第30話:邂逅

 ゴブリンの討伐完了から数十分。王子が休憩してくれ、と言ったことにより休憩時間と相成った。

 しかし、俺にとっては全然そんなことはなく……


「やぁ。君がエブティケート君だね?」


 先程彼は「公爵家の者はここに来てその力を貸してほしい」と言っていた。戦闘のいざこざで忘れていたが、改めてお呼び出しがかかったため、俺は恐る恐る王子の元へと向かったのだ。


「お初にお目にかかります、バーレイグ王子殿下。エブティケート・ジスティアです」

「まぁまぁ。そんなにかしこまる必要はないさ。普段ならともかく、今はそんなの気にしてられる状態じゃないだろ?」

「確かにそうですね。少し肩の力を抜かせていただきますよ」


 さすがに王子相手にはタメで話せるはずもない。完全に上層部の人間なのだ。首が飛ぶようなことにはなりたくない……!!!


 ――そんな俺の思いを感じ取ったのかは分からないが、バーレイグは呆れたような顔をして肩をすくめた。

 

「もっと力を抜けばいいじゃないか。僕たちは同い年なのだし、これから学友として共に生活を送る関係なのだから」

「……分かった。これでいいか?」

「素晴らしい。これからよろしくね、エブティケート君」

「エディで構わないよ」

「じゃあ僕もバーレイグでいいよ」


 こいつ、なんかからかっているような顔をしていないか? 自分の立場を分かって言ってるな。くそっ、生意気だ!


「バ、バーレイグ……?」

「そうだよエディ君。これで僕たちはお友達だ」


 そう言ってバーレイグは手を差し出してくる。俺は頷いて握り返す。


 だが、俺は一つ引っかかったところがある。やけに「お友達」という単語を強調して言ったような気がするのだ。彼の立場も踏まえれば、政治的な陣営に参加――巻き込まれたように捉えることも出来る。ちっ、食えない男だな。


「あら、バーレイグ殿下。そのお方はどなたですの?」


 突然間に割って入るように現れた一人の少女。切れ長の目とその表情は威圧しているとしか思えない怖さだ。


「ナタリスか。彼がジスティアの子息だよ。初対面ならば挨拶するべきじゃないかい?」

「そうですわね、失礼致しました。私はナタリス・オーディア。オーディア公爵家が次女でございますわ。以後お見知りおきを」


 華麗にカーテシーをしながらそう答えるナタリス。深い紫色の髪がふんわりと揺れる様には令嬢らしさを感じる。

 ……しかし怖いな。ずっと俺を威嚇している気がするんだが。目つきが悪いだけ……なのかなぁ?


「ではこちらも自己紹介を。私はエブティケート・ジスティア。ジスティア家が三男だ。こちらこそ、どうぞよろしく」

「えぇ。同じ公爵家の子女として仲良く致しましょう」


 彼女もそう笑いながら手を差し伸べてきた。しかし王子の顔が脳裏によぎり、一瞬躊躇してしまう。ナタリスとバーレイグは交友関係があるのが分かるからだ。だがもう今更だ、と思い手を握り返す。

 ふと彼女の顔を見れば、少し口角が上がっており嬉しそうにしていた。本当に純粋に仲良くしたかっただけなのかもしれない。

 

 いかんいかん、邪推してしまうのはよくないな。


「す、すみません。遅れちゃいましたか?」


 さらに現れたもうひとりの少女。走ってきて息切れしたのか、膝に手をついて浅く息を吐いている。


 その容姿はナタリスとはまるで反対で、大きく優しげな瞳にふんわりとした雰囲気に淡い黄色の髪。あまりに対照的すぎて内心少し驚いてしまった。やはりゲームで見るのとは大違いだ。


「君がスティア・フレイアだね。大丈夫、遅れてはいないさ。一旦深呼吸をしてみたらどうだい?」

「は、はい……ありがとう、ございます……すぅ、はぁ……」


 両手を大きく広げ、全身を使って深呼吸をしている。その動作からは天然さを感じることができ、見ているだけでほっこりしてしまう。


「……もう大丈夫です。すみません」

「謝ることはないさ。そうだ、この二人とは知り合いかい?」

「いえ、初対面です」

「そうか。彼女はナタリス・オーディア。彼はエブティケート・ジスティア。皆公爵家の子女だ」

「よろしくですわ」

「よろしくな」

「はい! よろしくお願いします!」


 やはりいい子だなと思う。スティアも人気キャラの一人だったな。ファンの多さはシャフィにも引けを取らない。


 そんな彼女が後にあんなことに巻き込まれるなんて――


「にいさま。私に誰も気づかないのはなぜ?」

「あー、背が小さいからかな……」


 服の裾を軽く引っ張りながら小声でそう告げるのはシャフィだ。そう言えばずっと横にいたんだよね。


「ん? 誰だい、その子は」

「この子は俺の妹であるシャフィだ。学院の入学試験を一緒に受けることになったので同行している」

「え、何この子可愛い……!」

「……可愛いですわね」


 シャフィは愛される祝福でもかかっているのだろうか。会う人全てが「可愛い!」と褒め称えるんだけど。

 まぁ、俺もにいさまとして鼻が高いからいいけどね!


「へぇ、あまりレディに聞くのも失礼かとは思うが、いったいいくつなんだい?」

「十二歳、です」

「じゅ、十二歳!? それでこの学院を受けるなんてすごいです!」

「それなりに賢さがある証拠ね」


 分かりやすく例えるならば、小学六年生がいきなり難関高校を受けるようなものだ。中学の時期をすっ飛ばしている。小学生の知識で高校入試を受けても合格はかなり厳しいのは想像に難くない。


「まぁ、シャフィの可愛さはよく分かってますから本題に入りませんか? 時間だってあまりないのですから」

「そうでした……!」

「私としたことが……」

「そうだね。それじゃあ会議を始めるとしようか」


 改まった雰囲気が流れ、俺も姿勢を正す。


「まず、僕の考えた案について聞いてほしい。その案とは、君たちがそれぞれ隊長となって部隊を編成するというものだ。その三つの部隊で役割を分けて運用することで効率的に、かつ安全に問題解決に導けると考えた。出来れば皆の意見を聞きたい」

「私は賛成です」

「賛成ですわ」

「俺も賛成だ」


 どうやら意見は満場一致なようだ。少なくとも俺は悪いように聞こえなかった。

 え、満場一致のパラドックス? 知らんがな。


「反対意見がないようで嬉しいよ。それじゃあ部隊の分け方について詳しく話し合うことにする。ここからは皆対等に会議を進めてほしいな」

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