第18話:交渉?
「
小手調べにと思い渦を放ってみる。しかし誰も吸い寄せられたりはせず、逆に反撃のチャンスを伺っているようだ。
「ま、そうだよな。ルコ、魔術師と使徒は頼んだ」
「仕方ないのぉ。まぁいい。妾に任せて王子を倒してこい」
「助かる!」
「さすがだな、そんな少女に責任を負わせるなんて。やっぱりお前は実力でねじ伏せるしかないな!」
もしかして俺ってダメなことしたのかな。あのヴォルトの三人衆がすごくお気に入りだったとか? これもうわかんねぇな。
「悪かったって。でもまぁ、あいつ強いから……」
そう言ってルコの方を見た。
そこにはユゴスの兵士たちを一網打尽に蹴散らしているルコがいた。辺りは既に死屍累々――死んではいないが――へと変わり果てている。
「……ほら」
「なっ、何者なんだ!?」
いかにも想定外だ、って顔してる。すごくびっくりするくらいには顔に出てる。キャラ崩壊な気がしなくもない。どうしてかな。
「そっち見てていいのか?
「
王子の手から現れた大きな闇は、炎の槍をそのまま飲み込み満足したかのように消え去った。まるで化け物の腹に入ったかのようだ。
「不意打ちなんて効かない。僕を舐めてもらっては困る」
「それはこっちのセリフだ。ったく、ゲームだとこんな性格じゃなかっただろうに……」
「……今、なんと言った」
ありゃ、ゲームって言葉は聞き慣れないよな。こんな問答は面倒だよ。初心者や友人への説明でもないんだから。
「あー、今のは聞かなかったことにしてくれ。悪気はないんだ」
「わ、悪気はない……?」
「そんなに俺って悪人みたいな顔してるかなぁ!?」
うぅ、ちょっとショック。今まで悪いこともしてない、というか出来ないのに。帰ったら鏡を見たりセラに聞いたりしないとかもしれない……いやだいぶ効いてる。二万ダメージくらい。HP少ないキャラなら死んでるよ?
「お前……本当にエブティケートか?」
「本当の本当にエブティケートだよ? エブティケート・ジスティア公爵子息。俺のどこにそんな疑う要素があるんだ――」
「エクリプトマギカ」
「――え?」
耳を疑った。もしかしたらこの世界が夢かもしれないとすら思った。非現実的だと脳が処理を拒否した。
残った微かな理性で口を動かし問いかける。
「王子、いやアーサー。こちらからも問おう。何者だ」
「その名を知っているということは……なるほど。謎は解けた」
「ははっ、俺も分かったよ。俺たちは――」
「「
なんだか奇妙な状況すぎてお互い自然に口角が上がってしまった。内心でも複雑な感情だった。理解は出来るがやはり現実的に思えない。
「なんというか……申し訳なかった」
そう頭を下げる王子、もとい本名アーサー。
事の奇妙さが分かったのだろう、ユゴスの兵士たちも怪訝な顔をしてなんとか理解しようとしている。気持ちも分からなくはない。だって上司が殺すって言った相手に頭を下げてるんだから。
「まぁいいさ。俺だってストーリー捻じ曲げてるんだから気づかないのも仕方ない」
「そう言ってくれてありがとう。そうだ、なんであなたは悪魔に呑まれていないんでしょう?」
「あー、エブティケートって善性を捨てるだろ? 俺はそれを逆にしてみたんだよ」
「な、なるほど……道理で。しかしなぜ
それは俺も聞きたい。しかしそんな事を言うわけにもいかないので、自分なりに考えた持論を話すことにした。
「それは俺もさっぱりだ。ただ俺の場合、探索度を100%にしたのが原因だと思う。100%になった直後に『新規ストーリーを始めますか?』って選択肢が出てきたんだよ」
「もしかしてあなたが世界初の救世主だったりしますか……!?」
救世主なんて神話かなんかにしか出てこないような言葉なはずだ。少し聞き慣れない言葉に首を傾げる。
「救世主? なんだそれ、知らない単語なんだけど」
「そうでしたね、知らないのも無理はありません。我々
「え、そうなの!? それって夏だよね?」
「そうですね。夏です」
「じゃあ俺だ。あれは蝉の声がうるさい夏だった……」
今でも思い出せる。鮮明に、全てを。
これから先の人生でもあれに並ぶほどの思い出が一個か二個できるだけなのではないかと思っている。もっと出来ればいいんだけれどね。
「……っといけない。本題、というか最初の話題に戻そう。俺の扱いについてどうする気なんだ?」
「僕も気が変わりましたよ。あなたを第一位階
その言葉に動揺が広がった。
それが皆より高い位階だからだろう。文句言うなって。
「まぁ、そういう立場でも構わんさ。ただ俺は魔王の真逆へと進もうとしている。出来れば名前はエブティケートではないものにしてくれると助かるんだが」
「では命名してもいいですかね?」
「ご自由に。日本人のセンスを信じるよ」
「じゃあ……アヴィア、でどうです」
「いいだろう。俺はユゴス第一位階
「様になってます」
へへっ、王子から褒めてもらっちゃった。
そんな気持ちを自慢する気満々で後ろを見ると、なんだか悔しそうなユゴス兵士たち。いかにアーサーの人望が厚いかが分かるな。
「あともう一つ俺から交渉があるんだが、いいか?}
「もちろん。どのような用件で?」
「ヴォルトって組織を知っているか。そいつらを俺が引き抜く。だから上手くいくように手はずと整えてくれないか」
「いいでしょう。それくらいならばお安い御用で」
頼んだのは俺とはいえ、企業で言えば社長にいとも簡単に捨てられるあいつらも中々可愛そうだ。二度とそんな思いをさせないくらいに強くしてやらねばな。
「俺からは以上だ。あんたはなんかあるか?」
「ないですよ。帰っていただいて結構です」
「ルコ、帰るぞ」
「ふん、やっと妾の事を思い出したか。待ちくたびれたわ」
「許してくれ。状況くらい察してくれるだろう?」
「まぁな……?」
不承不承といった様子で相槌をうつルコ。なんかごめんね。
「
笑顔で手を振るアーサーを横目に転移を発動し、二人でその場から消え失せる。すぐに景色は切り替わりあの路地裏へと戻ってきた。
収穫があったと言えば大収穫だな。さっさと帰って休みつつ記憶の整理をしたい気分だよ……
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