True Eye 【season1】 -War 2- 事故と奇跡はいつでも起こる
【Phase1:セントラルシティ】
TE拠点から最も近い街
セントラルシティ
ここは世界政府が主導で作り上げた世界最大の人口都市
都市というよりかはもはや国の規模である
世界中のあちらこちらで戦争が起こってる今日この頃
住む場所を追われた人々が暮らせる街
…という程で作られはしたが実際のところ世界政府が何を企んでこの街を作ったのかは定かではない
とは言え規模も技術も桁外れだ
この街には全てが存在する
武器,食糧,娯楽,人間,獣人
そのままの意味だ
この街に無い物はないと呼べるくらい充実している
当然,人間,獣人以外の種族もこの街へと姿を現す事もある…
「いやぁ〜人間も面白いもん作るよね〜,にしても随分と何世代も先の技術が使われてるのが気になるところだけども」
人間でもなく獣人でもない
そんな彼女が1人この街へと来ていた
人間に化けてはいるが人間では無い
かと言って耳と尻尾があるから獣人というわけでも無い
彼女は古の存在
日本ではまだ姿が目撃されている妖の一族だ
古くから怪異を起こす存在と人々に恐れられたバケモノ
現在いる獣人はその妖と人間が大昔に密接な関係になった際の末裔らしい
人間よりも優れてはいるが概ね同じくらいだ
しかし妖は違う
人々から恐れられたイメージから生まれた者
獣から人間へと成り上がった者
はたまた人間の好奇心によって作り出された者
だが総じて言えるのは人間には無い力を持つ事だ
異能と呼ばれる力
それが妖の特徴だろう
「うんうん,やっぱり人間の食べ物は美味しいね〜」
そんな妖も時が変われば趣向も変わる
無論人を食う妖は今でも存在しているしこの妖も例外では無い
ただ折角人間達が進歩したんだ
その過程で生まれた娯楽に勤しむ妖もいるのだ
「あーだりぃ…買い物くらいこんな大人数で来るなよな…」
「量が量なんだ,仕方ないじゃないか」
「てかルーシーの野郎どこ行った?」
「さっき車の部品がどうこう言ってたよ」
「あ"ーーーー…私が監視役じゃなければスイパラにでも行ってたのにな」
「随分と可愛い場所へ行くね」
「殺すぞ」
そんなセントラルシティには当然TE隊員達も買い出しにやって来る
中には任務の無い日に遊びに来る隊員もいる
TE部隊は傭兵のみならず様々な人々に認知されている
だからこうしてただセントラルシティを歩いているだけでも治安維持の手助けとなっている為特に決まりはなく自由に出入りしている
「おいシルヴィア,次のリストは?」
「えーと…弾薬類は終わったから…日常生活用品ね」
「んじゃ荒川と回ってくれ,私は医療品の方を回る,いいか?絶対にこいつを車に乗せるな,コイン入れて動き出すパンダの乗り物でもだ」
「…まぁ変な事しそうだったら息の根を止めるわ」
「やれやれ…手厳しいね」
各自手分けして必要な物を購入する
買い出しのみでもかなりの時間がかかるのがセントラルシティの欠点とも呼べる
セントラルシティ中央エリアは企業のビルや店などが必ず視界に映るほど埋め尽くされている
端から端まで歩こうものなら数時間はかかる
それ程までに大規模だ
当然人の数も多い,というより世界一を誇っている
様々な人種が入り乱れるまさに混沌だ
だがこの事を見越していたのかは定かではないが世界政府は数百年前からとある機材の無償提供を行っていた
限りなく人間に近い機械であり,言語を自身の使う言語に自動的に変換される耳へ埋め込むタイプの機械だ
これのおかげで言語の壁という物は存在しない
とは言え文字まではそうもいかないので基本的に英語が多い
まぁこれが壊れたら洒落にならないのだけども
「あとは何かあるか?」
「いえ,これで調達する物は全部揃ったわね」
「で…ルーシーは車乗り回してどこ行った?」
「さっき連絡が入ったよ,7番街辺りで待機してるって」
「どうせならこっちの迎えくらい…いや,人が多過ぎるか」
人混みは多い
まるでテーマパークに来たみたいでテンションが上がりそうだと言いたいがただただ人混みである
「あれ……?」
シルヴィアが何かに気がつく
ふと視線の先にはあの特徴的な髪色の爆弾魔の姿があった
「カレンさんもセントラルシティに買い物にきてたのね」
「おい馬鹿…!」
「………?」
女性が振り向く
見た目は確かにカレンそのものだ
しかしこの女性はカレンではない
いや…カレンではあるがカレン・ライリーではない
「何故私の名前を知ってるんですか…?それに貴女は…?」
「いやぁすまないね,どうやら友人が君を知り合いと勘違いしてしまった様だ,名前も一緒だとは思わなかったよ,それじゃあ」
「ちょ…ちょっと…!」
急いでその場を後にする3人
「馬鹿野郎!てめぇ何考えてやがる!」
「待ちなよV…シルヴィアはまだ入って日が浅い…知らないのも無理はないよ」
「その通りだわ…でもさっきのって…」
「あー…まぁどうせ知ったところでどうしようもない,あいつはカレンのクローン体だ」
クローン
いくら技術が進歩したからと言ってクローン技術が確立されている訳ではない
その技術を保有しているのは確認されている中で世界政府のみだ
