V.P.B.C -Never war to Die-

狼谷 恋/V.P.B.C

【season1】 -War 1- 【戦争を終わらせる戦争屋】

【Phase1:シルファ】


自由になりたい


そう思い始めたのは遠い昔の事だった


この世界には戦争が満ちている


奴等の存在がこの世界を破滅に導いているからだ


私達はVariant Point Breaker Company


通称V.P.B.Cと呼ばれる傭兵組織だ


こんな世界情勢じゃ食いっぱぐれのない職業,金になる仕事などと言われている


子供の将来の夢が傭兵,なんて言われるくらいには酷い状況だ


傭兵という職業に身を置きながら傭兵という存在はどれだけ無駄なものかと思う


争いなんか無くて平和な世界だったら…って思う事はよくある


命の危機を感じなくても済む様な世界


だが現実は残酷だ


今まさにその正反対の場所にいるのだから


「おいジーナぁ!こっちに薬莢飛ばすんじゃねぇよ!!」


「あんたがそこにいるのが悪いんでしょうがぁ!」


「あれ?もうお酒無くなっちゃった?誰かー!ウォッカ持ってないー?」


「私はカルーアがいいっス!」


「あのなぁお前ら……任務中なの忘れてないか?」


某日,とある紛争地域


長期化する戦争を食い止めるべく私達V.P.B.Cにとある依頼が舞い込んだ


依頼内容は至ってシンプル


敵勢力の無力化だ


作戦内容も至ってシンプルなもの…ではなく,隊員達の暴走によって非常にシンプルなものに変えられた


本来であれば戦場に足を運ぶのはある程度掃討作戦が済んだ後になる筈だった


目標のポイントまで車両で移動して様子を見る,その後敵の拠点を爆撃,消耗したところを叩く…それが本来の作戦


それがどうだろうか


敵さんは随分と活きがいい


それもそのはずだ


ジーナが勢い余って敵陣まで車で送り届けてくれたのだから


そんなこんなで現在応戦中なのである


飛び交う弾丸の数を数える気にもなれない


そりゃそうだ,敵拠点だ


弾薬なんて余るほどあるだろう


『あーあー,こちら荒川あらかわ,黒崎くろさき聞こえてる?』


「聞こえてる,向こうの様子は?」


『それがさぁ…危なっ!?ソフィーが偵察なのにぶっ放しちゃってさ…絶賛私達追われてるんだよね』


「はぁー……」


どいつもこいつもまともに指示通りに動けないのか


言い忘れていたが私はこのV.P.B.Cの隊長だ


作戦を立て,隊員を纏め上げ,迅速に任務遂行を行う


だと言うのにどいつもこいつも個性の塊過ぎてまともに扱えたもんじゃない


まともなのは私だけらしい


いい加減隠れているだけじゃ状況の打破には繋がらない


寧ろ作戦通りにいかない事が大半だ


いつも通りのやり方でいこう


「全員聞け,これより強行突入を実施する,荒川,ソフィーの両名はそのまま敵の撹乱,釘付けにしておいてくれ,ジーナ,Vヴィーの2人はここから援護,シアとナツキは私と一緒にこのまま敵陣に突っ込む」


「「「「「「「了解」」」」」」」


どうしてこいつらは最初から言う事を聞いてくれないのだろうか


だが問題点を挙げるとすればそこだけとなる


私は物陰から体を乗り出して敵陣を真っ向から突破する


撃たれる心配?


それはない


荒川とソフィーが一部の敵を釘付けにしている


それに私達の後方からはジーナとVが支援をしてくれている


「おいジーナ!てめぇ私と同じ敵狙うんじゃねぇよ!」


「早いもの勝ちだって〜,なんなら勝負でもするかい?」


「上等,秘蔵のボトルを賭けてやるよ」


2人ともあぁ言った感じで仲が良いのか悪いのか,事あるごとに口喧嘩をしているが実力は確かだ


私の目が敵を視認した時には血飛沫をあげている


撃たれる心配はない,寧ろ隊員を信頼出来ず何が隊長だろうか


「シア!目の前の瓦礫をぶっ飛ばせ!」


「了解っス!」


一々足を止めてもいられない


障害物を吹き飛ばすのはV.P.B.Cの中で最も危険な爆弾魔,シアである


構えたRPGを瓦礫の山へと叩き込み破壊する


爆炎の中私達は走り抜けていく


「ナツキ,右を頼む,私は左を」


「了解,隊長」


爆炎を抜けて建物内へと侵入


建物内への敵は自分達で対処しなくてはならない


先程の爆撃によって1階部分は煙が充満している


奇襲を仕掛けるには最も都合が良い


「クリア!」


「よし…このまま制圧するぞ」


たったの1分だ


1階部分の制圧を終え2階,3階も同様に進んでいく


的確に敵を倒しながら中枢を叩く


これがV.P.B.Cの戦い方だ


V.P.B.Cという傭兵の理念は敵中枢を素早く破壊し,早期に戦争を終結させる事


それ故に名付けられたVariant Point Breaker


実際名に恥じぬ戦果を上げてきた


だが隊員達がもっとまともなら更なる戦果を上げられているのだろう


あくまでこの個性の強過ぎる集団が命令を聞かずに一悶着した後に任務を果たす,それが結果的に他の傭兵組織よりも早いだけの事


皮肉なものだ


けれども結局他人からの評価よりも自分達が何を成しているのか,重要なのはそこだ


金の為?


正義の為?


