第22話:カチコミ
「ここだぜ。多分中には数人いると思うから気をつけてくれよ」
歩くこと十数分。そこは辿り着いたそこは貧民街だった。
他の建物と同じく荒れてはいるものの、使われていないだとかそういった荒れ方ではない。完全にマフィアの拠点という雰囲気だった。
「閣下、どうかお気をつけて。あなたが亡くなられるのは大変困ります」
「安心しろ。自衛くらい出来るさ。それとここからは閣下呼びしないでくれないか? バレたらまずい」
「はっ。ではなんとお呼びすれば?」
「アヴィアでいい。敬語も不要だ」
「……分かった。頼んだぞアヴィア」
「よろしい」
この飲み込みの速さ、いいね。俺は理解力の低い人にわざわざ細かく説明するのが嫌いだった。なので本当に助かる。
ちなみに公爵家の紋章は
「お前ら、先に行ってくれないか。その方が怪しまれにくいからな」
「分かったぜ。行くぞ」
「おう!」
「任せてくれよ~」
随分気楽な様子で中へと進んでいく三人衆。やはり自らの拠点なこともあってか慣れているのを感じる。
俺たち二人はゆっくりとそれに追従する。
……それにしてもすごいな。この前俺が悪魔に会いに行った家よりも色々な部分から恐ろしさが伝わってくる。
よく見れば血の跡らしきものや割れたガラスのかけらが散乱している。匂いを嗅げば少し血なまぐさいような気もする。
「お、アグジェとヴァルムとマヴィザじゃん。どしたん?」
「どうもっす先輩。じゃ、俺たちはちょっと用事があるんで――」
「――なぁ、あんたらボスどうしたんや」
「あ、あれは交渉の相手が怒ってボスを……」
「嘘こけ。あんたらがボスを罠にハメたんやろ」
こいつ、意外と鋭いな。さすがにバレてるか……まぁ疑わない方がおかしいかもだが。これはあとで戦闘は不可避だな。
というかこいつらの名前聞いてなかったな。そんな名前だったんだ。
「そんな訳ないっすよ! ボスがこれまで生きてきたのはその優れた直感があってこそです!」
「そうです! そんな簡単に死んだりしないっす!」
「ボスは強いっす! したたかです!」
「……おいワレ、さっき交渉相手がボスを殺したって言うたやろ。辻褄が合わんやないけ。なんや、言い訳か? 嘘か?」
こっわ。え、本当に怖いじゃん。ヤクザマフィアじゃん。柄悪いし日本だったら速攻で警察に職務質問されるでしょう。さすが裏組織って感じだよ。
「……なぁグリーム。ああいう犯罪者に対して危害を加えるのは合法だよな?」
「えぇ。現行犯であれば問題はないぞ」
一応、と思い小声でグリームに対し質問してみる。これで心置きなくお仕置き出来るな。あ、この前のはあとで治したし現行犯っちゃそうなのでセーフってことで……悪意はないから本当だよ!
「おどれら覚悟せぇよ!」
「
「ぐっ……! 誰や!」
彼らの合間を狙い右足の膝下を狙撃する。もう動かすのは難しいだりう。ついでにもう一発。
「
「くそっ……! おい! 敵襲や!!!」
足はどっちとも動かせなくした。そのため”先輩”はバランスを崩し地に這いつくばる。
しかし助けを呼ばれてしまった。すぐに上から足音が幾つも聞こえてくる。複数人か、面倒だ。
「お前ら、物陰に隠れてろ! グリーム、俺は魔術師だが大丈夫か?」
「ならば私も魔術で戦おう。さすがに室内で剣を使うのは自殺行為だからな」
「だな。じゃあ行くぞ!」
そして援軍が姿を現す。もはや手加減は不要。数人生き残ってれば問題ないはずだ。
「
まずは部屋を広くする。壁が崩れ空間が確保できた。それらに潰された者もいるが気にしない。
グリームは的確に一人ずつ始末していく。
俺が雑魚を狩り、彼が確実に殺せば安全だろう。さすが軍人。
「
安全確保のため、防御魔術をかけておく。グリームは鎧を着用してはいるが、念には念を、だ。
「貴様ぁ! 何をす――」
「おい! しっか――」
「
「うおおお――」
激昂した者も、それを案じた者も、魔術を使おうとした者も、ナイフで襲いかかってきた者も。皆等しく物言わぬ肉塊へと変わってしまった。
大抵は俺の魔術で死んだ。肉体に損傷が少ない者はグリームの射撃によるものだろう。鉛玉じゃなく炎だったりだけどな。
「これで殲滅完了。助かったよ」
「いやいや。私など微力だった。あんたのお陰だよアヴィア」
様になってるねぇ~。軍ではこういう教育とかもやってたりして? ちょっと興味が沸いてきたな。
「さてと。お宝とかお金とか財宝とかないか探しに行くぞ」
「全部ほとんど同じじゃないっすかそれ……」
アグジェのツッコミは堂々と無視し、階段を上る。
その先には幾つもの扉があった。まずは突き当りの部屋から見ていく。
「ここは……何の部屋?」
「あー、この階は俺たちの居住スペースだ。多分なんにもないと思うぜ?」
「そうか、では今度軍が監査に入ろう。今回は無視するがな」
「本当に何もないっす!」
「まぁ、疑われても仕方ないよね。ほら、さっさと次行くよ」
普通に違法な物品が見つかりそうだな。生々しいものがいっぱい見つかりそうだし俺も正直御免被りたい。グリームはとても正しくありがたい判断をしてくれたな。ナイスだ。
ということで全てを無視し、そのまま上の階へと移動する。
「ここには何が?」
「ここはいろんな物が置いてあるんだぜ。武器もそうだし、集めた資金もここらへんにあった気がする。一番重要なものはきっとボスの部屋だろうけど」
「楽しみは最後に取る派なのでここから見ることにするよ。さてさて、何があるかな~」
まずは一番近い扉を開けてみる。しかしガラクタばかりで何も入っていなかった。
その次。ここは武器が入っていた。粗悪品ばかりで役には立たないだろう。俺の持つ剣の方がよっぽど優秀だし売ったときにも金になるはずだ。
「ここも不発か。あとはお金くらいしかないのかな?」
次に開けたところにはただ一つだけ何かが置いてあった。暗くてよく見えないので近づいて観察してみる。
「これは……ガントレットかな? でも何に使うのかさっぱりだ。普通に防具だろうか」
それは明かりがない場所だと全く見えないほどに漆黒だった。だんだん感覚がおかしくなってくる。今俺が持っているものは何なんだろう、とわからなくなる。しかし感じるずっしりとした重さだけが「物がある」と証明してくれる。
「まぁいいや。
さっさとしまって次へ行く。しかし不発。次も、その次も不発だ。
「もうボスの部屋に行こう。何もねぇ」
「ええ! すごいもんがいっぱいじゃないか!」
「そうだぜ! 使えるものばっか!」
「兄ちゃんなんでだよ!」
「……これが貴族との違い、ってやつか。アヴィアよ、貧民からすれば有用なんだぜこれらはよ」
言われんでも分かっとるわ。俺も
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます