるで世界が物語の様な言い方だな」


「…間違ってはいないさ…世界…物語……それは呼び方が違うだけの事…世界は物語であり物語もまた世界なんだ」


「…じゃあ……私らは一体なんなんだ…?」


「…世界に生きる人々…物語における登場人物…」


「……そんな話を信じろって言うのか!?」


「信じる信じないは関係無い,それが真理だからな…人間は食べ物を食べて…寝て…それが当たり前の事,それと同じなんだよ」


「……………」


《ここから先はあくまでも私の推測に過ぎない》


《再び動き出した未完の物語》


《それはきっと神が諦めきれなかったんだろう》


《再び動き出した物語…だがそれは途中からではなくまた最初の地点へと戻った》


《未完の物語は今尚未完のままだ》


《そう…世界は2つ存在してしまった》


《悩んだ末の苦肉の策》


《0ではなく1からの創造》


《そうして再び世界は1つになった》


《記されていた言葉は未完の物語》


《まだ完成はしていないんだろう》


《けれどおかしな事が1つあった》


《…それは最期のページ》


《本来であれば終わりを意味する場所》


《そこには刻まれていた言葉があった》


《True Eye》


《真実の目》


《目を閉じていたままじゃ物語は紡げない》


《目を閉じていたままじゃ先へも進めない》


《目を閉じていたままじゃ終わる事も出来ない》


《分かるか?》


《それは誰かに向けた言葉じゃなかったんだ》


《全てだよ》


《全てに向けた言葉だったんだ》


《私もこの言葉を知った時は笑うしかなかったよ》


《だってそうじゃないか》


《目を開いてるだけでは真実の目とは呼べない》


《あろう事か私が今まで見てきたものは目を閉じた状態で見てきた物だったんだと気が付いた》


《そしてようやく理解出来た》


《私じゃないんだと》


《私は成れなかったんだ》


《その証拠が今ここにいる私自身さ》


《けれど…ここにいるのは私だけじゃない》


《「ここにはお前がいる」》


「私が……?」


「…そうだ,思えば最初からそうだったんだ,それも仕方ない…人には向き不向きがあるからそれと似た様なものなんだろうさ」


「どういう事だ…分からないんだが…何が言いたいのかも…」


「分からなくていい,分からなくて当然だ,分かっていたらそれこそ滑稽な話だしな」


「ちょっと待ってくれ…まだ何もーーー」


「これだけは忘れないでくれ…背けるな,この世界の真実から…」


ここへ来るのは最期でいい


そうさ


本来ならここへ来る事自体がおかしな話だ


「なぁ…これで良かったんだろ,神様」


【Phase Shift:向かうべき先へ】


ミサイルサイロγ/管制室


「……………」


「…隠れもせずに待っているとは恐れ入ったな…サクヤッ!」


「…声も掛けずに撃たないとはこっちこそ恐れ入ったよ,咲夜」


サクヤはただ待っていた


待っていると思っていた


殺すつもりなら既にここへと辿り着く前に私は死んでいた


私が今引き金を引けなかったのはこの時はまだ撃つ必要がないと判断したからだ


隙が見当たらない…というのも要因の1つだろう


撃とうと思えば撃てた


だがそうしなかった


自分自身でも形容する事が出来ない


だが…結果的に撃てなかった


「ここにはお前が来ると分かってたよ咲夜,それも1人でな,いや…1人で来なければならなかった,違うか?」


「……………」


「黙るって事は図星だろ?温ぃな相変わらず…何故サイロ諸共吹き飛ばさなかった?仲間を救うんだろ?それならここら一帯吹き飛ばしちまえば私の最後の手段である零も誘爆するだろう,結果的に打たれる事もなく私ら全員死ぬ…違うか?」


「……………」


そうだ


単純に考えれば分かる話だった


私らに向けて放たれるミサイル兵器零


無力化するのであればそのミサイル諸共ここを爆破する


そうすれば雷鳴重工のメンバーも死は免れない


大陸の大部分の消滅はすれど結果的にTE隊員に被害はない


本来ならそれが最も確実な手段だ


だがそれをしなかった


出来なかった


全員がそうだった


そうする事が確実であると分かっていながらも


こうしてここへと集った


それは理由がある訳ではない


ここに来るという事が"決まっていた"だけだ


そしてここで何をするべきなのかも,全員が理解していた


「…………」


「話すのは嫌いだったか?どうせ結果は何も変わらない,私は死ぬ,そしてお前もな,誰も死からは逃れられない,死を受け入れなければ得られない物だってあるもんだなぁ…咲夜」


「……………」


「生と死は最も分かりやすい世界の境だ,境の先はその世界へ足を踏み入れた者にしか分からない,私は死の世界へと足を踏み入れた,そして手に入れたのさ,力ってやつをな」


「……………」


「力が無ければ何も出来ない,生きる事だってな…今となっては感謝すらしてる,あの時私を殺してくれて本当に良かった,こいつはその礼さ…お前達が与えてくれた力をお前達に身をもって味わって貰いたくてな」