そんな目的で傭兵になった訳じゃない


戦争を終わらせる


私達V.P.B.Cの真の目的だ


戦争を終わらせる戦争屋


私達V.P.B.Cに付けられた異名だ


この世界には力を持った存在が多過ぎる


企業,テロリスト,数え出したらキリがない


個人でそれらを一々相手にしていたら時間がいくらあっても足りない


だからこその傭兵組織だ


金次第で如何なる戦場にも足を運び確実に依頼をこなす,今や政府からの非公式の依頼も舞い込むくらいだ


そしてそれらを実行する為の力,実績がある


仕事を選ばないのにもメリットがある


依頼してくる連中は幅広い,得られる情報も多種多様


そして傭兵組織に仕事を任せたい連中はいずれも力を持った人間達だ


否が応でも私達は戦場に行かなければならない


だが依頼をこなす度に1つ,また1つと戦争の種が消えていく


少しずつだが確実に戦争を終わらせる機会に近づいている気がする


少なくとも金の為や忠義の為に戦っている奴等とは同じ道を歩んではいない筈だ


「クリア…随分と静かになりましたね,隊長」


「そうだね…けどターゲットはまだ確認出来てない,ナツキ,ドローンの展開準備を」


「了解です」


「黒崎ー?私はなにしたらいいっスか?」


「何もするな,ビルの倒壊に巻き込まれて死ぬのは勘弁してもらいたいからね」


今回の様な仕事も日常茶飯事だ


ターゲットの殺害,及び組織の壊滅


それも一般市民を巻き込むのも躊躇しないテロリストだ


わざわざ野放しにしておく理由もない


「さて…最後はこの部屋だな」


「シア,グレネード,もちろんフラッシュグレネードよ?」


「分かってるっスよ〜」


扉を開け隙間からフラッシュグレネードを放り投げる


数秒後,爆音と共に閃光が部屋を満たす


「ムーブ!ムーブ!」


室内へと突入して銃を構える


「……?誰だ?」


「うぅ……まだ目が見えない……悪いんだけどもし銃を向けてるなら下げておいて貰えると助かるわ…私は敵じゃない…」


目の前には1人の女性が屈んでいた


敵意は無い


仮にあったとしてもこの状況ならこちらが先手を打てる


銃を下ろし彼女と話してみるとしよう


「何者だ?何故ここに……ってそこの死体は…」


「ターゲットに間違いなし…と,そこの彼女についてもデータベースに該当者あり…とりあえず拠点にデータは送っておくわ」


あらかじめデータを送信しておくのは万が一に備えてだ


もし彼女が敵対し,私達が無事に済まなかった場合の保険


拠点にデータさえ送っておけばお礼参りくらいしてくれるだろう


「シルファ・パラディス…年齢20,個人で万屋を経営……データ通りなら偶然私達と同様の依頼を受けた同業者…ってところね」


「ありがとうナツキ,大体分かった」


「さっきも言った通り私は敵対するつもりもない…ごめんなさいね,貴女達の獲物だったなんて…」


「気にしないでいいよ,早い者勝ちだしね,寧ろ助かったと言うべきかな」


「…さっきそっちの人が私について調べてたみたいだけど…改めて名乗らせて貰うわ,私はシルファ・パラディス,依頼を受けてここには来たわ」


「私達はV.P.B.C,隊長の黒崎 咲くろさき さくだ,そっちのはナツキ,んでそっちの赤いのが」


「どうもシアっス!」


「V.P.B.C…まさか戦争を終わらせる戦争屋と出会えるなんて…ね」


依頼主は何が何でも連中を殺しておきたかったらしい


全く報酬はどちらに支払うつもりだったのか


帰ったら問いただしてみるとしよう


『黒崎,聞こえるか?』


「ジャック?珍しいな,任務は無事に終わった,これから帰投するよ」


『送られてきたデータを見た,そこの彼女を連れてきてくれないか?』


「あー…聞いてみてからになるけど…なんで?」


『聞きたい事があってな』


ジャックが他人を気にするなんて珍しいこともあるもんだ


V.P.B.Cの社長であり私の旧友


そんな彼女が偶然居合わせただけのシルファに興味を持つとは思いもしなかった


「…シルファ?急で悪いんだけど…どうやらうちの社長が会って話したい事があるらしい,一緒に来てもらえないか?」


「…?私に…?別に構わないけれど……ツッ!」


「…!?」


その時だった


シルファがナイフを抜き私の横を走り抜けた


銃を構え直す時間もなかった


振り向くと部屋の外には首を掻っ切られた男が倒れ込んでいた


まだ敵が残っていたのか…?


