True Eye 【season1】 -War 15- Thunderbolt PART Ⅳ
【Phase1:傷跡】
ミサイルサイロ/制御塔β
部隊指揮:ソフィー
部隊員:シルヴィア,カレン,ニーア,シュガー,鈴々
「……コノエ達から報告,零音のホログラムを確認…時間稼ぎが目的…らしいわ」
「えぇ,通りで目の前に嫌なのがいる訳ね」
「ふふふふふ…そんなに邪険にしないでくださいよぉソフィーさん」
コノエ達同様
こちらも行手を塞ぐ為にホログラムで作られた零音が映し出されていた
目的はもちろん時間稼ぎだろう
「お話しくらい付き合ってくれてもいいんじゃないですかぁ?」
「おあいにく様,死人と話す趣味はないの」
「生者……死者……それはただの境界線であって今更意味を持たない物ですよぉ?」
「…死んだ者は2度と蘇らない,死人に口無し,今更亡霊が私達に語りかけるなんて片腹痛いわ」
「それでは何をもって生と,何をもって死とするんでしょうかねぇ?」
「……………」
生と死の概念
明確にされている様でその境界線は曖昧だ
生命活動を停止して2度と喋らないのは当然ながら死だ
では寝たきりの状態の人間は生きているとは呼べるのか?
何も喋らずにただ人の形を成しているだけ
それを生きているとは言い難い
「そんな難しい事っすかね?私達は生きて零音は死んでいる,もっと簡単にするなら零音は敵っす,それだけっすよ」
「…作りモノの魂を持つ貴女が言うと滑稽に聞こえますねぇ?いえ…それとも貴女は自分の魂の意味を分かっていて言ってるんですかねぇ?」
「自分の…魂……?」
「…昔話をしてあげましょうかぁ,魂とは人間なら誰しもが持つ物質です,では死した魂は何処へ行くんでしょう?結論から言いますと魂は永久に不滅なものです,肉体から解放された魂はその後も世界を巡り消える事はありません…だとするとその魂は何処へと辿り着くのか?世界が存在している限り魂はいずれ何者かに変異を遂げます,輪廻転生…また新たなる生命となって幾度となく繰り返しこの世界に生まれ落ちているんですよねぇ?」
「…宗教じみた事を言う様になったのね,くだらない」
「貴女も例外ではありませんよぉ?ソフィー・イリーナ,特に貴女の力ならば少なからず察せる部分はありますよねぇ?」
「なら逆に聞きたいわね,世界の人口は減少を辿っている,いずれ生まれ変わる?それならその前に人類が皆死んでしまったら新たな生命とやらも生まれない,そうなったらどうなるの?ぽんっていきなり人間が生まれる訳?」
「そんなファンタジーやメルヘンではありませんからそんな事はあり得ないでしょうねぇ?」
「…所詮戯言ね」
「これだから思考に霞がかかった人達は愚かですねぇ?何故考えないんでしょうかぁ?魂は不滅なもの…それでも尚人口が減少傾向にある…それならば魂はどこへといったのでしょう?」
「……………」
「魂は混ざり合い1つへ統合されていくんですよぉ,人間がこの世界からいなくなる事はあり得ない,それが真理ですからねぇ」
「シルヴィア,ニーア,早く解除してくれない?いい加減目障りになってきたわ…」
「私の分野じゃないからね…もう少しかかりそう…」
「いっその事コード切っちゃう?」
「それだと障壁が降りてきちゃうって言ってたでしょ」
「ふふふふふ…それなら電源を切られてしまう前に興味深い話をしてあげますかねぇ?もちろん亡霊の言葉として…ふふふふふ…」
「零音さん…本当に何が目的なんですか?」
「話すだけ無駄よ,鈴々」
「それは……分かってますけど…」
「私の目的が何だったのか…それを話すのも面白そうですけど別の事を話した方が面白そうですからねぇ?さて…魂は混ざり合い1つになる…それは先程言いましたけど1つになった魂を持つ者は…どうなると思います?」
「……………」
「より強い魂…そしてその魂はある種の力を開花させるきっかけを与えてくれるんですよぉ」
「………ツッ…」