「……………」


「…言葉すら出てこないか?不思議なもんだな,普段のお前なら怒りの感情を露わにすると思っていたんだけどな」


「…あぁ,私だってそう思ってた,けど気付いたんだ,こんなくだらない事はもう終わらせよう」


「くだらない…?くだらないだと?」


「復讐に堕ちた戦い程無意味な事はない,力において最も重要なのは力の大きさじゃない,使い方だ」


「その使い方を選ばせたのはお前らTE部隊だ」


「いいや違う,お前は自らの力に溺れて目的を見失っているだけだ」


「目的?今でもはっきりとしてるさ,お前らを殺し,

奴らを殺し,この世界から戦争をなくしてやる」


「暴力で平和を実現出来ると思ってるのか?戦争を暴力の力だけで終わらせられると本当に思ってるのか?」


「犠牲がない平和はあり得ない,暴力だろうと力には力で抵抗するしかない,お前らだって同じだろ!」


「違う,私らの持つ力は暴力じゃない」


「じゃあ何だって言うんだ?え?言ってみろよ…咲夜ッ!!」


「…仲間だ」


「待たせたわね…咲夜っ!」


「ツッ!!」


1人の力はたかが知れている


如何に強い力を持っていようとも


1人よがりの力では決して変える事は出来ない


仲間を信じ


仲間と共に


仲間との結束の力こそが



この世界に必要な物だ


「はっ……はぁっ………くそっ…!!」


「…腕の自由を奪ったわ,その傷じゃ死ねない」


「戦いの幕引きにはちょうどいいさ…シルヴィア」


「お前ら…ッ!」


「サクヤ…お前は1人だから勝てない,仲間を信用する力が欠如してる…だからそんな力を身につけたんだろ?」


「見てもいないのに知った口を…」


「消滅の力,分かってるんだ」


「ッ!!!!」


「…こんな事を言うのもおかしいかも知れない…けどお前らしい力だよサクヤ…創造と破壊は表裏一体…その力は消滅の力だけじゃない…創造の力だってある筈だ」


「く……くふふふふ………ははははははは!!何を言い出すかと思えば創造?破壊?くだらないっ!!!私は力を手に入れた!お前ら以上の力を!!!」


「いい加減に目を覚ませっ!!!サクヤッ!!!!」


「…!!伏せて!!」


「ハ…ハハハハハ!!!オマエラモミチヅレダ!!」


「…人を捨てたか…ッ!!」


身体が膨れ上がる


その姿はまるで異形の獣だった


原初の怪物


死という概念が生まれるきっかけとなったバケモノ


「シネ!!」


「…死ぬのはお前だ,サクヤ」


銃口を向ける


引き金に指をかける


目の前にいる怪物へと


かつて人間はこの怪物に屈した


死という恐怖に呑まれ


多くの過ちを犯してきた


人は死という恐怖があるから生きようとする


死という恐怖から逃れようとする


だがそれだけでは駄目だ


恐怖に屈している事には変わりない


死とは避けられない結末だ


死から逃げる事は出来ない


死から逃げるのではなく受け入れるべきだ


例え今日死んでもいい


悔いが残らない生き方


それこそが人間の本質だと私は思う


そうすれば死に対する恐怖なんかある筈もない


目の前に映るのはただ単純に


奴自身の死への恐怖だけだ


引き金を引く


弾丸が発射され…貫く


いつだってそうだ


戦いの幕引きは呆気ない


たった指先1つで終わりを迎える


それが戦いという物だ


「……………」


「…終わったわね…咲夜」


「…あぁ…終わった」


『…こちらコノエ,対象の無力化に成功したわ』


『こちらカレン!目標無力化成功!』


どうやら他の部隊も目的を果たせた様だ


これでミサイルの発射は食い止められた


何より負傷こそはしたが全員が生存している


喜ばしい事だ


「残りはここか」


「このサイロはどうなるの?」


「十中八九…世界政府がここを抑えるだろう,何よりこんな兵器を放っておく訳もないからな…」


「…えぇ…こんな兵器は2度と使われてはならないわね…」


サイロの全機械を停止させる


それだけじゃない


文字通りこのミサイルサイロの機能そのものを凍結させる


「…ステラ,やれるか?」


『あとは任せて』


「…そっちの様子はどうだ?」


『問題ない…さっきから悲鳴が聞こえてるから元気そう』


「あ…そう……」


悲鳴が出せるくらいには回復しているらしい


それは良かった


「…長い一日だったわね…」


「…ほんとにな…けどこれで…ッ!危ないッ!!シルーーー」






































































































































































2日後/TE拠点


目が覚めたのは見覚えのある部屋


見覚えのある天井


そして見覚えのある顔だった


「ったく…寝過ぎだぞてめぇ…」


「V……体は大丈…うぐっ…」


「私の事よりてめぇの心配しやがれ,背中に何発もくらってたんだ,暫く休んでろ」


「…寝過ぎだとか言っておきながら休めってお前らしいよ…V…」


それから話を聞いたところ


私はあの時シルヴィアの事を身を挺して守ったらしく,背中に弾丸を浴びそのまま意識を失った


そのおかげもあってか無傷だったシルヴィアがサクヤへとトドメを刺し拠点へと帰還した


その後私は2日間眠ったままだったらしい


眠っていた間はずっと悪夢を見ていた気がする


それを裏付ける様に度々私は魘されてVが付きっきりで看病していたのだと


高くつくという言葉は聞きたくなかったが…


「お前が寝てる間に起こった事を言う,まずウィルスに感染した奴らは私含めて全員無事だ」


「流石だな,ウィルスを特定して解毒薬まで作るなんてな」


「…作ったのは八雲だ,私じゃない,それに出来上がったのは未完成もいいところだ,精々マシになったくらいだ」


「…でも作れたんだろ?」


「いや?薬は作れなかったがウィルスの特性が分かった,解毒というよりかは治療だな」


「治療?」


「ウィルスは体内のエネルギーを急激に低下させる,似た様な症状で言うなら糖尿病の低血糖みたいなもんだ,意識は朦朧,体は麻痺,止めどなく汗が流れ出して次第に衰弱して死ぬ」