「油断大敵…ね」


よく見るとこんな場所に来るにしてはシルファは随分と軽装だ


恐らくシルファの武器はあのナイフなのだろう


私が銃を構え直す隙もなかった


もしシルファが敵対していたのなら私は死んでいたかも知れない


「任務完了,全員回収ポイントまで急げ,余計な事はしないで爆発もさせるなよ?」


「それ絶対私のことっスよね!?」


何はともあれ任務自体は終わった


あとは早々にこの戦場からおさらばするだけだ


まぁヘリの運転するのは私なんだけど,あいつらを乗せるとなるとかなり疲れるんだよなぁ…


V.P.B.C/輸送ヘリ内


「……………」


「……………」


「……………」


空気が重い


まるで他人のクラスに勢いよくおはようと言いながら入ったみたいだ


それもそうだろう


見ず知らずのシルファがヘリ内にいるからだ


V.P.B.C隊員はどいつもこいつも癖が強過ぎる個性の塊だ


だが隊員同士なら多少の会話やトラブルは起きるだろう


だがこのシルファという人物については私自身もよく知らない


皆が警戒心を抱くのも当然だろう


まぁ私はただヘリを操縦してるだけだからそんな空間にいなくてマシとは言えるが


「…えっと……こんにちは?」


「………こんばんはだろうが,金髪」


「あはは…それもそうね…私はシルファ,シルファ・パラディスよ」


「……………」


「挨拶くらい返したら?V」


「うっせぇよジーナ,私はイライラしてんだ」


「勝負に負けたからぁ?相変わらずガキみたいな心しか持ってないね〜,お酒は貰うけど」


「んだとてめぇ…」


「V頼むからヘリの中で暴れないでくれよ…」


「てめぇの運転よりはマシだろうが荒川!!!」


「やめるっスよ,また墜落するのはごめんっス」


「墜落させたのは荒川なんだけどなぁ…?」


「…………」


シルファが唖然としている


それもそうだろう


先程まで嫌な静けさが満ちていたヘリの中は喧しいくらいだ


口を開けばすぐ様喧嘩


主にVの所為なのだが…


「ったく…私はさっきも言った通りV.P.B.C隊長の黒崎 咲,お前ら一応自己紹介しとけー」


「私はシア・ライリーっス,よろしくっス!」


「荒川 静,ここの隊員は皆おかしな奴ばかりでね,やっぱりまともなのは私だけか」


「プロツェンコ・ジーナ,専ら車弄りが趣味だぁね」


「ナツキ・アレンスカヤ,主にドローンでの偵察,戦闘担当よ」


「ソフィー・イリーナ,偵察兵よ」


「…………Vだ」


おかしいな


自己紹介した筈なのに会話がちっとも弾まない


まぁこいつらにそんなことを望む方が酷かと思っておこう


「…ところでお酒はまだあるかい?」


「シアが全部呑んじゃったわよ」


「アタシのウィスキーはぁ!?」


「てめぇ!!私の苺酒まで呑みやがったな!?」


「任務に酒を持ち込むなんて御法度っスよ?だから呑んだっス!証拠隠滅っスよ!」


「任務中に呑む方が御法度だろうが!!!てめぇぶっ殺す!!!」


ほらまた始まった


なんでどいつもこいつも喧嘩しか出来ないんだ


いやトラブルを起こすシアもシアだ


だからトラブルメーカーなんて呼ばれる


「はぁ…ソフィー」


「チェェェェエストォォォォォ!!!!」


「おぶっ!?」


「…まぁこのくらいで勘弁してあげて,V」


「ちっ…このままヘリから落としてやりてぇ…」


「やめろやめろ,死にはしないだろうけど怒られるの私なんだから…」


本当に喧しい


ヘリの中くらい静かにして欲しい


こんな密室で荒げた声を出されたら耳がキンキンする


「……ふっ……ふふふっ……」


「………?」


シルファが口を押さえて笑っている


「まさか戦争を終わらせる戦争屋の人達を見る事になるとは思わなかったけど…なんだかみんな仲良いんだなって」


え?


どこに仲良い要素があった?


そして何でそれを笑ってる?


常識人に見えて実はそうでもない?


