第32話:探索

 まぁ、もちろん危なくなったら手助けをするが、戦闘能力を知らないまま行動するのも危険だと俺は思う。

 幸いにもコボルトはDランクの魔物。きっと彼女たちだけでも倒せるはずだ。


「じゃあ、俺は危なくなったら助けるから三人で協力して倒してくれ」

「ちょっ、魔物を前にしてそんな呑気な事を言ってて大丈夫なんですかぁ!?」

「そうですっ! 怖いんですけどっ……!?」

「エブティケート様の命令なら……死ぬことも厭いませんっ!」


 一人怖い方がいますが、それは無視します。

 

「大丈夫だから言ってる。安心しろ、絶対に死なせはしない」

「わ、分かりましたよ! やります、やりますよ!」

「私も……頑張ります!」

「仰せのままに!」


 方向性は違うものの、なんとか自分に発破をかけてやる気を出したようだ。


「あの……あたしは?」

「ラナトルは観戦だ。強いだろ?」

「……まぁ、そうかもだけど」

「実力を知るいい機会なんだからいいじゃないか」

「そういう考え方なわけか。そうだな、しっかり観察するよ」


 そうこうしているうちに、戦闘が始まったようだ。


身体強化エンハンス! 炎槍ファイアランス!」

身体強化エンハンス! 水槍ウォーターランス!」

魔力強化マナブースト闇短剣ダークナイフ


 二人は息を合わせ、似たような魔術を同時に行使する。

 左右に現れた赤く燃える槍と、水が渦巻く槍。対照的であり、なんだか美しく感じた。そしてそれらを同時に投擲し、三体いたコボルトの真ん中の個体を貫いた。


「クゥ~ン……」


 哀れな鳴き声を上げながら倒れる様には同情を禁じえないが、特性が厄介である以前に魔物だ。人を食う事を目的とした種族なのだから殺すことに誰も抵抗を覚えない――少なくとも、この場所にいる者は。


 そしてもうもう一人の少女が――俺の経歴をつらつら読み上げた、少し暗い雰囲気の女性だ――放った魔術は、右側にいたコボルトの脳天に直撃した。今度は断末魔すら上げること無く、静かになった。


 ほう、闇魔術か。初級とは言え扱える時点で才能があることは間違いない。その性格や薄暗い雰囲気からは感じさせないほどの実力だ。きっと他の属性の魔術も上手く扱えるのだろう。


「ワンワン! グルルル……!」


 数秒の間に同胞が二匹も倒され、残された最後の一匹は怒りを感じているのだろうか。それを主張するように、威嚇するように吠え始める。


雷槍エレクトロランス!」


 さっさと片付けたかったのだろう。大抵の場合一番速度が早い雷の魔術を使い、瞬く間にコボルトへと襲いかかる。


「うそっ!?」


 しかし。コボルトはそれをすんでのところで回避し、その隙を狙ってか四足で走りながらこちらへと向かってきた。


「おい、どうした。早く攻撃しないと危ないぞ?」

「あ、あしが……ふるえてっ……」


 震える口で紡いだ言葉を聞き、足を見てみれば、ガクガクと震えているのが分かった。顔も見てみれば少し血の気が引いている気がする。


「はぁ……そこの……濃紫の髪のお嬢さん。あいつを倒せるか?」

「もちろんです、エブティケート様。闇弾ダークバレッド


 軽くお辞儀をしつつ、向かってくるコボルトの方を見ずに深い闇色の弾丸で撃ち抜いた。


「それと、私の名前はヴァトリクス・クライヴェインでございます。以後お見知りおきを」

「確かに名前を聞いていなかったな。すまない、ヴァトリクス嬢。それとお見事だった」

「お褒めに預かり光栄です。あ、どうぞ私の事はリクとお呼びください」

「分かった。これからよろしく頼むぞ、リク」

「えぇ。エブティケート様」


 意外と話してみれば印象は変わるものだな。やはり人を見た目で判断――というか、決めつけてはいけないな。……しかし、あの経歴読み上げは怖いところがあるので気をつけておこう。


「あ、ありがとうございます! ヴァトリクスちゃんの助けがなければ死んでいたかもしれません……」

「いえいえ。お気になさらず。戦いには慣れていけば良いのですよ。そうですよね、エブティケート様?」

「そうだな。俺もそう思う。始めから冷静に戦える人なんてあまりいない。俺だって幼少期の頃は怖気づいていたさ」

「そうなんですか!? 想像もつきません……」


 始めて魔物を倒したのは何歳のときだったかな……まだ年が二桁にもなっていない時だったと思う。俺が転生するだいぶ前の話だ。


「話も程々に、探索を続けないと時間がなくなるぞ?」

「し、失礼しましたっ」

「ほら、着いてきて」


 普段ならば魔物の素材は持って帰るのだが、さすがにここでそんなことしてられない。荷物になるのは避けたいところ。

 だが回収しないと他の魔物が魔石を食べてしまうので、こっそりとしまっておく。


「あ、そうだ。まだ二人の名前を聞いていなかったな。なんなら互いの自己紹介もまだなんじゃないか?」


 歩きながら皆に問えば、確かにといった様子で頷いていた。


「じゃあ俺――はいいか。次はラナトルで」

「えっ、あたし!? ……おほん。あたしはラナトル・セントクリフ。セントクリフ男爵家の長女だ。得意なのは炎魔術。よろしく」

「じゃあ次は私がやります! 私はレギーナ・ウィンソム。子爵家の次女だよ! 得意なのは炎魔術と風魔術が少し。よろしくねっ!」


 彼女はさきほど炎の槍を放っていた少女だ。ついでに足が震えていたのもレギーナだ。栗色の髪も相まってか清楚なイメージを受ける。


「次は私ね。名前はフィリア・シクラメリス。レギーナと同じで子爵家で長女よ。得意にしているのは水魔術。炎は少しだけね。よろしく」


 彼女は水の槍を放っていた。お淑やかさもあって冷静で。青緑の髪と同じく凛としているように思う。


「最後は私ですね。ヴァトリクス・クライヴェインと申します。伯爵家の長女で、得意――と言いますか、諸事情ありまして闇魔術しか使えません。どうぞよろしくお願いします」

「闇魔術しか、使えない? その話もっと詳しく聞いてもいいか?」

「……別に構いませんが、面白い話じゃありませんよ?」

「それでもいい」


 魔術が関係している話なら、俺は大抵興味がある。


 なぜなら俺は、エクマギ以外のゲームでも魔術を使うキャラを選んでいた筋金入りの厨二病ウィザードなのだ。剣術も別に嫌いじゃないが、やはりどちらかを選ぶならば魔術を選ぶ。それほどまでにロマンがある。


 しかし「諸事情で」か。俺が知る限りある一つの魔術しか使えないなんてことはないはずだ。もちろん、彼女たちの話にもあったように、才能によってじゃ炎魔術が下手だとか、風魔術が得意とか、そういった得意不得意はあるが。

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