「異能体実験…異能に関しては目を通したな?人ならざる力,そいつを持った人間を人工的に作り出そうと世界政府が秘密裏に進めていた計画だ」
「それじゃあカレンさんもその異能の力を…?」
「いや,あいつは成功に近い失敗作だ」
「成功に近い…失敗作…?」
「当初の思惑とは予想外の事象が起きたらしくてな,元々破棄予定だったらしい,偶然にも"誰か"がその破棄される予定の失敗作を救出及び保護の依頼を出してな,結果あのバカは隊員になってる」
「…カレンさんも辛い過去があったのね…」
「あぁ,あいつは人間でもバケモノでもない,中途半端な個体だ,あの時の一件を境に計画は凍結,クローン体には監視の元暮らせてはいるがいつまで生きられるかは分かったもんじゃねぇ」
「………?」
「私は専門ではないが知識はある,人が人を作る方法なんざ1つ,セックス以外無い」
「セッ…!?」
「それ以外の手段,人工授精なんかはあるにはあるがそれでも結局は母体が無けりゃ無理だ,DNAの情報を元に弄り回した人工的な人間なんかが既に実用化されてるんならもっと超人みてぇな奴がいる」
「…それがいない…って事は…」
「無理なんだよ,造られた生命は短命だ」
「……カレンさん…」
「あのバカも長生きは出来ねぇ,それを知っても尚あのバカは戦う事を選んだ,だがこの話はカレンの前で話すんじゃねぇぞ」
「…分かってるわ」
世界政府
誰しもがその存在を認知している
第二次世界大戦を境に世界各地で大規模な戦争が起こり次々と国が消えていった
各国の力を持った首脳はそれぞれが協力関係を結び,世界そのものを裏から糸引く強大な組織へと昇華した…とされている
だがその世界政府の前身となる組織があったのがいつからなのかは明らかになっていない
更に世界政府には謎が多い
このセントラルシティの技術もそうだ
とある時期を境に技術の進歩が著しく変わった
まるで何世代も先の技術を保有している様にも見える
だがTE部隊が知り得ている確かな事実がある
それは角と翼の生えた奴とは敵対関係にあるという事だ
TE部隊は度々角と翼の生えた奴の情報を探るべく様々な戦場へ情報収集を行った事がある
しかし毎回世界政府の組織がその現場を仕切っている
TE隊員となったコノエが元世界政府の人間であり,世界政府しか知り得ない情報を渡してくれたのは幸運だった
世界政府とTE部隊は敵対関係ではなくあくまでも中立関係だ
互いに干渉する事はない,見方を変えれば協力者とも呼べる
「おい見ろよ…連中だぜ」
「はっ,女共が街をデートか?」
「…………」
明らかにこちらの事を指して言っているのだろう
ガラの悪い傭兵がわざわざ大きな声で話している
「ねぇ…あいつら…」
「気にすんな,たかが下っ端だ」
傭兵という職業は敵を作りやすい
それはTE部隊も例外では無い
名が売れる毎にこうした奴らは湧いてくる
「見ねぇ顔だな,新人か?随分若いな,ちゃんと銃は持てまちゅか〜?」
「おいおいやめとけよ,つい最近までベビーカーだったんだろ?」
「違ぇねぇ,おままごとでもやってるんだなー」
「…………」
普段ならVはとっくにキレていそうだ
だがVは至って冷静だった
慣れているのか,はたまた眼中にないのか
「おい,無視すんなよ」
「悪ぃな,お前ら程暇じゃねぇんだ,無駄にでけぇ図体を退かせ」
「んだと…」
「やめなさい貴方達」
そこへまた1人
若い狐型の獣人だ
「無駄な事はやめておきなさい,いくら下っ端にほざいたところで無意味よ」
「けっ…てめぇら戦場で見かけたらぶっ殺してやる」
リーダーだろうか
ガラの悪い傭兵を連れてその場から去っていく
「…………」
「全く…この場にルーシーがいなかったのが幸運だね」
「あぁ,あいつなら殴りかかってただろうな」
「…よくあるの?あぁいうの」
「あぁ,私らは傭兵だ,敵を殺して金貰ってる集団だ,仲間を殺された奴,仕事を奪われた奴,そんな連中数えてたらキリがない,奴らは後者だな」
「仕事が貰えるのはありがたい事だけど言い方を変えれば私達が仕事を貰えているって事は仕事が貰えない人もいる…って事ね」
「あぁ,奴らのエンブレムを覚えておけ,戦場であったら敵だと思え」
「うん……ところで一体どこの組織なの?」
「Valentina Shadow Tactical Company,通称VSTCと呼ばれてる,元アメリカ政府直属の精鋭部隊だ」
「アメリカ…あの国は数年前に…」
「あぁ,あの国は滅んだ国だ,連中はそこの生き残り,今じゃ使命を忘れハイエナの様に戦争を金稼ぎの手段だと思ってる連中だ」
「けど…元は精鋭部隊なのよね?」
「あぁ,タチが悪い事に連中は腕が良い,こっちからは引き金は引かねぇけど連中が敵対したらこっちも骨が折れるだろうな」
「…何故そうなってしまったのかしら…」
「シルヴィア,私らTE部隊の傭兵は戦争を終わらせる為に戦っている,だが他の傭兵組織が皆そうだと思うな,連中が典型的な例だ,金の為に戦争を長期化,もしくは一時的に戦えなくして再び戦いが始まったらを繰り返す様な連中だ」
「目の敵にされるのも納得ね…」
必ずしも傭兵全てが平和の為に戦っている訳ではない
寧ろ金の為に戦っているのが大半だろう
中には傭兵の名を語った犯罪グループもあるくらいだ
そんな傭兵が傭兵を殺す世界
狂気と言わずして何と呼ぶ?