「貴女達の噂は知ってるわ,戦争を終わらせる戦争屋V.P.B.C…政府からの非公式な任務も請け負う…そしてその実力は傭兵業界ではトップクラスってね」


「そんな大したものでもないよ,私達はこんな戦争ばっかの世界から戦争を亡くして平和の為に戦っているんだ,それに奴らをーーー」


「喋り過ぎだ荒川,てめぇもラリアットくらうか?」


「それは勘弁してもらいたいね…」


「えっとソフィーさん…で良かったわよね?さっきのラリアット凄かったわ…」


「ん…?あぁ,とある人の賜物よ」


「でもシアさんは…?」


「気絶してるだけだ,こいつは死なねぇよ,異能体いのうたいだからな」


「異能体……?」


「知らなくていい,そいつはめちゃくちゃ身体が頑丈ってだけだ」


「なるほど…Vさんは…」


「メディック,こいつらの治療が仕事だ」


「……ん?おいV?お前タバコ吸ってるだろ?」


「ジーナも吸ってるだろ」


「ったく禁煙だぞここは…拠点じゃ吸わない癖に…」


「だから今吸ってんだろうが」


「それにしてもシルファさんは随分と身軽な格好ね…すごく身軽」


「え……きゃぁぁぁぁぁあ!?」


「なんだ!?どうした!?……ってまたか…」


「股だね」


「黙れ荒川」


ナツキはナツキでいつものセクハラだ


シルファのスカートを覗き込んでる


そりゃ悲鳴の一つや二つ上げるだろう


「ふ〜ん…うふふ…」


「ごめんよシルファ,見ての通り皆おかしいんだ,だからまともな私が会話相手になるよ」


「なぁ黒崎,こいつが本当にまともかどうかヘリの操縦桿変わってやれよ」


「私らに死ねって言ってる?却下」


まぁ…


内容はどうであれ静かよりはマシになった


「ふむふむ…ジャック自らね…何かやったのかい?」


「やってない…と思うけど,私も正直何で呼ばれたのか知らされていないわね…」


「まぁでもジャックが呼ぶくらいだから何か大切な話があるんじゃないかな,それに拠点に外部の人をいれるなんて滅多にない事だよ」


「そうなの?」


「大抵入ったら死体になって出てくるからね」


「てめぇもそうならねぇ事を祈るんだな,金髪女」


「……確かにそれはごめんね…」


確かにジャックがシルファを拠点に連れてこいって言ったのには内心驚いている


普段は敵兵なんかを連れ帰る事はあるけどもその末路は悲惨としか言えない


一晩中拠点の地下室から悲鳴とチェーンソーの音が響き渡る


ある程度距離が離れた寮の自室にいてもだ


もう少し防音対策をして欲しかった


けど敵でもない,経歴にも妙な点は見られなかった


そんなシルファに何の用事があって呼び出したのだろうか


まぁそれも拠点に戻ればジャックの口から伝えられるだろう


任務の疲れもあって若干眠い


このまま眠りに落ちてヘリを落下させたら荒川にすら笑われる


安全運転を心掛けよう


眠気覚ましのミントが爽快感を与えてくれる


『ねぇ咲,ミント食べる?』


「……………」


…少し思い出したくない事を思い出してしまった


まだ私自身が乗り越えられていない証拠だろう


いつまでも立ち止まってはいられない


それに私にやれる事はこれしかない


同じ過ちは2度と起こさない


2度と起こしてなるものか


私が戦う理由の1つだ


さて,このままいけば夜明け前には拠点に着けるだろう


相変わらず後ろの方は五月蝿いけど目を瞑る


もちろん物理的な意味じゃなくてね


【Phase2:角と翼の生えた奴】


「ほらお前ら起きろ,さっさと降りた降りた」


「やっと地面に足が付けた〜」


「ったく遅えよ…」


時刻は午前4:00


まだ日が昇るにはもう少しかかる


「ここが…」


「ここがV.P.B.C拠点だよ」


V.P.B.C拠点のある島は元々は無人島だ


地図にも記されていない


いや…地図なんか一々書き換えてたらキリがない


だから最後に作られた地図の後に生まれた島だ


幸いな事にこの近海は鮫がうようよと生息している為民間人はまず近付かない


とは言えこの鮫が生息する様になったのもうちの隊員の所為なのだが…まぁ置いておこう


「おかえりなさい!皆さん!」


「ほいほい,ただいま〜」


「よぉロス,私が出した宿題やったんだろうな?」


「…あれ大学の入試試験レベルの問題だったよ…?」


「ばぁーか,やる気になれば何でも出来んだよ」


「僕にはVさんみたいに医療関係の知識無いんですから……」


「やっといて損はないだろ,私が死んだ後の後任は必要だろ?」


「縁起でもない事言わないでください…」


まだ朝早いというのにロスは律儀に帰りを待っていたらしい


ロス・リアム


V.P.B.C隊員の中で1番若い


それもその筈だ


彼は13歳,所謂少年兵だ


こんな子供までもが銃を握らねばならない


それが現実だ


「それじゃとりあえずジャックのところに……シルファ?」


少し目を離した隙にシルファの姿がない


あれ?どこに行った?


「可愛い!!ねぇ貴方も隊員なの!?よぉーしよしよしよし…」


「う…うわぁぁぁぁ!?///黒崎さん!?この人誰ですか!?」


シルファがロスを抱き上げてわしゃわしゃと髪を撫でている


何やってるんだこの女


「すぅぅぅぅぅ…やっぱり可愛い男の子の匂いはいいわ…」


「おい変態,頭ぶち抜かれたくなかったら離れろ」


「はぁー……とんだ奴を連れてきちゃったな…」


「やっぱりまともなのh」


「それはない」


まさかこいつショタコンだったのか


こりゃとんでもない変態を連れてきてしまった様だ


「よぉ黒崎,任務ご苦労,で…彼女が例の?」


「あー,そこでロスを吸ってVに銃口向けられてる金髪がシルファだよ」


「ははっ,随分とまた癖のある奴を連れてきたな」


「連れてこいって言ったのジャックだろ…」


とりあえずロスとシルファを引っ剥がし本来の目的に戻ろう


「俺はV.P.B.C社長のジャック,君がシルファだな?」


「はじめまして,シルファ・パラディスよ」


言動は普通だ


うん普通


だが視線がジャックに向いてない


Vの背後に隠れるロスをしっかりと捉えている


「ここじゃなんだ,一先ず中へ入ろう,その方が話しやすいだろう」


「Vー,とりあえず行くぞ,あとそうだ,ソフィー達に倉庫付近の草刈り頼むよ,最近あそこら辺の草が伸びてるから邪魔くさくてね」


「芝刈り機使ってもいい?」


「使える物は全部使ってくれ,ただし火炎放射器は無しだ」


「了解」


場所を移してジャックの…というより私達の執務室


「お疲れ様です黒崎隊長」


「ありがとりん,こっちでは変なやついなかった?」


「モニターには何も映りませんでした,それにこんな辺境に好き好んでくるのは海賊くらいでは?」


「違いない,ちょっと話があるから外に行ってあいつらの手伝いしてくれないか?」


「了解です!」


これでこの場に残されたのは4人…いや


「Zzz……」


「……おいエミリー,またデスクの下で居眠りか?」


「Zzz……はっ!寝てません寝てません!防災訓練です!」


「はいはい…書類はー…まぁ出来てるからいっか,寝るなら外のハンモックか自室で寝てくれ,これから話し合いしなきゃいけないからさ」


「わかりました!寝てきます!」


「……なんていうかやっぱり癖が強いわね…」


「それでも優秀だよあの2人は,まぁあの2人に限った話じゃないんだけどね」


「まともなのは俺くらいだ」


「ジャックー?荒川の真似やめなよ」


「てかさっさと本題入ったらどうだ?」


「それもそうだな」


今回シルファを拠点へと連れてきた理由


それは私達も知らない


「シルファ,君が付けているそのネックレス…何かの破片だな?」


「これ…?えぇ…そうね,何かの破片の様なものよ」


「黒崎,V,見覚えあるだろ?」


「あぁ…確かに…」


「てめぇ…それをどこで見つけた!?」


「おいよせV,まずは話を聞いてからだ」


シルファの表情が曇る


それもそうだろう


奴らに関わった奴は皆そういう顔をする


私達V.P.B.Cが戦争を終わらせる為,そしてその目的から避けられない存在がいるのだから


「…私がまだ小さい頃の話になるわ…私にも両親がいたの…けれどある日…両親は何者かに殺されたわ…覚えているのは争う物音と何かが潰れる音,そして両親だった肉片……」


「…………」


「その血溜まりの中に見つけたの,この破片…恐らく犯人のものだと思って今までこれを頼りに探しては見たけど何も得られなかった…ネックレスにしたのはあの時の事を忘れない為よ」


