第19話:結末は変わらない
その後は何事もなく一日が過ぎ、気づけば朝になっていた。窓から差し込んでくる夏の日差しに、転生する日の事を――現代の景色を幻視する。それがなんだか懐かしく感じた。まだ一ヶ月も経っていないというのに。
その静寂を切り裂くように響いた三回のノック。
「エディ様、お客様がいらっしゃっていますよ」
「分かった。すぐに行くよ」
着替えは済ませていたのでおもむろに立ち上がり扉を開ける。そこにはいつもと変わらぬ姿のセラがいた。
少し会話を交わし、客が待っている客室へと足を進めた。
数分も経たぬうちに到着し、軽くノックをしてから入る。そこには見覚えのある二人の姿があった。
「ご、ご機嫌いかがでございますかエブティケート閣下!」
「ははっ、そんなにかしこまらなくたっていいよ。君と俺の仲じゃないか」
「あ、ありがとうございますっ!」
先に声をかけてきたのはラナトル。その横に緊張しながらも和やかな雰囲気を楽しんでいる――ラナトルの父親。
「そう言えば名を聞いていなかったな。なんと言うのだ?」
「はい。私の名はフェルソンと申します。どうぞこれからもよろしくお願い申し上げます」
「フェルソンだな。分かった。これからもどうぞよろしく」
この前は敬語で話していたものの、今回は公といえば公の場。さすがに男爵と公爵では天と地ほどの差があるため年上に対しての口調ではない。自分も少しばかり違和感を覚えるが仕方ない。
「さて、用向きは……この前の事だよな。さすがにフェルソン卿は連れていけない事、理解してほしい。交渉にはラナトルと俺の二人で向かう。異論はあるか?」
「いえ。ございません」
「あたしも問題ないと思う、です」
ラナトルはやはり慣れないのか、少しぎこちない感じで答えた。
「フェルソン卿は当家でどうぞゆるりとしていてくれ。父上との会談の時間も取るので貴方にとっても悪い話ではないと思うのだが」
「もちろんでございます。願ってもない幸運に感謝致します」
「ではラナトル。準備は出来ているか? 何か用があるならば少しくらい待つが」
「大丈夫、準備万端だ――です!」
「そうか。ならば行こうか」
あまりこういった硬い会話は好きじゃないのだろう。そんな場所に長らく置いていては疲れ切ってしまうと思い、速やかに家から連れ出す。
「――ここまで来たらもう屋敷の敷地内じゃないからな。そろそろ口調、戻していいぞ」
「本当か! 助かる……あたしはやっぱりこういうの苦手みたいだな。貴族なんだからこれくらい出来ないと、って思うけど……」
「まぁまぁ。次第に慣れていけばいいさ。まだ敬語を使い慣れていなくてもそう怒られたりはしないだろうからね」
「そう言ってくれて嬉しい。……でも良くないよな。家も貧乏で爵位も低いし、冒険者ランクも高くない。見た目もそんなに良くないし――」
悲痛な顔持ちでそう呟くラナトル。
ただ俺的には反論したい部分ばかりだった。爵位はともかく、他は全然違うのだから。
「いいかラナトル。君はランクに見合わない程の強大な力がある。それに見た目だって美しいじゃないか。少なくとも醜いなんてことはない」
「――っ!? そ、そんなお世辞を言ったって何も出ないぞ……!」
俺はただ真実を言っただけなのに顔を赤らめそっぽを向いてしまった。なので覗き込むようにしてラナトルの顔を今一度よく見てみる。
ラナトルの顔は「醜いなんてことはない」、という言葉通りだ。
ただ確かに姫というような美しさではない。少し野暮ったいように見えるかも知れないので清楚を好む人からは好かれにくいとも思える。しかしその明るく元気な姿には色々な意味で目が離せない。学院に入れば数人の男からは婚約の誘いがあってもおかしくないと思う。
「ほら、もう着くぞ? だからそろそろこっちを向いてくれ」
「う、うん……分かった」
そして何度目かも分からない路地裏へ入る。そして歩くこと数分、この前のヴォルトの三人組と、明らかにボスといった雰囲気を醸し出している男が一人いた。横には護衛と思しき男が四人ほど。これでこの場では三対四対二となったわけだ。四対五とも言えるかもだが。
「やっと来たか小僧。貴様のようなガキはやはり社会のルールというものがなっていないようだな」
「何を言っているんだ俗物が。小僧と小娘相手によくもまぁそんな横柄な態度をとれるな。礼節の心がないあんたこそルールがなっていないと思わないか?」
「このガキがっ……!」
「ボス! 落ち着いてください!」
少し挑発してやればこのザマか。こいつが怒れば楽が出来るし、嫌気がさして逃げ出しても領地の平和が確保される。とても一石二鳥だな。
俺の行動は全て大義あり、なのだ。
「……まぁいい。我々はそこの小娘をよこしてくれれば何も文句は言わない。さっさと渡して帰れ」
「あれ、おっかしいな。知らないの? もうその計画は中止されてるんだけど」
「ははっ、そんな冗談を言えば俺がやめると思ったのか? 舐められたものだ」
ボスさんはヘラヘラとした態度でそう答えた。少し不思議に思っていると、横にいた護衛の一人が明らかに焦りだしていることに気がついた。
なるほど、こいつがその情報を言わなかったんだな? メンツか怠慢か……理由は分からないが滑稽なものだ。
「ならば言うことはない。俺は彼女を渡さない。全力で抵抗するのみだ――
同時に護衛の三人に対し、内蔵の全てを揺さぶる魔術をかけた。すぐに目をぐるぐると回すと、口を押さえその気持ち悪さに耐えながら地面へと倒れ込んだ。息をしていないので気絶だ。この魔術に殺傷性はない。
「き、貴様何をした!?」
「さぁ。でも部下たちが倒れちゃったけど、どうするんだい? あんたが一人で抵抗出来るものならしてみてほしいけど」
「ぐぬぬ……
「
少し血走った目に浮き出る血管。真っ赤に染まっていく顔――そんな見た目になったボスが放った火の玉を、水で作られた盾で消滅させる。
「ちっ……」
「これ以上の抵抗は無いのか? 五十万ラクスがあるならばそれで手打ちにしてやるけど」
「わ、分かった……この箱に入っている。持っていけ」
「物分りが良いな。それでいい」
ボスは足元に置いてあった黒い箱を――アタッシュケースだろう――地面に滑らせるようにして渡してきた。
俺は警戒を緩めぬようにしつつ、慎重に箱を開ける。
「かかったなバカめ!」
その言葉が聞こえてきた刹那――箱が爆発した。
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