「へぇ…」


「だからな,あいつらでフォアグラ作った」


「……は?」


「ファアグラ知らねぇのか?ガチョウにチューブぶっ刺して胃の中に…」


「…お前それ人間でやったのか?」


「あぁ,エネルギー摂取させなきゃ衰弱死するからな,かと言って食える状態じゃなかったからな」


「…私は心底ウィルスに感染しなくてよかったよ…」


あぁ…きっとあの時の悲鳴はこの悲鳴だったんだろうなぁ…


「…それと悪い知らせもある,零音の死体が消えた」


「……そうか」


「…意外だな,驚くと思ってたが」


「…また目の前に出てきたら倒すだけだからな」


「はっ…当然だな,とりあえずお前とっとと医務室から出ていけよ」


「おいおい…負傷者には優しくするんじゃなかったか?」


「その様子なら任務にだって行こうと思えばいけるんだろ?あとは自室に戻れ,私のプライベートの邪魔だ」


「はいよ」


医務室から半ば追い出される


まぁ自分の部屋の方が落ち着けるからいいんだけども


窓から差し込む夕焼けが眩しい


思えば最後に見たのは2日前か…


随分と懐かしく感じる


「ん……?」


「こらぁー!待つっすアレンっ!!!」


「べーっ!!」


「あっはっはっはっはっは!!!」


「お前らぁぁぁあ!!!芝刈り機は使用禁止にしたの忘れたか!!!」


「………………」


外は随分とやかましい


やかましいというか雑音


雑音というか耳障り


相変わらずいつも通りの拠点で安心したと言えば安心とも言えるが…


何はともあれ帰ってきたんだ,私は


この馬鹿騒ぎしてる非日常が日常のこの拠点に


ただ今の状態であいつらの相手をするのはごめんだね


また数日もすれば再びいつもの戦場へと戻るだろう


雷鳴重工


その脅威は去った


今はそれでいい


次から次へと不安が出てきたらとてもじゃないが正気ではいられない


今はただ1つの戦いの幕が降りた


それで納得するしかないし今までだってそうしてきた


私らは傭兵だ


人を殺して金を貰う存在


…だが常に人を殺してる訳じゃない


休める時は休む


例えこの手が血で汚れきっていようが


仮初の平和の時だろうが


今だ


今しか生きれない


今すべき事


そうじゃない


今したい事をする


それが私の生き方だし人間らしい生き方だと思っている


再び戦いの幕が上がろうと


私らがいる限りいくらでも幕を閉じてやる


私らは戦争を終わらせる戦争屋


そして最後の傭兵となる存在だ


この世界から戦争という存在を消す


平和を実現する


今思い返しても途方もなく大きな目的だと思う


笑われるのも無理はない


それなら笑われてでも進む


進まなければ辿り着けない


そして進んでいるのなら確実に辿り着ける


少しずつでも


長くかかろうとも


いつか必ず


向かうべき場所のその果てへ


【Phase0:予兆】


「…さて,今日の話はこれでおしまい,もう寝る時間ですよぉ?」


「えっと…今の話ってそれで終わりなんですか…?」


「えぇ,これで終わりですよぉ」


「なんか…随分と急な終わりと言うか…まるで途中で終わったみたいな…」


「…そう思うのも無理はないですねぇ,この本のタイトルは未完の物語…つまり未完成なんですよぉ」


「未完の物語…面白い作品だね」


「そうですかぁ?」


「未完成でありながらもしっかりと物語として存在してる…寧ろ意図的に完成させなかったんじゃないかなって作者の気持ちがあったんじゃないかなって…」


「面白い事を言いますねぇ,大抵の人は未完成の物は未完成,完成すらも出来なかった半端なもの…として認識するんですけどねぇ」


「それは違うよ…きっと……その作者は例え未完成でも残したかったんだと思う…そうじゃなかったら未完の物語なんて名前は付けないよ」


「…ふふふふふ…さぁもう寝る時間ですよぉ?おやすみなさい」


「おやすみ零音さん,またいつか」


照明が落とされる


それと同時に機械の電源もオフラインとなった


やがて酸素も供給されなくなり


水槽の中に浮いた脳もやがて底へ着く


これが最後の1つだった


辺りを見渡すと同じような水槽が幾つも存在している


そしてそれらの中身は同じだった


「…終わらせたのね,零音」


「…えぇ,あくまでも私の実験…ですからねぇ?」


「実験も何も貴女なら分かりきってた事じゃないかしら?無駄な事ってね」


「…例え無駄な事と分かっていても試さずにはいられない…それが化学者であり科学者でもある生き物ですよぉ」


「人間の真似事なんてくだらない…その人間が如何に愚かで私達に何をしたのか…忘れてないでしょうね?」


「当然覚えていますよぉ」


「それならいいけれど」


「かつては共にあった,けれど手を離したのはあちらの方,離された手は闇へと堕ちていった…」


「そして2度とその手は繋がる事はない,闇から這い出たその手は命を掴む」


「命を掴んだ手はその時初めて産まれた意味を知る…」


「…随分と長い時間がかかったわね,ようやく…ようやく私達はあちらの世界へと干渉する事が可能となった」


「しかしまだ問題は解決はしてませんねぇ…」


「一時的な綻び…人間達も面倒な事をしてくれたわ」


「その綻びが閉じてしまえばこちらとあちらの繋がりは消える,それは行き来が可能か不可能かという単純な事ではなく世界間の繋がりを意味する…綻びが閉じてしまえば存在の維持が出来なくなる…」