どうやらシルファも私達と同じらしい


私は奴らの所為で恋人を


Vは故郷を


ジャックは仲間達を


皆失っている


「…俺達もそうだ,奴らに大切な物を奪われている,シルファ,君の悔しさが俺には痛いほど伝わってくる」


「奴ら…?」


「俺達は"角と翼の生えた奴"と呼称している,俺達が把握している中で人間でも獣人でもない,亜人の類の存在だ,そしてその力は強大,この世界中の戦争の裏には奴らがいる」


奴らは一国を滅ぼすくらい訳もない


全面的な戦争となれば私達に勝ち目はない


しかし何かの理由があるのか,奴らが直接国を滅ぼす事は稀だ


だが奴らの力はそれだけじゃない


奴らの言葉には一種の洗脳の様な能力があるらしい


それを各国の首脳,傭兵組織のトップに自分の言葉を信じ込ませて戦争を起こさせている


目的は不明


だが確実に私達…いや,この世界に生きる全ての敵である事に違いない


「そんな事が………」


「シルファ,君だけじゃない,俺達1人でなんとか出来る相手ではない,その為のV.P.B.Cだ」


「…………」


「シルファ,君も奴らに運命を狂わされた被害者だ,俺達V.P.B.Cへ力を貸してくれないか?」


「………少し考えさせて…」


「あぁ,暫くは拠点へ滞在してもいい,もし帰りたいなら言ってくれればヘリで送る」


「……えぇ…」


私自身も見逃していた


シルファの付けていたネックレスの破片


あれは間違いなく角と翼の生えた奴の角の破片だ


人間がどうこう出来る相手じゃない


けれどシルファの両親は必死だったのだろう


娘を守る為


愛の力が奴らへ一矢を報いたのだろう


今までは写真くらいしか有益な情報がなかった


だが奴らの一部となれば更なる情報が期待出来るとは思うがそれはシルファ次第だ


「黒崎,シルファに拠点の案内と寮の一部屋を貸してやってくれ」


「あいよ」


シルファ自身も悩んでいるだろう


両親を殺した相手の事を知ったのだから


1人では決して立ち向かえない相手


それはつまり今まで以上の地獄へ進むという事だ


今ならまだ仮初の平和な世界へ戻る事が出来る


仮初でも平和な日常に戻る事が出来るんだ


無論それは隊員達がV.P.B.C入る際に悩んだ事でもある


戦いをやめて平和で自由に暮らす中で過去の恐怖に食い殺されるか


その恐怖を飼い慣らすか


まるで呪いだ


奴らに関わった時点で既に平和からは遠い場所にいるのだから


「まっ,それじゃ大体の設備を紹介するから…」


「危ないです!黒崎隊長!!!」


「ゑ?」


「アハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!」


「あっぶねぇ!?誰だ荒川を芝刈り機に乗せたのは!?」


「ソフィーよ!今あっちで笑い転げてるわ!?」


「余計な事ばっかして…」


まずい


荒川を車輌に乗せるとすぐあれだ


荒川自身の過去のトラウマが原因だ


強烈なトラウマが蘇り途端に暴走し始める


よりにもよってその時の記憶は本人には残らない


だというのに車に乗ろうとするからタチが悪い


「…な?まともな奴じゃないだろ?」


「そうね……で…あれどうするの?」


「アタシに任せなぁ!」


爆走する芝刈り機の前にジーナが立ち塞がる


「おぉぉぉぉぉりゃぁぁぁ!!!!」


爆走する芝刈り機を受け止め,勢いを利用してそのまま投げ飛ばす


頑丈な肉体と力が無ければ出来ない芸当だ


「ふぅ…一丁あがり」


「お疲れ様ですジーナ先輩」


「とりあえずソフィーは減給,はぁ…朝っぱらから何やってんだか…」


ヘリ内でもやかましかった奴らは拠点でもやかましい


寧ろ更に酷い


「…いつもこうなの?」


「あー…いや,今日は更に酷い」


ちょっとしたトラブルはあったがまぁ紹介くらいはしておこう


「まずここが武器庫,私らの装備やら…って特に説明はいらないか」


「ふーん…全てTire6社の製品ね」


「安いし何より品質がいい,今や流通してる武器の80%がTire6社ってのも信頼が置ける,それに元そこの社員も隊員にいるからね,おーいニーア」


「んー?はいはいお探しのものはー?」


「いや,ちょいと客人に見せて回っててな」


「…………」


「はじめまして,シルファ・パラディスよ」


「…………」


「ニーア?」


「好きです!!付き合ってください!!!」


「「!?」」


うちの隊員の中でも比較的にまともな筈のニーアがいきなりおかしくなってしまった


「あ,私ニーア・ベアードです!初めて見た時から好きです!」


「えっと………ごめんなさい?」


あーあ…ニーアがこの世の全てに絶望した顔をしている


まぁ当然と言えば当然か


若さ故だろうか,一目惚れってやつだろう


「ま…まぁ次に行こうか,この上がモニタールームとブリーフィングルーム,あとは私らのデスクが置いてあったりとか…んー……というか何か気になる場所ある?」


「そうね…ここら辺は普通の建物と特に変わらないだろうし…向こうの倉庫とか?」


「あいよ,案内するよ」


拠点から少し離れたところには大きな倉庫が2つ建設されている


片方は車輌ドッグ,もう片方は文字通り倉庫だ


「あー…また随分と散らかってるなぁ…」


「まるで獣に荒らされた後みたいね…」


「まぁ普段いらない物とかを投げ込んでる奴がいるからなー」


私物だってり普段使わない物だったり