「おやぁ?反応を示しましたねぇソフィーさん,えぇ…貴女も察しがついた通り…貴女達の中にはいますよねぇ?その力を開花させた存在が」
「…異能だと言うの?」
「…異能とは本来は妖の持つ力の事を指しますねぇ…だから正確には貴女方の持つ力を異能と呼称するのは間違いですねぇ?ではその力の本当の名前…正確に定義はされていませんが私達はーーと呼んでいましたねぇ」
「……何て?」
「聞き取れない…という事はどうやらまだみたいですねぇ……近年この力を持つ人々は上昇傾向にあります…と言っても人口が減少傾向にあるのだから当然反比例で増えている訳ですけどねぇ?」
「…所詮亡霊の戯言よ」
「あぁでもカレンさん,貴女の力は異能と呼ばれるものですよぉ?人間でも妖でも無い作りモノの魂を持つ空虚な容れ物,バケモノである貴女にはぴったりの力ですよねぇ?」
「……むかつく言い方っすね…」
「しかし…シルヴィアさんが持つ力…それは私が研究していたーーの力でもなく…異能でもない…限りなく私達に似た力…それはまるで…」
「ソフィー,ようやく解析出来たわ,電源落とすわね」
電源を落とされ電力がカットされていく
零音の姿にノイズが走り徐々に消えていく
「…ここまでですかぁ…けれどやはりソフィーさんよりも私の方が一枚上手でしたねぇ?重要な事を聞き逃す…さっき"私達"と言いました,はてさて…どなたなんですかねぇ?」
「…ツッ!」
「時間が……らば……答え………ふふ……」
零音の姿が消える
辺りは再び静寂に戻る
「……………」
「…障害は無くなったわ,ソフィー大丈夫?」
「………はぁ……らしくないわね,たかが死人の戯言程度で…」
「…無理もないですよ…敵とは言え半年間は仲間として接していたんですから…」
「それはただの感情よ,私達傭兵は感情に流されたら傭兵失格よ」
「…けどソフィー,理解はしてても感じてる事は私達と同じでしょ?」
「そうっすよ,零音は敵だった…けど……敵意は感じなかった…寧ろ私達の事を案じていたというかー…」
「…くだらない,敵は所詮敵,死者は死者,それだけよ」
時間稼ぎのホログラム
だがそれ以上の傷跡をTE隊員へと刻み込んでいた
(……異能とは違う力……)
ソフィー自身も自分の力の事を理解しているつもりだ
ソフィーの持つ力
それは触れた物の記憶を読み取る力
ソフィー自身はこの力の事を誰にも教えてはいない
教えたところで何も変わらないからだ
物の記憶を読み取ろうがやるべき事は敵の撃滅
ソフィーはこの力をあくまでも手段の一つとしか考えてはいなかった
ローレライ姉妹がTE拠点へと不時着した際もそうだった
彼女達の乗って来たUFOへと触れその記憶を読み取った
宇宙から来た物体ではなくこの地球上で作られたUFOの模造品
更にはUFOの持つ記憶
ローレライ姉妹の会話に至るまでの全ての記憶を読み取った
ソフィーがあの時彼女達の異能を暴いて見せたのもこの力の応用だ
だがこの力も万能ではない
だからソフィーは力に頼るだけではなく自身の技を磨いた
その事に関しては特段問題はないだろう
零音の亡霊が言い放った言葉
妖の持つ力が異能
そしてソフィーや他隊員の持つ異能と呼んでいた力
これまでは同一の力と見ていたが零音の言葉が真実であるのなら別の力という事になる
人間の持つ魂
不滅であるもの
それらが混ざり合いより強い魂を形作る
そうして生命を持った者がこの力を開花させられる
信じ難い事ではあるが戦争で大勢の人間が死に,魂は数多く溢れている
そしてそれらが要因となりこうして力を持つ存在が増えたとするならば…辻褄が合う
(…私の持つ力…妖である白狐の持つ力……そしてシルヴィアの力…)
これらは強力な力である事には変わりない
だがその種類が違う
ハンドガン
ライフル
散弾銃
これらは銃という括りではあるがその種類が違う
それと全く同じ事だ
力の種類は関係無い,その力をどう使うかが問題だ
(…私達……零音にはまだ他の協力者が…?)