「うぃーっす,タバコ持ってない?」
「ほらよ,どこほっつき歩いてたんだルーシー」
「だってこのレンタカー乗りづらいからさぁ〜」
「あぁそうか,どっかのバカが弄り回したうちの車輌は押収されたもんな」
「バカって言うなよ〜,アタシはカレンよりマシだぞー?」
「あいつは大バカだ」
荷物を車に詰み全員乗車する
流石に荷物もあると窮屈だ
「私は暫く寝る…の前に一服するか,ルーシータバコくれ」
「あいよ」
ルーシーからタバコを受け取りシートを倒す
ん?
おかしい
今ルーシーは"後部座席"からVへタバコを手渡した
じゃあ運転席に座っているのは誰だ?
「おいまt」
「ヒャッハァァァァァァァァア!!!!!」
まずい,荒川だ
いきなりアクセル全開で凄まじい加速が乗員を襲う
「ふざけんなルーシー!!!てめぇなんで荒川にハンドル握らせてんだ!?」
「だって運転しにくいし〜」
「きゃぁぁぁぁぁぁあ!!!」
まるで車内はジェットコースターだ
120km…130km……車は更に加速していく
「くそっ!シルヴィア!!私のバッグからスタンガン出せ!」
「待って…こんな状況じゃ……」
「いい天気だ!小鳥は歌い花は咲き乱れている!こんな日こそまさにドライブ日和!ドライバーはこの私荒川 静が担当しております!ご乗客の皆様気分はいかがですか!最高にハイになってきたぁぁぁあ!!!」
「うるせぇぇぇ!!!さっさとてめぇハンドル放しやがれ!!!」
こうなった荒川を止めるには気絶させるしかない
さもないとこのままどこかの壁に突っ込んで全員あの世行きだ
「くそっ!こいつどこにこんな力持ってんだ!?」
「道は続くよどこまでも!そう!全ての道はローマへ続いているんだ!さぁ共に行こうご友人!覚悟は出来てるか!私は出来てる!さぁ荒川選手カーブを減速せずに向かう!おぉーっと!ここでニトロを点火!後続車を置き去りにしていくぅぅ!!」
「シルヴィアァァァァァア!!!さっさとスタンガンよこせぇぇぇぇ!!!!」
一方その頃
そんな騒々しい車内とは対照的だった人物が1人
「いやぁ〜久々に色々と買い食いしちゃったねぇ,たまたまにはこういう味も良いねぇ〜」
セントラルシティの美食に舌鼓を打っていた妖
元々この国の出身ではない彼女は様々な味を楽しんでいた
至って平和だ
「ふぅ〜ん,ヴィーガンハム?肉を使わずにハムの味を再現ねぇ…そんな事するくらいなら食べればいいのにね〜」
両手に食べ物を持ちながらまさにご機嫌な様子だ
妖と言えどただ無闇に人間を襲う輩は少ない
というより今は妖の存在が稀であるのも理由なのだが
「今日はいい天気だし何か良い事でも起き」
幸せは歩いてこない
だが不幸というのは全力疾走で近づいてくる物だ
それは人間も妖も変わらない世界の決まりなのである
「………は?」
視界が一気に180°回転する
地面は空に消し飛び体は宙を舞っている
「おぃぃぃぃい!?誰か轢いたぞ!?シルヴィアさっさとしろ!!!!」
「これね!はい!早く止めて!!!」
「ハプニングもありましたがチャンネルはそのままで!さぁ私は今更なる高みを目指して一気にアクセルを踏み込んーーーー」
暴走する荒川の首へ高電圧のスタンガンを浴びせながらハンドルを奪い取る
一気にブレーキをかけて車はようやく停車した
「はぁっ……はぁっ…ツッ!くそっ!人身事故起こしやがって!!」
Vは先程荒川が轢いた女性へと大急ぎで近づく
何せあの速度だ
無事では済まない
「大丈夫か!意識はあるか!?」
「………………」
「くそっ!医者は…いやそれは出来ない…ヘリに戻るしかねぇか……!」
「………………」
あの速度で車に轢かれたら無事では済まない
そう,人間なら無事では済まない
だが彼女は妖だ
(あちゃぁ……変に無傷なのも怪しまれるし暫く様子見するかぁ…)
あれ程の速度の車でも彼女は無事だった
妖とはそういうものだ
「ルーシー!さっさとヘリ出せ!」
「任されたぁ!」
「ちょ…ちょっと!?荒川さんは!?」
「知るか!あいつは事故を起こした犯人としてぶち込んでおけ!釈放なんかいくらでも出来る!それよりもこっちのが大変だろうが!拠点の設備がなきゃ私は治療が出来ねぇ,ヘリのもんだけじゃ応急手当てくらいにしかならねぇ!」
(なんか面倒くさそう…)
ほんの些細な事でこの日の運勢は一気に最悪になっただろう
ただ買い物をしていただけなのに今や負傷者だ
誰が予想できただろうか
いや,誰も予想は出来ない
いつ,なにがきっかけで戦争が起こるのか分からないのと同じなのだから
【Phase2:白狐】
「退け!邪魔だ!!」
「きゃっ!?なんなんですか!?」
「負傷者よ!あと荒川さんの釈放の準備を社長に伝えて!」
