第23話:資金確保

 さらに一階上がりここは四階。

 これ以上階段はなく、最上階であると理解できた。


 窓からの景色は案外悪いものではない。下の方はあまり綺麗なものではないものの、空と都市が見えるだけで心は晴れやかに染まる。一句詠みたくなるがそんな語彙は持ち合わせていないのでお金の方へ意識を向けた。


「ここがボスの部屋だぜ。どんなものがあるのかは俺たちも知らねぇ」

「いいねぇ、冒険者もこんな気分だったりするのかな? 俺はこういうのやったことないからわからないんだけどさ」

「そうだな。俺の知り合いにも冒険者がいる。アヴィアみたいな奴じゃないが、それなりに強くてな。『探索はいつだって楽しい』って語る姿は忘れられないよ」


 ほほぉ、やっぱりそうだよな。

 俺も冒険者としてではないが救世者ゲーマーとして探索を無限にやった。世界の隅々の秘密を解き明かした。気持ちは大いに分かる。

 しかし現実で、自らの手でというのは勝手が違いすぎる。それでもゲーマー魂が燃えるのは必然だ。


「じゃあ、開けるぞ――!」


 胸は期待に満ちていた。その勢いのまま思い切り扉を開ける。

 

 バンッ、という音がした。鍵がかかっていたようだが力の強さにそれを壊してしまったようだ。まぁいっか。


「中々裏組織のトップらしい部屋じゃないか。剣なんかも置いてあって、小洒落てるな」

「ボスは良い趣味してたんでね。性格はあんなでも、センスは一流だと胸を張って言えるぜ!」

「俺もそう思う。人の好きなものを当てるのが得意で……」

「兄ちゃんより強ければ良いリーダーになったのかもな」

「……なんだか申し訳ないことをした気がするんだが」


 まさかここに来て罪悪感を覚えるとは思ってもなかった。どう謝れば良いものか……


 だがそれは杞憂だった。


「いや、弱かったり卑怯だったりと性格が酷いからしょうがない」

「好きなものはくれてもお願いは聞いてくれないし」

「やっぱリーダーなんかなれないわあいつ」

「そ、そうか。なら良かったよ……」


 これから不必要な殺しはしないようにした方がいいだろうか。しかしそのまま生かして悪の種が芽生えてしまっては本末転倒。難しいものだな。


 例えばそうだな。「相手に殺意があり、中級以上の魔術の行使」を条件とかにしようか。そうすれば正当防衛になるし大義名分も立つ。よし、頭の端っこに書き留めておこう。


「これ、金庫だったりしないか?」

「おお! それは確かにボスが大事そうにしていた金庫だぜ!」

「開けるぞ?」

「おう! 俺も中身も見てみたいぜ!」


 随分乗り気だな。まぁいい。鍵もないので力づくで開けてやる――!


「お、おいアヴィア……それ本当に大丈夫か?」

「だい、じょう、ぶ……っ!」


 力強く踏ん張り、金属をねじ切るようにして開けていく。指がめり込でいるがだんだんと動き始めた。ミシミシという音が絶えず鳴り響く。


「よいしょっとぉ!!!」

「うおおお! すげえ!」

「本当に力が強いんだな!」

「さすがだぜ兄ちゃん!」

「……大隊長でもこんな事出来るかどうか……」


 反応は二つに別れた。金庫も二つに分離した。


 そんな金庫の中には大量の小金貨が入っていた。キラキラと輝く光景は現代では見ることがなかったものだ。もし太陽の下に晒せば、眩しくて目が開けられないだろう。少し薄暗いこの場所だからこそ直視ができる。


「いち、に、さん、し……」


 多すぎて数える事もできない。恐らくこれだけで二百万ラクスくらいにはなりそうだな。金貨十万円も入ってる……すごい。


「なぁ、これは発見者の所有物でいいんだよな?」

「あぁ。俺は立場上持っていけないし、アヴィアが全部持っていくといい」

「そうか。ならこの金貨数枚はお前らにやるよ。これからの計画に使う資本金だ」

「しほん、きん?」


 そう。俺は彼らヴォルトを自分の組織にしようとしているのだ。

 例えば俺は色々調べたい事がある。しかし俺が関わっているとバレてはいけない。ならば身元が割れない工作員もとい諜報員がいれば良いのだ。


「計画は後ほど。今は貰っておくぞ。冒険収納ストレージ


 金貨がことごとく光に包まれて消えていく。やはり異質な光景だな。あまり人に見せるものでもない。


「おっと、口外禁止だぞっ?」


 少し脅しを込めてそう言ってやると、三人衆は震えてコクコクと頷いた。グリームは「任せろ」と言わんばかりに鷹揚に頷いた。


「まぁこんなもんか。帰ろうかな――」

「あれ、この剣はなんだ?」


 ヴァルムが――確信は無いが多分そうだ――何かに気づいたようで声を上げた。彼が指差す方向を見れば、壁に剣が一振りかかっていた。


 それは柄から反りの部分までが黒く、刃の部分が金色に光る片手剣だ。結晶のような意匠が施されており、芸術品のようにすら見える美しさだ。


「ボスが裏切り者を処刑するときに使ってたやつじゃないか? 切れ味が

 いいからって愛用してたなぁ……」


 おいおい、そんなエピソードを聞いている場合じゃないぞ! これは中々どうして面白いものがあるじゃないか!


「……銘を山断刀ヤマタチ。これはその名の通り山をも断ち切ることの出来る太刀」

「知っているのか兄ちゃん!?」

「あぁ。とある本に書いてあったものと同じだ。間違いない。それを俺に譲ってくれないだろうか」

「もちろんだぜ兄ちゃん! 色々助けてもらったお礼になるならいくらでもくれてやるぜ!」

「本当にありがとう!」


 とまぁ、すごく欲しがった様子だったが実はそこまで強くはない。

 あまり適正キャラも多くないし、微妙な効果という事で人気がなかった。レアリティは高いので使えないことはないが……見た目がいいので観賞用なのだ。


 ではなぜ俺が欲しがったか。単純な理由だ。


 「観賞用、つまりはかっこいい」から。


 事実、弱い訳では無い。実際に切れ味も良いことは証明済み。となれば問題はない。見た目はとても大事だしな。それに俺が今携帯している剣よりも強い、という理由もある。


「さて、これでもう最後だな? 帰ろうか」


 もう見る物はない。確認のつもりで三人衆に聞いてみるが、やはり結論は同じだった。


「アヴィア、俺は途中まで同行して『家』の近い場所で別れることにするよ」

「了解。じゃあさっさと出ようか」


 階段を行きの倍の速度で下り、この拠点の外へと一歩踏み出す。

 なんだか久しぶりの外、って気分だ。刑務所にいたような感じかもしれない……別に刑務所行ったこと無いけど。


 そうしてその後は各自、帰るべき場所へと帰っていった。三人衆は宿がまだ使えるのだそうだ。多めに金を渡しておいて正解だったな。


「そろそろ家が見えてきたな。もうゆっくり休みたい……」


 そんな愚痴を独り言ちていると、一人の少女が庭にいるのを見つけた。


「おーいシャフィ、いったい何をしているんだい?」


 それは――銀のような髪の我が妹だった。

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