私達
零音は他に誰と協力をしていた?
他の組織と結託していた…となればまだ問題は軽視出来る
だが万が一…
万が一にも,まだTE部隊の中に零音と同様に裏切り者がいるとしたら…?
(………………)
これこそが零音のホログラムの残した傷跡だ
疑心暗鬼
零音らしいやり方だ
ましてやこの様な状況で他人を…仲間を疑ってしまえばいとも容易く崩壊する
「なーに辛気臭い顔してんすかぁ!」
「いたっ……ちょっとカレン…」
「…今はただ仲間を救う事を考えるっす,私だってそりゃまぁ色々と考える事もあるっすけど…結局今したい事,それが最後に出てくるんすよ,仲間を助けて悪党をぶっ倒して…みんなで帰る,違うっすか?」
「…………そうね」
「珍しい,カレンがまともな事言ってるわね」
「それだと普段はまともじゃないみたいに聞こえるじゃないっすか!」
「え?違うの?」
「馬鹿みたいにタバスコぶっかける奴がまともだと思う?」
「砂糖塗れにしてる奴に言われたくないっすよ!?」
「はぁ…まったく……うるさいわよ,任務中なんだから油断しないで…敵はまだ倒してない,いつ仕掛けてくるかも分からないんだから」
「元気出たみたいっすね,ソフィー」
「おかげさまで,今だけは感謝しとくわ」
「感謝なら拠点に帰ってからーーー」
何かが砕ける轟音
何かが高速で過ぎ去り砂埃が舞い上がる
一瞬
ほんの一瞬だ
瞬きをする一瞬の間にそれは起こった
壁には大きな穴が空いている
それは先程高速で過ぎ去った何者かによるもの
何が起こった?
誰が現れた?
おかしい
先程までいたカレンの姿がどこにもない
天井
壁と同様に穴が空いて上層へと繋がっている
「ツッ!!全員上層へ!急いで!!」
紛れもない
これは敵からの攻撃だ
油断をしていた訳ではない
常に警戒をしていた
しかしその警戒を容易く潜り抜けられた
こんな事が出来るとするならバケモノくらいだ
(カレン……ッ!)
上層へ到達
不自然にも開けた空間
そこへ立つ1人の大男と首を掴まれ苦しそうに悶えるカレンの姿があった
「ガハハハハ!!よぉ,あんまり遅いんで迎えに来てやったぜ」
【Phase2:Violence POWER】
銃を構え敵へと照準を向ける
引き金を引かなかったのはカレンが捕らわれているから
しかし引き金を引かなかった事が致命的なミスだった
「ほぅら!受け取れッ!!!」
「なっ!?」
まるで軽いものをぶん投げる様に敵はカレンを投げ飛ばしてきた
シュガーと鈴々は放り投げられたカレンと激突する
視界を敵へと戻したその時には既に目の前へと迫っていた
「くっ」
「お前が指揮官か?味方を盾に取られて判断が遅れた…なぁッ!!!」
「カハッ……!?」
腹部への重い一撃
ミシミシと音を立てその場に立っている事も出来ずに身体は宙を舞う
「「ツッ!!」」
すぐさまニーアとシルヴィアが合わせて反撃へと移る
「そんなナマクラで俺の命はやれねぇなぁ!!」
「こいつ…!」
避けるでも受けるでもない
素手でナイフと刀を掴み,止めた
圧倒的なまでの怪力にものを言わせて武器を掴み砕く
人間業じゃない
「ニーアッ!!」
「心得た!!」
武器を失うもそれだけでは済まない
2人は腕にワイヤーをかけて自由を奪う
「今よソフィー!!」
「…協力ありがと」
正々堂々と戦う義理はない
こちらの方が人数は上だ
それならば数の有利を活かすべきだ
銃口は既に男を捉えている
ソフィーは躊躇なく引き金を引いた
凄まじい轟音を上げながら放たれた弾丸は男を貫く,筈だった
「ツッ!?」
何が起こった?
両手は拘束されて尚且つ身体の自由も効かない
逃げる手段は無かった
だというのに男は無傷だった
足だ
発射されてから着弾するまでのごく僅かな時間
その間にこの男はあろう事か弾丸を蹴り落としたのだ
軌道を変えられた弾丸は床へと叩きつけられていた
「はっ!!流石は大口径いい威力じゃねぇか!!」
恐らく最初からやろうと思えばやれたのだろう
腕にかけられたワイヤーを引き千切り再び自由を手にする
「嘘でしょ…!?」
「強化繊維の特別性なのに…!」
「カレンッ!!」
「うおっしゃぁぁぁぁあ!!」
「あぁ?」
その場にいる全員が同じ考えに至る
こいつは危険過ぎる
確実に殺しておかなければ取り返しのつかない事が起こると
その為身体が勝手に動いた
相手は対物ライフルの弾丸を弾き飛ばすバケモノだ
殺す為に最適な動きを脳が選択する
カレンは手に握ったロケットランチャーの弾頭で容赦無く殴りかかり起爆させた
「いつつ……!」
「全員掃射!!」
通常ならば今の一撃で身体はバラバラに吹き飛ぶだろう
だがそれだけで死ぬとは思えない
爆煙で姿は見えないが全員が一斉に発砲を開始する
僅か数秒
全ての弾丸を撃ち切る
「はっ……はっ………」
「………………」
「……死にましたかね…?」
「……これで死んでくれた方がどれだけ楽か…ッ!」
「あぁそうだ,この程度じゃ死んでも死にきれねぇなぁッ!!!」
「バケモノ……!」
次第に煙が晴れていく
傷の一つでも負わせられればよかった
だがその期待は裏切られる
無傷だ
あれだけの攻撃をもろともしていない
「なんなんすかこいつ…雰囲気は異能体に似てるのに…それ以上の力っす…」
「異能体反応も妖の反応もない…本当にこいつ人間なの……」
「………………」
「どうしたお嬢ちゃん達,打つ手無しか?ようやくだ,ようやくこの時が来たんだTE部隊ッ!!強ぇんだろ?なぁッ!!!」
まるで要塞だ
弾丸も爆破物も効果がない
桁外れの怪力
だが人間だ
付け入る隙はそこにある
「お?お…?」
「図体が大きいのが仇となったわね…!」
弾丸が効かないのであれば次の一手は肉弾戦
この中で最も対人戦に秀でているのはシルヴィアだ
シルヴィアのナイフ捌きはTE部隊の誰もが認めている
例え銃を所持していてもやり合いたくない相手筆頭だ
シルヴィアの一撃が男の肉体を斬り刻む
だが…
「…ツッ!?」
「はっ…面白ぇ女じゃねぇか…!」
切れた断面からは血が流れない
血が流れるなら殺せる
だが血が流れないのはどういう訳だ?
「カレンッ!!」
「分からないっす!人間の見た目…そして血が流れていない…こんなの異能体のデータにないっすよ!?」
「バケモノ…!!」
異能体でも妖でも…ましてや人間でもない
敵の正体はなんだ?
そんな事を気にする時間もない
「それならっ!!」
次の一撃
殺す攻撃ではなく身体の自由を奪う
動けなくしてしまえばどのみち勝負は終わる
「鈍い,同じ手は通じねぇ!!」
「なっ…!?」
シルヴィア程の小柄なら素早いのは理解出来る
だが相手は2mはある大男だ
シルヴィアの動きについて…いや,それ以上の速さでシルヴィアの一撃を受け止めた
「しまっ…」
「俺の知る好敵手には程遠いなぁッ!!!」
「ガハっ…!?」
「「ツッ!!!」」
男の蹴りをくらいシルヴィアが吹き飛ぶ
それをカバーする様にニーアと鈴々が2人で攻撃を仕掛ける
ニーアの振り下ろした2本の刀は受け止められる
シルヴィアへの蹴りで体勢も安定していない
鈴々が懐へと潜り込みショットガンでの零距離射撃
男の身体は大きく後方へと吹っ飛んだ
「シュガー!!」
「………………」
「シュガー…!!撃て!!!」
吹っ飛んだ身体を撃ち抜く
それでも尚手応えが感じられない
まるで形の無いものを攻撃している感覚に陥る
それはこれまでの戦いとは何一つ違う
「ぶへっ…1発貰ったか……だが…」
「チェェェェエストォォォォォ!!!!」
起きあがろうとする男の顔面へとソフィーのラリアットが炸裂する
常人ならくらえば絶命は免れない
「はっ………この程度…ツッ!?」
「くっ……!!」
だがこれでは殺せない
すぐさまソフィーは男の首へ手をかけ窒息させようと試みた
「…………!!!」
「離し…やがれッ!!!」
「ガっ…!?」
腹部への重い蹴り
吹き飛んだ身体は天井にまで届く
骨諸共内臓にまで凄まじい衝撃が襲い掛かる
これだけの攻撃をくらおうとも男は一向に動きが鈍る様子はない
「今のはいい攻撃だった,だが足りねぇ…そんなもんかよ…TE部隊の力ってのはよ…!!」
「………………」
被害が大き過ぎる
例え全員で攻撃を仕掛けたとしてもこの男はそれを耐える
「げほっ……うぐっ………肋骨が折れて……内臓も酷そうね……」
「はぁっ……くぅ………私は…まだやれる……」
「どうするっすかね……これなら先にミサイルの阻止に…」
「…見殺しには出来ない…ッ…」
「……これは………」
「ソフィー……?」
「………シルヴィア…お願い…」
「……えぇ…」
シルヴィアが立ち上がる
そして男へと歩み寄る
「全員手を出すな!!全部…全てシルヴィアに委ねる…!」
「ソフィー!?いくらシルヴィアでも…」
「黙ってニーア,セルゲイ…あんたは強い…私達が束になっても敵わない…それなら最後の手段に移らせてもらうわ…」
「はっ!で?その最後の手段とやらは?」
「シルヴィアとの一騎打ち,それに全てを賭ける,私達TE部隊に邪魔はさせない,それでどう?」
「クックック……ガッハッハッハッハ!!!面白ぇ!!タイマン上等だ,やってやるよ」
(………これが本当の最後の手段…)
「…改めて名乗らせていただくわ…シルヴィア・ガブリエラ,TE部隊最強の近接兵…と自負しているわ」
「セルゲイ・クラトス・ジディ,雷鳴重工幹部,そしてお前をぶっ殺す男の名前だッ!!!」
「いくわ…」
力では勝てない
速度でも勝てない
だが直接この男とやり合えるとすればシルヴィアしかいない
分かった事は一つ
先程の銃撃
確かにこの男,セルゲイは吐血していた
血が流れる
最低限殺せる確証の様なものだ
少なくとも殺せる確証という希望がある
殺せない敵程戦意が失せる事もない
だが殺せる相手であるのなら立ち止まってはいられない
立ち止まっていられる訳がない
仲間の命が掛かっている
シルヴィアが仕掛ける
自身の持ち得る最速で男へと斬り掛かる
容易に避けられる
反撃の一撃
シルヴィアは避けずにそれを受け流す
より強い力程受け流す事が容易だ
反撃に次ぐ反撃
顔面へと目掛けてナイフを突き立てる
直撃はせずとも頬を掠めた
血は流れない
人間であれば急所である訳だがこの男は人間の域を超えている
この場所ではない
「おらッ!!!」
「ぐっ……!!」
まるで巨大な石で殴られた様な衝撃
ただの頭突きであるというのにこの男が放つ一撃一撃が全て致命傷になり得る
強い
これ程までに強い敵は今までにいなかった
身体を撃ち抜く