そんな物が乱雑と置かれている


時たまここに置いた物が無くなったと大騒ぎしている奴もいるがそもそも大切な物なら自室に保管しておけと思う


ただ時折物が無くなるのは不思議だ


「こっちは……随分と凄いわね…」


「こっちはうちらが使う車輌の整備区画,ここら辺はジーナが担当してるよ…ってまたあいつ車買ったな…」


戦車,装甲車,芝刈り機


様々な物が置いてあるがその一角にド派手な色をした車が一台


恐らくジーナ自身の車なんだろう


また拠点内でレースをしない様に注意を入れておかないといけないな


「あとはあそこのが私らの寮で………!?」


途端にけたたましい音で通信が入る


この音は嫌な予感がする


『こちらモニタールーム!レーダーに反応あり!船が1隻…あのシンボル……間違いないです,最近近海で暴れてた海賊の一味です!』


海賊


まさか本当にこんな辺境まで来るとは予想もしてなかった


「…船は撃沈出来そうか?」


『中々ハイテクな物を積んでまして…戦闘機やヘリでは近づけなさそうです…』


「つまりこっちで迎え撃つしかない…か」


「…私にいい考えがあるわ,黒崎さん」


「…いくらなんでも無謀過ぎないか…?」


「奴らの船にさえ行ければやれるわ」


シルファの言う作戦とは船に乗り込み単身で敵を全滅させる,というものだ


あまりにも危険過ぎる


「陸まで引きつけてこっちでなんとかすれば…」


「それだとこの拠点に被害が出る可能性がある…でも私なら陸に着く前に全員片付けられるわ」


「…分かった,でも1人では行かせられない,ニーア,聞こえる?」


『なるほど…デートって訳ね…!』


ニーアは刀使い


船の上では銃よりも近接戦の方が多いだろう


そしてシルファもナイフ使いの近接がメインだ


私が2人をサポートすればこちらに上陸される前に倒せるだろう


「よし…こっちの射程内に入ったら援護を頼むぞ,ジャック,ソフィー」


「任せておいて」


「まぁ見せてもらおうか,シルファの実力を」


「他は万が一に備えて戦闘配備,作戦開始」


水上バイクに乗り込み接近する船へと接近する


こちらに気がつくやすぐさま銃弾が飛んでくる


当たりはしない


訓練された兵ではないらしい


「グレネード!」


3人で一斉に船内へとグレネードを放り投げる


破壊が目的ではない


撹乱だ


「アンカー!」


腕に装着した射出式アンカーを発射,よし上手く船体に着弾した


ワイヤーを巻き上げ一気に甲板へと飛び乗る


敵が多い


だが


「海賊が随分と無用心だな」


「全く言えてるね」


甲板に武装した敵兵は少ない


武装した敵から優先的に銃を発砲


ニーアとシルファは武器を取ろうとする敵への攻撃


「……!?」


いやなんだ


一瞬何か…


いや見間違えだろう


「くそっ!なんだこいつら!?」


「うるせぇさっさと撃て!撃てぇ!!」


「遅いっ…!」


速い


屋内では銃よりもナイフの方が有効とはよく聞くがそれ以上だ


銃を持ち引き金を引くよりもシルファのナイフは速い


それだけじゃない


格闘技術も相当なものだった


何より容赦がない


普通なら人を殺すのを躊躇うのが普通だ


だが戦場では殺しを躊躇えば死ぬのは自分だ


「やっぱり…好きだ……」


「それじゃあ賭けでもしてみる?私よりも多く倒せたら付き合ってあげる」


「ほんと!?やる気でてきたー!」


理由はどうであれニーアもやる気だ


それにやっぱり動き方を見ても敵は素人だ


殲滅にも然程時間はかからなかった


「よいしょっと……これで28人目…」


「私は30人,一歩及ばなかったみたいね,ニーア」


「そんなぁ……」


「さて…さっきのが最後の奴だったみたいだな,長居する理由もないし戻るか」


殲滅を終え拠点へと帰る途中,頭上をRPGの弾頭が飛んでいった


後ろから聞こえる爆音


恐らくシアが船を破壊したのだろう


シルファはそれに驚く素振りも見せなかった


既に順応しているみたいだ,V.P.B.Cに


「おかえり,黒崎,援護は必要なかったみたいね」


「あの2人があらかた斬り捨ててたよ」


「へぇ〜…で,ニーアはなんでそんなにしょんぼりしてるの?」


「聞かないでぇ…」


何はともあれ作戦は完了


変に被害が出なくてよかった


海洋汚染に関しては…うん,目を瞑ろう


「見させてもらったよ,シルファ」


「えぇ,そしてさっきのが私の返答よ,私も戦争を終わらせる手助けをしたい」


「そう言ってもらえて助かる,現時刻を持ってシルファ・パラディスを我がV.P.B.Cの正式に隊員として認める」


「またいっそう賑やかになるね」


シルファはV.P.B.Cへと入る事を決心したみたいだ


あれほどの戦闘技術ならV.P.B.Cでもやっていけるだろう


寧ろ心強い味方だ


「おめでとうっスシルファ!って事は〜?」


「いつもの…か」


「いつもの?」


「うちの隊の決まり事っていうかなんていうか…まぁ新人歓迎会みたいなもんだよ」


「よしお前ら街に行って食糧の調達だ,経費で落とすから気にせず買ってきてくれ」


「ひっさびさに高級料理が食える〜」


「私酒と肉ー」


「デザートも忘れないで!」


「干し肉でも振る舞うか」


「やめろV」


「私はパスタが食べたいな〜」


普段から食事が貧しい訳ではない


寧ろ普通よりは美味い飯が食えている


だが傭兵はいつ死んでもおかしくない


だから新隊員が入った際には豪勢な料理で迎え入れるのが決まりだ


この日だけは予算を気にせず各々好きな物を好きなだけ食べれる


さて,どうせ買い出しに行くのは私だろうから今のうちに食べたい物でも決めておこう


【Phase3:新たなる奇人】


買い出しに出掛けてから任務に出ていた隊員は仮眠を取った


私も例外ではない


目が覚めると既に陽が落ちていた


こんな生活してると昼でも夜でも寝れる


とは言え健康には悪そうだが仕事は待ってはくれない


いつ如何なる時にすぐにでも戦場に行く為のコンディションは整えておくのが鉄則だ


自室から出て本部の方へと歩いてく途中いい匂いが私の食欲を刺激した


まだ少し早いけど様子を見に行ってみようか


「おはよう」


「起きたか,まだ少しかかるぞ」


厨房で調理を担当しているのはJ.E,エミリー,ホーキンス,そしてジャックだ


「相変わらずエプロンが似合わないな」


「スーツが汚れるよりはマシだ」


「スーツ脱げよ」


数々のご馳走が既に完成している


あぁ…空腹には目の毒だ


今すぐにでも齧り付きたい


「ちょっと黒崎さんー!腹ペコだからってつまみ食いしないでください!」


「え?私食べてないけど?」


「あれー?一皿足りない様な…」


「どうせあのバカでしょ,何か手伝える事は?」


「それじゃ食器と料理をテーブルに運んで貰えると助かりますー!」


あぁ本当に空腹には目の毒だ


でももう少しでご馳走にありつけるんだ


食器を並べ,料理を並べて…


次第に美味しい匂いに釣られてゾクゾクと隊員達も食堂へと集まってくる


「おー!美味そうっスね!」


「お前つまみ食いしたのバレてるぞ?」


「まだしてないっス!」


「はっはー!いいねぇ!酒はしっかりあるかい?」


「もちろん和食もあるよね?」


「おい誰だ!スターゲイジーパイ買ってきた奴ぁ!?」


「最近はレーションしか食べてなかったから美味しそうやね〜」


「さて…全員席についたな?改めて今回は新規隊員としてシルファ・パラディスがV.P.B.Cへ所属する事になった,挨拶をして貰う」


「はじめまして,シルファ・パラディスよ,前まではフリーランスで何でも屋をやっていて…」


「おいてめぇ!酒を1人で抱え込むんじゃねぇ!」


「まだそっちにたくさんあるでしょうがぁ!」


「ちょっと私のスコーンはどこ!?」


「ナツキぃ!見るっス!新作の玩具の情報上がってるっスよ!」


「もしもしー?うん,今仕事中,え?週末?任務が無かったらいいわよ?」


「ほぅ,私に麻雀勝負かい?私は一晩に九蓮宝燈を2回和了っていてね」


「誰か〜?新作見ない〜?ドキドキ♡周りは女性隊員だらけ!?危ない傭兵組織vol4やよ〜」


「……………」


「まぁ……こいつらに自己紹介は不要だったな…」


「寧ろろくに自己紹介しなくても溶け込めるのがうちだからね,シルファもこの晩餐を楽しんだ方がいいよ」


「えぇ…そうさせて貰うわね」


いつもこうだ


自己紹介だと言うのに誰1人聞いちゃいない


それどころかまともに自己紹介してるのは私とジャックくらいだ


他はいつの間にか隊に馴染んでる


まぁ変に馴染めないよりはよっぽどいいだろう


「お…これ意外と美味しいな」


「日本人は好きだろ?ラーメン,俺の自信作だ」


「ラーメン作れるんだ」


「知り合いの爺さんに教わってな」


こんな平和に飯を食えるのもありがたいものだ


美味しい物を食べると幸福感に満たされる


仮初の平和だと分かっていながらも一時的な平和に身を置ける


私達が戦い続けなければこの仮初の平和もいずれは失われる


そう思うと勇気が湧いてくる


自分達がしっかりと戦争を確実に終わりへと導いているのだと


「イーヒッヒッヒッ!ボスぅー!呑んでるっスかぁ!?」


「ガッ!?」


「は!?」


やばい,始まった


酔い始めたシアがいきなりワインの瓶でジャックの頭を殴りつけた


勢いよく振りかぶって殴りつけたもんだから当然瓶は粉々に砕け散る


とち狂ってるとしか言えない


「社長!?だ…大丈夫ですか……?」


「………無礼講だ,このくらい何ともないさ」


頭から血を流しておいてよく言う


とは言えたまには息抜きをしないと不満が爆発する


文字通りシアの場合は爆発する


「唐揚げのアルビノ固体っス!レモンを食らえっス!」


「……………」


絞ったレモンが頭上から降り注ぐ


あー…これは顔を見なくても分かる


血管が間違いなくビキビキと浮き出てるやつだ


「1番ナツキ・アレンスカヤ!脱ぎまーす!」


「あっはっはっは!下の毛見えてんぞー!」


「うんうん…それでね,そうそう…私もさぁ!勇気出して告白したのにゲイだからって断りやがったのよ!」


「いいじゃん私なんか車デートでフラれてさー」


「おいロス,酒飲んでねぇだろうな?お前はまだ未成年だ,ジュースがお似合いだ」


「…Vさんそれ僕じゃなくてジーナさんのケツですよ…」


「今を煌めく売れっ子同人作家やよー!その名はー?」


「カルロース!」


「カルネスだよっ!!!!」


「…なんか…凄まじいわね…」


「食い物も酒も無くなってあとは宴会モードに入ってるなあいつら…後片付けどうするんだか…」


まぁほんと滅多にない機会だ


羽目を外すのはいいとして…外し過ぎは良くない


「ボースーぅ,給料上げてくれっスよぉ〜」