「えっ?えっ??えぇぇぇえ!?」
運ばれながら騒然としている人々の声が聞こえる
そりゃそうか
車に轢かれたんだもんね〜
どうも,轢かれた被害者です
何千年と生きてきたけど車なんかに轢かれたのは初めての経験だった
あんな衝撃で人間は死んでしまうんだからか弱い生物である
「なんだなんだ…って誰だそいつ」
「荒川が轢いた被害者だ,容体はかなり危険だ,医務室には絶対に誰も入れるな」
「あー…まーた書類が増えるわ…」
どうやら聞こえてくる声からしてどこかの組織の様だ
そのまま病院にでも連れて行ってくれればすぐに逃げれたのにこれまた面倒だ
まぁ目を離した隙にぱぱっと逃げ出してまた何か食べてこよう
TE拠点/医務室
随分と薬品の匂いが強い
まるで病院みたいだ
黒髪の女は私を寝台に寝かせるとさっそく治療をするのかと思ったがそうでもないらしい
タバコに火をつけ椅子へと腰掛けている
「…で?お前は何者だ?」
「……………」
「隠さなくていい,ヘリの中でお前のDNAサンプルを取った,人間でも獣人でも無い,どちらかと言えば狐に酷似している,お前妖だな?」
「なーんだ…バレてらぁ…」
「実物を見るのは初めてだ」
そういえば血液を取られてたなぁ
ミスった
もしこいつらが連中の仲間だったら…
「悪いがこの医務室で殺気を放つのは御法度だ,私は医者としてのプライドがある,この場で暴力的な事は厳禁だ」
「へぇ…面白いね人間,私の知る人間は妖を恐れるものなんだけど?」
「妖だろうが人間だろうが怪我してれば患者だ,まぁお前は怪我つっても擦り傷くらいだろうが,それに私はお前が怖くないな」
「ちぇっ,つまんないなぁ…」
長い時間の中で人間も変わっていったなぁ
随分と妖…未知の存在への恐怖を忘れてしまった様だ
まぁ別に恐れられるのが好きな訳でもないけど
「で…だ,お前は何者だ?」
「ん〜…白狐,とでも名乗っておこうかな,不運にも君らに轢かれた妖だよ〜」
「まぁそれは間違いないな,あいつに代わって謝罪しておく」
「それじゃあこっちから質問,何者?」
「私らはTrue Eyes Mercenary Company…聞いた事あんだろ?戦争を終わらせる戦争屋,ただの傭兵組織だ」
「ふぅん…世界政府とかの?」
「いや,あいつらとは別だ,敵でも味方でもないがな」
ふむふむ,連中とは繋がってなさそうだ
どうやら無駄な血は流さなくてよさそうかな
万が一世界政府と繋がってた時は全員殺すしか無いけど
「V,入ってもいいか?」
「ルイスか,構わねぇよ」
医務室へまた1人人間がやって来る
「ん…?あれ?」
「お前……白狐か?」
「あ?なんだルイス,知り合いか?」
「まぁ昔色々とね〜,それにしてもあの時の小娘が随分と大きくなったねぇ?」
「お前らとは時間の流れ方が違う,お前はまるで変わらないな」
まさかルイスが傭兵組織の社長になってたなんてねぇ
いやぁ昔の事が昨日の事のように思い出せる
あの時は私もお腹が減り過ぎてとある紛争地域に顔を出した時だった
まるで手応えの無い奴らの中に1人
唯一私に傷を負わせたのがまだ小さかったルイスだった
何百年も血を流してなかった私はその事を大いに喜んだ
昔の人間の様に私と戦える人間が残ってたなんて…って喜びの方が大きかった
私は戦いが好きだ
好きで好きでたまらなくて毎日戦っていたらいつしか私とまともに戦える存在がいなくなった
元々強過ぎたのもある
けど人間が自ら弱くなった
私はいつしか戦いを楽しめなくなっていた
退屈な日々
今じゃ何か美味しい食べ物を食べるのが唯一の楽しみだった
「それにしても荒川がお前を轢いたらしいな,すまない」
「ん〜?別にいいよ〜,代わりに何か食べ物ちょうだい?」
「あぁ,V,干し肉を分けてやってくれ」
「あー?何で私が…まぁこの前大量に作ったからいいけど,ほらよ」
「ありがとね〜いただきまぁす」
一口,二口
「…!美味しいじゃん!」
ただの干し肉だと思っていたがそうじゃない
噛めば噛むほど旨味が溢れ出して来る
こんな干し肉は店ではまず買えないだろう
「好きだろ?お前ら妖は」
「ん〜いいねぇ,この味はやっぱり何度食べても飽きないよ,新鮮な肉もいいけどこういう食べ方もあるんだね〜」
「だろ?人肉」
やっぱり人間の肉は何度食べても美味しい
血が滴る肉を絶命前に食べるのも美味しかったけどこんな風に干し肉にしても美味しいなんてやっぱり人間はいい食糧だ
「全く考えられないな…人間の肉を好んで食う奴らは…」
「ほっとけ,で?ルイスは何しに来た?」
「あぁ,アライの奴に噛まれてな」
「ったく,犬の躾くらいしっかりしておけ,何度目だ?」
「飼い犬に手を噛まれるって言うだろ?」