身体を斬り刻む
そうやって今まで勝利を収めてきた
だがそれらが通用しない
幾度となく繰り返そうとまるで命に届く気がしない
ここまでほんの1分
僅か1分間の戦闘
そして戦闘は突如終わりを告げる
「あ……?」
「……私の役目は終わったわね…こんな形で終わらせたくなかったけれど…」
1発の銃声
それだけは変わらなかった
たった1発の銃弾
それが戦いを終わらせる事はこれまでもあった事だ
いくら撃とうと
いくら斬ろうと
倒せなかったのは初めてだ
だがその1発の銃弾が戦いを終わらせる
それだけは変わらなかった事に胸を撫で下ろす
「がはっ!?くそっ……誰だ……誰が撃ちやがっ……ぐっ……!?」
「…セルゲイ……私は……私達は約束を守った…私達は誰1人として貴方へ向けて発砲はしていない…」
「…その通り……手を出したのは私…ごめんなさいね」
「てめぇ………くそ……こんな……銃弾如きで……」
「銃弾じゃない,私が作った猛毒よ……神をも殺す毒と自負するわ…さようなら,セルゲイ」
「…………………」
「…よく分かったわね,私がここでずっと待機していたの」
「………………」
「はぁ……少しは感謝の言葉くらい貰えるかなと思ってたのに……」
「貴女は……中国で私達を襲った…」
「…星川 優,久しぶりね鈴々さん」
星川 優
中国で鈴々達を襲ったバウンティハンターの1人
その彼女が何故この場にいたのか
「どうしてここに…」
「仕事,バウンティハンターなんだから理由くらいは察せると思うけど…詳しく言うつもりもないですけどね」
「……ソフィーが私に死んでこい…なんて作戦を立てる訳もないからね,何かあるとは思ってたけど…」
「ごめんなさいシルヴィア…随分と怪我させちゃって…」
「ソフィーの方が重傷でしょ?今は楽にしてて…」
「……それじゃ…」
「…待ってください星川さん,貴女の目的…いえ……本来は私達を助けるつもりはなかったんでしょう?」
「………………」
「戦いのどさくさに紛れて殺す…それは作戦ではあった…けれどあの男,セルゲイにはそれが通用しないと判断した貴女は次の作戦を実行させる筈だった,周囲に仕掛けられたグレネードは毒を撒き散らす為でしょう?」
「驚いた…間抜けな顔してるから頭が緩いのかと思ったけれど…貴女シュガーさん…ですよね?」
「シュガー・ラーシアスと申します,聞かせてくれませんか?何故私達を助けたのか…その理由を」
「…本当は助けるつもりはなかった,寧ろ死んでてくれた方が報酬金額が増えて私達にとっては利益がある…それでも尚私が貴女達を助けてしまったのはただの好奇心よ」
「好奇心…?」
「ソフィー・イリーナ,私達の指揮官が言った通り不思議な力を持ってるわよね?それを使ったんでしょう?」
「ソフィーが……?」
「………隠してるつもりはなかったんだけどね……私も異能…と呼ばれる力を持ってる,触れた物の記憶を読み取る力…私は偶然にも吹き飛ばされてこのコンテナに触れる事が出来た,それで星川の存在を把握出来たわ」
「それだけじゃない,貴女…私に記憶を送ったわね?」
「……これは私も知らなかった力,今まで私は物の記憶を読み取る事しか出来なかった…この力を使ったのは初めてだから私も説明は出来ないわ」
「私が貴女達を助けた理由,それはこのソフィーさんが私に伝えた記憶の所為よ」
「…ごめんなさい,私自身は貴女にどんな記憶を送ったのかは覚えていないのだけど…」
「記憶…とだけ言っておくわ,けど私の興味を惹くのには十分だった,だから私は貴女達を結果的に助けた…それだけね」
「そもそもの話なんすけど…星川…っすよね?バウンティハンターの話は以前の会議でも聞かされてたっす,この場にいたのはこの男を殺す為…それで間違いないんすよね?」
「バウンティハンターは金でしか動かない,その認識で合ってるわよ」
「それならこの男,セルゲイに懸賞金を懸けたのは誰っすか?」
「………………」
星川は沈黙する
静寂が辺りを包み込む
星川がこの男,セルゲイを抹殺した理由は賞金首だからというバウンティハンターらしい理由だ
それならば一体誰が懸賞金を懸けたのか
「…零音よ」
「零音が……?」
どういう事だ?