「おい…酔い過ぎだぞシア…」


「あー!分かったっス!プレゼントで好感度稼ぐっス!食らえスターゲイジーパイ!」


「あ………」


パァンと勢いよくパイがジャックの顔面に叩きつけられる


それはもう凄い勢いで


「殺す」


「イーヒッヒッヒッヒッヒッ!!!パイ怪獣が襲ってくるっスー!」


「待ちやがれ!!!!」


「あーあ…キレちゃった…」


「無礼講過ぎるわね…」


「あっはっはっはっは!」


「ワカメ酒じゃ〜!ソフィー飲みなよ!」


「却下」


「ロースー?お願いやよ〜!更なる画力を得る為には本物の裸を…」


「うわぁぁぁぁぁん!!助けて!!!」


「てめぇカルビ!ロスに何しやがる!」


「だからそれジーナさんのケツです!!あと名前違ってますから!!」


「ニーア!今から居合斬りしまーす!ってこれ箸やないかーい!」


「ナイフならあるわよ?」


「あー……頭痛くなってきた」


ここにこれ以上いたら頭がどうにかなりそうだ


少しばかり外の空気へ触れてこよう


「ふぅ…ここまであいつらの声が聞こえてくる…」


室内ではまだどったんばったん大騒ぎしているようだ


いくらなんでも羽目を外し過ぎだ


とは言えそれを止める術を私は持っていない


だから見ない振りをする為こうして外へとやってきた


「いい夜だなぁ…」


雲が全くない


風も吹いていない


穏やかな夜だ


室内に目を瞑れば


こうして時たま空を見上げていると色々な事が脳裏を過ぎる


悩み事


辛い事


…過去の事も


「……………」


『あはは,やっぱり咲は咲だね』


『ねぇ…デートしない?』


『私も…嬉しいよ,咲』


『ねぇ咲……死んで…!!』


「ツッ………」


やっぱりまだ辛い


あの時の記憶が今なお私を苦しめる


私には昔恋人がいた


何年も前


とある事件で命を落とした


奴らの所為で…


奈央は…


「黒崎さん…星を眺めにきたのかしら?」


「ん…あぁシルファ,黒崎でいいよ」


「そう…何か悩み事があるなら聞くけれど…」


「んーん,中にいるあのバカ共をどうやって落ち着かせるか考えてただけだよ」


「まるで動物園にいる気分だったわ…」


寧ろ動物園というよりはサファリパークだ


それも来園者に危害を加えるタイプの


「それにしても…今日1日だけで色々な事があったわ…まだ落ち着かないもの」


「まぁそれがうちらの日常になってく,あんまり難しく考えない方がいいよ」


「そうね…一々考えてたら脳がパンクしちゃうわ」


確かに今日1日色々な事があった


任務中にシルファと出会い


シルファを拠点に連れてきて


荒川が芝刈り機で大暴れして


海賊を倒して…


1日中気の休まる時間がなかったなぁそういえば…


「隊長ー!黒崎隊長ー!!ヘルプ!ヘルプミー!!」


「んぁ…あの声ホーキンスだな…はぁー…そろそろあいつら落ち着かせに行くか…」


「私も手伝うわよ,こういうのには慣れてるもの」


室内へと戻る


さっきよりも喧しい


喧しいのもそうなのだが食器の割れる音


壁が破壊される音


嫌な予感がする


「黒崎!てめぇどこ行ってやがった!?さっさとあのバカを止めy」


「イーヒッヒッヒッヒッヒッ!闘牛を止められるもんなら止めてみるっス!」


頭にクロワッサンがぶっ刺さったシアが食堂を大暴れしている


あれ?


ジャックは…?


「おーい…生きてるかー?……だめそうだな」


ふと横を見ると壁に頭がめり込んだジャックが倒れている


それだけじゃない


死屍累々だ


全裸で転がってるナツキ


ドーナツをハンドルの様に持ちながら奇声を上げる荒川


Vやジーナはそこら辺に転がって気絶してる


エミリーやホーキンスは追いかけてくるシアから必死に逃げている


あぁもうめちゃくちゃだ


「おいシア!いい加減落ち着けよ…って危なっ!?」


「アヒャヒャヒャヒャ!」


あぁもうだめだ


完全に悪酔いしてる


こうなったシアを止めるには麻酔銃が必要だ


「…私に任せて,さぁ来なさい,ホルスタイン」


「今度は新人が相手っスかぁ?私の愛を受け止めてみるっス!!」


まさに刹那の一瞬だった


突進してくるシアを真正面から受け止めた


いや,違う


受け流したのだ


「合気道…?」


「ふんっ!!」


そのまま腕を掴み,見事な一本背負い


窓の外まで飛んでいって暫くすると海に落ちた音が聞こえてきた


いや…問題なのはそこではない


見てしまった


やはりあの時のは見間違えではなかった


「一丁あがり…ってどうしたの?黒崎」


「いや…見事な体術だったよ…うん,ところで1つ聞きたいんだが…」


「何かしら?」


「何でパンツ履いてないんだ?」


「……?爽快だから?」


あぁ…


まともだと思ってたけどやはり違った


何でどいつもこいつもまともな隊員がいないんだV.P.B.Cは


ショタコン,更にはノーパン


まるで痴女だ


「まともー…なのは………私だけぇ…Zzz」


人の事を言える立場ではないがどうして奇人しか集まらないんだ本当に…


まぁでも深く考えると無限に時間が無駄になっていく


私は考えるのをやめた


ようこそシルファ


ようこそV.P.B.Cへ


ここにまともな奴はいない


-Next war-

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