「そういう意味じゃねぇよ,ほら包帯」
「ありがとな」
「へぇ〜犬飼ってるんだ?通りで…」
「通りで?」
「何か犬臭いなぁ…ってね」
この島はやたらと犬臭い
まぁ本人達がそれに気付いてるかは分からないけど…ね
「ん〜?何か飛んでる」
「あ…?美香のドローン…あいつら……」
Vが勢いよく医務室の扉を蹴り飛ばす
「てめぇら…何やってんだ?」
「いやぁ…えへへ?」
「歯ぁ食いしばれ」
あーあドタバタうるさくなってきた
さっき医務室で暴力的な事は厳禁だって言ってたのになぁ
「ったく…で?てめぇら何しに来やがった?」
「いやぁ私と言うよりコノエが…」
「やっぱり…昔ファイルで見た姿だわ…!」
「うん?ファイル?」
「えぇ…世界政府の」
こいつ見覚えがある
世界政府のエージェントだ
やれやれ,本当に面倒くさい
「ツッ……」
「…へぇ…!」
人間を殺すのに武器なんか必要無い
ただ爪で腹部に風穴を開けてしまえばそれまでだ
私は今目の前のコノエという人間に向けて拳での突きを放った
本来ならここには血溜まりが出来ているだろう
けどそうはならなかった
目の前のこの女が私の爪をナイフ一本で止めたからだ
「随分といきなりね…」
「ん〜?私はただ邪魔になりそうな人間を殺そうとしただけだけど?」
「おい…てめぇら暴れるなら外でやれ」
さっきまで人の事ぶん殴ってた医者が何か言ってる
「落ち着けお前ら,流石に俺もここで殺しをされたら相応の措置を取る事になる,白狐,何が問題だ?」
「こいつは世界政府のエージェント,つまり私の敵だ」
「ち…違うわ…私は…」
「なるほどな,コノエ,話してやれ」
「…私は確かに世界政府のエージェントだった,けれど世界政府が正義かは別の話,私は昔とある国の軍人で私の国は戦争に負けて滅んだの…その後偶然にも近くにいた獣人が世界政府の最高戦力の4人…角と翼の生えた奴に殺されかけていた私を救ってくれたわ…その恩義があって私は世界政府のエージェントとして長年活動していた…けれど私の国が滅んだのは…いえ,その戦争自体が仕組まれていたの…世界政府にね…」
「最高戦力…?お前四獣と会ったのか?」
「えぇ,世界政府の持つ最高戦力,彼女達4人でやっと角と翼の生えた奴を撃退に追いやったわ…」
あぁ…なんてこった
こんな所で連中の事を聞くとは思わなかった
四獣…世界政府の最高戦力の4体
青龍
朱雀
白虎
玄武
文字通り四神だ
それらが世界政府の最高戦力
連中の力は私が身をもって知っている
私では歯が立たない
それもそうだ
連中は必ず4体で狩りをする
単体ですらイカれた力を持ってながらそれが4体もいやがる
私が弱い訳じゃない
私ですら逃げる事しか出来ないんだ
そしてあの4体でようやく撃退に追い込んだ角と翼の生えた奴
奴らはあの4体よりも更に強い
いつぶりだろうか
血が沸る感覚を思い出す
戦ってみたい
「まぁそういう訳だ,コノエは俺達の仲間だ,角と翼の生えた奴は俺達の人生を狂わせた元凶だ,確実に息の根を止めてやる」
いい事を知った
どうやらルイス達,TEはこの角と翼の生えた奴とは因縁関係にあるらしい
つまりこいつらと一緒にいればいずれ交戦する機会があるって事だ
「…なぁ白狐,お前の力があれば俺達は更に戦力の強化になる,どうだ?」
「ん〜…却下かな」
私は元々自由を好む
何かの組織に属するのには嫌悪感を抱いている
それは今までと変わらない
精々私がやれる範囲といえば…
いや,そうか
「組織には属さないけど協力してあげてもいいよ,ただ条件がある,さっきのそこの金髪の女,一戦やらせてよ」
さっき私の一撃を偶然か奇跡か,はたまた実力か
何はともあれ止めた
そんな人間がまだこの世にいるとは思わなかった
それならば私は一戦交えてみたい
戦うのは好きだ
だがそれ以上に私は強者との戦い…
いや,死場所を求めているのかも知れないね
【Phase3:妖の力,人の力】
TE拠点/屋外
「シルヴィア,やれるか?」
「コンディションはバッチリだけど…何で私なのかしら…」
そりゃぁ私の一撃を受け止める力
いや…正確には"受け流した"
本人がそれに気付いてるかは知らないけど人間にしては興味を惹かれる
それに私の速度に反応出来たんだ,この人間は強い
本気でやる訳じゃないけどいくらか楽しい戦闘が出来そうだ
「いいか,あくまで戦闘訓練だ,危険だと判断したらその場で終了だ,俺が合図を出すまで2人とも思う存分やってくれ」
「妖…人外との戦闘なんて初めてね….」
「殺すつもりできていいよ〜」
さて…お手並み拝見
(まずはリーチを図る…)
先に動いてきたのは人間…いや,シルヴィアって名前だったかな?