零音はTE部隊を裏切っている
裏切る際には雷鳴重工につく様にも思えた
しかし雷鳴重工の幹部であるセルゲイに懸賞金を懸けたのが零音であった事
つまりは零音はTE部隊,そして雷鳴重工も裏切ったという事になる
「とは言っても…もう生きてないんでしょあの女,けど一度請け負った以上は目的は達成する,これはバウンティハンターの基本ね」
「……そうっすか」
「は……ははは……零音は本当に掻き乱してくれる…」
「そっちの事は知らないけれど相当煮湯を飲まされたみたいね,私達も同じだけど」
「……1つ聞きたいのだけど…零音と誰か密接な人っていたかしら?」
「…さぁ,とっくの昔に裏切られてるし見てすらいなかったわ」
「…そう」
「…こちら星川,目標の抹殺完了,これより帰投するわ」
目標を達成した星川はその場から立ち去る
セルゲイの身体は既に原型が留めない程にぐすぐずに溶けきっていた
あの星川というバウンティハンターがどの様な毒を使用したのかは不明だがいずれにせよあんな物を使用されたらただでは済まない
今はただ敵対していなかった事に胸を撫で下ろすだけだ
「げほっ!ぅぐ………」
「ソフィー!?大丈夫!?」
「骨も内臓も酷い状態よ…自分でもよく生きてると思うわ…」
「後の事は任せるっすよ,ミサイルの発射阻止くらい朝飯前っす!」
「…爆発はさせないでよ…カレン」
「私達がしっかりと監視してるから安心して,シュガー,ソフィーを診てあげて」
「えぇ,分かったわ」
「…ソフィー」
「…何?カレン」
「簡単にくたばるんじゃないっすよ!」
「はっ……そう簡単に死んでたまるもんですか」
戦いは終わった
だがまだ全てではない
ミサイル発射阻止をしなければ拠点の仲間達の命が失われてしまう
それだけは確実に阻止しなくてはいけない
被害は甚大ではあるが元より仲間1人で左右されていては組織として成り立たない
今は無事である事を祈りながら目的の為に足を進める
考えている時間は残されていない
失敗は文字通り死を意味する
死を望む隊員はいない筈だ
ただ先へと進め
取り返しがつかなくなる前に
【Phase0:魂の在り処】
世界が創造されてから間もない頃
世界に魂が満ち溢れました
魂は形を成して様々な生き物を生み出しました
爬虫類
哺乳類
鳥類
それらは同じ魂を持ちながらも別々の生き物としてこの世界で生きていました
魂とは生物ならば誰しもが持つ物であり
仮に生物が死を迎えたとしても魂は消えず
この世界の中に収まり続けてやがて他の生命としてこの世界に産まれ落ちるとされています
しかし常にこの世界に生きる生物の数は一定ではありません
魂は不滅なものであるのにも関わらず何故数は一定ではないのでしょうか?
その答えは魂は不滅ではあっても不変ではないからです
魂は時たまに他の魂と混ざり合って1つになる事があります
逆に1つの魂が2つへと分かれる事もあります
1つとなった魂はより強い魂を持った生物として
新たなる生物として産まれ落ちたり
または不思議な力を開花させる資格を持って生を得ます
それは人によっては【神の力】と呼ばれる事もありました
開花させる力は人によって異なり
ある者は他人の魂を見る目を得たり
またある者は通常では認識出来ない概念を理解したり
はたまたある者はもう1人の自分を作り出す力を持ったり
その種類は様々なものにまで及びます
特別な力を開花させる資格を持つ人々はこの世界に数多く存在していますがその力を開花させる人々はその中でもごく僅かとされています
またこの力に似た力を持つ種族も存在します
それらは妖怪,妖と呼ばれる方達です
彼等は魂の在り処が人間達とは違うのです
妖と呼ばれる存在の多くは人々の記憶から生まれるという特殊な出自を持ちます
言い方を変えれば人間達のイメージから作り出された種族となります
その為妖と呼ばれる存在はイメージから生まれた為にそのイメージに基づいた不思議な力を持っていると言われています
さて,それでは1つとなった魂は不思議な力を開花させる存在として語りました
では2つとなった魂を持つ者はどうなるのでしょうか?
答えは単純です
限りなく分かれたもう片方の魂と同じ姿を持つとされています
これは一般的には双子と呼ばれるものです
…しかし良い事ばかりではありません
古き時代
人間達はこの魂の存在に気が付きました
本来であれば人間達がその魂へと触れる事はあり得てはいけない事です
しかし人間達はその禁忌を犯してしまいました
それは人為的な魂の融合です
不思議な力…【神の力】を欲した欲深い人間が自らの手でそれを手にしようとしたのです
それは歪められた魂と呼ばれました
人間は何年,何十年,何百年とこの魂の融合を研究しました
そして遂に目標が達成した時に大きな事件が起こりました
それはまるで【神の力】ではなく
より強力に
より歪んで
より破壊的に
…より邪悪な力を生み出してしまいました
【邪神の力】
その力を持つ存在は人々から恐れられました
そして人間達は考えました
この力は生み出してはいなかったのだと
そうして人間達はとある手段を講じました
この世界からの【隔別】です
【邪神の力】を持つ者は禁忌を犯した人間達によって今はこの世界に存在していません
しかし消えてしまった訳ではありません
今も尚この世界とは別の世界で存在しているのです
もし…
再びこの世界へとやって来たとしたら
その時は世界に大きな混乱が巻き起こる事でしょう
「…はぁい,今日のお話は終わりですよぉ」
「うぅ……怖いよぉ…零音お姉さん……」
「ふふふふふ…でも好きですよねぇ?こういうお話も…」
「そりゃそうだけどぉ……」
「さぁ早く寝ないと【邪神の力】を持つ人が来ちゃいますよぉ?」
「…でも可哀想……そんな力望んでた訳じゃないのに…」
「…へ?」
「だってそうじゃん!ちゃんとした力を持ちたかったのに望まなかった力になっちゃって…世界から追い出されちゃうなんて…」
「………ふふふふふ……あはははははは!面白い事を言う子ですねぇ…さぁ早く寝ましょうねぇ」
「はーい」
望んだ力
望まなかった力
望む,望まないは別にしろ力を持ってしまったらその力には大きな効力が生んでしまう
力の有無ではなく
力の使い方
敢えてその力を手放す
そういう選択もあるだろう
力というものに飲み込まれなければ…
「まだやってたんだ,お話し」
「…えぇ,これも私の役目ですからねぇ」
「……そっ,好きにすればいいんじゃないかしら…"零音"」
「………………」
これはあくまでもお話しの中の出来事
しかし
それが作られた物なのか
存在した物なのか
それは………
-Next war-
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