第31話:会議と結集

 賛成はしたものの、まさか王子の口から部隊というワードを聞くことになるとは思っていなかった。下手に話を聞き流すと大変なことになりかねないと思い、より耳を傾け集中する。


「じゃあ、私からいいかしら」

「どうぞ」

「やはり秩序の維持を考えれば、ここに一部隊を残しておくべきですわ。それ以外の者らで探索や調査を行うべきかと」

「この意見に対してどう思う?」

「私は賛成ですっ」

「俺もだ」


 中々素早い議論だ。効率的に進んでいくのはなんだか気持ちがいい。楽しくなってくるぜ。


「次は私からいいですか?」


 少し及び腰ながらも、提案したのはスティアだった。


「部隊の組み方についてです。やはり公平にするため、爵位関係なく均等に分けるべきだと思います」

「賛成だ」

「賛成よ」


 これは確かにそうだ。もし高位や低位で固めてしまうと、実力差の問題が発生する気がする。ラナトルのように稀有な才能がある者もいるだろうが、高位の方が当然のように能力も優秀になる。

 もしまたここが襲撃されたときに、防衛が低位貴族だと貧弱だ。高位貴族ならば問題ないが、探索に支障が出る。

 それならば均等に分け、高位貴族が指揮を取ることで安定した行動が可能になる――彼女もまた賢いのだろう。


「そうだ、俺は提案、というより質問なんだがいいか?」

「問題ないよ」

「その、ここに残るのは誰の部隊になるんだ?」


 そういった途端、皆が口を閉ざした。何かまずいことでも言ったかと内心冷や汗をかく。


 これ、大丈夫なのか?


「こ、ここは公平に投票で決めませんか?」

「そうね。秩序を乱すわけにはいかない」

「それこそ正義だよ、うん」


 スティアが助け船を出してくれたお陰で雰囲気はもとに戻った。ありがとう!


「じゃあ、掛け声を合図にして同時に指をさす、でいいかな?」


 バーレイグの言葉に、皆は頷き了承の意を示す。


「せーの」


 この場には四人。その結果は――


「……まぁ、私よね。分かってたわよ」


 ナタリスであった。少し不機嫌そうだが、既に覚悟は決めているようで不承不承ながらも頷いた。

 ちなみにナタリスは俺を指していたが、他はナタリスを指していた。なんかごめんね。


「さて、本題である部隊編成についてだ。ここには男爵、子爵、伯爵、候爵、公爵の五種類の子女とその従者がいる。その扱いについて、意見はあるか?」

「俺からいいだろうか」

「もちろんだ」


 頭の中で考えていたことがあったため、それを軽く整理し話を始める。


「従者はさすがに連れていけない。回復魔術が使える者は数名同行させても構わないだろう。しかし基本的には子女のみでの行動をすべきだ。防衛は従者とナタリスに割り振られた部隊で構成し、行動班は小隊制で動く。どうだろうか」

「問題ないと思います」

「私も同じ意見よ」

「僕もいいと思うな」


 この方が何かと都合がいいのだ。良かった良かった。


「では割り振っていきましょう。まずは男爵から――」


 ◇


 少し場所は移動してまた別のホール。ここには俺の部下となる人間しかおらず、王子も公爵令嬢もいない。この中で一番高い権力を有するのが名実ともに俺ということになるわけだ。


「さて、改めて自己紹介をさせてもらおう。エブティケート・ジスティア。ジスティア公爵家が三男だ。今回そなたらの指揮官を努めることと相成った。どうぞよろしく頼む」


 腹から声を出しつつ威厳を保つように自己紹介をし、最後に軽く一礼する。それに対して、さすが貴族。皆が一様に拍手をしてくれた。やはり気分が良くなるな。


「では早速だが五人一組になってくれ。爵位が違うほうが望ましい」


 そう指示を出せば、文句が飛ぶこともなく部隊が出来上がった。


「ん、そこだけ四人組か?」

 

 どうやら人数の関係上、一人足りなかったようだ。意外にも目立つものだな、一人足りないだけなのに。もしくはそこにラナトルがいたからかもしれない。


「では俺がそこに入ろう。これで問題はないはずだ」


 辺りを見回せば、異議なしといった感じで頷いていた――ラナトルの部隊を除いて。一人は首をブンブン振り嫌そうに、一人はブルブル震えて怯えており、一人はオドオドして困惑しているようだった。もう一人であるラナトルは嬉しそうにニヤニヤしている。


「まさかエディ――エブティケート閣下が来るなんて思ってもなかった、です!」


 やはりまだ敬語には慣れきっていないようだ。それにエディという愛称まで。それを聞き逃さなかったメンバー三人。どこかしら身体が動いていたのにも関わらず、阿吽の呼吸で一斉にラナトルを凝視し始めた。


「エブティケート様のこと、今なんて呼んだ……?」

「エディって言わなかったかしら」

「冒険者ランクはBでAランク目前と噂され、オークを同時に百体葬り、森の奥に住んでいた少女を魔の手から救い、上級魔術師であり、イケメンで優しく人を助けるのが趣味で悪事など一回も働いたことのないまさに白馬の王子様のことを今エディって――」


 ……もう俺怖い。なんで三人とも目が虚ろで殺意すら籠もった視線を向けているんだい……?

 だがそんな事を聞いてはその目線が俺に向きかねない。


 しかも語った内容は尾ひれがついているとはいえ基本的には事実が多いのも怖い。どこから集めたのさその情報。俺はあんまりリガルレリアから外に出てないはずなんだけど。


「い、言ってないよ! ねぇ!?}

「俺に助けを求めるなよ……まぁ。落ち着いてくれ。これから戦闘があるかもしれないんだ、あんまりふざけてると危険だぞ」

「申し訳ございません」

「反省します」

「……すみませんでした」

「よろしい」


 そういうのは俺がいないところでやってくれないかな。もちろんラナトルは被害者なので三人で。


「では我々が先頭として出発する! 各自周囲を警戒しながら探索を開始せよ!」


 無言の圧力で少女たちを誘導し、先頭である意識をもたせる。これからバラけてしまうが、一番槍は我々なのだ。


 ほら、そんなにゆっくり歩いていると後ろが詰まっちゃうから早くしてくれ。


 ――そこから沈黙したまま歩くこと数分。廊下を曲がった先には魔物が数匹いた。

 見た目は「犬人間」といった感じで、俗に言うコボルトというやつだ。


「きゃあ、可愛い~!」

「近寄らないでくれ。遠吠えされたら仲間が集まってきてしまうぞ」

「ご、ごめんなさいっ」


 じゃあ、ここは彼女ら三人のお手並み拝見と行こうか。

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