ナイフの投擲
懐に忍ばせておいたのだろう
普通ならこの速度は人間にとっては躱せない
「遅い」
見てからでも十分回避が間に合う
右…左…中央のナイフは躱わすまでもない
「嘘っ…」
「ほら,返すよ」
掴んだナイフをシルヴィアへの投擲
当てるつもりはなかった
ギリギリで頬を掠めて後方へと飛んでいく
「あちゃ〜狙い外れちゃった」
「ツッ……わざとやってるわね…」
流石にバレるか
ならこっちも少しは遊んであげようかな?
「へぇ……あれが…」
「異能…か」
空間に亀裂が入り裂け目が出来る
裂け目の先はただただ空間が広がっている
この空間は私が指定した場所に直接繋がる
言ってしまえばどこでもポータルみたいなものだ
「よっと,ナイフで刀の間合いとどう戦うか……なっ!」
踏み込み距離を詰めるのに時間は必要ない
一瞬だ
「っ…!速い!?」
シルヴィアはナイフを構える
当然刀なんて物を持っているのだから刀での斬撃を防ごうという考えだろう
「甘い…ね!」
刃物を持った人間の制圧は簡単だという話を聞く
刃物を持った人間は刃物しか使わない傾向が強いからだ
だが私はあいにくとそんな拘りはないものでね
刀へ意識を向けさせて,警戒していない蹴り
「うぐっ…!?」
加減したとは言え私達妖は元々の身体性能が違う
ただの蹴りでも十分人を殺せる
「がっ……はっ……!」
「あーれま,もうギブアップ……ッ…」
足に突き刺さる鋭い痛み
気がつくとナイフが刺さっている
「へぇ…あそこから咄嗟に返し技する余裕あったんだ?」
一瞬,足に突き刺さったナイフに視線を移したほんの一瞬
視線を戻した時には目の前にまでナイフが迫っていた
速い
投擲による物じゃない
これは…バリスティックナイフか…!
「よし…当たったわ…!」
へぇ…
人間の割には意外とやるじゃん
けどこんな程度じゃ私を倒すには遠く及ばない
「え……何………?」
「さっきも見せたよねぇ?異能,私の持つ力だよ」
ナイフは刺さった
確かに刺さった
「私の力はこうやって空間を操る能力でね,このナイフの刺さった空間を亜空間にある別の物体と入れ替えただけさ」
側から見れば何もない空間にナイフが突き刺さっている様にも見える
私の持つ力
空間と亜空間を自在に操る力だ
だからこうやって自分のナイフの刺さった部分の空間ごと亜空間と入れ替えた
「バケモノ…」
「それは知ってるでしょ?いやぁでも今のは驚いたよ〜?面白いね,人間」
「その人間って呼び方やめてくれないかしら?私には両親から貰ったシルヴィア・ガブリエラという名前があるの!!」
「ふぅん?じゃあ来なよ,シルヴィア」
身を低くして一気に加速を付けての接近
人間にしては速い
けれど私からしてみれば十分見切れる
「ッ!」
「また外れた…!?」
ナイフによる斬り上げ
当然そんな単純な攻撃が当たるわけもない
だがシルヴィアはナイフを自身の手から離したのだ
勢いのついたまま軌道はそれでいてしっかりと私の顔を捉えている
なるほど,ナイフに括り付けたワイヤーか
「はははっ!面白い!そうでなくっちゃ!」
「私達人間は弱い,勝つ為ならいくらでも小細工を使うわよ」
このシルヴィアという人間
ナイフでの戦闘のみを長い時間をかけて磨き上げたのだろう
剣で言うなら達人クラスだろうか
「これはちょっとばかり力を出しても良さそうかな?」
「…!」
私は小動物に全力を出して狩りを行う愚かな獣とは違う
だからいつもは自分の力に枷を付けている
目に見える変化はこの尻尾の数だろう
1本から3本へ
「なに…この圧は…!?」
「まぁ30%ってところかな?」
この状態でまともにやり合える人間は多くはない
ある意味幸運だろう
私が楽しめると判断した相手になれて
「ぐっ…ぅっ!?」
「おー…ぶっ飛んだぶっ飛んだ」
最初と同じ蹴り
だが今回の速度にシルヴィアは対応が遅れた
辛うじて腕で受け止めはしたが体は大きく吹き飛ばされる
ミシミシと骨の軋む音
折れてはいないがヒビくらいは入っているのだろう
受けた腕が赤黒い
内出血でもしたかな?