「コインに表裏があるのなら私達の存在は裏の存在…表と裏は共存は出来ない」


「…綻びは年々多くなっている…自壊を待つのも方法の一つではありますがやはり規則性があると思うんですよねぇ」


「だから貴女を信用したのよ零音,その規則性を見つけて綻びを繋ぎ止める,それが貴女の仕事,その為ならいくら得体の知れない事をしていようとも私は口出しはしない」


「えぇ,その点は感謝していますよぉ」


「私達一族の為よ,消えてしまったリンフォンの為にも…その為なら協力は惜しまない…けれど契約はしっかりと守って貰うわよ」


「それは当然の対価ですねぇ」


「それを忘れなければいいわ,じゃあまたね,零音」


「またお会いしましょうねぇ…紫幽さん」


































































































































































「はぁっ……!はぁっ………!」


まただ


またあの夢だ


悪夢


いつもそうだ


時折見る悪夢


その度に私は目を覚ます


悪夢の内容は思い出せない


私が一体何だったのか


何を見ていたのか


それすらも記憶に残らない


普通の夢なら多少はどんな夢だったのかは記憶に残る


楽しい夢


怖い夢


悲しい夢


それすらも記憶にない


無だ


まるで何も見ていなかったんじゃないかとも思う


しかし確実に何かを見ていた


そうじゃなければこの乱れた呼吸も激しい汗も説明がつかない


このままでいたら頭がどうにかなりそうだ


少しばかり外の空気へ触れてこよう


月明かりが眩しい


空は雲が多くその雲の合間から月明かりが私を照らしていた


吹き抜ける風が心地良い


拠点の明かりもその多くが消灯している


穏やかな夜だ


こういう時タバコでも吸えれば気分転換になるんだろうけれど生憎私はタバコを吸わない


ただこうして夜空の下で風に吹かれながら海を眺める


そうしているだけで心が落ち着いてくる


「あら咲夜…また星を眺めにきたのかしら?今日は見えそうにないけれど」


「ん…あぁシルヴィア…珍しいなこんな時間に」


「ちょっと夢見が悪くてね…」


「ははっ…同じか」


「いくつになっても悪夢は見るものね」


そういえば懐かしい


初めてシルヴィアがこの拠点にやって来た時


歓迎会と称して大暴れする隊員達から離れる為にこうして夜空を眺めていた


…まぁ今日は星が見えないけれど


「…あの時と同じだなぁー」


「ほんとにね,あの時は酷かったもんね」


「あぁ,まるでサファリパークだった」


「それも徒歩で歩かされるタイプのね」


「…もう1年が経つんだな…シルヴィアが来てから」


「えぇ…長いようで短い1年だったわ」


「…今更聞くのも変だが慣れたか?」


「慣れすぎて同類になるのが嫌になるくらいにね」


「そりゃ何よりだ」


雲が流れ少しばかり漏れていた月明かりもなくなる


風が止まった


そして残された静寂の中でシルヴィアは口を開いた


「…あの名前…何故知っていたの?」


「名前?」


「咲夜が呼んだのよ,サイロで私を守る時に」


「あの時は咄嗟だったから…何て呼んだかな…元カノの名前でも呼んでた?」


「……………」


「シルヴィア…?」


「今から話す事は絶対に他の人には言わないで,約束してちょうだい」


「…あぁ…それは構わないけれど…」


「…かつて1人の少女がいた…父と母と幸せに暮らしていた…少女はこの幸せな暮らしがずっと続けばいいと思っていた……けれどある日…その幸せは壊された…幸せを壊された少女は戦う道を選んだ,多くの仲間と共に戦い続けた…戦争を終わらせる戦争屋として…そしてその全ての戦いで負けてきた」


「…………」


「…その少女の運命がどうなったのかは知らない…私が覚えている…私じゃない私自身の記憶」


「…………」


「その少女の名前はーーー」





























































《シルファ・パラディス》






































Next war is…








































































-Imitated Distorted Theory-

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