「これで3割…考えたくないわね…」
(流石だな…白狐は妖,その力を効率よく使用してシルヴィアをゆっくりと追い詰めている,だが驚くべきなのはシルヴィアの方だ,人間でありながら白狐の動きに少しずつだがついていっている,現状を見れば有利に見えるのは白狐…だがその実は…)
「ふっ…!」
「おっと…!?」
足元からの爆破?
一体…いや,そうか,これは先程投擲したナイフか…!
「悉く私の策を見抜いてくるわね…」
「いやいや感心するよ,最初に投げたナイフ…あれにもワイヤーを仕込むだけではなく爆薬まで仕込んでたんだ?」
「カレンさんのお手製よ,危なくて使えたものじゃないとは思ってたけど」
なるほど
私が興味を強く惹かれた理由
似ている,この私に
全力で叩き伏せる,ではなく如何に楽に,狡猾に相手を仕留めるか
理に適った戦い方をする
「あははははっ!面白いよシルヴィア!簡単には死なないでね!」
抜刀
シルヴィアなら刀で戦っても互角に渡り合ってくれるはずだ
「ほらほら!見せてよ!シルヴィア!」
「くっ…重い一撃加えながら言わないでよね…!」
刀での斬撃をナイフで見事に受け流している
そう,私が気になったのはこの受け流しだ
ナイフのグリップなんて知っての通り小さい
そんな状態で刀の斬撃を受け流す?
まず不可能に近い
だと言うのにシルヴィアは私の一撃一撃を的確に受け流している
どうやって?
いやそんなことはどうでもいい
私はシルヴィアがどれだけ戦えるのかを見てみたい
「…!!!」
「見事だね,咄嗟に回避を選択した,面白いよ!」
私の刀はただの刀ではない
妖刀だ
それも私が持っている中でお気に入りの一振りだ
妖術を込めた一撃は受け流しは出来ない
「なんだ…?」
「空間が…」
空間が斬れた
そう表現するのが正しいし実際私は空間そのものを斬った
その場にある空間そのものを斬る
そこに防御の概念は存在しない
今の一撃を受けていたら腕の一本は貰っていた
「おいルイス,止めなくていいのか?」
「あぁ,分からないか?シルヴィアのあの表情」
「いや〜…シルヴィア,君といいあの人間といい…戦闘状態に入った達人クラスの人間の直感は目を見張るものがあるね…ん?笑ってる…?」
笑っている
私との戦いの最中に笑っていた人間は初めてだ
「ふふふ…楽しいわ…私が本気を出せる相手が今目の前にいるんですもの…!」
「面白い…面白いよ…シルヴィア!」
あぁ,どうしてこんなに血が沸る戦いというのは楽しいんだろう
ましてや人間でありながら私に気押される事もなく,向かってくる相手なんて滅多にいない
「それじゃあこれはどうかな!」
空間の裂け目
私の空間を操る能力はこの様に応用も出来る
「後ろ…!?」
腕のみを亜空間と繋げてシルヴィアの背後へ
私に間合いは関係ない
私はこうやって相手の360°何処からでも攻撃を仕掛ける事が出来る
「一撃目で見切るとはやるね!」
「下手なのよ,殺気の隠し方が!」
続く二撃目,三撃目も合わせて反撃をしてくる
飲み込みが速い
適応能力が人間の中でも遥かに優れている
「おっと,段々この速度にも慣れてきたね?」
「変に期待しないでよね…私だって体力にも限りがあるんだから…」
「それじゃあ次で決めようか」
刀を鞘へ納める
この構えは最も速い一撃を生む
居合だ
次の一撃がこの戦闘に終わりをもたらす
それはシルヴィアも理解していた様だ
あの構えは私の一撃に備え,反撃を狙うものだろう
他の隊員達も同様,この一撃で決する事を確信している
1秒
静寂な空気
2秒
緊張が体を硬直させる
3秒
2人が交差する
私の刀はシルヴィアの胴を
シルヴィアのナイフは私の顔を
音が後から聞こえる
それほどまでの速度によく着いて来れた
賞賛に値するものだ
「ぅ……ぐっ…」
「勝負有り…だね」
刀は確かにシルヴィアの胴を捉えた
そしてこの手に残る確かな感触
頬を伝う生温かい感触が相手の出血を伝えている
いや…これは…
「これは……私の血…か」
返り血ではない
まさかあの刹那の一瞬で私を倒す事だけを考えていたのか?
人間が自らの命を投げ打って相手を殺す事だけを考えるなんて不可能だと思っていた
人間には必ず生きたいという欲が生まれる
だからこそその欲が攻撃の手を鈍らせる
だというのにこのシルヴィアは自分が死んでも確実に私を殺すという確固たる信念を貫いたんだ
「…勝負あったな」
「ニーア,ルーシー手を貸せ,シルヴィアを医務室へ運べ」
やっぱり戦いは面白い
人間という生き物もまだまだ捨てたものではないみたいだ
「えっと…シルヴィア…?」
「まだ寝てた方がいいんじゃない〜?」
シルヴィアが立ち上がる
胴を斬られて出血していながら自らの足で立ち上がった
人間には相当辛い状態だろう
「……?」
なんだ?
私の手が震えている?
いや,手だけじゃない
体が硬直する
なんだ?
「……………」
シルヴィアの瞳は虚だ
意識も絶え絶えだろう
それでもまだナイフを構えている
無意識に体がまだ動いている…?
「なんだ…あの目……」
人間の目ではない
かと言って私達妖の目でもない
『知は奇を踏破した』
「………は?」
シルヴィアの姿を見失った
意識を向けていなかった訳じゃない
寧ろ意識を向けていた
それだと言うのに私がシルヴィアの姿を全く目で追えなかった
気がついた時にはシルヴィアは私の後方へ
そして感じたのは私の左腕が吹き飛んだ感触だ
「なんだ…あの動き……!?」
「…………」
ばたりとシルヴィアは力無く倒れ込む
「まずい…ニーア!ルーシー!シルヴィアを急いで運べ!出血が多過ぎる!」
「いつつ……腕を斬り落とされるなんて初めてだね…」
「……………」
運ばれていくシルヴィアを見ながら私は斬り落とされた腕を妖術で復元させる
人間は瀕死の時にこそ真の力を発揮するとは聞くが明らかに今のはそれらを超えた一撃だ
あのナイフで腕を斬り落とすなんて芸当出来るわけもない
「…驚いたな,シルヴィアにあんな力があったのもそうだがお前が油断するとは」
「ん〜…まぁ人間だからって甘く見てたのが良くなかったね〜」
実際は違う
私が反応すら出来なかった
あの一撃は本当に人間の力なのか?
「で…どうだ?」
「あぁ協力の話ね,いいよ,隊員みたいに任務とかに出るかは気分次第だけど何か手を借りたくなったら呼んでくれれば」
「ありがとな,一先ず今日のところはこれで終わりだ,また会おう」
「それじゃまたね〜」
亜空間/???
「……………」
ルイス達,TEへの協力はする事にした
けどそんな事は私にとって重要ではない
あの一撃
私の理解を超えた一撃だった
人間はあそこまでの力を出せるのか?
不可能だ
そう私は考える
しかしシルヴィアは人間だ
だがあの一撃の一瞬感じた違和感
人間でも妖でもない
私の知らない気配が一瞬漏れ出ていた
かと言って人間を辞めたのなら気配で分かる
あれは人間の気配ではあった,だが何故か引っかかる
腕を斬り落とされるなんて非日常
私にとって初めての体験だった
「おもしれー女…」
まだ私が知らない事がこの世界にはある
そう思うと久々に楽しく思えてきた
「おかえり,お姉様」
「ん,ただいま」
私は現世に住んでいる訳ではない
この亜空間の中に自らの拠点を持っている
その方が面倒ごとが少ない
そしてここに住んでいるのは私と妹,そして
「おかえり,ご飯出来ているよ」
「ん〜♡いつもありがとね〜♡」
私の夫だ
元人間の半妖
私だって夫を持つ事くらいはする
「今日のご飯は〜?」
「スペアリブを作ってみたんだ,初めて作ったから味の自信はないけどね」
「そんな事ないよ〜?いつも美味しいご飯ありがとね〜♪」
「……………」
「ん?どしたの?ご飯いらない?」
「ううん,何でもないわ」
(私じゃお姉様の心を満たせない…だからこそあの人の存在が必要…けどそれを見ているのは…複雑だわ…)
「それじゃあ食べ…べ………」
「おっと,また血が足りなくなっちゃった?んっ……」
「……ぷぁっ……いつもありがとね,愛してるよ」
「えへへ,それじゃ食べよっか♪」
(本当は気づいている筈…けどあの大厄災を再び引き起こす事は防がなくちゃいけない…)
あぁ,この世界は面白い
私自身TE部隊の目指す平和な世界には興味はない
けどそこに至るまでに何が起こるかを見届けるのも暇潰しにはなるだろう
戦争を終わらせる戦争屋
果たして何を"戦争"とするか
どこまでを"戦争"とするか
人間の選択は私達妖には理解が出来ない
だからこそ面白い
これから楽しくなりそうだ
-Next war-
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